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1 春
共感覚(きょうかんかく)
英:synesthesia, synæsthesia
【シナスタジア】
ある刺激に対し、通常の感覚と同時に異なる感覚を生じる特殊な知覚現象。例えば「あ」という字に「赤」という色が見える、といったように複数の感覚が同時に発生する現象のことをいう。
これは「黄色い声援」「甘い匂い」といった比喩的なイメージとは異なり、実際の感覚として生じている。
これらの知覚は無意識に生じ、共感覚を持つ者自身にもその感覚同士の結びつきについて説明できないのが特徴である。
また、共感覚を持つ者同士でもその傾向が同じとは限らない。
石川 唯、17歳
彼は共感覚を持っている
数字や文字に色を感じる、音に色を感じるなど様々な共感覚が存在するが、彼の場合は“音”に“味”を感じる
楽器の音やCDショップから流れる音楽を聴くと、じんわりと味覚を感じるらしい
『兄ちゃんのギター、ミルクティーみたいな味がする』
幼い頃、兄の尊が弾くギターの音を聴き、突然そんなことを云い出した
尊はそれに興味を持ち、調べてみると、どうやら“共感覚というものらしい”ということがわかった
彼はその特殊な感覚に自然と適応し、「この感覚は一般的ではないが、音楽の神様が与えてくれた一種の才能」だと信じ、様々な風味を純粋に楽しんでいた
***
来週から新学期が始まる
ユイが通う高校では、春休み中に、クラス替えがある2、3学年を対象にクラス発表が行われる
時間は朝9時から15時まで
その間であれば好きな時間に登校して良い事になっている
無事2学年に進級したユイは着慣れた制服に身を包み、幼馴染みの拓真と共にクラス発表を見に学校へ向かった
ユイと拓真の家は徒歩で10分程の距離しか離れておらず、幼稚園から高校までずっと一緒───所謂“腐れ縁”というやつだ
学校は車で20分ほどかかる距離にある
普段は自転車で通学している二人は、今回はバスで学校に行く予定を立てていた
他愛もない会話をしながら、二人は最寄りのバス停までだらだら歩き、バスを待つ
***
「あ」
乗り込んだバスにもう一人の腐れ縁がいることに気付いた
人も疎らなバスの中、二人は一番後ろの席で外の景色を眺めている少女に声を掛けた
「リサ!」
「おーす」
名前を呼ばれた少女は二人に気づき、顔を上げた
「‥なんだ、あんたたちもバス?」
「うん。今日はクラス発表見に行くだけだし、面倒臭いから」
「‥‥そ」
「てか同じ時間帯だったんだ、昨日のうちに連絡しときゃ良かったな」
「‥‥別に。あんたらチャリかと思ってたから」
リサは素っ気ない返事をする
リサも、ユイ・拓真とは幼稚園から一緒の腐れ縁
父がクォーター故に、中性的な顔立ちのクールな“美少女”と同学年の間では評判で、ユイと拓真は同級生から羨ましがられることが度々あった
ユイと拓真はリサの横に並んで座り、3人で他愛のない話をしながら学校までの道程をバスに揺られて過ごした
まだ少し、ひんやりと、冬の冷たさが残る三月下旬
もうじき桜が満開になる
正午前
学校に着いた3人は教室に行き、担任やクラスメイトの名前が書かれたプリントを貰った
校内には、疎らだが他の生徒たちも残っていて、各々が雑談に耽っていた
プリントを見ると、3人は同じクラスに名前が載っていた
「今年は一緒のクラスか」
「やりー!へへっ!」
「全員同じクラスなんて、中2以来じゃない?」
「そうだっけ」
3人はプリントを見ながら雑談をしつつ教室を出て、校門に向かった
「あれ、そういや今日カナちゃんは?」
「‥まだアメリカでバカンス中。今日の夜日本に着くんだって」
「マジ?良いなぁ、楽しそうで」
「良くないよ、私が後で連絡しなきゃなんないんだから」
「カナちゃんもクラス一緒だよな」
「あ、なら連絡する必要ないか」
「‥いやいや、そこはしなきゃ駄目なんじゃないの?」
「良いなぁー、俺も海外行きてー!」
ユイは二人より前に躍り出て、くるくる回り出した
回った拍子に、誰かに肘がぶつかった
振り返り、咄嗟に謝る
「あ、すいませ───」
そこには、有に180センチはあると思われる長身の男子生徒が立っていた
制服をだらしなく着崩し、ポケットに手を突っ込んで怠そうにつっ立っている
服装もさることながら、左耳には環状のピアスがくすんで光っており、シルバーのメッシュ混じりの黒い髪が肩よりも長く伸びている
真っ先に生徒指導に引っかかりそうな相貌だった
長い前髪から切れ長の垂れ目が垣間見え、彼は無表情にユイを見下ろしていた
自分より20センチ近く背の高い相手の眼光に、呆気に取られるユイ
先程までの幼馴染みの賑やかな声が止み、拓真はふと顔を上げた
目の前の状況からユイが誰かとぶつかったのだと察したが、ユイの前にいる長身の生徒を『ガラの悪い3年生で、関わったら“ヤバい系”の人』だと感じ、苦い顔をした
長身の生徒は表情一つ変えず、ぶつかられたことなどまるで無かったかのように、何も云わず去っていった
彼が歩いたあとに、香水の香りがふんわりと漂った
「‥‥怖っ」
因縁をつけられるかもしれないと思っていた拓真は特に何事も起きなかったことに安堵し、思わず感想を述べた
「───びっくりしたー‥すげぇ背ぇ高いなー‥‥、誰だろ?」
「さぁ‥‥見たことないな、やっぱ3年か?」
ユイと拓真が顔を見合わせていると、ふとリサが話し出す
「───確か“菱和”とかって奴だよ」
「ヒシワ?変わった名前だな」
「‥カナが1年の時同じクラスだったみたいだからよく話してたよ、背の高い無愛想な奴がいるって。多分アイツのことなんじゃないの」
「ふーん‥てことは、同じ学年か」
それを聞いて、ユイはクラス名簿を見ながら“ヒシワ”という名前を探した
「‥あ、あった!ねぇ、これじゃない?ヒシワ、‥‥‥‥何て読むの?」
ユイが指さしたところには、『菱和 梓』と書かれていた
リサが下の名前を読む
「‥“ア ズ サ”」
「梓?女みたいな名前だな」
「ほんとだね」
「てか、同じクラスじゃん!」
「‥マジ?」
ユイが指さしたページには、ユイ、拓真とリサの名前も載っている
拓真とリサは、眉間に皺を寄せた
拓真は「さっきぶつかったときのことで顔を覚えられたかも」と、リサは「カナから聞いていた奴とは出来れば同じクラスになりたくなかったのに」と思った
「菱和、梓‥‥」
ユイは彼のものと思しき名を呟き、彼が消えていった校門を見つめた
「‥‥ほんとかどうかわかんないけど、不良っぽいよ」
リサが歩きながらぽつりと話すと、隣を歩く拓真が苦い顔になる
「え、何それ」
「全然学校来ないし、出席日数もギリギリだったって。来たら来たで顔中バンソコだらけで、如何にも『昨日喧嘩しました』って顔してたんだって」
「まぁ、あの見た目でバンソコつけてりゃそんな感じするよな」
「同じ中学の人ひとりも居ないっぽいから、それくらいの情報しかないんだけど」
「ふーん‥‥てかリサ、詳しいな」
「‥全部カナから聞いたの」
ユイは黙って二人の会話を聞きながら、菱和の顔や後ろ姿、漂ってきた香水の香りを反芻した
───確かに見た目はちょっと怖そうだけど、背が高いからそう見えるだけなんじゃないか?折角同じクラスになったんだし、仲良くなれると良いけど‥‥
3人とも、菱和という生徒がどんな人間かをまだ知らない
拓真とリサは、菱和についての第一印象を語り出した
「明らか近寄り難い感じだよな」
「もろ『近寄るなオーラ』出まくり」
「そんなのわかんないじゃん、話してみたら意外とイイ奴かもしんないよ?」
2人の後ろからユイが菱和を擁護するも、リサが冷たく突き放す
「じゃあ話しかけて殴られてくれば?」
「殴られるのは、やだなぁ‥痛そう」
「‥『痛い』くらいで済めばいいけどね」
拓真はまた苦い顔をした
「あー、来週からガッコかー。超かったりー」
「なぁ、腹減った!マック行かねぇ?」
「おう、行くか!リサは?」
「‥私も行く」
時刻は12時半を回っていた
3人は足早に、空腹を満たす為にファーストフード店を目指し、学校を出た
菱和 梓───
そのクラスメイトと今後深く関わることになろうとは───
空腹の3人には、知る由もなかった
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