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ガレキ

BL・ML小説と漫画を載せているブログです.18歳未満、及びBLに免疫のない方、嫌悪感を抱いている方、意味がわからない方は閲覧をご遠慮くださいますようお願い致します.初めての方及びお品書きは[EXTRA]をご覧ください.

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  • 02/05/03:54

Overture-変人②

購買の自販機に佇む俺と、前髪がうざい生徒
彼は小銭を出しながら、尋ねてきた
 
「何飲む?」
 
「‥‥‥‥ヨーグルファーム」
 
注文を受けた彼は、自販機へ小銭を投入する
ヨーグルファームと呼ばれる紙パックに入ったジュースを2つ買い、その一つを俺に寄越す
 
「どーぞ」
 
「‥‥どーも」
 
「絵、見せてくれたお礼。遠慮しないで飲んで」
 
傍らにいる生徒は紙パックからストローを取り外し、紙パックに挿して飲み始めた
『そういうことか』と少し納得し、俺もストローを紙パックに挿した
 
 
 
「──────タカムラ、アケオ」
 
「‥‥え‥」
 
口内の液体を飲み下した彼は、俺の名前を呟いた
急に名前を呼ばれて、俺は目を丸くした
だって、俺、名乗ってないんだもん
 
「スケッチブックに書いてあったから、名前」
 
そうだった
筆記体で書いてあったんだ、名前
 
「あ、ああ、うん。そう」
 
「“アケオ”って、変わってんね。どういう字書くの?」
 
「‥‥朱色の“朱”に、中央の“央”」
 
「ふぅーん‥‥‥‥。‥‥綺麗だね」
 
その目もとは見えないけど、少し口角を上げて彼はそう言った
俺はまた目を丸くした
 
「‥‥どうしたの?」
 
「や、昨日も“綺麗”って言われたばっかで‥‥二日連続で自分の名前褒められるなんて、思ってなかったから」
 
「ふぅん‥‥でも、『どういう字書くの?』は、よく訊かれんじゃない?」
 
「まぁ、ね」
 
「‥‥だよね」
 
彼はくす、と笑った
 
人の絵を盗み見るような無作法で不躾で無神経な奴
そう思っていた彼の、柔らかい表情
その顔を見て、心なしか違和感を覚えた
第一印象は決して良いものではなかったけど、『わざわざジュースを奢ってくれたのだから不躾だったことは水に流そう』と思った
 
 
 
「ヨーグルファーム好き?」
 
「うん。この自販の中じゃ、一番好き。量も多いし」
 
「わかる。量も質もいちばんだよね」
 
「うんうん」
 
「‥‥高村くんて、筆圧濃いよね」
 
「え?あ、うん。直したいんだけど、なかなか‥‥」
 
「直さなくて良いと思う」
 
「そ、かな‥‥」
 
「うん。あの強弱、結構好き」
 
「‥強、弱?‥‥‥‥てか、そんなとこ見てたの?」
 
「全体的に見た。けど、『あ、ここ』っていうとこにしっかり強弱ついてて見易かった」
 
「‥‥変わった着眼点をお持ちのようですね」
 
「そう‥?‥‥あと、『これ描いてるときどんな気持ちだったんだろうな』って想像したら、すげぇ楽しかった」
 
「‥‥‥‥それでなにかわかった?」
 
「公園の絵。‥‥あれ見て『相当苛ついてたんだなー』と思った。他の絵よりも刺々しかったから」
 
「あー‥‥当たってる‥‥‥ちょうどくさくさしてたときに描いたんだ、あれ」
 
「やっぱり?」
 
「‥‥、てか、人が絵描いてるときの心理状況探るなんて、なかなか変態だね」
 
「よく言われます」
 
彼の変態振りは、日常茶飯事なのか?
だってそうでしょ、描いた人間の心理状況探って『楽しい』とか抜かす奴は紛うことなき変態ですよ
トキもイナも、そんな感想は一度も言ったことがない
見透かされてたなんて、思わなかった
心の中を覗き込まれているような気がした
でも、何でか“気持ち悪い”とか“気色悪い”とか思わなかった
だから、正直に彼にそう伝えた
 
 
 
「‥‥‥‥、嫌いじゃないけど」
 
「‥‥そう言われたのは初めて」
 
 
 
『嫌じゃない』って言われたのが嬉しかったのか、彼は静かに笑った
よくわからないところで、彼とは意気投合したっぽい
どちらからともなく顔を見合わせて、くすくすと笑った
 
 
 
「露木ーーー!先生呼んでるぞーーー!!」
 
大きな叫び声が廊下に響く
生徒が一人、階段から身を乗り出してこっちに向かって叫んでた
 
「つゆ、き‥‥?」
 
目の前にいる“露木”と呼ばれた彼に向き直ると、その口角がふ、と上がった
 
「‥‥‥‥露木、蒼衣。俺の名前」
 
前髪が鬱陶しくて勝手に人の絵を覗き込んでその詫びにジュースを奢ってくれた彼の名前が、ここで漸く判明した
聞き慣れない“露木”という名字にきょとん、としてしまった
この国には、変わった苗字が存在するんだなぁ
 
「今日、日直なんだ。‥‥またね、高村くん」
 
そう言って、露木くんは徐に歩き出し、階段へと消えていった
 
一人残された俺は、彼が昇っていった階段を暫し見つめていた

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Overture-変人①

とある日の昼休み
トキは部活の集まりがあるってんでそれに参加、イナは部員でもないのに何故かそれに混ざるって言って、2人で写真部の部室に行った
 
昼食もそこそこに切り上げて、俺は中庭に向かった
スケッチブックとルーズリーフ、筆記用具を持ち、お気に入りの場所でスケッチに勤しむ
2人が居ないときは、それが俺の昼休みの過ごし方だった
 
花壇を椅子代わりに腰掛け、周囲を見渡す
校庭で遊ぶ生徒たち、花壇に咲く花、スケッチの対象はあらゆるところに満ち溢れている
時間も忘れ、結果的に授業をサボってしまうこともしばしばあった
 
───今日は良い天気だ、スケッチ日和やね
 
上機嫌で、スケッチブックを下敷きにしルーズリーフに絵を描いていく
描いては下に放り、終わったところで回収をする
夢中で描き続けている俺の足元には、ルーズリーフが次から次へひらひらと舞う
 
 
 
そのルーズリーフたちがとある生徒に次々と拾われているとも気付かずに、俺は鉛筆を走らせていた
 
「‥‥‥‥」
 
俺の足元に落ちているルーズリーフを一枚一枚拾い、描かれている絵をしげしげと眺める生徒
全ての絵を見終えると、俺がルーズリーフを放るのを待つ
そしてそれを拾い、またしげしげと見つめる
 
「───‥‥‥‥ん」
 
俺の傍らに、ルーズリーフを眺める生徒が居たことに漸く気付いた
顔を上げると、うざったそうな前髪で目元がよく見えない長身の生徒が俺の放ったルーズリーフを全て手に持っている
 
───うっざい前髪だな‥‥目の前見えてんのか見えてないのかもわかんねぇ
 
正直にそう思い、訝しげにルーズリーフを眺める生徒を見た
 
「‥‥あの。何してんの?」
 
「‥‥‥‥、‥‥早く次のやつ描いて」
 
全ての絵を見終えた生徒は、俺の顔へと視線を落とした
 
───見えてんのか、一応
 
怪訝な表情のまま、またルーズリーフに絵を描き始めた
描き終えるとまた下に放り、傍らにいる生徒がそれを拾い上げる
その生徒は徐に俺の隣に座り、今度はスケッチをする手元を覗き込んできた
一度気付いてしまうとなかなか意識せずにはいられなくなり、一旦手を止め、溜め息を吐いた
 
「‥‥はー‥‥‥‥あのさ、何なんさっきから?人に見られてると思ったら気になって集中出来ん」
 
「気にしないで続けて」
 
「いや‥‥そういうわけにもいかんくてね」
 
俺はスケッチブックを抱え込み、暫し黙りこくった
隣に座る生徒は俺を一瞥すると、また一からルーズリーフを眺め始めた
 
───あーも、今日は無理
 
そう思って、スケッチを切り上げることにした
 
「‥‥‥‥もう描かないの?」
 
「ん。それ返して」
 
手を差し出し、ルーズリーフを返すように隣の生徒に促した
隣の生徒は大人しくルーズリーフを手渡したが、ガードの甘くなったスケッチブックを俺の手からひょい、と奪い取った
 
「あ!!ちょっと‥!」
 
隣の生徒は咄嗟に反対側を向き、スケッチブックをぱらぱらと捲り出した
 
石膏やフルーツのデッサン
自分の手のデッサン
トキとイナにモデルになってもらったクロッキー
それらを一つずつ、しげしげと見つめる生徒
 
───全部見終わるまで、返してくれそうにないな‥‥別に減るもんじゃないから良いけど
 
諦めて溜め息を吐き、スケッチブックを眺める生徒に声を掛けた
 
「‥‥絵、好きなの?」
 
「‥‥‥‥たまにここで何か描いてるの見掛けてて、気になってた」
 
隅から隅までスケッチブックに描かれた絵を見つめる生徒
時折感心したように頷き、唇を触る
どうやらその仕草は、彼の癖のようだ
 
彼が、俺の描いた絵が気になっていたのか、はたまた俺自身が気になっていたのかはわかんなかったけど、取り敢えずスケッチブックを見終わるまで待ち続けた
 
 
 
「───どうも有難う」
 
ぱたん、とスケッチブックを閉じ、返してきた生徒
立ち上がってその場を去ろうとしたけど、その生徒に突然手首を掴まれた
俺はビクついて、咄嗟に振り返った
 
「な‥‥」
 
「自販行こ。何でも好きなもの奢る」
 
自分の顔を見ているのであろう目の前の生徒
鬱蒼とした前髪から、その目を覗くことは出来ない
彼の意図が全くわからずも、俺は小さくこくりと頷いた

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Overture-Silver bladet 閉店後

「ただいま帰りました」
 
「あ、アオ。お帰り。今店閉めるから、ちょっと待ってて」
 
「‥‥手伝うよ」
 
「良いよ。バイト終わりで疲れてるでしょ」
 
「別に」
 
「‥‥有難う。‥‥‥‥さっきまでね、学生さんが3人来てたんだ。アオと同じ制服着てた。面白いコたちだったよ」
 
「ふぅーん‥‥」
 
「‥‥‥‥アオ。バイト、やめたら?」
 
「‥‥‥何で?」
 
「なんか、今日来たコたち見たらさ、青春真っ盛りーみたいな感じでほんとに楽しそうだったんだよ。仲の良い友達と夜遅くまで遊び回ってご飯食べたりしてるんだろうなーと思ったら、アオにも是非そういう青春を送って欲しいなーと思っちゃって。同居人一人養うくらいの収入ならあるし、家賃とかも入れなくて良いから、アオもバイトやめて青春しちゃいなよ」
 
「‥‥‥‥」
 
「‥‥‥、アオ?」
 
「‥‥‥‥俺は忙しい方が合ってるから」
 
「うーん‥‥。でもさ、週7でバイトしてる高校生なんて聞いたときないよ」
 
「いい例が目の前にいて良かったじゃん」
 
「‥‥はー‥‥‥‥バイトに割いてる時間がなくなったら、今まで出来なかったこともたっくさん出来るようになるよ?」
 
「‥‥‥‥、例えば」
 
「え?‥‥青春、とか?」
 
「どうしても俺に青春して欲しいみたいね」
 
「うん。是非謳歌して欲しい」
 
「十分謳歌してるよ。バイトしてる日々も案外悪くないですよ」
 
「そうか‥‥」
 
「‥‥‥‥一応、心配してくれてんだよね」
 
「一応じゃなくて、本気で心配してるんだけどな」
 
「あとぅます、暁さん」
 
「どいたまして。‥‥さて、飯にしよっか。手伝ってくれてありがとね」
 
「俺、先風呂入る。ベタベタして気持ち悪い」
 
「うん。じゃあ飯作って待ってる」
 
「先食べてて良いよ」
 
「『ご飯はなるべく一緒に食べましょう』って約束でしょ」
 
「‥‥はい」

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Overture-Silver bladet

部活が、楽しかった
初めて触った油絵の具
筆を入れるカンバス
頭がクラクラするような臭い
全てが未知の経験で、俺は思い付くままに絵を描きまくった
換気を怠ればすぐに体調不良を起こしそうなほど、油絵の具の臭いが充満する室内
その大事な換気も忘れ、無我夢中でキャンバスに絵の具を塗りたくる
 
部員は全部で15人くらい
同級生も何人か居たけど、クラスが別だから特に関わり合いは無かった
それでも、何人かの人と話すようになって、掌を10Bの鉛筆で真っ黒にしたり学ランの裾を絵の具汚しちゃったりして楽しく過ごしてた
 
 
 
「アカ」
 
振り返ると、トキとイナが教室のドアから呼び掛けていた
俺は椅子に腰掛け、自分よりも大きなキャンバスを目の前にナイフを握っていた
今日は俺を入れても3人くらいしか部活に参加してなかった
それを良いことに、2人は手で鼻を覆って室内へ入ってくる
まぁ、人が多くても少なくても2人がズカズカ部室に入り込んでくるのはいつものことなんだけど
 
「なんだ、まだ帰ってなかったの?」
 
「補講受けてたー。ってかこの部屋ヤバくね?頭クラクラすんだけど」
 
「換気しろってんだよ、このアホウは。何遍言やぁわかんだよ?」
 
2人は他の部員に頭を下げながら、揃って窓を開け始めた
 
「夢中になりすぎなんだよ。そのうち倒れんぞ?」
 
「ん、そんでまた壮大でわけわかんねぇもん描いてんのねお前って」
 
「余計なお世話だし」
 
「まぁ、センスだけは良いよな、アカは」
 
「はぁ?何よ、“だけ”って。センス“も”良いの!」
 
俺たちはケラケラと笑い合った
 
「ところで高村くん、もう終わる?」
 
「あ、はい。ただいま」
 
「じゃあさ、皆で何か食べに行こ」
 
「お、良いっすねー」
 
「早く片付けて下来いよ、待ってっから」
 
「うぃーっす」
 
2人が居なくなり、静まり返る室内
他の部員は、まだカンバスとにらめっこしてる
開け放たれた窓際に立ち、外の空気を吸った
赤と青、空に二つの色が混ざり合う夕刻
 
「‥‥‥‥‥‥ゆーやけ‥‥」
 
そう呟いた後、少しぼーっとしてから、俺は絵の具や筆の片付けを始めた
 
 
 
ファストフード店で軽く食事をとり、いつものように街をぶらついた
ギターの弾き語りやラジカセの前でダンスの練習をしたり、アクセサリーや雑貨を売る若者がいる商店街
その若者たちに紛れ、徐に歩みを進める
 
「あ。なぁ、これからイイとこ行かね?」
 
トキが思い出したように言った
俺とイナは、顔を覗かせる
 
「なになに?」
 
「めっちゃ好みの店見つけたから、連れてってやろうかなと思って」
 
「お、何の店?」
 
「シルバーアクセ」
 
「ほうほう」
 
「こっからすぐだからさ、ちょっと見に行かない?」
 
「良いけどさ、その店何時までやってんの?」
 
「21時、だったかな」
 
「じゃ、早く行きましょか。トキちゃんオススメのお店」
 
イナはニコニコしながらふーんと唸り、トキのお奨めの店へと思いを馳せた
 
「‥‥あれ、そういや今日すばるちゃんは?」
 
「『“赤い日”だからお休み』ってさ」
 
“すばる”は、トキと同じ写真部の女の子
黒髪ロングで、ちょっと近寄りがたい雰囲気のあるつんとした女子だ
中学時代に剣道をやってたらしく、強くて逞しいコだった
知らぬ間にトキと仲良くなってて、俺らが街をぶらつくときはいつもくっついて来るのだが、今日は体調不良の為学校自体休んでいたらしい
同じ部活に所属してることもあってか、来られない場合の連絡は決まってトキに来た
 
「そうなんですね。てか本人の前でそれ言ったら殴られるから止めようね」
 
「向こうが言ってきたんだよ、『今日は流血して死ぬほど腹痛いから無理』って」
 
「あっそう。女なのに、しかも折角そこそこ可愛いのに、男の俺らにそういうこと平気で言っちゃうとこほんと残念だな、すばるは」
 
「そうね。中身がオヤジだよね」
 
「可愛いのに勿体無いよなーほんと。写真もすげぇ良いの撮るのに女子力無さすぎだ、あいつは」
 
「‥‥てか、“女子力”て何よ?」
 
「‥わかんね」
 
女子力は低いかもしれないが男としては親しみやすく付き合いやすいと、俺らは思っていた
月に一度訪れる“赤い日”の痛みに耐えているすばるを、心から憂いた
 
 
 
 
時刻は20:00頃
トキは率先して歩き、俺とイナをシルバーアクセの店に連れていった
商業施設が立ち並ぶビル街
その一角の、木造りの小さな店だった
 
店の前には『Silver bladet』と書かれた看板が下がっている
トキは木製のドアを開け、店内へと入った
俺とイナもトキに続いて入店する
店内も木目調で、歩く度に木の軋む音がする
シルバーアクセが所狭しと並んでいて、目がチカチカした
 
燻んだシルバーに映える、ターコイズや瑪瑙
細かなデザインや細工
金属の匂い
そのどれもが俺たちの心を擽り、次第にデザインや宝石の色に目を奪われていった
 
「‥‥一日中居たくなるな、この空間」
 
「この店にあるもの、殆ど店長さんの自作なんだって。奥に工房があるみたいよ」
 
「ふえぇー‥‥‥‥めっちゃいい腕してるやん」
 
「な、良い店っしょ?」
 
「うん、良いね」
 
感心しつつ、店内を物色する
イナはネックレスを手に取り、トキに話し掛けた
 
「お前、これ好きそう」
 
「おお、好き好き!‥‥お幾ら?」
 
「えーと、8000円ですね」
 
「‥‥‥‥、俺バイトしよっかなぁ‥‥」
 
「そんなに気に入った?」
 
「うん、これめっちゃ欲しい」
 
俺たちは興味津々に店内を物色し続けた
 
 
 
ふと、店員が歩み寄り、話し掛けてきた
 
「いらっしゃいませ」
 
「あ、こんにちは。‥じゃなくて、こんばんは」
 
店員は、こくんと首を傾げてにこりとした
 
「‥‥確か、前にも来てくれたよね?」
 
「あ、はい。先週来てます。覚えてて貰えて良かったー。この店あんまり気に入ったもんで、今日はマブダチ連れて来ました」
 
「有難うございます。ゆっくりしてって下さい」
 
店員は笑って軽く会釈した
俺はさっきトキが言っていた情報を店員に尋ねた
 
「あの。ここにあるもの殆ど店長さんの自作だって聞いたんですけど」
 
「はい。僕の手作りです」
 
「え、じゃあオニイサンが店長さん、ですか‥?」
 
「‥‥峯里と言います。宜しくね」
 
店員は胸につけたネームプレートを指差し、ニコリとした
ネームプレートには“MINEZATO”と書かれている
 
「若くてイケメンっしょ」
 
トキが俺の肩をぽん、と叩いた
 
「てか、最初に言ってよ。この人が店長さんだって」
 
「あれ、言わなかったっけ?」
 
「言ってないっつの!」
 
「まぁまぁ。アカ、これ見てみ。アカの名前みたいなすげぇ綺麗な“朱”」
 
「ふゎ、すげぇ‥‥」
 
イナは俺を宥めるように話し掛けてきて、徐に掌を開いた
イナの掌の上には、朱色の石が埋め込まれたブローチがコロンと転がってた
 
 
 
「───‥‥きみ、“朱”っていう名前なの?」
 
店長の峯里さんはイナの話を聞き、俺の名前に興味を持ったようで話し掛けてきた
 
「あ、いえ。‥‥朱色の“朱”に中央の“央”で“アケオ”っていいます」
 
「“アカ”は、俺がつけた渾名です。な」
 
トキが俺の肩に腕を回してニヤニヤした
 
「“朱央”くん、か。綺麗な名前だね」
 
「恐縮です」
 
「そこはさ、“シュオウ”って言っとけば良いんでないの?」
 
「いやいや。てかいつまでその話すんの」
 
「だってかっけーじゃん、“シュオウ”って」
 
「結果“シュオウ”じゃなかったけどな」
 
「俺さ、イナの苗字も最初“インナン”だと思ってたかんね」
 
「まぁ、音読みするとそうだね。残念ながら、ちょっと捻ってんのよね」
 
「変わってるよねほんと、インナミって」
 
また名前の話で盛り上がっちゃうし、何遍同じ話すんだろな
大体“シュオウ”なんて名前の奴には漫画の中ででもなきゃお目にかかれないよ、多分
 
「きみは、“インナミ”くんって言うんだ?」
 
峯里さんは、楽しげに俺らの話に混ざってきた
 
「はい。略された結果、“イナ”になったんですー。下の名前は京平です」
 
イナは、にしし、とはにかんだ
 
「“アカ”くんに“イナ”くんね。‥‥‥‥じゃあ、きみは?」
 
峯里さんは最後にトキの顔を見た
トキは“待ってました”とばかりに、にんまりと笑った
 
「‥常磐 響です」
 
「‥‥、“トキワ”だから“トキ”くんなんだね」
 
「そうです。俺だけ“まんま”です」
 
満面の笑みでそう話すトキ
俺とイナは、じとりと見つめた
 
「ずるいよな、自分だけスマートで」
 
「略し過ぎー」
 
「何言ってんだよ、アカもイナも超素敵なあだ名だろー?名付け親の俺に感謝して欲しいくらいだよ、マジで」
 
「‥‥トキにも変なあだ名つけてやろうか」
 
「それが良い。そうしよう」
 
「やめろよ、今更。“トキ”って結構気に入ってんだから」
 
暫しの間、新しいあだ名を提案する俺とイナ、それを拒否するトキの応酬が続く
 
「‥ふふふ、面白いねきみたち」
 
峯里さんはじゃれ合う俺たちを微笑ましそうに眺め、くすくす笑った
 
 
 
***
 
 
 
「これ、なんていう石かな‥‥」
 
「赤いからルビーじゃないの?」
 
俺はイナが持っている朱い石の付いたブローチを手に取り、峯里さんに尋ねた
 
「あの。店長さん。この石ってなんて名前ですか?」
 
「ああ、それは“ファイヤーオパール”。その名の通り『炎を象徴する石』で、持ち主の個性を引き出す力、創作意欲に火をつける力がある。やる気がないときは轟轟と燃えるけど、暴走しそうなときは加減する。エネルギーを適度にコントロールする効果があるんだ」
 
峯里さんはニコニコしながら石について説明をしてくれた
俺たちは頷きながらブローチを見つめた
 
「へえぇ‥‥アカにぴったりじゃん、色も朱色だし」
 
「創作意欲爆発しても変てこりんなもの描き過ぎなくて済むんじゃない?」
 
「“変てこりん”は余計なお世話です」
 
悪口を言ってきたトキをじとりと睨んだ
 
「‥‥その石は凄く珍しいんだ、なかなか出回らなくてね。加工するのも勿体無いかなーと思ったけど、何となくブローチにしてみた次第です」
 
「いやいや、素敵過ぎます」
 
「すっげぇ細かいよな、この回りの細工!」
 
「石が引き立つね」
 
ブローチの細工は炎を模したデザインになっており、ファイヤーオパールをより一層際立てている
感心している俺たちを見て、峯里さんは目が細くなった
 
「そんな風に言ってもらえて、嬉しいな。これ、実は結構自信作なんだよね」
 
「でしょうね!てか、店長さん石のこと詳しいんですね」
 
「まぁ‥‥シルバーと相性抜群だし、流して貰ってるとこあるから色々覚えました」
 
「あ、じゃあ俺の誕生石使ったアクセありますか?俺、9月生まれなんですけど」
 
トキは自分を指差し、峯里さんに尋ねる
 
「9月ならサファイアかな。色んな色があるけど‥‥‥‥えーと、こっちはカワセミブルーのサファイア。これはイエローサファイア」
 
峯里は軽く店内を見渡し、バングルを2つ手に取ってトキに差し出した
深いブルーの石が付いたものと透明度の高い黄色の石が付いたバングル
トキは忽ち目をキラキラさせた
 
「うぉ!めっちゃ綺麗!」
 
「超~オシャレなバングル」
 
「はー‥‥どっちも素敵ですね」
 
「高くて買えないけどな!」
 
「まぁ、学生のうちはな‥‥こういうのはまだ分不相応だ」
 
「うんうん。ラーメンとかハンバーガーで満足してるようじゃまだまだだな、俺ら」
 
「石とかシルバーとかそういうガラじゃねぇもんなぁ‥‥こういうの似合う大人になりたい」
 
「俺もー」
 
トキはバングルを腕に嵌めて翳していた
学生特有の青臭いノリが微笑ましくなったのか、峯里さんはニコニコしながら俺たちの会話に耳を傾けていた
 
トキはふと店内の時計に目をやった
時刻はあと5分ほどで21:00になるというところだった
 
「もうお店閉める時間ですよね?」
 
「ああ、うん。そうだね、ぼちぼち」
 
峯里さんも時計を見た
トキは申し訳なさそうな顔をして、峯里さんに頭を下げた
 
「あの。買い物目的じゃなくてすいません。しかも閉店間際まで居座っちゃって‥‥」
 
「いえいえ。気に入ってくれたんなら、俺も嬉しいから」
 
「今は財布が淋しいので、金貯めてまた来ます」
 
「良いよそんなこと気にしなくて。えーと‥‥トキくん、アカくん、イナくん。いつでも気軽に寄ってってください」
 
峯里さんは確認するように俺たち一人一人の顔を見て、深く頭を下げた
俺たちも、揃って頭を下げる
 
「有り難うございます、また来ます!」
 
 
 
Silver bladetを後にし、並んで駅までの道を歩く
 
「店の雰囲気も良かったけど、店長さんも良い人そうだったな」
 
「うん。また行きたくなるね」
 
「また行こうよ」
 
「そうね、次はすばるちゃんも一緒に」
 
「んだ。じゃあ、帰るか」
 
「したっけ、また明日学校でー」
 
イナは駅のホームへ、トキは駅に隣接しているバスターミナルへ、俺は連絡通路を通って駅の北口へと向かい、それぞれ帰宅の途についた

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Overture-はいすくーるろけんろー②

「ヒカル、今日部活?」
 
「おう。副部長が肉離れんなっちゃってさ、代わりに俺が試合出るかもしんねぇんだ」
 
「マジかよ!俺ら、観に行くよ!」
 
「まだわかんねーけどな。時間あったら是非観に来てくれよ」
 
「絶対行く!末町の総合体育館だっけ?」
 
「アカ、あれ作ってよ。応援グッズ」
 
応援グッズ??団扇とか、か?お安い御用だ
ヒカルくんの名前を真ん中にでかく入れよう
“光”って漢字でも良いし、“HIKARU”にしてもカッコ良さそうだ
赤と黄色で派手派手にして、ギンギラのモールで飾り付けして‥‥
 
「ああ、うん。良いよ」
 
「‥‥ほんとに作る気か?」
 
「え?」
 
「え??」
 
「‥‥‥‥‥‥」
 
「‥‥‥‥そんならさ、マスクのデザインしてくれよ」
 
「うん。良いよ。どんなのが良い?」
 
「え?」
 
「え??」
 
「‥‥‥‥‥‥」
 
「‥‥‥‥ぶはっ!!そんな真剣なカオしちゃってさ!マジで頼んじゃうぞっ!」
 
ヒカルくんが肩パンしてきた
重い一発だった
今まで何回か喧嘩をしてきたけど、ヒカルくんが本気を出したら多分俺らは勝てないと思う
格闘技をやってる人のパワーとガキの喧嘩の違いはそこなんだろう
 
「ヒカル、部活頑張れよ」
 
「応!!じゃあな!」
 
ヒカルくんは、ニコニコ笑顔で部室へと駆けてった
 
 
 
俺らはというと、この日は揃って部活がない日だった
というわけで、イナのホムセン巡りに付き合う予定だった
 
トキの下駄箱の中に、手紙が入ってた
トキはラブレターかなってワクワクしながら手紙を開いたんだけど、全部読み終わる前に汚物を摘まむようにして俺らに見せて寄越した
手紙には、
 
“放課後、体育館裏で待つ。来なきゃ殺す”
 
と書かれていた
トキはがっくりと肩を落とした
絶対女子が書いたんじゃない、汚い字
この手紙を書いたのが誰なのかは、大方の予想がついた
 
どうせ暇だし、殺されちゃ敵わんなということで、俺らは体育館裏に行った
そこで待ってたのは、案の定“あの人達”だった
 
「───あ!継さん、こいつらすよ!」
 
「んあー?」
 
“ツグル”という名前の人を囲む、オニーサン達
わかっちゃいたけど、やっぱりあんたらだったのね
この人達にだったら120%殺されたりしない、それがわかっただけでももううんざりして引き返したくなった
オニーサン達の目的は、この“ツグル”という人に俺らをどうにかしてもらおうってことなんだろう
恐らくこの人も3年生の筈だ、同学年の人に敬語を使ってるってことは多分強い人なんだろう
“ツグル”と呼ばれた人は、面倒臭そうに頭を掻きながら立ち上がった
 
背はヒカルくんと同じくらいかな
顔も女の子に間違われてもおかしくないくらい、小柄で可愛らしい人だった
でも髪の色はイナよりももっと明るい茶色‥‥っていうより金だ、ド金髪だ
そこはかとなく、不良っぽい雰囲気が漂ってた
 
「よー、生きの良い1年が入学してきたって聞いてさ。なんか、2年くらい前にこいつらボコボコにしたんだって?」
 
“ツグル”って人は、少し眠そうな目をして俺らを見た‥‥‥‥いや、あれは多分眠いんじゃない───俺らを“値踏み”してる
 
トキにもそれがわかったのか、俺らの前に一歩出て“ツグル”って人に歩み寄った
 
「しました。‥‥でも、ちゃんと理由があるんすよ。聞いてくれますか?」
 
「うん。聞くよ。何?」
 
トキは、毅然とした態度で話し始めた
 
「こいつ、アカっていうんですけど、絵を描くのが好きなんです。俺らよくこいつのスケッチについて歩ってんすけど、2年前もそうだったんす。のんびり絵を描いてたら、突然この人達にカツアゲされそうになって、挙げ句この人達がこいつのノートビリビリに破り捨てたもんだから、頭にキて喧嘩しちゃいました」
 
“ツグル”って人は俺らの顔を一瞥してから、ニヤーっと笑った
 
「ふーん。‥‥‥‥なんか、お前らの話と全然違うなぁ。こいつらはさ、お前らにカツアゲされかけたって言ってたんだよ。どうなってんだ?どっちが本当の話?」
 
オニーサン達は、ぶるぶる震え出した
喧嘩の強い先輩を連れてきたら俺らが大人しくなるとでも思ったのかな?
てか、オニーサン達、嘘吐くなよ
 
「‥‥俺らは、カツアゲなんてダサいことしません」
 
ムカついたから本音を言ってやったら、トキとイナは軽く噴き出した
“ツグル”って人は、真っ直ぐ俺の目を見つめてきた
 
「‥‥‥‥‥‥。だよな。ダセェよな、カツアゲとか。しかも、年下の奴等に」
 
“ツグル”って人は、ニコっと笑った
男の人に対して失礼な表現かもしんないけど、なんか、この人は笑うとすごく可愛かった
そんで、俺らに軽く頭を下げてきた
 
「はー‥‥‥‥わざわざ時間取らして悪かったな」
 
「いえ。誤解は解けましたかね?」
 
イナが言うと、“ツグル”って人はこくんと頷いた
 
「誤解も何も、お前らの言うことの方が真実味あるし。すげぇヤられ方だったけど、粗削りな感じがした。恐らく喧嘩もろくに知らねぇ奴が無茶苦茶ヤったんだろうなと思ったよ」
 
この人、エライ観察眼だ
そう、俺らの喧嘩デヴューは我武者羅でしっちゃかめっちゃかだった
 
「‥‥お前ら、名前は?」
 
「常磐です。常磐 響。こいつは高村 朱央。そっちは」
 
「印南 京平です」
 
トキが言う前に、イナは自ら名乗った
 
「そ、っか。俺は、蓬立 継。‥‥こいつらに限らず、誰かに因縁つけられそうになったらいつでも言いな」
 
ホウタツ、って、どんな字書くのかな?変わった苗字だ
継さんは軽く手を振ると、そのまま何処かに行こうとした
 
「あ、あの‥‥継さん‥」
 
「こいつら、俺らを‥‥」
 
「お前らさぁ、高3にもなってみっともねぇと思わねぇのか?こいつらにヤられたことまだ根に持ってんのかよ?高村、だっけ?こいつの言う通り、やってることがダセェんだよ。いつまでもグダグダと、ケツの穴の小せぇ奴等だなぁ」
 
しどろもどろになってるオニーサン達を一瞥した継さん
笑ってるように見えたけど、目が笑ってなかった
オニーサン達は、継さんの眼光に相当ビビってた
可愛らしいし、上背もないけど、そんなに強いのかこの人は
ちょっとだけ、継さんの喧嘩を見てみたくなった
 
「大体俺はお前らの用心棒じゃねぇんだよ。てめぇのケツくらいてめぇで拭きな。こんな話、“千歳”が聞いたら百叩き程度じゃ済まねぇぞ。あいつはお前らみてぇな女々しい野郎が大っっっ嫌いだからな」
 
オニーサン達は、“千歳”と聞くと更に戦いた
 
後でわかったことだけど、“千歳”って人と継さんは他校の生徒からも恐れられてる札付きの不良で、この学校のナンバー1とナンバー2だった
だからって別に、この人達の強さを笠に着ようなんて“ダサい”ことをするつもりは無かった
 
「‥‥あ、そうだ。これやるよ。今日のお詫び」
 
継さんはポケットからチョコレートを出して、俺らにくれた
長時間ポケットに仕舞いっぱなしだったのか、ちょっと溶けかけてた
 
「あ、有難うございます‥」
 
「ん。んじゃ、またな」
 
震えるオニーサン達を残して、継さんは去っていった
オニーサン達の用事もなくなったことだし、俺らもホムセンに行くことにした
 
少なくとも、継さんは、オニーサン達が恐れるような人じゃないんじゃないかなって、そう思った
俺らの話を信じてくれたし、チョコもくれたし、きっと良い人だ
チョコが好きな人に、悪い人はいないんだぜ!

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Overture-はいすくーるろけんろー①

無事、高校に進学した俺達
学力レベルの幅が広くて校風も自由、天才も秀才もバカもアホもゴッチャゴチャに入り乱れたなんかよくわかんない高校
それが俺達の進学先、浦南(うらなん)高校だった
 
校風が自由ってこともあって、トキはずっと憧れだったらしいピアスを開けた
イナは、元々染めてた茶髪を更に明るくして、序でに腰からウォレットチェーンを提げた
俺はダサダサの髪型からふわふわのウルフヘアーにして、スモーキーアッシュに染めた
制服はちょこっとだけデザインが加えられた学ランで、女子はとっても可愛いセーラー服
今までずっとブレザーに見慣れてたから、セーラーが眩しくて新鮮に見えた
 
もしかしたら、彼女の一人くらい出来たりするのかな
放課後の教室でお喋りしたり、帰りに手を繋いで帰宅したり映画とか海とか行ったり……なんて素敵な高校生活だろう!
 
彼女が出来るかもしれない期待もあったけど、部活への思いも同じくらいに膨らんでた
高校生になったら、美術部に入ろうって決めてた
油絵とかやるのかな、デッサンもクロッキーも楽しみで堪らない
 
浦南には、トキのお目当ての写真部もあった
新年生歓迎集会とかいう行事で上級生達がやった部活動紹介だと、美術部も写真部も週3のペースでやってるらしい
土日は自主活動だし皆で遊ぶ時間も無理なくとれそうだし、俺らは迷わず入部を決めた
 
イナは、やっぱり部活はやらないみたい
だけど、中3の後期から春休みの間に3コ上のお兄さんの影響で漫画少年から工具マニアへと変貌を遂げていた
腰のウォレットチェーンに日替わりで工具をぶら下げて歩くほどの工具バカになってしまった
因みに、自室の壁には見たこともない工具が沢山飾られてある
きっと明日には、別の工具が腰からぶら下がってる
放課後は俺のスケッチとトキの撮影に、イナの工具屋とかホムセン巡りに付き合う時間が加わった
 
 
 
入学から2週間経った
クラスは離れちゃったけど、俺らは休み時間に集まって下らない話をしてた
昼も毎日一緒に食べてるし、今日もその予定だ
連れだって学食の方に向かって歩いてたら、見覚えのある人達とすれ違った
 
「‥あ!!!お前ら!!!」
 
向こうも気付いたみたい
河川敷で俺らがボコボコにした、あのオニーサン達だった
 
「あれ、ここの生徒だったんだ。こんちはー」
 
「その節はどうもー」
 
トキとイナは、気さくに手を振った
 
「何でここにいんだよ!?」
 
「何でって‥‥俺ら、一年すよ」
 
「ここに進学したってのか‥!?」
 
「そうすよ。っていうかバカだからここにしか進学出来なかったんすよ」
 
「Iランクでも奇跡的に入れたんですよねー、ふふふ」
 
因みに俺はEランク
ろくに勉強してなかった2人よりはちょっと上って感じ
っていうか、フツーに勉強してればIランクなんて、そこまで落ちることの方が難しいから
 
「てか、今3年生?2コ上だったんすね」
 
襟に、学年証の“Ⅲ”のピンが留まってる
じゃあ、河川敷で喧嘩したときは高1だったんだ
てか何でカツアゲしようとしたんだろな、俺らなら上手くいくと思ったのかな?
それとも、ひょっとして高校デヴューのつもりだったのかな?ちょっとくらい意気がってみようか、みたいな?
 
「一年間被ってることだし、宜しくお願いします」
 
イナは、腰から提げてるレンチをくるくる回しながらニコニコ笑った
 
「だっ、誰がお前らなんかと宜しくするかっ!!!」
 
オニーサン達は青い顔でそそくさと去っていった
別に、イナは“レンチで殴ろう”とかそんなこと少しも思っちゃいないのに
てか、お洒落のつもりかもしんないけどジャラジャラ五月蝿いんだよな
 
そんなら俺も油絵の具用のナイフでも持ち歩こうかな、なーんてね
 
 
 
学食で飯食ってたら、声を掛けられた
 
「なーなー、あんたら1年だよな?」
 
「ん?ああ、そうだよ」
 
トキはカレーを頬張りながら生返事をした
 
話しかけてきた人は、背は小さめだけどガタイがすごく良かった
髪はツンツンのキンパで、ギラギラのつり目がカッコイイ感じ
首からネックレスをぶら下げて、学ランの中に着てる赤いTシャツが印象的だった
 
「いや、さっき3年の先輩達と仲良さそうに喋ってたからさ。あの人達結構“やんちゃ”らしいんだけど、あんたらも喧嘩とかすんの?」
 
「いや。あの人達とは2回くらい拳を交えたけど、俺らは基本的に自分からはやんないよー」
 
イナも、生卵が乗った牛丼を頬張りながら答えた
 
そう、中学時代から始めた喧嘩は全部、自分達から進んでやることはなかった
大体が売られた喧嘩を買って、報復に来た奴等は返り討ちに、負けたら負けたでそのまんまにしておいてた
 
「っつーかさ、“やんちゃ”の“や”の字も感じないほど弱かったよな、あの人達」
 
「そーだねー。もう2年前かぁ、懐かしいなぁ」
 
「え、じゃあ‥‥“浦南の生徒相手に連勝した中坊3人組”って、あんたらのこと?」
 
何ですと?何時の間にそんな話広まっちゃってんの?
彼の話を聞いた他の生徒の方々が、ちらちらこっちを見てくる
食堂が、次第にザワザワとし始めた
え、何?俺ら、ってか、“浦南の生徒相手に連勝した中坊3人組”って、そんなに有名人だったの?
 
「んー、他にそういう3人組が居ないんだったら、そうかもしんないね」
 
「マジかよ!すげぇじゃん!!」
 
「別に大したことないよ。あの先輩達が激弱だっただけで」
 
「でもさ、倍の人数いたんだろ?それで連勝?フツーにすげぇじゃんか!」
 
「てかさ、何でその話知ってるの?」
 
そう、そこ
俺がいちばん知りたかったとこね
イナ、ナイス質問
 
「もしかして、あんたも3年?」
 
「いんや、俺は1年。“噂の中坊”のことは先輩に聞いたんだ。俺プロレス部なんだけど、先輩達もやんちゃなの多いからそういう人達の話は逐一耳に入ってくんだよね」
 
なるほど、そういうことね
この人プロレスやってるんだ‥‥てか、この学校にプロレス部なんてあったんだ
 
「俺、“栄 光”ってんだ。気安く“ヒカル”って呼んでくれ」
 
「写真部所属の常磐 響でっす。“トキ”で良いよ」
 
「俺は印南 京平。帰宅部です。“イナ”って呼んで」
 
トキもイナも、ヒカルくんに自己紹介した
2人に遅れて、俺もヒカルくんに挨拶した
 
「‥‥高村 朱央。“アカ”って呼ばれてる。‥部活は、美術部」
 
「ん!ヨロシクな!」
 
ヒカルくんは、白いギザギザの歯を見せてニコっと笑った
 
サカイ、ヒカル───後でわかったことだけど、漢字で書くと“栄光”‥‥俺の“シュオウ”なんかより遥かにカッコイイじゃんか
 
高校に入って、初めて出来た友達
実はヒカルくんもかなり“やんちゃ”だってわかったのは、まだもう少し後になってからだった

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Overture-ちゅーがくせいにっき③

「アカ、おはよー」
 
「お早う」
 
「あのさ、これ」
 
2人が初めて喧嘩をした日から3日後
トキはまた照れ臭そうな顔して、あの時ビリビリに破かれた筈のノートを返してきた
捲ってみたら、綺麗にテープが貼られてて、ちょっと感動した
 
「‥‥大変だった、でしょ。ありがとね」
 
「んん、いや。俺らも、いっぱい踏んづけちまったしさ。俺、このノートの絵、結構好きなんだよ。だから、破かれたとき完全頭キちゃって‥‥ほんと、ごめん」
 
俺だって、マブダチの大事なものが壊されたりしたら怒るし、バラバラになったんだとしたら例え元通りにならなかったとしても最大限努力して直すよ
だからって喧嘩までは出来ないと思うけど、多分
 
「んーん。ほんとに、有難う」
 
俺は思わずノートを抱き締めた
 
「ジグソーパズルみたいで楽しかったよ」
 
どうやら、イナも一緒に修復作業をやったようだ
 
表紙は靴の痕がついてたけど、軽く拭いたのか喧嘩の日よりは少しだけ綺麗になってた
新しいノート買ってくれただけじゃなくて、このノートを元通りにしちゃうなんて
この時は、正直涙腺に響いた
もう、2人の気持ちがめちゃめちゃ嬉しかった
嬉しかったけど、ほんと、バカだなぁ、と思った
 
 
 
男子って、基本バカだと思うんですよ
 
街を歩いてて“イイ女”を見かけたら、やれおっぱいがでかすぎるとかお尻がコンパクトでキュートとかそういう話するし
 
“横断歩道の白い部分だけ渡らないと落ちるゲーム”したり
 
放課後の帰り道で石ころを金鍔かなんかの和菓子に見立てただけのただの石蹴りをしたり
 
河川敷で友達のノートが破られたくらいで喧嘩しちゃうし
 
喧嘩して負けたら人数増やして報復に来たりとか───
 
 
 
トキとイナが伸した高校生達が、俺らの中学に報復にやって来た
放課後に校門で待ち伏せしてて、俺らは逃げられなかった
人気のない場所に連れてかれて、正直チビりそうになってた
だから、この学校の制服のデザインした奴は(以下省略)
 
「懲りないね。この前、俺ら2人に負けたのに。まだやんの?」
 
「るっせぇな。だから人数増やしてきたんだよ。ボコボコにしちまうからな」
 
「やってみろよ。バカ野郎」
 
「てかさー、中坊相手に何でそんなムキになってんの?あんたらほんとにコーコーセー?恥ずかしいと思わないの?」
 
「っ黙れよ!!!おい、お前ら」
 
イナの煽りに頭に血が上ったらしいリーダー格風のオニーサンが、残りのオニーサン達に目配せした
ああ、ヤバい
また始まっちゃうの
どうしよう───
 
 
 
「───アカ。下がってろ。ってか、隙見て逃げろ」
 
‥‥え?
 
「え‥‥?」
 
「喧嘩するようなタイプじゃないもんね、アカは。大丈夫。行って」
 
なになに何なのこの2人
俺一人だけ、“逃げろ”って?
 
「な‥‥そんなこと出来な」
 
「お前さ、人殴ったことある?」
 
「無い、けど。でも」
 
「アカの手は、お絵描きする為にあるんでしょー」
 
「そーそー。人をぶん殴るにゃ勿体無い。痛めたら絵描けなくなるぞ」
 
目の奥が、ずんとした
まさか、この前もそんなつもりで守ってくれてたの?
何なんだよこの2人、男前過ぎるじゃん
でもさ、俺一人だけ逃げるなんて、そんなの卑怯じゃん
そんなの、駄目だ
 
「だ‥」
 
「何ゴチャゴチャ言ってやがんだ!?殺すぞ!!」
 
「だから、やってみろっての。バーカ」
 
トキがベロを出して中指を突き立てた
 
オニーサン達が、一斉にトキとイナに襲い掛かってきた
 
 
 
目の前で起きてるマジ喧嘩にすっかり足が竦んじゃった
この前は4人だったけど、今回は6人
トキもイナも喧嘩が強いってのはわかったけど、多勢に無勢だ
黙って見てることしか出来ない俺の目の前で、トキとイナは次第に崩れ落ちてった
 
 
 
「───‥めろ」
 
トキもイナも、歯を食い縛ってた
 
「‥もう、やめろ」
 
2人は俺を守ってくれたんだ
だから、俺も──────
 
「っやめろおおおおおおっっっ!!!!!」
 
俺は、オニーサン達目掛けて持ってた鞄をフルスイングで投げ付けた
 
「いてっ‥んだよ何処のどいつだ───」
 
オニーサンが言い終わる前に、飛び掛かってた
倒れたオニーサンに馬乗りになって、足が竦んだことなんか忘れて無我夢中でグーパンした
 
「俺のっ、大事なっ、マブダチにっ、何してくれてんだよっ!!!」
 
俺も頭に血が上ったみたいで、ひたすらグーパングーパンアンドグーパン
気付いたら、オニーサンは顔面血塗れで失神してた
ぶっちゃけ、皆引いてた
 
「───‥‥ははっ。アカ、やるねぇ」
 
「俺らも休んでる場合じゃないなっ!」
 
俺のグーパンに勢い付いたのか、トキとイナは立ち上がってまたオニーサン達にかかっていった
 
 
 
「お前、手大丈夫か?」
 
「うん。平気」
 
「びっくりしたぁ。アカって、あんなでかい声出るんだね」
 
「俺も、びっくりした‥‥」
 
「はははっ!がなった自分がいちばんびっくりしてるってか!‥‥てかあいつら、また来るかもしんねぇな」
 
「ま、そーなったらそーなったでしょ。アカ、次はやるなよ」
 
「え‥何で」
 
「だから、言ったでしょ。アカの手は、絵を描く為にあるんだって」
 
「‥‥‥‥、絵も大事だよ。‥‥だけど、友達も大事」
 
「‥‥‥‥‥アカったら、もう‥‥」
 
「ふふっ。サイコー。‥でも、怒らせたらヤバいな」
 
「みたいだね。キレたら何するかわかんないタイプだったんだ、アカは」
 
「そー、だったんだね‥‥」
 
知られざる自分の姿を目の当たりにして、俺自身もちょっと不思議な気持ちだった
 
結局、この日も喧嘩に勝った
あのオニーサン達は群れて強くなった気でいるタイプの人種だったらしく、この日を境にすっかり鳴りを潜め、報復に来るようなことも無かった
 
初めて人を殴った
正直、手が痛かった
俺にあんな力があったり、喧嘩が出来るなんて思いもしなかった
だけど、やってやれないことはなかった
手を怪我するリスクよりもマブダチが傷付く方が嫌なんだって、この時、そう強く思った
 
それからちょいちょい俺も喧嘩に混ざるようになった
手首捻ったりして、暫く絵を描けない日もあった
でも、トキとイナのお陰で、すごく充実した中学時代を過ごせた
 
高校に進学しても、きっと3人で変わらず過ごすんだろうな───そう思ったら、わけもわからず胸がドキドキした
 
よもや『中学時代に高校生をぶっ飛ばしたのを皮切りにだいぶ“馴らした”3人組』として名を馳せることになるなんて、バカな男子中学生だった俺達は誰一人とて想像もし得なかった

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Overture-ちゅーがくせいにっき②

2人と話すようになって、つるむようになって、まともに友達がいなかった俺は毎日新鮮に生きてた
トキとイナはいっつも俺のらくがきノートを見て、頻りに感心してた
 
「アカさー、こんな絵上手いんだから、美術部入れば?」
 
「部活は高校入ってからにしようかなって」
 
「何で?」
 
「今は、拘束されるより自由に描きたいな‥って」
 
「なるほど。そのスタイルの方がアカに合ってるかもね」
 
「自由にのびのびーって感じ?部活だと強制感あるもんなぁ」
 
「‥‥2人は部活、やらないの?」
 
「高校行って写真部あるなら入部するかもー」
 
「トキ、写真好きなんだ?」
 
「うん」
 
「アカがスケッチしてる間に、結構撮ってるよ」
 
「え、そうなの?知らなかった。見せてよ」
 
「んんー?ケータイのカメラだし、大したもんねぇよ」
 
そう言って、トキはケータイを見せてきた
海とか川とか森とか、風景の画像が沢山
トキは謙遜してたけど、結構良く撮れてた
 
「‥‥これ、好き」
 
中でも俺が気に入ったのは、夕日に佇むブランコの写真
哀愁を帯びたブランコっていう題材も良いけど、光の加減が何とも言えず良かった
 
「お、マジ?俺もそれ気に入ってんだよね」
 
トキはにこっと笑った
 
「イナは、なんか部活とか考えてんの?」
 
「俺は帰宅部で良い」
 
そう言って、イナは漫画を読み始めた
 
放課後よくスケッチしにいく場所があるんだけど、2人はよくついてきて、俺がスケッチ終わるのをケータイゲームしたり漫画読んだりしてずっと待ってた
出来上がったら感想をくれて、褒めてくれて
帰りが遅くなったら、ラーメン屋とかマックとか行って‥‥なんか、楽しかった
 
3人で居ると、何でか落ち着いた
急かしたり茶化したりしないで、絵が仕上がるのを待っててくれる2人の空気が居心地良かった
 
 
 
ぼっちじゃなくなったのは良いんだけど、トキとイナはやっぱり“やんちゃ”だった
 
それがわかったのは、2人とつるむようになって2ヶ月後くらいのことだった
 
 
 
 
 
いつも行く河川敷で、のんびりスケッチしてた放課後
俺達は、カツアゲされそうになった
 
「ねーねー。そこの中坊クンたち。お金持ってる?オニーサンら喉乾いて死にそーなんだけど、今金無くてさー。ちょっくら恵んでくんない?」
 
確か、何とか高校ってとこの制服着て、ニヤニヤしてるガラ悪い高校生が4人
あっという間に囲まれて、俺はひたすらビビった
 
「えと、あの‥‥」
 
「なーにー?オニーサン達ビンボーなの?カーイソー。‥‥でも、生憎俺らも金持ってないから恵んでやれないんですわ。すんませんね」
 
ビビる俺を他所に、トキはオニーサン達を無視してケータイをポチポチし始めた
イナも、漫画から目を離そうとしない
何なのこの2人、俺ら今カツアゲさてれんだよ?しかも高校生に
何でこんな平然としてられるの?
 
「お前ら、葵中だろ?あんまナメてっとこの辺歩けないようにしちゃうよ?」
 
因みに、うちらの制服、ブレザー
しかも、胸ポケに校章付き
せめて学ランだったら学校までバレないで済んだかもしんないのに
この制服デザインしたやつ、爆発しろ
いやそれより、今すぐのび太くんちの机ん中入ってタイムマシン乗ってデザインする前に戻って考え直してくれ
『凝ったブレザーじゃなくて、ありふれた学ランにしよう』って───
 
「おい、聞いてんのか?このガキ」
 
高校生が一人、苛ついてトキのケータイを取り上げた
トキはゆっくり高校生を見上げた
 
「これ、新刊じゃん。これ買えるくらいなら金持ってんだろ?」
 
イナも漫画を取り上げられた
高校生が鋭い着眼点で指摘する
その能力、カツアゲじゃなくてもっと別な方向に生かしとけよ
 
「で、そこのボクちゃんは何描いてんの?」
 
当然、俺もノートを取り上げられた
あー、まだ描きかけなのに
 
「何だよこいつ、川の絵なんか描いて何が楽しいのかね?」
 
はい、此処は河川敷です
川と橋以外は特に描くものがございません
貴方方には理解出来ないかもしれませんがとっっっても楽しいです、はい
 
「つーか、根暗」
 
「オタク?完全陰キャでしょ」
 
「おい、裸婦画ねぇのかよ?」
 
「無いなー、全部風景ばっか」
 
「何だよ、くそつまんねー」
 
ノートをぱらぱら捲ってはケラケラ笑う高校生達
裸婦画があったら楽しいのですか、そうですか
中坊のらくがきノート見るよりコンビニのエロ本読んでる方がよっぽど有意義な時間過ごせると思いますね
 
「あー、面白くねぇなぁ」
 
裸婦画がなかった腹いせかなんか知らないけど、高校生は俺のノートをビリビリと破き出した
 
「あ、ごめんねぇ?手が滑っちゃった」
 
何てへぺろしてんだ、ふざけんな
誰がどう見ても確信犯だろうが
あと5ページくらいで全部埋まったのに、何てことしてくれんだよ
裸婦なら今度描いてやるから、やめてくれよ
や、でもモデルが何処にも居ない
トキとイナ、裸婦画のモデルになってくれるかな‥‥あ、裸婦だから女じゃないと駄目だ
 
「あーすっきりした。なんか白けちまった」
 
「お前、そんなことでストレス発散すんなよ。ボクちゃん泣きそうになってるぞ」
 
うるせぇな、泣きたくもなるさ
あんたらにはわかんないかもしんないけど、一生懸命描いたんだぞ
たかが一冊の大学ノートを全部埋めるのに、こっちは人生懸けてんだよ‥‥ああ、今のは言い過ぎだったかも
とにかく、何時間、何日掛けたかわかんない
折角あと5ページで全部埋まったのに
 
 
 
「───返せ。そのノートも、俺のケータイも漫画も」
 
涙目になってる俺の横で、トキが立ち上がった
済ました顔してるけど、声は怒ってるっぽかった
 
「は?何?今なんか言った?」
 
高校生達はおちょくるように、またノートを破いた
俺が描いた絵がバラバラに千切れて地面に落ちてった
 
「‥拾えよ」
 
「はぁ?」
 
「全部拾って、テープ貼って元に戻せ」
 
何言ってんの、トキ
そんなこと言ったら、オニーサンたちに───
 
トキは、殴られた
 
ほら、言わんこっちゃない‥‥って、一言も口には出してないけどさ
 
「トキ、大丈夫‥!?」
 
よろけたトキを、咄嗟に支えた
トキの口の端が、血で滲んでた
 
「バカじゃねーの。お前がやれば。ほら、拾えよ」
 
また、ノートの切れ端が地面にひらひら落ちた
トキは俺の腕をそっとどかして、にこっと笑った
口を拭って、イナに目配せする
 
「───アカはどいてな。止めんなよ、イナ」
 
その言葉を皮切りに、喧嘩が始まった
 
トキとイナは、俺を守るようにして高校生4人にかかっていった
河川敷で4対2の乱闘騒ぎ、何処の青春ムービーですか
 
「聞こえなかったのかよ!?『ノート拾って元に戻せ』ってんだよっっ!!!」
 
トキはノートをビリビリ破いてた高校生を殴る殴る
イナは、それを止めようと群がる残りの高校生達を蹴散らした
 
「折角アカが一所懸命描いたのに、さっ!!」
 
ドカッ とか、バキッ とか、人が人を殴るリアルな音が聴こえた
っていうか、ノートなんてもう良いよ
あんだけビリビリなんだからもう使い物にならないし
そんなこと思っても、喧嘩が止む筈なかった
トキのケータイも、イナの漫画も、もみくちゃに踏まれてた
 
「ね、ノートなんてどうでも良いから‥‥」
 
「アカに謝れ!!」
 
「何が『喉乾いて死にそう』だよ。死ぬ前にノート一冊買ってこいよ」
 
俺の声は、2人には届いてなかった
前言撤回するよ、ほんとノートなんてもうどうでも良いから
また買って、また描けば良いんだから
でも、もう手遅れみたいだ───
 
 
 
全てが終わった頃、河川敷に立っていたのは俺達3人だけだった
2人とも、倍の人数いた高校生をすっかり伸してしまった
てか、中学生に負けるなんてめちゃめちゃ弱いじゃんこのオニーサン達
 
「‥‥あー、ごめん。アカ、ノート」
 
トキは溜め息を吐いて俺に頭を下げてきた
まぁ、当然のことながら俺のノートも踏まれて更に無惨な姿になってたんだよね
でも
 
「‥‥もう、良いよ。‥‥‥‥有難う」
 
2人が俺の為に、俺のノートなんかの為に喧嘩してくれた
それだけで、目頭が熱くなった
 
2人は何も言わずに、ノートを切れ端を拾い始めた
破れて小さくなった端っこまで、丁寧に拾った
全部拾い終えたら、辛うじて原型を留めてる部分に切れ端を全部挟み込んで、トキの鞄に仕舞われた
 
「‥‥コンビニ、行こうか」
 
イナは軽く制服を払って、漸くトキのケータイと自分の漫画を救出した
 
「おう。ノートとジュース買いに行こうぜ」
 
2人はにこっと笑って、俺に肩組みしてきた
 
 
 
トキとイナは、コンビニで一リットルの紙パックに入ったコーラスウォーターと大学ノート一冊を割り勘で買った
店員さんからストローを一本だけ貰ってコンビニの前に座り込んで、3人でジュースを回し飲みした
 
「‥2人とも、怪我大丈夫‥‥?」
 
伸したは伸したんだけど、高校生から何発か浴びてたから、2人の顔には幾つか傷があった
 
「おう。全然平気」
 
「俺もー」
 
2人とも、ケロっとしてる
余裕綽々だ
 
「喧嘩、強かったんだね。知らなかった」
 
「ん?そうなのか?喧嘩なんて初めてやったよ、な」
 
「そうそう。今回が初めて」
 
「え?」
 
「え??」
 
マジかよ、デビュー戦?
全然そんな風に見えなかったけど
 
「俺ら、喧嘩強かったんだな」
 
「ふふ、いがーい」
 
2人はハイタッチして、なんか知らんけど喜んでた
そして、照れ臭そうにして真っさらな大学ノートを俺にくれた
 
「金、要らねぇから。当たり前だけど」
 
「また一杯描いて、俺らに見せてね」
 
2人とも、怪我してるのにイイ顔してた
さぁ、何を描こうか‥‥2人があっと驚くようなものを、喜んでくれそうな力作を、沢山描こうと思った
 
この日を境に、トキとイナは不定期に喧嘩をするようになった
それに俺も加わることになるなんて、この時は想像もしてなかったけど───でも、それはまた、別の話

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Overture-ちゅーがくせいにっき①

小さい頃から、絵を描くのが好きだった
 
買い物に行きゃ母親にペンとらくがき帳を強請って、何かってーと描きまくってた
らくがき帳が尽きればチラシの裏に
チラシが埋まれば壁や床に
母親にはこっぴどく叱られたけどね、当たり前だけど
 
中学校に入って、“マブダチ”が2人出来た
トキとイナ───2人は小学校から一緒で、バカコンビで有名だったらしい
中2で同じクラスになって、休み時間に席から立たず黙々とノートにらくがきをしてた俺に2人が声を掛けてきたのが始まりだった
 
「ねーねー。何描いてんの?」
 
無遠慮に覗き込んでくるトキ
 
「わ、めっちゃ上手い!これ、自分の手?」
 
その後ろから、イナが驚嘆する
 
トキは黒髪でツンツン、イナはフツーの髪型だけどめっちゃ茶色に染めてた
2人の第一印象は、“チャラい”感じ
後から知ったんだけど、中学に入ってちょっと“やんちゃ”になったみたい
小学校から持ち上がった友達が少なくて、2人のことは全然知らなかった
ってか、小学校から基本ぼっちだったから友達自体少ないんだけど
自虐です、事実です、俺はぼっちのコミュ障です
ただ、2人が“やんちゃ”だってのは噂で聞いてて、わざわざ自分から近付こうとなんて無謀なことは頼まれても絶対お断り案件な人種ってことだけは間違いないと思ってた
平々凡々に生きてきた俺はたじろぐしかなくて、ひたすら目を泳がせた
 
「‥‥あ‥」
 
「てかさ、いっつもなんか描いてるよね。このノート、全部そんな感じなの?良かったら、見して」
 
トキはにこっと笑って手を差し出してきた
あとから因縁つけられたりしたら確実にHPもMPも無くなりそうで嫌だなと思って、大人しくノートを手渡した
 
「‥ぅお!!すげぇ!!何これ!」
 
「わー、細かく書き込んでるなぁ」
 
トキもイナも、めっちゃノートに釘付けになった
ノートに描いてたのは、鉛筆とか文房具とか、身近にあるもののデッサンばっか
やんちゃな2人が、そんなもんを興味深そうに見てる
なんか、変な感じがした
 
「どーもありがと。目の保養になった」
 
「あ‥うん‥‥」
 
不良(?)がぼっちにノートを返してきた
やっぱり俺は、眼が泳いでた
完全に縮こまった俺を見て、トキは噴き出した
 
「そんなにビビるなよー。俺ら見た目こんなだけど、全然怖くないよ?」
 
「そーそー。オシャレしてるだけ。ね?」
 
「なー。‥‥タカムラだっけ?俺、常磐 響。“トキ”で良いよ」
 
びっくりした
俺の名前、知ってた
トキが自己紹介すると、イナもそれに倣う
 
「俺は、印南 京平」
 
「いん、なみ‥‥?」
 
「うん。あんま居ないでしょ。ちょっとレア苗字」
 
うん、インナミなんて聞いたことない
そういう苗字もあるんだなって、ちょっと感心してしまった
おっとりした笑顔で、イナは続けて言った
 
「“イナ”って呼んでね。宜しく」
 
「う、うん‥‥」
 
「もぉ、まだビビってんの!?別に俺ら、カツアゲしたりする気とかないから!ただ、高村が何描いてんのかずーっと気になってたの。ほんと、そんだけだから」
 
トキが軽く肩を叩いてきた
それだけでも、ちょっとビビった
この2人は“かなりやんちゃ”だって聞いてたのにな、何なんだこの爽やか笑顔
しかも、ぼっちの俺に興味持つなんて
なんか、噂と全然違うぞ
 
「高村くんさ、下の名前なんて読むの?確か、朱色の“朱”に、中央の“央”だよね」
 
「あ‥‥、“アケオ”」
 
「そうか、訓読みだったんだ。ずっと“シュオウ”だと思ってた」
 
「ふは、もし“シュオウ”だったら『なまらかっけー!』って話してたんだよね」
 
「“タカムラ シュオウ”。習字とか生け花とかの偉い師範みたいだよね。めっちゃ厳か」
 
俺の名前でそんなに盛り上がってたのか、全然知らなかった
や、知る由もなかったんだけど
てか、俺のフルネーム知ってたんだ
そっちの方が意外だった
だって、こういうやんちゃな人達とは住む世界が違うと思ってたから
俺に興味を抱くなんて青天の霹靂だから、マジで
 
「‥‥、“シュオウ”じゃなくて、ごめん‥」
 
気付けば、そんな言葉が口を衝いてた
 
「───ぶっははは!!何それ!!」
 
「高村くんて面白いね。くひひ‥」
 
2人は大爆笑だった
素で出た言葉だったけど、受けたらしい
 
その日から、トキとイナと俺は3人でつるむようになった
俺が2人から苗字で呼ばれたのはこの日だけで、あとはずっと“アカ”って呼ばれるようになった

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8 コンビニにて

ユイと拓真は度々、通学中にコンビニに立ち寄ることがある
大体がユイの昼食を購入する為に寄るのだが、真夏の暑い日は涼みに、真冬の極寒の日は暖をとる為に入店することもある
この日も、2人揃ってコンビニに立ち寄った
入店するや否や、ユイは大ファンである洋楽バンドのライヴDVDに、これまた大ファンである海外のギタリストがオーディエンスとして中に紛れているシーンがあることを必死に拓真に説明する
 
「えー?ほんとかそれ?俺も暗記しちゃうほど観たけど、そんな記憶無いんだよなー」
 
「ほんとだって!ほんとに映ってんだから!」
 
「マジかよー?ただの見間違いじゃないの?」
 
「何だよ!信じてないなら今日帰ったらDVD観よ!あれ絶対そうなんだから‥‥」
 
ああでもないこうでもないと話しながら、ユイはショーケースに並んだペットボトルのドリンクに手を伸ばした
それはユイのお気に入りの桃フレーバーの紅茶で、最後の1本だった
ユイが手に取るよりも先に、横から誰かがその最後の1本を手に取った
思わずユイが叫ぶ
 
「あっ!俺のジュー‥─────」
 
 
 
ユイが横を見ると、かなりラフに着崩された、自分と同じ制服が目に写った
しかし、ユイの身長では、ぱっと横を見ただけでは顔が確認できないほど長身の生徒だった
ゆっくりと見上げると、無表情にユイを見下ろす菱和の顔があった
 
 
 
「───ス‥‥」
 
買おうと思っていたドリンクを手に取った途端に『俺のジュース』と宣言され、菱和は戸惑う
 
数秒間、固まる二人
 
 
 
伸ばしかけていたユイの手に、徐にペットボトルの感触が伝わった
菱和からペットボトルを受け取るも、ユイにはその意図が把握出来ないでいる
 
「菱、和‥‥あの」
 
「‥美味いよな、それ」
 
そう云うと、菱和は別のペットボトルを持ち、颯爽とレジへ向かった
 
「‥よう」
 
「お、おはよ」
 
すれ違う拓真に軽く挨拶をし、会計を済ませると、さっさと店内から出ていった
 
 
 
菱和が歩いた後に、ふんわりと香水の香りが漂った
クラス発表のときに、春の風と共に香った匂いと同じだった
その姿を見送ってから漸く、ユイは菱和がドリンク譲ってくれたのだと理解した
 
「貰っちゃった‥‥最後の一本なのに」
 
「良かったな。お前それ好きだもんな」
 
「‥‥優しんだね、菱和って」
 
「益々、見掛けに寄らないなー」
 
菱和と関わりを持つようになって2週間
まだまだ謎の多い人物だが、菱和には見掛けに寄らず優しい一面があると、ユイと拓真の頭にしっかりとインプットされた
 
ユイは譲って貰ったドリンクの会計を済ませようと、足早にレジへと向かった

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7 屋上にて②

ユイが初めて菱和と会話を交わしてから一週間が過ぎた
結局、ユイは前の週の昼休憩の全てを菱和と一緒に過ごした
拓真も連れて来られ、時には上田も加わった
ユイは相変わらずだが、拓真も少しずつ菱和と会話の回数が増えてきた
そして、教室でも話す機会が増えた
その度にざわつく教室だったが、一週間も経てば他の生徒たちもその光景にすっかり慣れてしまっていた
 
 
 
「菱和!屋上行くんでしょ?俺も行く!」
 
「‥‥ああ。佐伯は?」
 
「今日は先約があるんだってさ」
 
「‥‥ふぅん」
 
二人は連れだって、昼食をとりに屋上へと向かった
 
 
 
***
 
 
 
「菱和さ、MR.BIGも聴くって云ってたよね?何の曲が好き?」
 
「‥‥“Take Covor”とか、“Daddy, Brother, Lover, Little Boy”とか 」
 
「おお!“Take Covor”とかシブいねー!“Daddy,Brother,~”なんか兄ちゃんと弾きまくったなー、サビのユニゾン速過ぎで指攣りそうになってさ!懐かしいー!」
 
「‥‥‥‥、兄ちゃん?」
 
「ああ、元々バンドでベース弾いてたの、俺の兄ちゃんなんだ!」
 
「へぇ‥‥」
 
 
 
先週も、こんな風に音楽の話題が中心だった
ユイがどんなバンドの何の曲が好きかと尋ねれば、菱和はそれに淡々と答える
ユイにとってはとても楽しい時間だったが、菱和にとっては未だにユイが不可解なものだった
わざわざ自分を捜し回ったり、一緒に昼食をとったり、会話をしたり───会話とは云えども、自分は主に質問に答えたり相槌を打っているだけだ
 
 
 
ふと会話が途切れると、菱和は先週からずっと疑問に思っていたことをユイに尋ねた
 
「───‥‥つーかさ」
 
「ん、何?」
 
「‥‥俺と居て、暇じゃない?」
 
「ん?別に。何で?」
 
「いや‥‥‥‥俺と喋ってても、あんま楽しくねぇんじゃねぇかなって‥」
 
「全然そんなこと無いよ?」
 
「‥‥‥‥そうか‥」
 
軽く頭を掻く菱和
自分が楽しめているかどうかを気にしていたらしいとわかったユイは、心境をぽつりと打ち明けた
 
「‥‥俺はね、ただ菱和と仲良くなりたいって思ってるだけだよ。ほんと、それだけ。バンドに入って欲しいから~とか、そういう気持ちも無‥‥くはないけど‥‥‥でもまず、友達として仲良くしたいと思ってるだけだから」
 
「‥‥、友達‥‥‥」
 
ユイの言葉は菱和の胸を打った
気付けば、今までずっと耳障りだと感じていた単語を口にするほどだった
 
「うん!それにさ、仲良くなる為には相手のこと知っといた方が良いじゃん?俺、こうやって喋ってるのほんとに楽しいよ!」
 
笑顔で話すユイを見て、菱和は今までの自分を回顧した
 
嘗ては菱和にも、普段から下らない会話をする相手が数人居た
しかしそれははみ出し者たちが集まっていただけに過ぎず、“普通の友人”は未だ皆無に等しい
ましてや、『仲良くなりたい』と云ってくる人間はユイが初めてだった
 
「‥‥あ、拓真に云われてんだった‥あの、『迷惑だったら遠慮しないで云ってね』?」
 
「いや、迷惑とかそういうのはねぇけど‥‥」
 
菱和はユイから顔を逸らし、飲みかけのお茶を一口飲んだ
 
 
 
───そんな単純な理由だったんか
 
今までの不可解な感情の正体は、未だ嘗て自分には決して向けられることの無かった、無垢な感情ただ一つだった
 
それにしても
 
───変な奴だな
 
そんな感想を抱きつつ、取り敢えず菱和は胸の奥が少しすっきりしたような気がした

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6 屋上にて①

上田から菱和が居そうな場所を聞いたユイは旧校舎の屋上に辿り着き、扉を開けた
ぱっと見回すと、柵に寄り掛かって怠そうに座っている生徒が居た
だらしない制服、長身、黒い髪───その生徒が菱和だと確信したユイは、声を掛けた
 
「見っけ!菱和!」
 
名前を呼ばれた菱和は、声のする方を見遣る
旧校舎の屋上には、生徒はおろか教師すらも滅多に訪れることはなく、屋上に入れることを知らない生徒も多い
菱和は一学年時にたまたま屋上に入れることを知り、以来自由時間は屋上で過ごしている
唯一、ただ一人になれる場所
うざったい教室なんかとは違い、開放的な空間
 
それをぶち壊すかのような、自分を呼ぶ声───
 
 
 
───また“あいつ”か
 
自分に駆け寄ってくるユイを見て、一体何事かと思った
 
「良かったらさ、俺も一緒に昼食べて良い?」
 
───何だ、今度は飯か‥‥
 
「‥‥、ああ」
 
「やりっ!んじゃ、お邪魔するね」
 
ユイは菱和の隣に座り、紙袋を開けた
クラフト紙で出来た紙袋の中から、香ばしいパンの香りがする
その香りを堪能した後、ユイはちらりと菱和を見た
傍らにはサミット袋と紙パックの紅茶が置かれており、手には食べ掛けのBLTサンドがある
 
「あ、菱和もパン?俺も今日はパンなんだー。“eichel”っていう店知ってる?」
 
ユイは紙袋をがさがさと鳴らし、パンを取り出した
 
「‥駅前の?」
 
「そうそう!俺、あすこのパン大好きでさー。特にこれ、ショコラノエル!いっただっきまーす」
 
お気に入りのパンに遠慮なくかぶり付くユイ
空腹を満たす、チョコレートが練り込まれたパン
菱和は横で「やっぱうめぇ」と唸るユイをちらりと見た
 
───よっぽど好きなんだな、“ショコラノエル”
 
美味しそうにパンを咀嚼するユイを見て、そう思った
 
「‥そうだ。菱和がベース弾けるって話、実は上田から聞いたんだ。“L CUBE”で見掛けたとかって」
 
───石川と上田、ダチなのか
 
何故自分がベースを弾けることをユイが知っていたのか、何故自分の居場所をわざわざ上田に聞いたのか、というか恐らく上田でも自分の居場所は知らないだろうに───とにかく、菱和には色々と合点がいった
 
「‥‥あぁ、声掛けられた」
 
「同じクラスだったのに初めて喋ったーって云ってたよ」
 
「‥‥あんま来てなかったから、学校には」
 
「そうなんだってね。上田のバンド、見たことある?」
 
「いや‥‥」
 
「超~ガラ悪いんだよ!みんな良い人たちなんだけどさー。上田は見た目フツーでしょ?だからあの面子の中じゃ浮いててさ!マジウケる!」
 
「‥‥‥‥」
 
 
 
菱和は上田の顔を思い浮かべた
 
始業式の数日前、とあるライヴハウスで『実は俺ら同じクラスだったんだけど』と話し掛けてきた上田
その時の印象でしかないが、上田も地味な外見ではないと思っていた
その上田が浮くようなバンドメンバーとは───
 
───どんなだよ
 
色々と想像した後、食べ掛けのパンを一口齧った
 
 
 
───何だよ、全然怖くないじゃんか。そりゃあんま表情は変わらないけど、ただそうってだけじゃん。皆がビビり過ぎてるだけで、こっちが普通にしてれば相手だって普通なんだよ‥‥
 
ユイは他の生徒が思う菱和の印象を微塵も感じず、パンを食べながら菱和と話をした
 
「菱和って、いっつもここで昼食べてんの?」
 
「ああ」
 
「一人で?」
 
「ん」
 
「そうなんだ。今日みたいな日は、暖かくて良いねー」
 
「‥‥そうだな」
 
 
 
───こいつ、何でわざわざ俺なんかといるんだろ‥‥
 
 
 
空は晴天、初夏の匂い
まだ僅かにひんやりとする風が、二人の髪を揺らす
 
互いの抱く想いは違えど、二人は爽やかな蒼い空を仰いだ
 
 
 
拓真が事のあらましを話すと、上田は『相変わらずユイは突き抜けたKY』と笑った
同意せずにはいられない拓真は、空腹ではあるものの食欲はかなり減退していて、上田に『食べてくれ』とお弁当を渡し、旧校舎の屋上へ向かった
 
───『男子生徒、屋上から転落!自殺か?』とか、そういうのマジ勘弁してくれよな
 
空腹と緊張で胃のあたりがキリキリする
拓真は青い顔をして、屋上へと続く階段を一歩一歩踏みしめた
 
 
 
***
 
 
 
心地好い風が吹き抜ける屋上
時折、校内放送の音やグラウンドでサッカーをして遊んでいる生徒の声が微かに響く
ここも間違いなく校内の筈なのだが、まるで違う空間に来たかのような錯覚に陥る
 
───気持ち良いな
 
ユイは名残惜しそうに、大好きなショコラノエルを食べ終えた
 
こく、と飲み物が喉を通る音が聴こえる
隣を見ると、菱和が紙パックの紅茶を口にしている
 
───背だけじゃなくて、足も指も長いなぁ
 
視線を感じた菱和が横にいるユイを見遣る
ユイは目が合うと、にこりと笑って一言云った
 
「風が気持ち良いね」
 
高校に入ってから、他の誰かと共に昼食をとったことは無い
同年代の人間と校内で会話をするのも久し振りだ
ましてや、自分に笑いかけてくるような生徒は未だ嘗て居なかった
どういう反応をして良いものかわからず、菱和はふい、と顔を逸らした
 
「‥‥ん」
 
「───あ。ってか俺、クラス発表の日菱和とぶつかったんだけど‥‥覚えてる?」
 
「‥‥、覚えてるよ」
 
「そっか‥‥ごめんね。あんときちゃんと謝れてなくて」
 
「‥‥別に」
 
「あんときも思ったけどさ、菱和ってめっちゃ背ぇ高いよね。何センチあんの?」
 
「‥182」
 
「ふぇー!180超えてんだ、すげぇ!なんかスポーツやってんの?」
 
「いや、何も」
 
「そっかー、じゃあそういう遺伝子なんだね!」
 
「‥そうだな」
 
 
 
───こいつ、退屈じゃないんだろうか‥‥つまんなそうには、見えねぇけど
 
少なくとも、ユイが自分の隣に居ることは特別嫌でも何でもなかった
ただ、会話が続かない、広げられないことに対し、菱和はそう思っていた
事実、ユイはとても楽しそうにしており、会話も勝手に広げている
無口な菱和にとっては、それが“救い”のような気がした
 
 
 
ガチャリ、と扉が開く
ユイと菱和が揃って扉の方を見ると、そこには肩で息をしている拓真が居た
 
「あ、拓真!」
 
───マジかよ、ほんとに居たし
 
上田の予想が当たっていたこと
ユイと菱和が一緒に居たこと
拓真は安堵もしたが不安にも駆られた
そんな思いを知る由もなく、ユイは拓真に駆け寄る
 
「‥なんか汗かいてない?てかべんと食べたの?」
 
「食ってねぇよ、お前を捜してたの!上田に聞いたらここじゃないかって‥‥」
 
「あそ、ちょっと来て!」
 
「おぃっ‥‥」
 
拓真はユイに引っ張られ、菱和の近くへと無理矢理連れて行かれた
 
「これ、一緒にバンドやってる拓真!」
 
「“これ”とか云うなよ。あのなぁお前‥‥」
 
「因みに拓真はドラムで、俺はギターね」
 
ユイはにこにこしながら拓真と自分を指差してそう云い、菱和は二人の顔を交互に見遣る
 
───もおぉ、こいつは!
 
このままでは自分が話す隙がないと思い、拓真はユイより少し前に立った
 
「あの、菱和。迷惑だったら遠慮なく云ってくれて構わないから。こいつ、全然悪気無いんだけど、ちょっと空気読めないとこあって‥‥」
 
申し訳なさそうに話す拓真の肩から、ユイが顔を覗かせた
 
「あ、もしかして俺うざかった?」
 
「“もしかして”じゃなくて、“かなり”うざいと思うけど」
 
「え、そう?菱和、俺うざい?」
 
目を丸くして、ユイは菱和に尋ねた
 
「‥‥別に。そんな風には思ってねぇ」
 
菱和は素直にユイの問いに答えた
 
「だって。なら良いじゃんっ!」
 
「あー‥‥そう‥‥」
 
───本音と建前もわからないか、理解しろって方が無理だよな‥‥もうどうにでもなれ
 
にこにこ顔のユイを尻目に、拓真は色々と諦めることにした
 
 
 
ユイは再び菱和の隣に座った
走ったことと緊張とで疲労感が増しており、拓真もユイの横に座った
紙袋に残っていたパンを渡された拓真は、いつどんな失言をするかわからないユイに気を揉み、食欲がないながらもパンを食べ始めた
その矢先、ユイは菱和の顔を覗き込んで云った
 
「‥痛そーだね、それ」
 
ユイは自分の口元を指差している
菱和の口元には絆創膏が貼られていて、赤く腫れている
それを、無邪気に指摘したのだ
 
「やっぱ喧嘩?てか、菱和って喧嘩強そうだよね!」
 
「───ばかっ、ユイっ!!」
 
拓真は「やっぱりやらかしやがった」と思い、時すでに遅しだが声を荒げた
 
拓真の様子から察するに、恐らく他の生徒と同じように自分を怖がっているんだろう───菱和はそう思った
それは一向に構わず、それが普通の反応だということは嫌というほど理解している
喧嘩のことについては、内容次第では“不良”の神経を逆撫でしてもおかしくはない
にも関わらず、全く空気を読まず「喧嘩したのか」などと聞いてくるユイ
 
───ああ、“こういうとこ”が、か。確かに、空気読むのは苦手なんかもな、こいつは
 
ただ、ユイの一言は菱和の逆鱗に触れる内容ではなかった
 
「‥‥、喧嘩ってか、一方的にやられたっつーか‥‥」
 
「やり返さなかったの?」
 
「‥‥もう暫く、自分からはしてねぇ」
 
「ふぅーん‥‥」
 
拓真には最早パンの味などわからなかったが、菱和に怒ったような様子が見られなかったことでほっと胸を撫で下ろした
 
「菱和って楽器何使ってんの?プレベ?ジャズべ?」
 
「‥ジャズべ」
 
「どこの?」
 
「Fender」
 
「Fenderかー!ベースといえばFenderだよね、やっぱ」
 
ユイはうんうん、と頷く
 
「‥‥‥‥、石川の楽器は?」
 
「Les Paul!Gibsonの!」
 
「Les Paulか‥‥」
 
「うん!Epiphoneのもあるんだけど、やっぱGibsonの方が好きなんだよね。重さも厚みも違うっていうか‥‥」
 
「‥‥何となくわかる」
 
「ほんと!?」
 
「‥何となくだけど」
 
 
 
───やっぱ“クソ度胸”なんだな‥‥‥けどひょっとして、見た目が怖いだけなのかもしんないな‥‥人は見掛けによらないって云うもんな‥
 
仮に、菱和が根っからの不良であるならば、ユイは既にこの世に存在していないかも知れない
会話が成立しているということ、淡々とではあるが菱和がしっかりと受け答えをしている姿を静観していた拓真の、菱和に対する印象が僅かに変わり始めていた
 
 
 
───“タクマ”って云ったな、下の名前。苗字は‥‥そう、確か───
 
「──────“佐伯”」
 
丁度菱和の印象を考えていたところ、当の本人から名前を呼ばれ、拓真は思わず変な声が出た
 
「ぅえっ!?なっ、何で‥しょう‥‥?」
 
「どこのメーカー使ってんの、ドラム」
 
「あ、あぁ‥‥好きなのはPearlだけど‥自宅では電ドラ使ってる」
 
「‥‥場所確保すんの大変だもんな。音も気ぃ使わなきゃなんねぇし」
 
「う、うん‥‥そうなんだよね‥」
 
まさか菱和が自分に話し掛けてくるとは思わず、たった数秒間の会話を終えた後も拓真は心臓がバクバクしていた
 
「ぷっ‥‥『ぅえっ』だって!変な声ー」
 
「‥うっせぇよ、もう」
 
変な汗をかいたが、ユイに笑われたことに少しむっとした
 
 
 
再び扉が開いた
3人が一斉に扉の方を見ると、上田の姿があった
上田は手を降りながら3人に近付いて来る
チャラチャラと、オニキスのブレスレットが鳴った
 
「お、ほんとに居たわ。俺って天才じゃね?マジで探偵事務所開くべか」
 
「おまっ‥‥来るなって云ったろ!?お前が来ると益々ややこしく‥」
 
「いーからいーから。もう、心配性なんだってばたくちゃんたら。べんと美味かった、母ちゃんにお礼云っといてよ」
 
「ああもうわかったから‥‥!」
 
ユイと菱和の元へとどんどん近付いて行く上田を、拓真が必死に遮ろうとしている
ユイは二人の様子をにこにこと静観していた
 
「上田ぁ、ありがとね。お陰で菱和見付けられたよ」
 
上田は自分の行く手を遮る拓真の腕を躱そうとしながらユイに近付いていく
 
「おお、なんもなんも。やっぱ俺ちゃん凄くね?なんか飲み物奢ってよ。拓真もね」
 
「え、何で俺まで!?」
 
「ユイの居場所教えてやったの俺様だよ?」
 
「んなもん、当てずっぽうで云っただけだろ!?」
 
「結果オーライっしょ!ほら、俺が居るとややこしいんだろ?とっとと自販機行くべ。ユイも早く来いよー」
 
上田は拓真の肩を抱き、強引に引き摺って行った
 
 
 
「明日もここで昼食う?」
 
「‥‥ああ」
 
「じゃあ俺も!明日も晴れると良いね!」
 
菱和はユイの顔をぼんやりと見つめてから、ふっと顔を逸らして返事をした
 
「‥‥、ん」
 
にっこり笑ったユイは菱和に軽く手を振り、駆け足で拓真と上田を追い掛けた
 
 
 
───晴れると良いね、か
 
3人が去った扉を見つめ、ユイの言葉を反芻する
 
確かに今日は快晴だ
このまま午後の授業をサボりたくなる衝動に駆られるほどの、蒼い空
 
ユイと同じく明日の天気に少し期待をした菱和は、制服のポケットに仕舞っていた煙草の箱を取り出した

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5 1st contact ③

「何でそんなことユイにさせるわけ?」
 
「んなこと云われたって‥‥あっちゃんが『誘え』って、ユイも『わかった』って即答するから‥‥」
 
「‥ほんとに“享年17歳”になったらどうすんの?」
 
「どうしようなー‥‥」
 
「てか、ユイどこ行ったの?」
 
「‥知らん」
 
 
 
教室の片隅で、リサが拓真を詰問している
リサが登校したのは、ユイと菱和が教室から出ていった後だった
クラスメイトたちから質問攻めにあっていた拓真は、今度はリサから責められている
疲弊している拓真の横で、青筋を立てているリサ
二人には、ユイと菱和が教室に戻ってくるまでの時間がとても長く感じた
 
予鈴が鳴る少し前に、ユイは教室に入ってきた
入ってくるなり、嬉々として拓真に駆け寄った
 
「拓真!聞いてよ、朗報だよ!あのね‥」
 
「───ユイ!無事だったか!お前、どこも何とも無い!?」
 
「へ?別に?あ、リサ。おはよー」
 
「おはよーじゃないよ。あんた、何やってんの?」
 
「何って‥菱和をバンドに誘ってただけだよ」
 
「それは今聞いた。もう、そうじゃなくて!」
 
「何だよー?」
 
リサの小言の途中で、予鈴が鳴った
「また後で」と話を中断し、ユイは自分の席へ向かった
拓真とリサは呆れ顔で、同じく自分の席についた
 
ちらりと後ろを見ると、菱和は既に席についていた
置きっぱなしにしていた音楽プレイヤーを手に取り、また音楽を聴き始めた
 
 
 
昼休憩の時間になり、生徒たちはそれぞれ昼食をとる準備をしている
ユイと拓真は、普段から一緒に昼食を食べている
ユイはパンの入った紙袋を、拓真はお弁当が入った巾着を提げて、いつも昼食をとっているホールへと向かって歩きながら、朝に中断していた話をし始めた
 
「‥‥じゃあ、バンドに入ってくれるかも知れないってこと?」
 
「うん!だから、返事待ってみようよ」
 
「まさかこっちの話に乗ってくるとは‥なんか意外過ぎるなー‥‥」
 
「ね?“話してみるとイイ奴”だったっしょ!」
 
「んー‥‥まだよくわかんないけど‥って、どこ行くんだよ?」
 
拓真はいつものようにホールの机にお弁当を置いたが、ユイは紙袋を持ったままホールを通り過ぎようとしていた
 
「俺、菱和のとこ行ってくる!」
 
「は!?」
 
「シンボク図るんだよ!よくわかんないんでしょ?菱和がどういう人なのか。一緒にご飯でも食べてみりゃわかるって!」
 
「お、おいちょっと待てって‥‥」
 
拓真の呼び掛けも空しく、ユイは行方も知らない菱和のところへと走って行った
 
 
 
***
 
 
 
───教室で飯食ってるの見たことないもんなぁ。どこに居るんだろ‥‥つぅか腹減った‥
 
ユイは行く宛もなく菱和を捜し回っていた
教室には居ない、ホールにも居ない、中庭にも居ない───途方に暮れかかっていた
空腹のまま校舎内を走り回っていたことで少々疲弊し、窓際に寄り掛かって恨めしそうにパンの入った紙袋を見つめた
そんなユイに、ある友人が声を掛けた
 
「よー、ユイ」
 
自分を呼ぶ聞き慣れた声の方を振り返ると、濃いアッシュの髪色、両耳にピアスを付け、左手にオニキスのブレスレットをした生徒が立っていた
漆黒のブレスレットが光る手から、烏龍茶のペットボトルがだらしなく下がっている
 
彼は救いの神のように思えた
『菱和がベースを弾ける』という情報をくれたのが彼、上田だったこともあり、彼なら菱和の居場所を知っているかもしれないと何の根拠もない希望を抱き、ユイは上田に尋ねた
 
「あ、上田!あのさ、菱和知らない?」
 
「“菱和”?お前の口からそんな名前聞けるとはなー、かなりの予想外だわ」
 
「だって、菱和がベース持ってるとこ見たんでしょ?」
 
「あぁ、“L-CUBE”んとこでね」
 
「そこまだ行ったことないんだよなぁ‥‥あっちゃんはあるみたいだけど、俺にはまだ早いって云われて‥‥」
 
「良くてカツアゲか、最悪拉致られるよ、ユイなら。てかアタルくん元気?」
 
「元気だよ、もう超元気‥‥ってあっちゃんのことはどうでもいいから!菱和!菱和の行きそうな場所知らない?」
 
「いやいや、俺も菱和と話したのこの前が初めてだし‥‥」
 
「それでも、多分このガッコでいちばん菱和のこと知ってるのカナか上田くらいだよきっと!」
 
「カナ?あぁ、長原ね。長原も俺も一年の時同じクラスだったけど、全然学校来てなかったからなぁ菱和って‥」
 
「そっか、上田も6組だったっけ?」
 
「そうそう。んーそうねぇ‥‥‥‥多分、旧校舎の屋上じゃねぇの」
 
「屋上?」
 
「多分ね、多分。なんか一人でいるの好きっぽいし、学校ん中で一人になれる場所ってあすこくらいっしょ」
 
「‥そっか、わかった!サンキュー!」
 
ユイは廊下を歩く生徒たちを掻き分け、また走って行った
 
 
 
その少し後、ユイを捜して同じく駆けずり回っていた拓真が、友人たちと談笑している上田を見つけた
 
「あ、上田!ちょうど良かった、ユイ知らない?」
 
「何なんだよお前ら、人の居場所ばっか聞いてきやがって。俺は探偵じゃねぇんだぞ」
 
「え、何それ」
 
「ついさっき、ユイが菱和の居場所聞いてきた。菱和がいるかどうかはわかんないけど、ユイは屋上行ったよ」
 
「屋上!?またそんな閉鎖的なとこに‥‥」
 
「なになに、なんか面白ハプニング?」
 
「いや、ハプニングってほどのもんでもないけど‥‥」
 
もう初めから話すのも面倒臭い
そう思いながらも、拓真は肩で息をしながら事の経緯を上田に話した

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4 1st contact ②

人のいないところ──旧校舎を目指して歩くユイ
ユイのあとをついて歩く菱和
 
二人の身長差に
絆創膏だらけの菱和の顔に
はたまた、そんな菱和の前を意気揚々と歩くユイに
 
すれ違う生徒たちは唖然とし、二人が歩いたあとにはひそひそと話し声が谺する
 
 
 
腫れ物に触るような、周囲の扱い
慣れてはいるが、決して良いものとは云い難い
 
菱和は自分の目に強いコンプレックスを抱いていた
威嚇するつもりもないのに恐れられるくらいなら、と、対人関係に必要性を見出ださず、面倒臭さを感じており、目を隠すように敢えて前髪を伸ばしている
 
 
 
理由もなく誰かを殴ったりする気も、窓ガラスを割る気も更々ねぇ
髪にメッシュ入れてピアスして顔中絆創膏だらけの奴はみんなそう思われるのか?
人のこと大してよくわかりもしねぇのに、見た目だけで妙な憶測立ててんじゃねぇよ
 
───見世物じゃねぇっつんだよ
 
自然と伝わってくる心無い声と視線が、ただただ鬱陶しかった
 
 
 
***
 
 
 
「ここでいっか。えっと‥」
 
「───お前、怖くないの?」
 
向き合い、本題に入ろうとしたユイを遮るように、菱和は疑問をぶつけた
菱和の問いに、ユイは目を丸くして首を傾げた
 
「‥‥?何が?」
 
「‥‥‥‥、俺が学校でどんな噂されてるかくらい、知ってんだろ」
 
「? 何それ?‥あー、不良だから~みたいな?全っ然気にしてないよ、そんなの。仮に不良だとしても、関係ないっしょ!怖くないよ、全然!」
 
ユイはにこにこしながら答えた
その言葉や表情には、微塵も偽りを感じられなかった
菱和にとっては、自分に一切物怖じせず接してくる同級生は不可解でしかない
 
「あ、てか俺の名前知ってる?」
 
良く云えば人懐っこく、悪く云えば
 
───天然‥‥ってか、空気が読めないのか?
 
普通は、“不良”と目されている人間ににこにこと話しかけてきたりはしないだろう
教員に目をつけられる可能性もあり、必要以上に接触することは避ける筈だ
しかし、
 
───本人が「気にしない」ってんだから、いっか
 
そう思い、菱和は質問に答えた
 
「‥石川だろ」
 
クラスメイトだから当たり前のことなのだろうが、菱和が自分の名前を知っていることを嬉しく思ったユイは、より一層にこにこした
 
「うん、そう!石川 唯!みんな“ユイ”って呼ぶから、良かったら菱和も“ユイ”って呼んで!」
 
「‥‥‥“ただし”?」
 
「うん、『唯一』の『唯』で“タダシ”って読むんだ!」
 
「‥‥‥‥、てっきりそのまま“ユイ”って読むんだと思ってた」
 
「実は違うんだー、へへ」
 
ユイはよくわからないドヤ顔をした
 
クラスメイトの殆どが“ユイ”と呼んでいることもあり、「イシカワ ユイ」が本名なのだと確信していた菱和は妙に納得し、腕を組んで壁に寄りかかった
 
「‥‥で、話ってなに」
 
「あー、うん。そうだった。あのさ、菱和ってベース弾けるんだって?」
 
 
 
その事実を知っている人間はごく僅かだ
一緒のクラスになったばかりの奴が何故自分がベースを弾くことを知っているのか───
皆目検討もつかず、菱和は一瞬たじろいだ
 
「‥ああ、一応」
 
「やっぱそうなんだね!もしか、バンドとかやってんの?」
 
 
 
“バンド”
 
実は今一番耳にしたくない単語であり、「バンドやってる」は特に触れられたくない内容だった
 
───でもそんなことこいつには関係ないな
 
そう思い、菱和は答えた
 
「‥‥ああ、一応」
 
「‥そっ‥かー‥‥」
 
心底残念がるユイ
一気にテンションが下がる
 
 
 
───こいつ、何でこんなに表情がコロコロ変わるんだろ
 
感情表現に頗る乏しい菱和は、ユイの喜怒哀楽の激しさに関心した
 
「‥それがどうかした?」
 
「うん‥‥実は俺もバンドやってんだけど、ベースが抜けちゃったんだよね‥‥で、菱和がベースやってるって友達から聞いてさ、もし良かったらうちのバンドでベース弾いて貰いたいなー‥‥と思って」
 
 
 
菱和は目が点になった
ユイの言葉の内容をすぐに飲み込めず、面食らってしまう
ベースがどうのバンドがどうのと、てっきりまだ音楽の話でもしたいのかと思っていたのだが、すっかり意表をつかれ、返答に詰まる
 
「───‥‥‥‥、俺が?」
 
「うん」
 
「‥‥お前のバンドで、ベース?」
 
「うん!‥でも、バンドやってるなら無理だよね‥‥‥‥ごめんね、こんなとこまで連れてきて変な話しちゃって」
 
僅かな時間とはいえ、好きな音楽を共有できたことがとても嬉しかった
菱和と会話を交わしたことで、「一緒にバンドやりたい」「やれたら良いな」と思い始めていた
しかし、それは望み薄だと悟り、ユイは小さく笑い、菱和に詫びる
 
 
 
自分がバンドに誘われるなんて、思ってもみないことだった
菱和にはまだその実感が沸かなかったが、いつもより早く心臓が動き、掌がじんわりと熱くなったのを感じた
 
「‥話聞いてくれてアリガト!教室、戻ろっか!」
 
ユイは教室へと菱和を促し、歩き出そうとした
 
刹那、大きな手が踵を返すユイの肩を捕らえ、その動きを制止する
ユイは振り返り、掴まれた肩と菱和を真ん丸の目で見た
 
何故そんなことをしたのか、自分でもわからなかった
“掴まえておかなければならない”と、反射的に身体が動いていた
無意識にとってしまったその行動に違和感を感じつつも、気分は高揚している
 
手にぐ、と力が入り、ユイは一瞬顔を歪ませる
菱和は咄嗟に手を離した
 
「───‥、悪い」
 
「だ、いじょぶ‥‥。えっ‥‥と‥‥‥」
 
───あれ‥‥ひょっとして俺、ぶたれちゃうかな
 
軽く肩を摩るユイは、昨日拓真が話していた“殴られる可能性”をほんの少し懸念したが、見上げた菱和の顔に戦闘的な感情は無かった
 
菱和自身にとっても予想外だった行動は、ユイにとっては益々予想外
互いにどうしていいのか分からず、二人は固まってしまった
 
暫しの沈黙を終わらせたのは、菱和の低い声だった
 
「───‥‥‥‥少し、時間くれるか」
 
「──────え?」
 
「バンドでベース云々、って話」
 
「それって、どういう‥」
 
「今やってるバンド、抜ける予定でいて。でもすぐには抜けれねぇから‥‥少し時間くれるか」
 
 
 
退屈な居場所や環境から逃れたいという思いは常に抱いていた
周囲の扱いは、自分にとってはただうざったいだけ
更生して学校へ通ってみてもそれは変わらなかった
新しい学年になっても、きっと同じだと諦めていた
しかし、今、自分に臆することなく接する、自分を必要としている人間が目の前に存在している
何もかもが新鮮で、菱和にはそんな人間に対する興味がふつふつと沸き始めていた
 
 
 
「───っマジで!?」
 
感動のあまり前のめりになるユイに、菱和は圧倒された
 
「あ、ああ」
 
「マジかよやったー!!超嬉しい!!有り難う菱和!わかった、返事待ってる!」
 
「‥‥、ん‥」
 
ユイは目を輝かせ、全身で喜びを表した
“哀”から“喜”への猛烈な振り幅に完全に圧倒され、菱和は気の抜けた返事しか出来なかった
 
「じゃあ、戻ろう!」
 
屈託無く菱和に笑い掛けるユイ
そんな顔もまた、菱和にとっては新鮮だった
 
 
 
───随分忙しい奴だな
 
無表情で無口な菱和から見て、ユイの第一印象は“天然で空気の読めない、喜怒哀楽の激しい忙しい奴”で定着したのだった
 
 
 
───やっぱここらが潮時、かな
 
これから片付けなければならない問題への対峙を憂いて溜息を吐くと、菱和は教室へと向かうユイの後を歩き出した

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3 1st contact ①

「え、味がすんの?おもしれぇなそれ。俺のギターって何味?」
 
「んーとね‥‥なんか苦いのが入ってるチョコレートみたいな味、かな」
 
「ウイスキーボンボン的な?」
 
「ボンボン?」
 
「お酒入ってるチョコのことっしょ?あっちゃんっぽいね」
 
「うん‥なんか甘くて苦い。‥‥ドラムもするよ、味」
 
「え、マジで?どんな味?」
 
「ラムネっぽいかな、拓真のドラムは。シュワシュワしてる」
 
「へえぇ、おもしれー!」
 
 
 
***
 
 
 
週明け、月曜日
ユイと拓真は学校へと自転車を走らせている
わくわくしながら自転車を漕ぐユイと、憂鬱な面持ちで漕ぐ足も覚束無い拓真
今日は、クラスメイトの菱和を自分達のバンドに誘う日だ
 
「あー‥ユーツだなぁ‥‥」
 
「まだそんなこと云ってるー!いい加減諦めなよ、拓真は何もしなくて良いんだからさ!」
 
「いや、てか寧ろそっちの方が心配なんだよ。お前何変なこと云うかわかんないし」
 
「何って、『バンドやろうぜ!』に決まってるじゃんっ!」
 
「‥‥絶対そういうノリじゃないっしょ、菱和は」
 
 
明らかに自分達の“色”とは違う───拓真とて、菱和と会話を交わしたことはないが、そんな印象を拭えずにいた
 
 
 
***
 
 
 
教室を覗き込むと、菱和は既に登校していた
 
窓際の一番後ろの席で足を組んで座り、イヤホンをつけて音楽を聴きながら外を眺めている
顔には幾つかの絆創膏が貼られていた
口の辺りも赤く腫れており、殴られた痕なのだということは一目瞭然だった
“顔中バンソコだらけ”ということに関しては、リサがカナから聞いた情報の通りだった
 
「‥超機嫌悪そー」
 
「何聴いてんだろ!気になるなー」
 
菱和に興味津々のユイに対し、拓真は不安でいっぱいだった
 
「‥‥なぁ、今日は取り敢えず止めよ。あれ絶対喧嘩の痕だよ、バンドに誘うどころかマジでぶん殴られるかも知んないぞ?」
 
「えー、だって“善は急げ”だろ?俺、ちょっち行ってくる!これ持ってて」
 
ユイは鞄を拓真に押し付け、教室に入っていった
 
「ちょっ、おいユイ!この場合は“善”じゃないって‥‥!」
 
「‥もし俺が死んだら、あとヨロシクな」
 
笑顔で親指を立ててサインを出すと、不安そうにしている拓真を残し、ユイは菱和に近づいた
 
 
 
「───よう、菱和!お早う!」
 
教室中の人間が一斉に注目した
明朗快活なユイの声と、“菱和”という名前を耳にし、教室は一瞬静まり返った
 
そんな教室の空気を読む筈もなく、にこにこするユイ
 
 
 
───小学生かよ
 
教室の入口で見守っていた拓真は思わずツッコミかけ、「ダメだこりゃ」と頭を抱えた
教室は徐々に騒めき出す
 
「おい、石川のやつ菱和に話しかけてるよ」
 
「流石は石川。命知らずだなー」
 
「石川くん、殺されるんじゃない?」
 
「やだ、幾ら菱和君でもそこまでは‥」
 
「殴られるんじゃ‥」
 
「先生呼んでこようか?」
 
クラスメイトたちは口々にひそひそ話し出した
 
誰もが
ユイは菱和に殴られるか、机ごと蹴り飛ばされる
どちらにしても命の保障はない
そう思った
 
が、その予想は見事に外れた
 
菱和はユイを一瞥するとすぐに顔を逸らし、無表情でぶっきら棒に挨拶を返した
 
「‥ん」
 
 
 
クラスメイトにとっては、ユイが菱和に話しかけたことも、菱和がユイの挨拶に返事をしたことも、予想外過ぎる出来事
自分に話しかけてきた意図が全くわからなかったが、にこにこしたまま傍らにいるユイがただ挨拶をしたかっただけではないのではと思い、菱和は怠そうに片方だけイヤホンを外した
 
「‥‥なんか用か」
 
初めて聞く菱和の声は低く、少し嗄れていた
ユイは嬉々として菱和に話しかけた
 
「あ。あのさ、何聴いてんの?」
 
菱和はユイと目を合わせないまま質問に答えた
 
「‥‥、ツェッペリン」
 
「へー、意外!そういうの聴くんだ!てっきりデスメタルとかV系好きなんだと思ってたよ!」
 
 
 
Led Zeppelin───
 
そのバンドの名前を菱和から聴けるとは予想もしていなく、ユイは心底嬉しそうな顔をした
 
「‥メタルも少し聴く。V系は好きじゃねぇ」
 
言葉を投げ掛ければ、返事が返ってくる
クラスメイトの印象とは程遠い、菱和の態度
ユイは菱和に対して一層興味が湧き、次の質問をする
 
「ね、他にはどんなの聴くの?洋楽が好きなの?」
 
「‥MR.BIGとか、GUNS'N ROZESとか」
 
「マジ!?俺もMR.BIG超好き!ガンズも!スラッシュ、カッコいいよね!」
 
「‥‥ふぅん」
 
菱和が挙げたバンドはユイもよく知っており、度々練習やコピーを繰り返していた
ユイが嬉しそうに話す反面、菱和はユイと目を合わせることなく必要最低限の会話を淡々と続ける
それよりもまず、会話が成立し続けている奇跡に、拓真も含めクラスメイトたちは唖然とした
 
自分と音楽の趣味が似ていることを嬉しく思い、もっと音楽の話をしたかったのだが、会話が途切れた瞬間にユイは本来の目的を思い出した
 
「あ。あのさ、折り入って話したいことがあるんだけど」
 
「‥何」
 
「んーと‥、ここじゃ何だから、ちょっと来てくれる?なんか落ち着かないから」
 
ユイは菱和を教室の外へ促す
二人が会話する姿に注目していた教室が、再び静まり返った
 
目線を合わせようとしなかった菱和は、ここで漸くユイを見た
見上げたユイの顔は、やはりにこにこ顔
 
───何なんだ、一体?俺に、話?
 
何をどう考えても全く予想がつかない
 
 
 
一対一は本気でヤバい
マジでボコられるかも
 
クラスメイトの誰もがそう思ったが、菱和はユイに対し暴力を振るう気など皆無だった
ただ、今の自分の顔は誤解を招きやすく、剰え元々周囲が抱いているイメージ───“すぐキレる、喧嘩っ早い不良”というレッテルは、校内中の周知の事実
その烙印を押されるのには慣れているが、それでも今の教室にかなりの居心地の悪さを感じる
 
「‥良いけど」
 
特に断る理由もなく“折行った話”を聞いてみることにした菱和は低く返事をし、イヤホンを外して、怠そうに席を立った
 
またもや周囲の期待を裏切り、菱和はユイの頼みを快諾した
しかし、人のいないところで二人きりは、確実に危ない───クラスメイトたちはユイが殴られるだけでは済まされないような予感がしたが、危害を加える気など微塵もない菱和を恐れ、誰も二人を止めようとはしなかった
 
「じゃ、行こっ」
 
比較的チビのユイ、その後ろを長身な菱和がついていく
アンバランスな二人が、教室から出ていった
 
もう二度とユイは教室に帰って来ないかも
享年17歳、ご臨終──
 
拓真は今日がユイの命日になるような気がした
二人を見送ると、溜息を吐いて十字を切り、ユイの鞄を机に置きに行った
すぐにクラスメイトから「一体何がどうなってるんだ」と質問攻めに合い、説明するのに辟易することになる

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2 meeting

新学期が始まってから最初の週末
時には自分の部屋で、時には兄の尊の部屋で、お気に入りの音楽を聴いたり楽器を弾いたり下らないお喋りをしたり
いつもと変わらない、日曜の午後
 
その、いつもと変わらない筈の週末が一瞬で変貌を遂げる
尊の部屋から、ユイの叫び声が響いた
 
 
 
 
 
「えええええ、バンド辞めるうぅ!!?」
 
突然の事態に困惑し、素頓狂な声をあげるユイ
 
 
 
ユイは尊とバンドを組んでいる
 
幼い頃に尊がギターを弾いているのに興味を持ち、尊からギターを教わった
後に尊はベースに転向し、尊の友人であるアタルと幼馴染みの拓真を加え、4人でバンドを組むことになった
 
バンド結成から約6年
尊は大学の卒業を控えており、就職の為上京することが既に決定していた
罪悪感を抱きつつも、その旨を弟に話した
 
「だって仕様がないじゃん。俺のやりたい仕事、地元じゃ出来ねんだもん」
 
「そんなぁ‥‥」
 
ユイはかなりショックを受けていた
大好きな兄、大好きなバンド
大切なものが一遍に無くなってしまう───大きな喪失感が、頭の中を埋め尽くす
 
幼い頃に見よう見まねで始めたギター
最初は指が痛いし弦を押さえる力もなく、コードもろくに覚えられなかった
弾けるようになってくるとそれからはとても楽しく、指が痛くなろうが切れようが血豆が潰れようが、只管夢中になって練習し続けた
大好きな兄や仲間と共に演奏する喜びや楽しさを知り、詞や曲を書いて自分たちの歌を作った
ライヴでの達成感も覚えた
 
そんな充実した日々を幾つも重ね、ユイにとってバンドは最早生活の一部となっており、バンドとギターは掛け替えのない心の拠り所となっていた
そしてそれは、兄である尊がいちばん理解しているつもりだった
尊にとってもバンドは大事なものなのだが、今回ばかりはどう頑張ってもバンドを辞めざるを得ない事情がある
 
 
 
尊は頭を掻きながら弟を宥めた
 
「俺が抜けてもバンドがなくなるわけじゃないし、俺以外にもベース弾ける奴は腐るほどいるぞ?」
 
「違う!兄ちゃんのベースじゃなきゃやだよ!!」
 
「俺だって出来れば辞めたくないよ。でもな‥‥分かってくれ」
 
「‥‥うぅー‥‥‥」
 
 
 
こうなることは概ね予想していたが、清々しいまでの弟の意気消沈振りに尊は困り果てる
 
「‥‥‥‥、お前の周りにベース弾ける奴居ないの?」
 
「う、うーん‥いないわけじゃないけど、みんな自分のバンドやってるから‥‥」
 
「取り敢えずベース弾ける奴捜せよ、そしたら俺が居なくてもバンド続けられるだろ?」
 
「んー‥‥」
 
「‥よし、ミーティングするか!拓真に連絡しな、俺はアタル呼ぶから」
 
「‥分かった」
 
ユイはまだ尊のバンド脱退に納得してはいないが、急遽決定したミーティングをバンドメンバーの拓真に伝える為、携帯を取りに自室へ向かった
 
 
 
***
 
 
 
拓真とアタルは従兄弟同士で、家も近所にある
尊とアタルは同い年で幼馴染みであり、同じ大学に通っている
また、ユイたちと拓真、アタルの家はいずれも徒歩圏内にある
拓真とアタルは普段から仲が良く、今日もアタルの家で一緒にいたようで、連絡をしてから15分ほどで二人揃って石川家に来た
取り敢えず、と尊が用意した麦茶とスナック菓子をつまみながら、尊の部屋でバンドのミーティングが始められた
 
「マジかー、たけにいが居なくなるときついなぁ‥」
 
椅子に座る拓真は心底残念がり、頭を掻いた
アタルはベッドに寄り掛かり、煙草を吹かす
 
「俺も最初、上京するとか聞いてねぇよ状態だったからびっくりしたよ」
 
「てか、あっちゃんは知ってたの?」
 
「おう、結構早い段階から聞いてた」
 
アタルは既に尊からバンドを抜ける旨を聞いており、自分が居なくなったあとのことを頼まれていた
アタルには尊が抜けたからといってバンドを辞めるつもりはなく、新しいベーシストを探す方向で考えていた
 
「───何でそのとき止めなかったんだよ!!!」
 
突然、ユイが喚く
 
「アホか!!んなこと出来るわけねぇだろ!!!」
 
アタルはユイをキッと睨み、ユイの喚き声にも劣らぬ声を出した
煙草を灰皿に置くと、ユイに向き直った
 
「しゃあねぇべ!尊がずっとやりたかったこと、お前も知ってんだろ?尊の進路にあーだこーだ口出しする権限、俺らにはねぇ。応援することしか出来ねぇんだよ。ユイ、あんま兄ちゃん困らせんな。いい加減腹括れ」
 
返す言葉が見つからず、ユイは押し黙る
 
出来ることなら今のメンバーでバンドを続けていきたいが、兄に大切な夢があることは随分と前からわかっていた
今、自分が我が儘を云って皆を困らせているのもわかっている
アンビバレントな感情をどう消化していいのかわからず、ユイは今にも泣き出しそうな顔になる
 
そんなユイの頭を、アタルはぐしゃぐしゃと撫でた
 
「シケた面すんな!俺らがいるだろ?お前、俺らとバンドやりたくないのか?」
 
ユイは瞳を潤せ、首を横に振った
アタルは笑顔になり、ユイの頭をぽんぽんと軽く叩いた
 
「‥じゃあな、俺らで尊並みのすげぇベーシスト探すべ?たーも、それで良いな?」
 
「うん、勿論。これからも、皆で楽しく演ろ」
 
拓真はにこりと笑い、頷く
 
優しく笑い掛けてくれる拓真とアタルを見て、ユイは目を擦り、小さく頷いた
 
一先ずユイの気持ちが落ち着き、尊も拓真もアタルも安堵した
まだユイは納得していないかも知れないが、「ここから先は自分たちに任せてくれ」と、アタルは云った
尊は申し訳なさを感じつつ、自分達兄弟は実に良い親友を持ったと思い、小さく笑った
 
 
 
***
 
 
 
「───てか、あっちゃん留年したんでしょ?悦子伯母ちゃんから聞いたよ」
 
アタルはギクリとした
今現在、一番触れられたくない痛いところを突かれ、ギラリと拓真を睨みつける
苛ついて煙草をぐりぐりと灰皿に押し付けた
 
「うっせぇよバカ!!今は俺の話は良いんだよ!」
 
「マジかよ、だっさー!」
 
先程までの泣きっ面が嘘のように、ユイはからからと嘲笑った
 
「講義も碌に聞かないでバイトばっかしてっからだろ、アホ」
 
「ほんとだよね、寝る為に学校行ってんでしょ?それならいっそ学校行かないで家で寝てれば良いんじゃないの?」
 
拓真と尊も、アタルの留年に対しきつい言葉をぶつける
口々に浴びせられる罵声に若干居た堪れなくなり、アタルは大きな声を出した
 
「俺の話はもう良いっつってんだろ!?てめぇら俺の気も知らねぇで‥傷付くからもう止めろ!!っつぅかマジで居ねぇのか?お前らの周りでベース弾けそうな奴!」
 
アタルが無理矢理話を元に戻したところで、ユイたちは嘲笑うのを止めた
 
「いやー‥‥弾ける奴は何人かいるけど、もうバンドやってるしなぁ‥」
 
「そういや、メン募はどうだった?」
 
「収穫無し。第一どんな奴かもわかんねぇし、かといってわざわざオーディションすんのも面倒臭せぇし」
 
「おーでしょん、楽しそうだけどなぁ」
 
そう云ってユイは口を尖らせる
 
ベースとドラム人口はギターよりも低く、ベースが弾ける・ドラムが叩けるというだけで引く手数多なケースが多い
学校や周りの友人を捜した方が良いのか、ネットや楽器屋の掲示板で募る方が良いのか、様々な案が飛び交う
全員であれこれ考えていた矢先、拓真の脳裏に一人の人物の顔が浮かんだ
 
 
 
「───あ」
 
「何?」
 
「いや、ベース弾けそうな奴、ってんならひとり居たなぁと思って‥‥」
 
「え?誰?」
 
「───菱和。同じクラスの」
 
「え‥菱和?‥‥って‥」
 
クラス発表の日、ユイがぶつかったあの長身で無愛想な生徒のことだった
 
「あの人、弾けるの?」
 
「うん。先週さ、上田がベース背負ってる菱和をどっかで見かけたって話してたんだ」
 
「菱和が、ベース‥‥かぁ‥」
 
ユイは思い浮かべてみた
 
ギターよりもネックの長いフォルム
バンドの中でも目立たず寡黙な音───
 
長身且つ無愛想で無口な菱和のイメージに、ぴったりと当てはまった
 
 
 
「‥ヒシワ?菱和‥って、まさか“あの”菱和!?」
 
菱和という名前に、尊は強く反応を示す
 
「“どの”菱和??」
 
ユイ、拓真、アタルの3人は思わずハモった
尊は思わず吹き出しそうになったが、軽く咳払いをした
 
「‥高台の住宅街のひとつに“菱和”って名前の家があるんだ。どっかの企業の社長さんちで、相当な金持ちだって噂」
 
ユイたちの住む街には、医者や弁護士、会社社長や重役など有名な資産家や大富豪の家が立ち並ぶ区域───所謂『高級住宅街』と呼ばれる地区がある
そして、そのうちの一軒が“菱和”という名前だった
 
「あぁ、俺も聞いたことある!あの超でけぇ豪邸な!」
 
「でも俺らのクラスの菱和がそこんちの菱和かどうかわかんないじゃん、別な菱和さんかもしんないよ?」
 
「そういや、菱和んちって金持ちだってカナちゃんが云ってたな」
 
「‥カナってほんと色々知ってんね」
 
ただでさえ情報の少ない菱和について誰よりも情報通なリサの友人・カナに、ユイはすっかり感心した
 
「じゃあ、やっぱりそうなんじゃねぇか?どんな奴なんだよ、お坊ちゃま系なん?」
 
「全然そんな感じじゃないけど‥‥寧ろ、逆?みたいな」
 
「ふーん。中身は?」
 
「そんなのわかんないよ、同じクラスになってまだ一週間だよ?」
 
「あっそ。じゃあルックスは?」
 
「え?んーと、背高のっぽで、髪が長くて‥‥」
 
「てか、新学期の初めにクラス写真撮ったよな。あれ見せた方が早いんじゃない?」
 
「あ、そーだね。今持ってくる」
 
 
 
───菱和、か‥‥
 
まだ一言も言葉を交わしていない同級生に変な期待を抱き、ユイは写真を探しに自室に行った
 
 
 
***
 
 
 
「これだよ、菱和」
 
クラス写真を見せながら、ユイは菱和を指さした
ひな壇の一番後ろの左端に、他の生徒に比べて一際長身の菱和が写っている
目線はカメラを向いておらず、元より長い前髪が目にかかっていて、目元はよく見えない
 
「ふーん‥‥あんま目見えないけどイケメンくんじゃん。メッシュ入れててお洒落だな」
 
「この服装と髪って校則に引っ掛かんねぇのかよ。っつうか背ぇ高けぇなこいつ、何センチあんだよ」
 
「結構でかいよ、ね」
 
「ん、あっちゃんくらいあるんじゃない?」
 
「‥‥つかお前、チビ過ぎじゃね?このドチビ」
 
写真とユイを何度か見比べて、アタルはニヤニヤしながらユイを小突いた
 
「‥余計なお世話だし!あっちゃんが“おがり”過ぎなんだよ!」
 
アタルの一言で、拓真と尊もユイと写真を見比べる
途端、拓真は堪らず吹き出した
 
「ぷっ‥‥改めて見ると、ユイ小さいなぁ。同じ人間とは思えない」
 
「ほんと、ユイと比べたら余計でかく見えるなー菱和くん」
 
「‥‥みんな、酷い‥‥俺だって好きでチビなんじゃないよ‥‥‥」
 
 
 
───菱和くん、か‥どっかで見たことあるような、無いような‥‥
 
妙に菱和の顔に見覚えがあった尊は、もう一度写真を見遣る
アタルは煙草の煙を吐き、煙草を灰皿に押し付けると、腕を組んでふんぞり返った
 
「───よしっ。お前ら、早速コイツ誘ってこい」
 
拓真はバツが悪そうな顔をした
 
「えー‥‥」
 
「何だよ、身近にベーシストいたじゃねぇか。何か問題あんのか?」
 
「‥‥‥なんか、不良だって噂なんだよね‥それにさ、俺も上田から聞いただけで、まだ菱和がベース弾けるってちゃんと確証得たわけじゃ無いし‥‥」
 
「ふりょお?んなもん知るか、ベース弾けんなら悪かろうがなんだろうが関係ねぇわ。それにロッカーたる者、ちょっと尖ってた方が良いだろ」
 
「‥うーん、どうなんだろそれ」
 
アタルの自論にあまり賛同出来ず、拓真は苦い顔をしたままでいる
 
ユイは写真の菱和を見つめ、少し考えた後ポツリと呟いた
 
「‥俺が話してみるよ」
 
「え」
 
「俺、一回菱和と話してみたかったんだよね」
 
そして、にこりと笑った
 
「‥ユイ、マジで云ってる?」
 
「え、うん。至ってマジだけど」
 
「てか、あんとき怖くなかったの?」
 
「あんとき?‥‥ああ、ぶつかったときのこと?別にー。背ぇ高いからびっくりはしたけど、怖くはなかったよ!」
 
「マジかよ‥‥俺殴られたくねぇよぉ‥」
 
頭を抱える拓真
アタルはニヤニヤ笑いながら煙草を噛んだ
 
「お、遂にお前のクソ度胸が役立つ日が来たな」
 
「何だよクソって、こういう性格なんだから仕様がないじゃんっ。それにさ、まだ殴られるって決まったわけじゃないし!拓真は話さなくて良いからさ、ね?明日聞いてみようよ」
 
「うーん‥‥」
 
───我が弟ながら肝の座った奴だな
 
尊はユイと拓真のやり取りを見て、呑気に感心しながら麦茶を一口飲んだ
 
「よし、善は急げだ。ユイ、明日行ってこい!」
 
「うん!わかった!」
 
まるで飼い犬に投げたボールを取って来いと命令するようにアタルに云われ、ユイは元気良く返事をした
 
「たー。お前、明日逃げんなよ」
 
「‥わかったよ、もう」
 
意地悪そうな顔をしたアタルに小突かれた拓真は溜息を吐き、明日が来なければいいのにと憂いた
 
 
 
新しいベーシスト───あくまで第一候補が決まったところで、ミーティングはお開きになった
ユイが菓子をつまみながらこれからの予定を提案した
 
「これからどうする?スタジオ行く?」
 
「‥わり、俺これからバイト」
 
先約があり残念そうにしているのは、アタルだった
 
「俺は暇だけど」
 
「俺も」
 
「‥じゃ3人で行くか、スタジオ」
 
尊と拓真はユイの提案に乗った
 
「はー‥‥俺も行きたかった‥」
 
溜息を吐きながら落胆するアタルに対し、3人はニヤニヤと心底意地悪そうな顔をした

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1 春

共感覚(きょうかんかく)
英:synesthesia, synæsthesia
【シナスタジア】
 
 
ある刺激に対し、通常の感覚と同時に異なる感覚を生じる特殊な知覚現象。例えば「あ」という字に「赤」という色が見える、といったように複数の感覚が同時に発生する現象のことをいう。
これは「黄色い声援」「甘い匂い」といった比喩的なイメージとは異なり、実際の感覚として生じている。 
これらの知覚は無意識に生じ、共感覚を持つ者自身にもその感覚同士の結びつきについて説明できないのが特徴である。
また、共感覚を持つ者同士でもその傾向が同じとは限らない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
石川 唯、17歳
彼は共感覚を持っている
 
数字や文字に色を感じる、音に色を感じるなど様々な共感覚が存在するが、彼の場合は“音”に“味”を感じる
楽器の音やCDショップから流れる音楽を聴くと、じんわりと味覚を感じるらしい
 
 
 
『兄ちゃんのギター、ミルクティーみたいな味がする』
 
幼い頃、兄の尊が弾くギターの音を聴き、突然そんなことを云い出した
尊はそれに興味を持ち、調べてみると、どうやら“共感覚というものらしい”ということがわかった
 
彼はその特殊な感覚に自然と適応し、「この感覚は一般的ではないが、音楽の神様が与えてくれた一種の才能」だと信じ、様々な風味を純粋に楽しんでいた
 
 
 
***
 
 
 
来週から新学期が始まる
ユイが通う高校では、春休み中に、クラス替えがある2、3学年を対象にクラス発表が行われる
時間は朝9時から15時まで
その間であれば好きな時間に登校して良い事になっている
 
無事2学年に進級したユイは着慣れた制服に身を包み、幼馴染みの拓真と共にクラス発表を見に学校へ向かった
 
ユイと拓真の家は徒歩で10分程の距離しか離れておらず、幼稚園から高校までずっと一緒───所謂“腐れ縁”というやつだ
 
学校は車で20分ほどかかる距離にある
普段は自転車で通学している二人は、今回はバスで学校に行く予定を立てていた
他愛もない会話をしながら、二人は最寄りのバス停までだらだら歩き、バスを待つ
 
 
 
***
 
 
 
「あ」
 
乗り込んだバスにもう一人の腐れ縁がいることに気付いた
人も疎らなバスの中、二人は一番後ろの席で外の景色を眺めている少女に声を掛けた
 
「リサ!」
 
「おーす」
 
名前を呼ばれた少女は二人に気づき、顔を上げた
 
「‥なんだ、あんたたちもバス?」
 
「うん。今日はクラス発表見に行くだけだし、面倒臭いから」
 
「‥‥そ」
 
「てか同じ時間帯だったんだ、昨日のうちに連絡しときゃ良かったな」
 
「‥‥別に。あんたらチャリかと思ってたから」
 
リサは素っ気ない返事をする
 
リサも、ユイ・拓真とは幼稚園から一緒の腐れ縁
父がクォーター故に、中性的な顔立ちのクールな“美少女”と同学年の間では評判で、ユイと拓真は同級生から羨ましがられることが度々あった
 
ユイと拓真はリサの横に並んで座り、3人で他愛のない話をしながら学校までの道程をバスに揺られて過ごした
 
 
 
まだ少し、ひんやりと、冬の冷たさが残る三月下旬
もうじき桜が満開になる
 
正午前
学校に着いた3人は教室に行き、担任やクラスメイトの名前が書かれたプリントを貰った
校内には、疎らだが他の生徒たちも残っていて、各々が雑談に耽っていた
プリントを見ると、3人は同じクラスに名前が載っていた
 
「今年は一緒のクラスか」
 
「やりー!へへっ!」
 
「全員同じクラスなんて、中2以来じゃない?」
 
「そうだっけ」
 
3人はプリントを見ながら雑談をしつつ教室を出て、校門に向かった
 
 
 
「あれ、そういや今日カナちゃんは?」
 
「‥まだアメリカでバカンス中。今日の夜日本に着くんだって」
 
「マジ?良いなぁ、楽しそうで」
 
「良くないよ、私が後で連絡しなきゃなんないんだから」
 
「カナちゃんもクラス一緒だよな」
 
「あ、なら連絡する必要ないか」
 
「‥いやいや、そこはしなきゃ駄目なんじゃないの?」
 
「良いなぁー、俺も海外行きてー!」
 
ユイは二人より前に躍り出て、くるくる回り出した
 
回った拍子に、誰かに肘がぶつかった
振り返り、咄嗟に謝る
 
「あ、すいませ───」
 
 
 
そこには、有に180センチはあると思われる長身の男子生徒が立っていた
 
制服をだらしなく着崩し、ポケットに手を突っ込んで怠そうにつっ立っている
服装もさることながら、左耳には環状のピアスがくすんで光っており、シルバーのメッシュ混じりの黒い髪が肩よりも長く伸びている
真っ先に生徒指導に引っかかりそうな相貌だった
長い前髪から切れ長の垂れ目が垣間見え、彼は無表情にユイを見下ろしていた
 
自分より20センチ近く背の高い相手の眼光に、呆気に取られるユイ
先程までの幼馴染みの賑やかな声が止み、拓真はふと顔を上げた
目の前の状況からユイが誰かとぶつかったのだと察したが、ユイの前にいる長身の生徒を『ガラの悪い3年生で、関わったら“ヤバい系”の人』だと感じ、苦い顔をした
 
 
 
長身の生徒は表情一つ変えず、ぶつかられたことなどまるで無かったかのように、何も云わず去っていった
 
彼が歩いたあとに、香水の香りがふんわりと漂った
 
 
 
「‥‥怖っ」
 
因縁をつけられるかもしれないと思っていた拓真は特に何事も起きなかったことに安堵し、思わず感想を述べた
 
「───びっくりしたー‥すげぇ背ぇ高いなー‥‥、誰だろ?」
 
「さぁ‥‥見たことないな、やっぱ3年か?」
 
ユイと拓真が顔を見合わせていると、ふとリサが話し出す
 
「───確か“菱和”とかって奴だよ」
 
「ヒシワ?変わった名前だな」
 
「‥カナが1年の時同じクラスだったみたいだからよく話してたよ、背の高い無愛想な奴がいるって。多分アイツのことなんじゃないの」
 
「ふーん‥てことは、同じ学年か」
 
それを聞いて、ユイはクラス名簿を見ながら“ヒシワ”という名前を探した
 
「‥あ、あった!ねぇ、これじゃない?ヒシワ、‥‥‥‥何て読むの?」
 
ユイが指さしたところには、『菱和 梓』と書かれていた
リサが下の名前を読む
 
「‥“ア ズ サ”」
 
「梓?女みたいな名前だな」
 
「ほんとだね」
 
「てか、同じクラスじゃん!」
 
「‥マジ?」
 
ユイが指さしたページには、ユイ、拓真とリサの名前も載っている
拓真とリサは、眉間に皺を寄せた
拓真は「さっきぶつかったときのことで顔を覚えられたかも」と、リサは「カナから聞いていた奴とは出来れば同じクラスになりたくなかったのに」と思った
 
「菱和、梓‥‥」
 
ユイは彼のものと思しき名を呟き、彼が消えていった校門を見つめた
 
 
 
「‥‥ほんとかどうかわかんないけど、不良っぽいよ」
 
リサが歩きながらぽつりと話すと、隣を歩く拓真が苦い顔になる
 
「え、何それ」
 
「全然学校来ないし、出席日数もギリギリだったって。来たら来たで顔中バンソコだらけで、如何にも『昨日喧嘩しました』って顔してたんだって」
 
「まぁ、あの見た目でバンソコつけてりゃそんな感じするよな」
 
「同じ中学の人ひとりも居ないっぽいから、それくらいの情報しかないんだけど」
 
「ふーん‥‥てかリサ、詳しいな」
 
「‥全部カナから聞いたの」
 
ユイは黙って二人の会話を聞きながら、菱和の顔や後ろ姿、漂ってきた香水の香りを反芻した
 
───確かに見た目はちょっと怖そうだけど、背が高いからそう見えるだけなんじゃないか?折角同じクラスになったんだし、仲良くなれると良いけど‥‥
 
3人とも、菱和という生徒がどんな人間かをまだ知らない
拓真とリサは、菱和についての第一印象を語り出した
 
「明らか近寄り難い感じだよな」
 
「もろ『近寄るなオーラ』出まくり」
 
「そんなのわかんないじゃん、話してみたら意外とイイ奴かもしんないよ?」
 
2人の後ろからユイが菱和を擁護するも、リサが冷たく突き放す
 
「じゃあ話しかけて殴られてくれば?」
 
「殴られるのは、やだなぁ‥痛そう」
 
「‥『痛い』くらいで済めばいいけどね」
 
拓真はまた苦い顔をした
 
 
 
「あー、来週からガッコかー。超かったりー」
 
「なぁ、腹減った!マック行かねぇ?」
 
「おう、行くか!リサは?」
 
「‥私も行く」
 
 
 
時刻は12時半を回っていた
3人は足早に、空腹を満たす為にファーストフード店を目指し、学校を出た
 
 
 
 
 
菱和 梓───
 
そのクラスメイトと今後深く関わることになろうとは───
空腹の3人には、知る由もなかった

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Welcome to‥‥

長いこと某BLサイトを使わせて頂いてましたが、度重なる不具合に加え、段々と肩身が狭くなってくる思いに居た堪れなくなってきたので、今後はここで連載を続けていこうと思い立ちまして
今まで通りのんびりマイペースの更新で参りますが、お付き合い頂けると嬉しく思います



初めましての方にご案内

作者は重度のプラトニックBL中毒です
ここに置いてある作品の殆どはプラトニックだったりブロマンスだったり、あったとしても雰囲気エロだったり、直接的描写はわざと避けているので、とにかくエロ描写がほぼありません
「エロが無いBLは無理」という方は、早々にブラウザを閉じることをお奨め致します
「寧ろバッチコイ」という方は、小説と漫画を置いてありますので、お暇潰しにでもお読み頂ければ幸いです

少しでも琴線に触れたり、「これだけは伝えておきたい」と思うことなど、なにかございましたらコメント・拍手・ツイッター(@kaz_122)などから気軽にご連絡くださいませ


なお、漫画はルーズリーフに描いたものを写メってちょっと加工してから載せる、という流れで最初から最後までアナログ作業です(PCでやらない作業は幾ら電子デバイスを用いててもアナログだと思ってます)
端末によっては物凄く見づらい仕様なので、スマホ向け・PC向けをご用意しております
各々の環境に適した方でお楽しみくださいませm(__)m


●お品書き
*より詳細なあらすじや登場人物一覧はカテゴリ「EXTRA」からご覧ください
*↑ネタバレ含みますのでご注意ください

  
・小説:基本的に三人称書き。人物視点の話もあり

[Haze.]
天然KYなアホの子とそれを見守る無愛想な元不良の超長編。バンド、楽器、音楽、料理、アルコール、煙草、ファッション、幼馴染み、男同士&男女の友情、プラトニック‥‥好きなものを無節操に詰め込んでます

[C×D]
一蓮托生バディ×3組のお話
Ⅰ:特殊な性癖持ち×そいつを生涯奴隷に出来る権利を得た男
Ⅱ:互いに秘密を握り、互いに墓場まで持っていくと誓った二人組
Ⅲ:元ジャンキー×トラウマの塊
*流血・バイオレンスな描写が入る&諸々厨二臭いので、苦手な方は閲覧控えてください

[signal]
朱央(アカ)と、蒼衣(アオ)。悪友達から“信号機”と呼ばれた2人のお話。二人が出会って、離れて、また出会って…最終的にどうなるかはわかりませんが、幸せな結末を望んでます
*以下が苦手な方はご注意ください:暴力的描写、じれったく歯痒く、おまけにプラトニック、受け×受け


・漫画

[アイ、ベツ、リ、ク。]
ドS葬儀屋×健気納棺師
*登場人物の職業柄、暗い・重い話あり
*かなりソフトなR18(*印つけてます)

[S・M・E・K]
場末のスナック「Caricia」で巻き起こる、様々な愛撫の形
*苦手な方は閲覧注意*
【受け×受け】
【R18】
【自傷・DV、LGBT】


多分、こちらに来て頂いた方の殆どは、某サイトから読んでくださっていたりツイッターで交流してくださっている方でしょう
私がどういう人間かということも多少はご理解頂いていることと思いますので(無責任)、引き続きご愛顧のほど賜りたく存じます♡

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