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ガレキ

BL・ML小説と漫画を載せているブログです.18歳未満、及びBLに免疫のない方、嫌悪感を抱いている方、意味がわからない方は閲覧をご遠慮くださいますようお願い致します.初めての方及びお品書きは[EXTRA]をご覧ください.

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  • 02/04/18:42

6 屋上にて①

上田から菱和が居そうな場所を聞いたユイは旧校舎の屋上に辿り着き、扉を開けた
ぱっと見回すと、柵に寄り掛かって怠そうに座っている生徒が居た
だらしない制服、長身、黒い髪───その生徒が菱和だと確信したユイは、声を掛けた
 
「見っけ!菱和!」
 
名前を呼ばれた菱和は、声のする方を見遣る
旧校舎の屋上には、生徒はおろか教師すらも滅多に訪れることはなく、屋上に入れることを知らない生徒も多い
菱和は一学年時にたまたま屋上に入れることを知り、以来自由時間は屋上で過ごしている
唯一、ただ一人になれる場所
うざったい教室なんかとは違い、開放的な空間
 
それをぶち壊すかのような、自分を呼ぶ声───
 
 
 
───また“あいつ”か
 
自分に駆け寄ってくるユイを見て、一体何事かと思った
 
「良かったらさ、俺も一緒に昼食べて良い?」
 
───何だ、今度は飯か‥‥
 
「‥‥、ああ」
 
「やりっ!んじゃ、お邪魔するね」
 
ユイは菱和の隣に座り、紙袋を開けた
クラフト紙で出来た紙袋の中から、香ばしいパンの香りがする
その香りを堪能した後、ユイはちらりと菱和を見た
傍らにはサミット袋と紙パックの紅茶が置かれており、手には食べ掛けのBLTサンドがある
 
「あ、菱和もパン?俺も今日はパンなんだー。“eichel”っていう店知ってる?」
 
ユイは紙袋をがさがさと鳴らし、パンを取り出した
 
「‥駅前の?」
 
「そうそう!俺、あすこのパン大好きでさー。特にこれ、ショコラノエル!いっただっきまーす」
 
お気に入りのパンに遠慮なくかぶり付くユイ
空腹を満たす、チョコレートが練り込まれたパン
菱和は横で「やっぱうめぇ」と唸るユイをちらりと見た
 
───よっぽど好きなんだな、“ショコラノエル”
 
美味しそうにパンを咀嚼するユイを見て、そう思った
 
「‥そうだ。菱和がベース弾けるって話、実は上田から聞いたんだ。“L CUBE”で見掛けたとかって」
 
───石川と上田、ダチなのか
 
何故自分がベースを弾けることをユイが知っていたのか、何故自分の居場所をわざわざ上田に聞いたのか、というか恐らく上田でも自分の居場所は知らないだろうに───とにかく、菱和には色々と合点がいった
 
「‥‥あぁ、声掛けられた」
 
「同じクラスだったのに初めて喋ったーって云ってたよ」
 
「‥‥あんま来てなかったから、学校には」
 
「そうなんだってね。上田のバンド、見たことある?」
 
「いや‥‥」
 
「超~ガラ悪いんだよ!みんな良い人たちなんだけどさー。上田は見た目フツーでしょ?だからあの面子の中じゃ浮いててさ!マジウケる!」
 
「‥‥‥‥」
 
 
 
菱和は上田の顔を思い浮かべた
 
始業式の数日前、とあるライヴハウスで『実は俺ら同じクラスだったんだけど』と話し掛けてきた上田
その時の印象でしかないが、上田も地味な外見ではないと思っていた
その上田が浮くようなバンドメンバーとは───
 
───どんなだよ
 
色々と想像した後、食べ掛けのパンを一口齧った
 
 
 
───何だよ、全然怖くないじゃんか。そりゃあんま表情は変わらないけど、ただそうってだけじゃん。皆がビビり過ぎてるだけで、こっちが普通にしてれば相手だって普通なんだよ‥‥
 
ユイは他の生徒が思う菱和の印象を微塵も感じず、パンを食べながら菱和と話をした
 
「菱和って、いっつもここで昼食べてんの?」
 
「ああ」
 
「一人で?」
 
「ん」
 
「そうなんだ。今日みたいな日は、暖かくて良いねー」
 
「‥‥そうだな」
 
 
 
───こいつ、何でわざわざ俺なんかといるんだろ‥‥
 
 
 
空は晴天、初夏の匂い
まだ僅かにひんやりとする風が、二人の髪を揺らす
 
互いの抱く想いは違えど、二人は爽やかな蒼い空を仰いだ
 
 
 
拓真が事のあらましを話すと、上田は『相変わらずユイは突き抜けたKY』と笑った
同意せずにはいられない拓真は、空腹ではあるものの食欲はかなり減退していて、上田に『食べてくれ』とお弁当を渡し、旧校舎の屋上へ向かった
 
───『男子生徒、屋上から転落!自殺か?』とか、そういうのマジ勘弁してくれよな
 
空腹と緊張で胃のあたりがキリキリする
拓真は青い顔をして、屋上へと続く階段を一歩一歩踏みしめた
 
 
 
***
 
 
 
心地好い風が吹き抜ける屋上
時折、校内放送の音やグラウンドでサッカーをして遊んでいる生徒の声が微かに響く
ここも間違いなく校内の筈なのだが、まるで違う空間に来たかのような錯覚に陥る
 
───気持ち良いな
 
ユイは名残惜しそうに、大好きなショコラノエルを食べ終えた
 
こく、と飲み物が喉を通る音が聴こえる
隣を見ると、菱和が紙パックの紅茶を口にしている
 
───背だけじゃなくて、足も指も長いなぁ
 
視線を感じた菱和が横にいるユイを見遣る
ユイは目が合うと、にこりと笑って一言云った
 
「風が気持ち良いね」
 
高校に入ってから、他の誰かと共に昼食をとったことは無い
同年代の人間と校内で会話をするのも久し振りだ
ましてや、自分に笑いかけてくるような生徒は未だ嘗て居なかった
どういう反応をして良いものかわからず、菱和はふい、と顔を逸らした
 
「‥‥ん」
 
「───あ。ってか俺、クラス発表の日菱和とぶつかったんだけど‥‥覚えてる?」
 
「‥‥、覚えてるよ」
 
「そっか‥‥ごめんね。あんときちゃんと謝れてなくて」
 
「‥‥別に」
 
「あんときも思ったけどさ、菱和ってめっちゃ背ぇ高いよね。何センチあんの?」
 
「‥182」
 
「ふぇー!180超えてんだ、すげぇ!なんかスポーツやってんの?」
 
「いや、何も」
 
「そっかー、じゃあそういう遺伝子なんだね!」
 
「‥そうだな」
 
 
 
───こいつ、退屈じゃないんだろうか‥‥つまんなそうには、見えねぇけど
 
少なくとも、ユイが自分の隣に居ることは特別嫌でも何でもなかった
ただ、会話が続かない、広げられないことに対し、菱和はそう思っていた
事実、ユイはとても楽しそうにしており、会話も勝手に広げている
無口な菱和にとっては、それが“救い”のような気がした
 
 
 
ガチャリ、と扉が開く
ユイと菱和が揃って扉の方を見ると、そこには肩で息をしている拓真が居た
 
「あ、拓真!」
 
───マジかよ、ほんとに居たし
 
上田の予想が当たっていたこと
ユイと菱和が一緒に居たこと
拓真は安堵もしたが不安にも駆られた
そんな思いを知る由もなく、ユイは拓真に駆け寄る
 
「‥なんか汗かいてない?てかべんと食べたの?」
 
「食ってねぇよ、お前を捜してたの!上田に聞いたらここじゃないかって‥‥」
 
「あそ、ちょっと来て!」
 
「おぃっ‥‥」
 
拓真はユイに引っ張られ、菱和の近くへと無理矢理連れて行かれた
 
「これ、一緒にバンドやってる拓真!」
 
「“これ”とか云うなよ。あのなぁお前‥‥」
 
「因みに拓真はドラムで、俺はギターね」
 
ユイはにこにこしながら拓真と自分を指差してそう云い、菱和は二人の顔を交互に見遣る
 
───もおぉ、こいつは!
 
このままでは自分が話す隙がないと思い、拓真はユイより少し前に立った
 
「あの、菱和。迷惑だったら遠慮なく云ってくれて構わないから。こいつ、全然悪気無いんだけど、ちょっと空気読めないとこあって‥‥」
 
申し訳なさそうに話す拓真の肩から、ユイが顔を覗かせた
 
「あ、もしかして俺うざかった?」
 
「“もしかして”じゃなくて、“かなり”うざいと思うけど」
 
「え、そう?菱和、俺うざい?」
 
目を丸くして、ユイは菱和に尋ねた
 
「‥‥別に。そんな風には思ってねぇ」
 
菱和は素直にユイの問いに答えた
 
「だって。なら良いじゃんっ!」
 
「あー‥‥そう‥‥」
 
───本音と建前もわからないか、理解しろって方が無理だよな‥‥もうどうにでもなれ
 
にこにこ顔のユイを尻目に、拓真は色々と諦めることにした
 
 
 
ユイは再び菱和の隣に座った
走ったことと緊張とで疲労感が増しており、拓真もユイの横に座った
紙袋に残っていたパンを渡された拓真は、いつどんな失言をするかわからないユイに気を揉み、食欲がないながらもパンを食べ始めた
その矢先、ユイは菱和の顔を覗き込んで云った
 
「‥痛そーだね、それ」
 
ユイは自分の口元を指差している
菱和の口元には絆創膏が貼られていて、赤く腫れている
それを、無邪気に指摘したのだ
 
「やっぱ喧嘩?てか、菱和って喧嘩強そうだよね!」
 
「───ばかっ、ユイっ!!」
 
拓真は「やっぱりやらかしやがった」と思い、時すでに遅しだが声を荒げた
 
拓真の様子から察するに、恐らく他の生徒と同じように自分を怖がっているんだろう───菱和はそう思った
それは一向に構わず、それが普通の反応だということは嫌というほど理解している
喧嘩のことについては、内容次第では“不良”の神経を逆撫でしてもおかしくはない
にも関わらず、全く空気を読まず「喧嘩したのか」などと聞いてくるユイ
 
───ああ、“こういうとこ”が、か。確かに、空気読むのは苦手なんかもな、こいつは
 
ただ、ユイの一言は菱和の逆鱗に触れる内容ではなかった
 
「‥‥、喧嘩ってか、一方的にやられたっつーか‥‥」
 
「やり返さなかったの?」
 
「‥‥もう暫く、自分からはしてねぇ」
 
「ふぅーん‥‥」
 
拓真には最早パンの味などわからなかったが、菱和に怒ったような様子が見られなかったことでほっと胸を撫で下ろした
 
「菱和って楽器何使ってんの?プレベ?ジャズべ?」
 
「‥ジャズべ」
 
「どこの?」
 
「Fender」
 
「Fenderかー!ベースといえばFenderだよね、やっぱ」
 
ユイはうんうん、と頷く
 
「‥‥‥‥、石川の楽器は?」
 
「Les Paul!Gibsonの!」
 
「Les Paulか‥‥」
 
「うん!Epiphoneのもあるんだけど、やっぱGibsonの方が好きなんだよね。重さも厚みも違うっていうか‥‥」
 
「‥‥何となくわかる」
 
「ほんと!?」
 
「‥何となくだけど」
 
 
 
───やっぱ“クソ度胸”なんだな‥‥‥けどひょっとして、見た目が怖いだけなのかもしんないな‥‥人は見掛けによらないって云うもんな‥
 
仮に、菱和が根っからの不良であるならば、ユイは既にこの世に存在していないかも知れない
会話が成立しているということ、淡々とではあるが菱和がしっかりと受け答えをしている姿を静観していた拓真の、菱和に対する印象が僅かに変わり始めていた
 
 
 
───“タクマ”って云ったな、下の名前。苗字は‥‥そう、確か───
 
「──────“佐伯”」
 
丁度菱和の印象を考えていたところ、当の本人から名前を呼ばれ、拓真は思わず変な声が出た
 
「ぅえっ!?なっ、何で‥しょう‥‥?」
 
「どこのメーカー使ってんの、ドラム」
 
「あ、あぁ‥‥好きなのはPearlだけど‥自宅では電ドラ使ってる」
 
「‥‥場所確保すんの大変だもんな。音も気ぃ使わなきゃなんねぇし」
 
「う、うん‥‥そうなんだよね‥」
 
まさか菱和が自分に話し掛けてくるとは思わず、たった数秒間の会話を終えた後も拓真は心臓がバクバクしていた
 
「ぷっ‥‥『ぅえっ』だって!変な声ー」
 
「‥うっせぇよ、もう」
 
変な汗をかいたが、ユイに笑われたことに少しむっとした
 
 
 
再び扉が開いた
3人が一斉に扉の方を見ると、上田の姿があった
上田は手を降りながら3人に近付いて来る
チャラチャラと、オニキスのブレスレットが鳴った
 
「お、ほんとに居たわ。俺って天才じゃね?マジで探偵事務所開くべか」
 
「おまっ‥‥来るなって云ったろ!?お前が来ると益々ややこしく‥」
 
「いーからいーから。もう、心配性なんだってばたくちゃんたら。べんと美味かった、母ちゃんにお礼云っといてよ」
 
「ああもうわかったから‥‥!」
 
ユイと菱和の元へとどんどん近付いて行く上田を、拓真が必死に遮ろうとしている
ユイは二人の様子をにこにこと静観していた
 
「上田ぁ、ありがとね。お陰で菱和見付けられたよ」
 
上田は自分の行く手を遮る拓真の腕を躱そうとしながらユイに近付いていく
 
「おお、なんもなんも。やっぱ俺ちゃん凄くね?なんか飲み物奢ってよ。拓真もね」
 
「え、何で俺まで!?」
 
「ユイの居場所教えてやったの俺様だよ?」
 
「んなもん、当てずっぽうで云っただけだろ!?」
 
「結果オーライっしょ!ほら、俺が居るとややこしいんだろ?とっとと自販機行くべ。ユイも早く来いよー」
 
上田は拓真の肩を抱き、強引に引き摺って行った
 
 
 
「明日もここで昼食う?」
 
「‥‥ああ」
 
「じゃあ俺も!明日も晴れると良いね!」
 
菱和はユイの顔をぼんやりと見つめてから、ふっと顔を逸らして返事をした
 
「‥‥、ん」
 
にっこり笑ったユイは菱和に軽く手を振り、駆け足で拓真と上田を追い掛けた
 
 
 
───晴れると良いね、か
 
3人が去った扉を見つめ、ユイの言葉を反芻する
 
確かに今日は快晴だ
このまま午後の授業をサボりたくなる衝動に駆られるほどの、蒼い空
 
ユイと同じく明日の天気に少し期待をした菱和は、制服のポケットに仕舞っていた煙草の箱を取り出した

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