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ガレキ

BL・ML小説と漫画を載せているブログです.18歳未満、及びBLに免疫のない方、嫌悪感を抱いている方、意味がわからない方は閲覧をご遠慮くださいますようお願い致します.初めての方及びお品書きは[EXTRA]をご覧ください.

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  • 05/02/15:27

Overture-Silver bladet

部活が、楽しかった
初めて触った油絵の具
筆を入れるカンバス
頭がクラクラするような臭い
全てが未知の経験で、俺は思い付くままに絵を描きまくった
換気を怠ればすぐに体調不良を起こしそうなほど、油絵の具の臭いが充満する室内
その大事な換気も忘れ、無我夢中でキャンバスに絵の具を塗りたくる
 
部員は全部で15人くらい
同級生も何人か居たけど、クラスが別だから特に関わり合いは無かった
それでも、何人かの人と話すようになって、掌を10Bの鉛筆で真っ黒にしたり学ランの裾を絵の具汚しちゃったりして楽しく過ごしてた
 
 
 
「アカ」
 
振り返ると、トキとイナが教室のドアから呼び掛けていた
俺は椅子に腰掛け、自分よりも大きなキャンバスを目の前にナイフを握っていた
今日は俺を入れても3人くらいしか部活に参加してなかった
それを良いことに、2人は手で鼻を覆って室内へ入ってくる
まぁ、人が多くても少なくても2人がズカズカ部室に入り込んでくるのはいつものことなんだけど
 
「なんだ、まだ帰ってなかったの?」
 
「補講受けてたー。ってかこの部屋ヤバくね?頭クラクラすんだけど」
 
「換気しろってんだよ、このアホウは。何遍言やぁわかんだよ?」
 
2人は他の部員に頭を下げながら、揃って窓を開け始めた
 
「夢中になりすぎなんだよ。そのうち倒れんぞ?」
 
「ん、そんでまた壮大でわけわかんねぇもん描いてんのねお前って」
 
「余計なお世話だし」
 
「まぁ、センスだけは良いよな、アカは」
 
「はぁ?何よ、“だけ”って。センス“も”良いの!」
 
俺たちはケラケラと笑い合った
 
「ところで高村くん、もう終わる?」
 
「あ、はい。ただいま」
 
「じゃあさ、皆で何か食べに行こ」
 
「お、良いっすねー」
 
「早く片付けて下来いよ、待ってっから」
 
「うぃーっす」
 
2人が居なくなり、静まり返る室内
他の部員は、まだカンバスとにらめっこしてる
開け放たれた窓際に立ち、外の空気を吸った
赤と青、空に二つの色が混ざり合う夕刻
 
「‥‥‥‥‥‥ゆーやけ‥‥」
 
そう呟いた後、少しぼーっとしてから、俺は絵の具や筆の片付けを始めた
 
 
 
ファストフード店で軽く食事をとり、いつものように街をぶらついた
ギターの弾き語りやラジカセの前でダンスの練習をしたり、アクセサリーや雑貨を売る若者がいる商店街
その若者たちに紛れ、徐に歩みを進める
 
「あ。なぁ、これからイイとこ行かね?」
 
トキが思い出したように言った
俺とイナは、顔を覗かせる
 
「なになに?」
 
「めっちゃ好みの店見つけたから、連れてってやろうかなと思って」
 
「お、何の店?」
 
「シルバーアクセ」
 
「ほうほう」
 
「こっからすぐだからさ、ちょっと見に行かない?」
 
「良いけどさ、その店何時までやってんの?」
 
「21時、だったかな」
 
「じゃ、早く行きましょか。トキちゃんオススメのお店」
 
イナはニコニコしながらふーんと唸り、トキのお奨めの店へと思いを馳せた
 
「‥‥あれ、そういや今日すばるちゃんは?」
 
「『“赤い日”だからお休み』ってさ」
 
“すばる”は、トキと同じ写真部の女の子
黒髪ロングで、ちょっと近寄りがたい雰囲気のあるつんとした女子だ
中学時代に剣道をやってたらしく、強くて逞しいコだった
知らぬ間にトキと仲良くなってて、俺らが街をぶらつくときはいつもくっついて来るのだが、今日は体調不良の為学校自体休んでいたらしい
同じ部活に所属してることもあってか、来られない場合の連絡は決まってトキに来た
 
「そうなんですね。てか本人の前でそれ言ったら殴られるから止めようね」
 
「向こうが言ってきたんだよ、『今日は流血して死ぬほど腹痛いから無理』って」
 
「あっそう。女なのに、しかも折角そこそこ可愛いのに、男の俺らにそういうこと平気で言っちゃうとこほんと残念だな、すばるは」
 
「そうね。中身がオヤジだよね」
 
「可愛いのに勿体無いよなーほんと。写真もすげぇ良いの撮るのに女子力無さすぎだ、あいつは」
 
「‥‥てか、“女子力”て何よ?」
 
「‥わかんね」
 
女子力は低いかもしれないが男としては親しみやすく付き合いやすいと、俺らは思っていた
月に一度訪れる“赤い日”の痛みに耐えているすばるを、心から憂いた
 
 
 
 
時刻は20:00頃
トキは率先して歩き、俺とイナをシルバーアクセの店に連れていった
商業施設が立ち並ぶビル街
その一角の、木造りの小さな店だった
 
店の前には『Silver bladet』と書かれた看板が下がっている
トキは木製のドアを開け、店内へと入った
俺とイナもトキに続いて入店する
店内も木目調で、歩く度に木の軋む音がする
シルバーアクセが所狭しと並んでいて、目がチカチカした
 
燻んだシルバーに映える、ターコイズや瑪瑙
細かなデザインや細工
金属の匂い
そのどれもが俺たちの心を擽り、次第にデザインや宝石の色に目を奪われていった
 
「‥‥一日中居たくなるな、この空間」
 
「この店にあるもの、殆ど店長さんの自作なんだって。奥に工房があるみたいよ」
 
「ふえぇー‥‥‥‥めっちゃいい腕してるやん」
 
「な、良い店っしょ?」
 
「うん、良いね」
 
感心しつつ、店内を物色する
イナはネックレスを手に取り、トキに話し掛けた
 
「お前、これ好きそう」
 
「おお、好き好き!‥‥お幾ら?」
 
「えーと、8000円ですね」
 
「‥‥‥‥、俺バイトしよっかなぁ‥‥」
 
「そんなに気に入った?」
 
「うん、これめっちゃ欲しい」
 
俺たちは興味津々に店内を物色し続けた
 
 
 
ふと、店員が歩み寄り、話し掛けてきた
 
「いらっしゃいませ」
 
「あ、こんにちは。‥じゃなくて、こんばんは」
 
店員は、こくんと首を傾げてにこりとした
 
「‥‥確か、前にも来てくれたよね?」
 
「あ、はい。先週来てます。覚えてて貰えて良かったー。この店あんまり気に入ったもんで、今日はマブダチ連れて来ました」
 
「有難うございます。ゆっくりしてって下さい」
 
店員は笑って軽く会釈した
俺はさっきトキが言っていた情報を店員に尋ねた
 
「あの。ここにあるもの殆ど店長さんの自作だって聞いたんですけど」
 
「はい。僕の手作りです」
 
「え、じゃあオニイサンが店長さん、ですか‥?」
 
「‥‥峯里と言います。宜しくね」
 
店員は胸につけたネームプレートを指差し、ニコリとした
ネームプレートには“MINEZATO”と書かれている
 
「若くてイケメンっしょ」
 
トキが俺の肩をぽん、と叩いた
 
「てか、最初に言ってよ。この人が店長さんだって」
 
「あれ、言わなかったっけ?」
 
「言ってないっつの!」
 
「まぁまぁ。アカ、これ見てみ。アカの名前みたいなすげぇ綺麗な“朱”」
 
「ふゎ、すげぇ‥‥」
 
イナは俺を宥めるように話し掛けてきて、徐に掌を開いた
イナの掌の上には、朱色の石が埋め込まれたブローチがコロンと転がってた
 
 
 
「───‥‥きみ、“朱”っていう名前なの?」
 
店長の峯里さんはイナの話を聞き、俺の名前に興味を持ったようで話し掛けてきた
 
「あ、いえ。‥‥朱色の“朱”に中央の“央”で“アケオ”っていいます」
 
「“アカ”は、俺がつけた渾名です。な」
 
トキが俺の肩に腕を回してニヤニヤした
 
「“朱央”くん、か。綺麗な名前だね」
 
「恐縮です」
 
「そこはさ、“シュオウ”って言っとけば良いんでないの?」
 
「いやいや。てかいつまでその話すんの」
 
「だってかっけーじゃん、“シュオウ”って」
 
「結果“シュオウ”じゃなかったけどな」
 
「俺さ、イナの苗字も最初“インナン”だと思ってたかんね」
 
「まぁ、音読みするとそうだね。残念ながら、ちょっと捻ってんのよね」
 
「変わってるよねほんと、インナミって」
 
また名前の話で盛り上がっちゃうし、何遍同じ話すんだろな
大体“シュオウ”なんて名前の奴には漫画の中ででもなきゃお目にかかれないよ、多分
 
「きみは、“インナミ”くんって言うんだ?」
 
峯里さんは、楽しげに俺らの話に混ざってきた
 
「はい。略された結果、“イナ”になったんですー。下の名前は京平です」
 
イナは、にしし、とはにかんだ
 
「“アカ”くんに“イナ”くんね。‥‥‥‥じゃあ、きみは?」
 
峯里さんは最後にトキの顔を見た
トキは“待ってました”とばかりに、にんまりと笑った
 
「‥常磐 響です」
 
「‥‥、“トキワ”だから“トキ”くんなんだね」
 
「そうです。俺だけ“まんま”です」
 
満面の笑みでそう話すトキ
俺とイナは、じとりと見つめた
 
「ずるいよな、自分だけスマートで」
 
「略し過ぎー」
 
「何言ってんだよ、アカもイナも超素敵なあだ名だろー?名付け親の俺に感謝して欲しいくらいだよ、マジで」
 
「‥‥トキにも変なあだ名つけてやろうか」
 
「それが良い。そうしよう」
 
「やめろよ、今更。“トキ”って結構気に入ってんだから」
 
暫しの間、新しいあだ名を提案する俺とイナ、それを拒否するトキの応酬が続く
 
「‥ふふふ、面白いねきみたち」
 
峯里さんはじゃれ合う俺たちを微笑ましそうに眺め、くすくす笑った
 
 
 
***
 
 
 
「これ、なんていう石かな‥‥」
 
「赤いからルビーじゃないの?」
 
俺はイナが持っている朱い石の付いたブローチを手に取り、峯里さんに尋ねた
 
「あの。店長さん。この石ってなんて名前ですか?」
 
「ああ、それは“ファイヤーオパール”。その名の通り『炎を象徴する石』で、持ち主の個性を引き出す力、創作意欲に火をつける力がある。やる気がないときは轟轟と燃えるけど、暴走しそうなときは加減する。エネルギーを適度にコントロールする効果があるんだ」
 
峯里さんはニコニコしながら石について説明をしてくれた
俺たちは頷きながらブローチを見つめた
 
「へえぇ‥‥アカにぴったりじゃん、色も朱色だし」
 
「創作意欲爆発しても変てこりんなもの描き過ぎなくて済むんじゃない?」
 
「“変てこりん”は余計なお世話です」
 
悪口を言ってきたトキをじとりと睨んだ
 
「‥‥その石は凄く珍しいんだ、なかなか出回らなくてね。加工するのも勿体無いかなーと思ったけど、何となくブローチにしてみた次第です」
 
「いやいや、素敵過ぎます」
 
「すっげぇ細かいよな、この回りの細工!」
 
「石が引き立つね」
 
ブローチの細工は炎を模したデザインになっており、ファイヤーオパールをより一層際立てている
感心している俺たちを見て、峯里さんは目が細くなった
 
「そんな風に言ってもらえて、嬉しいな。これ、実は結構自信作なんだよね」
 
「でしょうね!てか、店長さん石のこと詳しいんですね」
 
「まぁ‥‥シルバーと相性抜群だし、流して貰ってるとこあるから色々覚えました」
 
「あ、じゃあ俺の誕生石使ったアクセありますか?俺、9月生まれなんですけど」
 
トキは自分を指差し、峯里さんに尋ねる
 
「9月ならサファイアかな。色んな色があるけど‥‥‥‥えーと、こっちはカワセミブルーのサファイア。これはイエローサファイア」
 
峯里は軽く店内を見渡し、バングルを2つ手に取ってトキに差し出した
深いブルーの石が付いたものと透明度の高い黄色の石が付いたバングル
トキは忽ち目をキラキラさせた
 
「うぉ!めっちゃ綺麗!」
 
「超~オシャレなバングル」
 
「はー‥‥どっちも素敵ですね」
 
「高くて買えないけどな!」
 
「まぁ、学生のうちはな‥‥こういうのはまだ分不相応だ」
 
「うんうん。ラーメンとかハンバーガーで満足してるようじゃまだまだだな、俺ら」
 
「石とかシルバーとかそういうガラじゃねぇもんなぁ‥‥こういうの似合う大人になりたい」
 
「俺もー」
 
トキはバングルを腕に嵌めて翳していた
学生特有の青臭いノリが微笑ましくなったのか、峯里さんはニコニコしながら俺たちの会話に耳を傾けていた
 
トキはふと店内の時計に目をやった
時刻はあと5分ほどで21:00になるというところだった
 
「もうお店閉める時間ですよね?」
 
「ああ、うん。そうだね、ぼちぼち」
 
峯里さんも時計を見た
トキは申し訳なさそうな顔をして、峯里さんに頭を下げた
 
「あの。買い物目的じゃなくてすいません。しかも閉店間際まで居座っちゃって‥‥」
 
「いえいえ。気に入ってくれたんなら、俺も嬉しいから」
 
「今は財布が淋しいので、金貯めてまた来ます」
 
「良いよそんなこと気にしなくて。えーと‥‥トキくん、アカくん、イナくん。いつでも気軽に寄ってってください」
 
峯里さんは確認するように俺たち一人一人の顔を見て、深く頭を下げた
俺たちも、揃って頭を下げる
 
「有り難うございます、また来ます!」
 
 
 
Silver bladetを後にし、並んで駅までの道を歩く
 
「店の雰囲気も良かったけど、店長さんも良い人そうだったな」
 
「うん。また行きたくなるね」
 
「また行こうよ」
 
「そうね、次はすばるちゃんも一緒に」
 
「んだ。じゃあ、帰るか」
 
「したっけ、また明日学校でー」
 
イナは駅のホームへ、トキは駅に隣接しているバスターミナルへ、俺は連絡通路を通って駅の北口へと向かい、それぞれ帰宅の途についた

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