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3 1st contact ①
「え、味がすんの?おもしれぇなそれ。俺のギターって何味?」
「んーとね‥‥なんか苦いのが入ってるチョコレートみたいな味、かな」
「ウイスキーボンボン的な?」
「ボンボン?」
「お酒入ってるチョコのことっしょ?あっちゃんっぽいね」
「うん‥なんか甘くて苦い。‥‥ドラムもするよ、味」
「え、マジで?どんな味?」
「ラムネっぽいかな、拓真のドラムは。シュワシュワしてる」
「へえぇ、おもしれー!」
***
週明け、月曜日
ユイと拓真は学校へと自転車を走らせている
わくわくしながら自転車を漕ぐユイと、憂鬱な面持ちで漕ぐ足も覚束無い拓真
今日は、クラスメイトの菱和を自分達のバンドに誘う日だ
「あー‥ユーツだなぁ‥‥」
「まだそんなこと云ってるー!いい加減諦めなよ、拓真は何もしなくて良いんだからさ!」
「いや、てか寧ろそっちの方が心配なんだよ。お前何変なこと云うかわかんないし」
「何って、『バンドやろうぜ!』に決まってるじゃんっ!」
「‥‥絶対そういうノリじゃないっしょ、菱和は」
明らかに自分達の“色”とは違う───拓真とて、菱和と会話を交わしたことはないが、そんな印象を拭えずにいた
***
教室を覗き込むと、菱和は既に登校していた
窓際の一番後ろの席で足を組んで座り、イヤホンをつけて音楽を聴きながら外を眺めている
顔には幾つかの絆創膏が貼られていた
口の辺りも赤く腫れており、殴られた痕なのだということは一目瞭然だった
“顔中バンソコだらけ”ということに関しては、リサがカナから聞いた情報の通りだった
「‥超機嫌悪そー」
「何聴いてんだろ!気になるなー」
菱和に興味津々のユイに対し、拓真は不安でいっぱいだった
「‥‥なぁ、今日は取り敢えず止めよ。あれ絶対喧嘩の痕だよ、バンドに誘うどころかマジでぶん殴られるかも知んないぞ?」
「えー、だって“善は急げ”だろ?俺、ちょっち行ってくる!これ持ってて」
ユイは鞄を拓真に押し付け、教室に入っていった
「ちょっ、おいユイ!この場合は“善”じゃないって‥‥!」
「‥もし俺が死んだら、あとヨロシクな」
笑顔で親指を立ててサインを出すと、不安そうにしている拓真を残し、ユイは菱和に近づいた
「───よう、菱和!お早う!」
教室中の人間が一斉に注目した
明朗快活なユイの声と、“菱和”という名前を耳にし、教室は一瞬静まり返った
そんな教室の空気を読む筈もなく、にこにこするユイ
───小学生かよ
教室の入口で見守っていた拓真は思わずツッコミかけ、「ダメだこりゃ」と頭を抱えた
教室は徐々に騒めき出す
「おい、石川のやつ菱和に話しかけてるよ」
「流石は石川。命知らずだなー」
「石川くん、殺されるんじゃない?」
「やだ、幾ら菱和君でもそこまでは‥」
「殴られるんじゃ‥」
「先生呼んでこようか?」
クラスメイトたちは口々にひそひそ話し出した
誰もが
ユイは菱和に殴られるか、机ごと蹴り飛ばされる
どちらにしても命の保障はない
そう思った
が、その予想は見事に外れた
菱和はユイを一瞥するとすぐに顔を逸らし、無表情でぶっきら棒に挨拶を返した
「‥ん」
クラスメイトにとっては、ユイが菱和に話しかけたことも、菱和がユイの挨拶に返事をしたことも、予想外過ぎる出来事
自分に話しかけてきた意図が全くわからなかったが、にこにこしたまま傍らにいるユイがただ挨拶をしたかっただけではないのではと思い、菱和は怠そうに片方だけイヤホンを外した
「‥‥なんか用か」
初めて聞く菱和の声は低く、少し嗄れていた
ユイは嬉々として菱和に話しかけた
「あ。あのさ、何聴いてんの?」
菱和はユイと目を合わせないまま質問に答えた
「‥‥、ツェッペリン」
「へー、意外!そういうの聴くんだ!てっきりデスメタルとかV系好きなんだと思ってたよ!」
Led Zeppelin───
そのバンドの名前を菱和から聴けるとは予想もしていなく、ユイは心底嬉しそうな顔をした
「‥メタルも少し聴く。V系は好きじゃねぇ」
言葉を投げ掛ければ、返事が返ってくる
クラスメイトの印象とは程遠い、菱和の態度
ユイは菱和に対して一層興味が湧き、次の質問をする
「ね、他にはどんなの聴くの?洋楽が好きなの?」
「‥MR.BIGとか、GUNS'N ROZESとか」
「マジ!?俺もMR.BIG超好き!ガンズも!スラッシュ、カッコいいよね!」
「‥‥ふぅん」
菱和が挙げたバンドはユイもよく知っており、度々練習やコピーを繰り返していた
ユイが嬉しそうに話す反面、菱和はユイと目を合わせることなく必要最低限の会話を淡々と続ける
それよりもまず、会話が成立し続けている奇跡に、拓真も含めクラスメイトたちは唖然とした
自分と音楽の趣味が似ていることを嬉しく思い、もっと音楽の話をしたかったのだが、会話が途切れた瞬間にユイは本来の目的を思い出した
「あ。あのさ、折り入って話したいことがあるんだけど」
「‥何」
「んーと‥、ここじゃ何だから、ちょっと来てくれる?なんか落ち着かないから」
ユイは菱和を教室の外へ促す
二人が会話する姿に注目していた教室が、再び静まり返った
目線を合わせようとしなかった菱和は、ここで漸くユイを見た
見上げたユイの顔は、やはりにこにこ顔
───何なんだ、一体?俺に、話?
何をどう考えても全く予想がつかない
一対一は本気でヤバい
マジでボコられるかも
クラスメイトの誰もがそう思ったが、菱和はユイに対し暴力を振るう気など皆無だった
ただ、今の自分の顔は誤解を招きやすく、剰え元々周囲が抱いているイメージ───“すぐキレる、喧嘩っ早い不良”というレッテルは、校内中の周知の事実
その烙印を押されるのには慣れているが、それでも今の教室にかなりの居心地の悪さを感じる
「‥良いけど」
特に断る理由もなく“折行った話”を聞いてみることにした菱和は低く返事をし、イヤホンを外して、怠そうに席を立った
またもや周囲の期待を裏切り、菱和はユイの頼みを快諾した
しかし、人のいないところで二人きりは、確実に危ない───クラスメイトたちはユイが殴られるだけでは済まされないような予感がしたが、危害を加える気など微塵もない菱和を恐れ、誰も二人を止めようとはしなかった
「じゃ、行こっ」
比較的チビのユイ、その後ろを長身な菱和がついていく
アンバランスな二人が、教室から出ていった
もう二度とユイは教室に帰って来ないかも
享年17歳、ご臨終──
拓真は今日がユイの命日になるような気がした
二人を見送ると、溜息を吐いて十字を切り、ユイの鞄を机に置きに行った
すぐにクラスメイトから「一体何がどうなってるんだ」と質問攻めに合い、説明するのに辟易することになる
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