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ガレキ

BL・ML小説と漫画を載せているブログです.18歳未満、及びBLに免疫のない方、嫌悪感を抱いている方、意味がわからない方は閲覧をご遠慮くださいますようお願い致します.初めての方及びお品書きは[EXTRA]をご覧ください.

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  • 02/04/17:02

2 meeting

新学期が始まってから最初の週末
時には自分の部屋で、時には兄の尊の部屋で、お気に入りの音楽を聴いたり楽器を弾いたり下らないお喋りをしたり
いつもと変わらない、日曜の午後
 
その、いつもと変わらない筈の週末が一瞬で変貌を遂げる
尊の部屋から、ユイの叫び声が響いた
 
 
 
 
 
「えええええ、バンド辞めるうぅ!!?」
 
突然の事態に困惑し、素頓狂な声をあげるユイ
 
 
 
ユイは尊とバンドを組んでいる
 
幼い頃に尊がギターを弾いているのに興味を持ち、尊からギターを教わった
後に尊はベースに転向し、尊の友人であるアタルと幼馴染みの拓真を加え、4人でバンドを組むことになった
 
バンド結成から約6年
尊は大学の卒業を控えており、就職の為上京することが既に決定していた
罪悪感を抱きつつも、その旨を弟に話した
 
「だって仕様がないじゃん。俺のやりたい仕事、地元じゃ出来ねんだもん」
 
「そんなぁ‥‥」
 
ユイはかなりショックを受けていた
大好きな兄、大好きなバンド
大切なものが一遍に無くなってしまう───大きな喪失感が、頭の中を埋め尽くす
 
幼い頃に見よう見まねで始めたギター
最初は指が痛いし弦を押さえる力もなく、コードもろくに覚えられなかった
弾けるようになってくるとそれからはとても楽しく、指が痛くなろうが切れようが血豆が潰れようが、只管夢中になって練習し続けた
大好きな兄や仲間と共に演奏する喜びや楽しさを知り、詞や曲を書いて自分たちの歌を作った
ライヴでの達成感も覚えた
 
そんな充実した日々を幾つも重ね、ユイにとってバンドは最早生活の一部となっており、バンドとギターは掛け替えのない心の拠り所となっていた
そしてそれは、兄である尊がいちばん理解しているつもりだった
尊にとってもバンドは大事なものなのだが、今回ばかりはどう頑張ってもバンドを辞めざるを得ない事情がある
 
 
 
尊は頭を掻きながら弟を宥めた
 
「俺が抜けてもバンドがなくなるわけじゃないし、俺以外にもベース弾ける奴は腐るほどいるぞ?」
 
「違う!兄ちゃんのベースじゃなきゃやだよ!!」
 
「俺だって出来れば辞めたくないよ。でもな‥‥分かってくれ」
 
「‥‥うぅー‥‥‥」
 
 
 
こうなることは概ね予想していたが、清々しいまでの弟の意気消沈振りに尊は困り果てる
 
「‥‥‥‥、お前の周りにベース弾ける奴居ないの?」
 
「う、うーん‥いないわけじゃないけど、みんな自分のバンドやってるから‥‥」
 
「取り敢えずベース弾ける奴捜せよ、そしたら俺が居なくてもバンド続けられるだろ?」
 
「んー‥‥」
 
「‥よし、ミーティングするか!拓真に連絡しな、俺はアタル呼ぶから」
 
「‥分かった」
 
ユイはまだ尊のバンド脱退に納得してはいないが、急遽決定したミーティングをバンドメンバーの拓真に伝える為、携帯を取りに自室へ向かった
 
 
 
***
 
 
 
拓真とアタルは従兄弟同士で、家も近所にある
尊とアタルは同い年で幼馴染みであり、同じ大学に通っている
また、ユイたちと拓真、アタルの家はいずれも徒歩圏内にある
拓真とアタルは普段から仲が良く、今日もアタルの家で一緒にいたようで、連絡をしてから15分ほどで二人揃って石川家に来た
取り敢えず、と尊が用意した麦茶とスナック菓子をつまみながら、尊の部屋でバンドのミーティングが始められた
 
「マジかー、たけにいが居なくなるときついなぁ‥」
 
椅子に座る拓真は心底残念がり、頭を掻いた
アタルはベッドに寄り掛かり、煙草を吹かす
 
「俺も最初、上京するとか聞いてねぇよ状態だったからびっくりしたよ」
 
「てか、あっちゃんは知ってたの?」
 
「おう、結構早い段階から聞いてた」
 
アタルは既に尊からバンドを抜ける旨を聞いており、自分が居なくなったあとのことを頼まれていた
アタルには尊が抜けたからといってバンドを辞めるつもりはなく、新しいベーシストを探す方向で考えていた
 
「───何でそのとき止めなかったんだよ!!!」
 
突然、ユイが喚く
 
「アホか!!んなこと出来るわけねぇだろ!!!」
 
アタルはユイをキッと睨み、ユイの喚き声にも劣らぬ声を出した
煙草を灰皿に置くと、ユイに向き直った
 
「しゃあねぇべ!尊がずっとやりたかったこと、お前も知ってんだろ?尊の進路にあーだこーだ口出しする権限、俺らにはねぇ。応援することしか出来ねぇんだよ。ユイ、あんま兄ちゃん困らせんな。いい加減腹括れ」
 
返す言葉が見つからず、ユイは押し黙る
 
出来ることなら今のメンバーでバンドを続けていきたいが、兄に大切な夢があることは随分と前からわかっていた
今、自分が我が儘を云って皆を困らせているのもわかっている
アンビバレントな感情をどう消化していいのかわからず、ユイは今にも泣き出しそうな顔になる
 
そんなユイの頭を、アタルはぐしゃぐしゃと撫でた
 
「シケた面すんな!俺らがいるだろ?お前、俺らとバンドやりたくないのか?」
 
ユイは瞳を潤せ、首を横に振った
アタルは笑顔になり、ユイの頭をぽんぽんと軽く叩いた
 
「‥じゃあな、俺らで尊並みのすげぇベーシスト探すべ?たーも、それで良いな?」
 
「うん、勿論。これからも、皆で楽しく演ろ」
 
拓真はにこりと笑い、頷く
 
優しく笑い掛けてくれる拓真とアタルを見て、ユイは目を擦り、小さく頷いた
 
一先ずユイの気持ちが落ち着き、尊も拓真もアタルも安堵した
まだユイは納得していないかも知れないが、「ここから先は自分たちに任せてくれ」と、アタルは云った
尊は申し訳なさを感じつつ、自分達兄弟は実に良い親友を持ったと思い、小さく笑った
 
 
 
***
 
 
 
「───てか、あっちゃん留年したんでしょ?悦子伯母ちゃんから聞いたよ」
 
アタルはギクリとした
今現在、一番触れられたくない痛いところを突かれ、ギラリと拓真を睨みつける
苛ついて煙草をぐりぐりと灰皿に押し付けた
 
「うっせぇよバカ!!今は俺の話は良いんだよ!」
 
「マジかよ、だっさー!」
 
先程までの泣きっ面が嘘のように、ユイはからからと嘲笑った
 
「講義も碌に聞かないでバイトばっかしてっからだろ、アホ」
 
「ほんとだよね、寝る為に学校行ってんでしょ?それならいっそ学校行かないで家で寝てれば良いんじゃないの?」
 
拓真と尊も、アタルの留年に対しきつい言葉をぶつける
口々に浴びせられる罵声に若干居た堪れなくなり、アタルは大きな声を出した
 
「俺の話はもう良いっつってんだろ!?てめぇら俺の気も知らねぇで‥傷付くからもう止めろ!!っつぅかマジで居ねぇのか?お前らの周りでベース弾けそうな奴!」
 
アタルが無理矢理話を元に戻したところで、ユイたちは嘲笑うのを止めた
 
「いやー‥‥弾ける奴は何人かいるけど、もうバンドやってるしなぁ‥」
 
「そういや、メン募はどうだった?」
 
「収穫無し。第一どんな奴かもわかんねぇし、かといってわざわざオーディションすんのも面倒臭せぇし」
 
「おーでしょん、楽しそうだけどなぁ」
 
そう云ってユイは口を尖らせる
 
ベースとドラム人口はギターよりも低く、ベースが弾ける・ドラムが叩けるというだけで引く手数多なケースが多い
学校や周りの友人を捜した方が良いのか、ネットや楽器屋の掲示板で募る方が良いのか、様々な案が飛び交う
全員であれこれ考えていた矢先、拓真の脳裏に一人の人物の顔が浮かんだ
 
 
 
「───あ」
 
「何?」
 
「いや、ベース弾けそうな奴、ってんならひとり居たなぁと思って‥‥」
 
「え?誰?」
 
「───菱和。同じクラスの」
 
「え‥菱和?‥‥って‥」
 
クラス発表の日、ユイがぶつかったあの長身で無愛想な生徒のことだった
 
「あの人、弾けるの?」
 
「うん。先週さ、上田がベース背負ってる菱和をどっかで見かけたって話してたんだ」
 
「菱和が、ベース‥‥かぁ‥」
 
ユイは思い浮かべてみた
 
ギターよりもネックの長いフォルム
バンドの中でも目立たず寡黙な音───
 
長身且つ無愛想で無口な菱和のイメージに、ぴったりと当てはまった
 
 
 
「‥ヒシワ?菱和‥って、まさか“あの”菱和!?」
 
菱和という名前に、尊は強く反応を示す
 
「“どの”菱和??」
 
ユイ、拓真、アタルの3人は思わずハモった
尊は思わず吹き出しそうになったが、軽く咳払いをした
 
「‥高台の住宅街のひとつに“菱和”って名前の家があるんだ。どっかの企業の社長さんちで、相当な金持ちだって噂」
 
ユイたちの住む街には、医者や弁護士、会社社長や重役など有名な資産家や大富豪の家が立ち並ぶ区域───所謂『高級住宅街』と呼ばれる地区がある
そして、そのうちの一軒が“菱和”という名前だった
 
「あぁ、俺も聞いたことある!あの超でけぇ豪邸な!」
 
「でも俺らのクラスの菱和がそこんちの菱和かどうかわかんないじゃん、別な菱和さんかもしんないよ?」
 
「そういや、菱和んちって金持ちだってカナちゃんが云ってたな」
 
「‥カナってほんと色々知ってんね」
 
ただでさえ情報の少ない菱和について誰よりも情報通なリサの友人・カナに、ユイはすっかり感心した
 
「じゃあ、やっぱりそうなんじゃねぇか?どんな奴なんだよ、お坊ちゃま系なん?」
 
「全然そんな感じじゃないけど‥‥寧ろ、逆?みたいな」
 
「ふーん。中身は?」
 
「そんなのわかんないよ、同じクラスになってまだ一週間だよ?」
 
「あっそ。じゃあルックスは?」
 
「え?んーと、背高のっぽで、髪が長くて‥‥」
 
「てか、新学期の初めにクラス写真撮ったよな。あれ見せた方が早いんじゃない?」
 
「あ、そーだね。今持ってくる」
 
 
 
───菱和、か‥‥
 
まだ一言も言葉を交わしていない同級生に変な期待を抱き、ユイは写真を探しに自室に行った
 
 
 
***
 
 
 
「これだよ、菱和」
 
クラス写真を見せながら、ユイは菱和を指さした
ひな壇の一番後ろの左端に、他の生徒に比べて一際長身の菱和が写っている
目線はカメラを向いておらず、元より長い前髪が目にかかっていて、目元はよく見えない
 
「ふーん‥‥あんま目見えないけどイケメンくんじゃん。メッシュ入れててお洒落だな」
 
「この服装と髪って校則に引っ掛かんねぇのかよ。っつうか背ぇ高けぇなこいつ、何センチあんだよ」
 
「結構でかいよ、ね」
 
「ん、あっちゃんくらいあるんじゃない?」
 
「‥‥つかお前、チビ過ぎじゃね?このドチビ」
 
写真とユイを何度か見比べて、アタルはニヤニヤしながらユイを小突いた
 
「‥余計なお世話だし!あっちゃんが“おがり”過ぎなんだよ!」
 
アタルの一言で、拓真と尊もユイと写真を見比べる
途端、拓真は堪らず吹き出した
 
「ぷっ‥‥改めて見ると、ユイ小さいなぁ。同じ人間とは思えない」
 
「ほんと、ユイと比べたら余計でかく見えるなー菱和くん」
 
「‥‥みんな、酷い‥‥俺だって好きでチビなんじゃないよ‥‥‥」
 
 
 
───菱和くん、か‥どっかで見たことあるような、無いような‥‥
 
妙に菱和の顔に見覚えがあった尊は、もう一度写真を見遣る
アタルは煙草の煙を吐き、煙草を灰皿に押し付けると、腕を組んでふんぞり返った
 
「───よしっ。お前ら、早速コイツ誘ってこい」
 
拓真はバツが悪そうな顔をした
 
「えー‥‥」
 
「何だよ、身近にベーシストいたじゃねぇか。何か問題あんのか?」
 
「‥‥‥なんか、不良だって噂なんだよね‥それにさ、俺も上田から聞いただけで、まだ菱和がベース弾けるってちゃんと確証得たわけじゃ無いし‥‥」
 
「ふりょお?んなもん知るか、ベース弾けんなら悪かろうがなんだろうが関係ねぇわ。それにロッカーたる者、ちょっと尖ってた方が良いだろ」
 
「‥うーん、どうなんだろそれ」
 
アタルの自論にあまり賛同出来ず、拓真は苦い顔をしたままでいる
 
ユイは写真の菱和を見つめ、少し考えた後ポツリと呟いた
 
「‥俺が話してみるよ」
 
「え」
 
「俺、一回菱和と話してみたかったんだよね」
 
そして、にこりと笑った
 
「‥ユイ、マジで云ってる?」
 
「え、うん。至ってマジだけど」
 
「てか、あんとき怖くなかったの?」
 
「あんとき?‥‥ああ、ぶつかったときのこと?別にー。背ぇ高いからびっくりはしたけど、怖くはなかったよ!」
 
「マジかよ‥‥俺殴られたくねぇよぉ‥」
 
頭を抱える拓真
アタルはニヤニヤ笑いながら煙草を噛んだ
 
「お、遂にお前のクソ度胸が役立つ日が来たな」
 
「何だよクソって、こういう性格なんだから仕様がないじゃんっ。それにさ、まだ殴られるって決まったわけじゃないし!拓真は話さなくて良いからさ、ね?明日聞いてみようよ」
 
「うーん‥‥」
 
───我が弟ながら肝の座った奴だな
 
尊はユイと拓真のやり取りを見て、呑気に感心しながら麦茶を一口飲んだ
 
「よし、善は急げだ。ユイ、明日行ってこい!」
 
「うん!わかった!」
 
まるで飼い犬に投げたボールを取って来いと命令するようにアタルに云われ、ユイは元気良く返事をした
 
「たー。お前、明日逃げんなよ」
 
「‥わかったよ、もう」
 
意地悪そうな顔をしたアタルに小突かれた拓真は溜息を吐き、明日が来なければいいのにと憂いた
 
 
 
新しいベーシスト───あくまで第一候補が決まったところで、ミーティングはお開きになった
ユイが菓子をつまみながらこれからの予定を提案した
 
「これからどうする?スタジオ行く?」
 
「‥わり、俺これからバイト」
 
先約があり残念そうにしているのは、アタルだった
 
「俺は暇だけど」
 
「俺も」
 
「‥じゃ3人で行くか、スタジオ」
 
尊と拓真はユイの提案に乗った
 
「はー‥‥俺も行きたかった‥」
 
溜息を吐きながら落胆するアタルに対し、3人はニヤニヤと心底意地悪そうな顔をした

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