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ガレキ

BL・ML小説と漫画を載せているブログです.18歳未満、及びBLに免疫のない方、嫌悪感を抱いている方、意味がわからない方は閲覧をご遠慮くださいますようお願い致します.初めての方及びお品書きは[EXTRA]をご覧ください.

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“Caricia”③スマホ向け

“Caricia”③PC向け

ATT VARA DIV LIV① スマホ向け

12 「Who cares?」

サツキとの初対面から数日後
本来ならば思い出したくもない、自分へ向けられた数々の言葉はどう足掻いても頭の中から払拭することが出来ない
今日はバンドの日、恐らくサツキも参加するだろう
放課後、帰宅し身支度を整えるも、その動きは普段と比べ緩慢だ
ギターをケースに仕舞う際、最も心を抉られた言葉が突き刺さる

『耳障りなの』

「‥‥‥みざわり‥‥」

プロから賜った、痛烈な一言

悔しい
哀しい、よりも悔しい、と思った
ごめんな、俺なんかが、お前の相棒で
下手くそでごめん
ごめんな
悔しい
悔しい
悔しい

愛機へさえも募る罪悪感
ユイがSilvitへ行くのが億劫だと感じたのは、初めてのことだった



***



スタジオに入ると、案の定サツキが居た
小説を片手にピアノの前に座し、スタジオに入ってきたユイを見遣る

「こ、こんにちは。今日も、宜しくお願いしま、すっ」

「‥‥どうも」

不安と緊張でいっぱいいっぱいの中、挨拶だけはきちんとしたユイだが、サツキはつんとした視線を寄越すとすぐに顔を逸らし、小説の続きへと目を落とした

『チューニングからしっかりやって。常識でしょ』

事前にしっかり行っていたとしても、弾き方や気温によってチューニングは狂うもの
弾いている合間にも細目に行う必要がある作業だ

───今日は、注意されないようにしなきゃ

無意識に、手が震えてくる
“あの”言葉の数々が甦ってくる
“耳障り”な音を聴かせていた
凄く失礼な話だ

───でも、悪いのは俺だから、ちゃんと、ちゃんと‥‥

チューニングにこんなにも神経を使ったのは初めてかもしれない
そう感じるほど、一音一音、丁寧に調弦をしていく

「‥6弦がまだ。気持ち悪いから早く直して」

「は、はいっ」

絶対音感を持つサツキは0,1Hzの狂いも逃さない
ユイは、チューナーの針を更に神経質に見遣った

漸く終わり、ちらりと見上げると、サツキは素知らぬ顔で小説を読んでいる

───はぁ‥‥何時間もチューニングしてたみたい‥‥

この時点で、ユイの疲労感はピークだった

「‥‥サツキさんって、絶対音感あるんですよね?」

ぽつりと投げかけると、サツキはユイにゆっくりと視線を向けた

「‥‥‥それが何か?」

「あ、いや、単純に、すごいなぁ、って」

「急におべっか使うのやめてくれる?別に、きみと慣れ合いたいとか思ってないから」

呆れたような溜め息を吐き、サツキは小説を閉じて鞄に仕舞った



───なに、その云い方

それは“この前”にも思ったことだが、今回は“この前”とは少し違い、ユイは単純にムカついた

「っ、そんなつもりじゃ‥!!」

「よー、早かったな」

反論しようとした途端、アタル、拓真、菱和がスタジオに入ってきた

「本、読み終わっちゃうとこだったよ。早く準備して」

「おう、すまねぇ。チビ助は、準備万端か?」

生まれてしまった怒りのやり場を失くすと同時に、ユイはサツキのアタルへの態度や話し方が明らかに違うことに気付いた
自分に対するそれとは裏腹の柔和さに、ついさっきまで怒りをぶつけようとしていた人間と同一人物なのであろうかと疑うほど

アタルとは共有した時間の方が長いのだから、気さくでいるのは自然なことだろう
しかし、人が違うとこんなにも態度を変えるものか?
そんなに嫌われているのか?
“この前”の自分は、そんなにも嫌われるようなことをしたのか?
わからない───

「‥‥チューニング、終わってんだよな?」

菱和が、眉を顰めるユイの頭をぽん、と叩く

「う、うんっ」

我に返ったユイは、ごちゃごちゃになった頭の中を何とか元に戻そうと、引き攣った笑みを零した



***



「───‥‥いや、マジすよ」

「やだぁ、菱和くんったら!すごいギャップだね!」

「このギャップがひっしーのイイとこなんすよね」

「ほんとね!面白いっ!」

いつになく神経を擦り減らしたユイが最後にスタジオを出ると、サツキの笑い声が聴こえてきた
拓真と菱和に混ざり、談笑しているよう

「‥あ。ねぇ、2人とも連絡先教えてくれる?」

3人の姿を遠く見詰めていると、サツキが鞄から携帯を取り出した
拓真と菱和の連絡先を、自分の携帯にさくさくと入れていく

『バッキングだからって手を抜かないでね』
アタルたちがスタジオに入ってから、サツキがユイに掛けたのはこの一言のみ
無論、その言葉尻は露骨に冷徹だった
反面、今は時折甲高い笑い声を発するほど談笑に耽っている

───『慣れ合いはしない』んじゃなかったの‥‥?ほんとわけわかんない‥‥‥

ユイは、また眉を顰めていた



***



翌日
いつもならハイテンションのところ、翔太にも感付かれる程のレベルで浮かない顔のユイ
窓からぼーっと外を眺めていると、翔太が心配した面持ちで自分の傍らに立っていることに気付いた

「‥‥なんか、元気なくない?」

「うーん‥‥」

「なんかあったの?」

「うーん‥‥‥なんていうか‥‥何なんだろね‥‥」

「うん?‥‥」

「‥‥‥‥あのさ、相手によって態度を変える人って、どんな人‥なのかな」

「‥‥“そういう人”と出会って、悩んでる。と」

「あ、いやまぁ‥‥うん‥‥」

「なるほどね」

ユイのテンションの低さの謎が解明されたことで、翔太は朗に笑んだ

「色々考えられるだろうね。例えば、“自分を良く見せたい”とか、“合わない相手とは仲良くしたくないから”とか」

「むー、そうかぁ‥‥やっぱ嫌われてんのかなぁ、俺‥‥」

「対人関係で悩むなんて、らしくないね。そういうことではいちばん悩まなさそうなのに」

「こう見えて、そんなこともないんだよ‥‥」

「あ、ごめん。そうだよね、対人関係って難しいときあるよね。ってか、そんなに態度違うの?その人」

「‥‥俺に対しては全然話さないし、話したとしても言葉がすっげぇ冷たいのに、拓真とアズとは気さくに喋っててさー‥‥」

「そっかぁ‥‥‥ってか、バンド絡みなんだね」

「へ?俺“バンド”って云った?」

「今、その人は拓真と菱和くんには『普通だ』、って。2人の名前が出るってことは‥‥」

「‥あ」

『マズった』という表情をするユイに、翔太はまた笑った

「安心して。2人には、ってか誰にも云わないから」

「う、うん」

「でも、何で2人に知られたくないの?真っ先に相談とかしそうなのに」

「‥‥‥“輪を乱したくない”から」

「んん?」

「‥‥2人は、その人と上手くやれてるし‥‥‥その人、サポートっていうか、そんな感じで今一緒にやってくれてて」

「うんうん」

「その、俺が変に騒いだりしてその人が『やめる』とかいう話になったら、それこそ皆に迷惑掛かるから‥‥」

言葉を紡ぐ毎に、ユイのテンションは下がっていく
“最悪の事態”だけは、何としても避けたい
その為にも、自分の感情は押し込むしかない───

「‥‥まぁ、世の中色んな人がいるからなぁ。合う合わないは当然出てくるよね。だけど、そんなのにいちいち付き合ってちゃこっちが参っちゃうでしょ?別に無理してその人に好かれようとする必要もないし、“この人はこういう人だ”って割り切るのがいちばんかもね。もう、その人の個性だと思って」

翔太はふーんと唸った後、そうアドバイスした

「やっぱ、そう‥‥?『この人はこういう人』って、思うのが良い‥?」

「うん。それが無難だと思う。あんま気にし過ぎると疲れちゃうでしょ。サポートってことは、一定期間過ぎたら多分もう関わらなくなるんじゃない?それまでの辛抱、と思ってさ。‥‥テンション低いユイって中々レアだけど、いつもの元気溌剌な個性の方が良いな、やっぱり」

“個性”という単語を絡め、翔太は柔らかく朗に笑む



誰しも、万人に好かれるというのは到底無理な話
自分に敵意を持つ人間のことで悩む必要はない
自分を好いてくれ、傍に居てくれる人間を大切にすれば良い──────

「‥‥ありがと。話聞いてくれて。なんていうか、すごくすっきりした」

「そう?それは良かった。‥‥バンドメンバーに云いたくないことも、俺には遠慮しないで話して。話くらいいつでも聞くから、ね。」

「うん、‥ほんとありがとね!」

「どういたしまして。‥‥ねぇ、昼コンビニ行かない?」

「‥行く!ちょうど良かった、俺今日買い弁なんだ!」

「じゃあ、樹も誘って行こう」

「うん!」



───俺が嫌い?言葉や態度に出るくらい?だから?だから何?別に良いよ、それで

溜まっていたストレスを吐き出したことで、ユイは先程とは見違えるほどすっきりとした顔をしていた

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11 "サツキ”

「どうよ?俺ら。プロから見て」

「“プロ”呼ばわりはやめてってば。‥‥元気なバンドだね、とっても。楽しそうなのが伝わってくる」

「そっか!お前のお眼鏡に敵ったんなら云うことナシだぜ!」

「はぁ。意味が分かんない。‥‥‥‥リズム隊は申し分ない。若干粗削りなとこもあるけど、基本的には丁寧で落ち着いてる。小うるさいギター2本、きちんと支えてる」

「そりゃ狙い通りだな。やっぱ性格出んだなぁ、楽器って。はは」

「開き直るな。‥‥‥ギターが“ハネてる”のが、どうしても気になるんだよね」

「‥‥それ、俺?」

「ううん。もう1人の方。アタルとはまた違った意味でガチャガチャしてるし」

「ははっ!まぁ、それがあいつの良いとこであり、悪いとこでもある。ってことで勘弁してくんねぇか」

「まぁ‥‥良いんだけど。元気なのは良いことだ、し」

「気になるとこあったら、遠慮しねぇでバシバシ云ってくれ」

「云ったね。容赦しないよ。万が一心折っちゃっても責任取らないよ」

「構わねぇよ。あいつらにもお前にもフォローするし。お前から云われたんだったら、納得もするだろうよ」

「あ、そう。‥‥‥‥‥ただ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥もう一人のギターのコは、今後“化ける”可能性が一番高い気が、する」

「“化ける”、か。‥‥お前がそんなこと云うなんて、よっぽどだな」

「リズム隊にも云える話だし、あくまで可能性の話だけど。‥‥‥ね、アタルだって楽しみにしてるんじゃないの?」

「まぁな。‥‥今でもこれからも、あいつらは俺の自慢だ」

「‥‥‥、そう‥‥」



***



アタルの姉・亜実の結婚式まで一ヶ月を切っている
Hazeの面々は、レパートリー以外に、余興で演奏する曲にも力を入れて練習に励んでいた

「───そういやさ、ピアノ入れようと思ってよ」

「ピアノ?」

「ああ。"To Be With You"辺りに入ってたら結構良いんじゃねぇかと思って」

とある練習日、アタルからそんな提案があった

「良いけどさ、誰が弾くの?俺ら誰も鍵盤弾けない‥‥」

「アテがあんだ。普段はジャズバーでピアノ弾いてる奴。JAMにも時々来て弾いてんだ。結構前から知り合ってはいたんだけど、なーまら人見知りで口説くの苦労したぜ」

アタルは大袈裟にそう云いながら、眉の端を下げた

「そんなら、無理に口説かなくても良かったんじゃないの?」

「‥ま、個人的にお前らにも紹介したくてな。何つーか、すげぇ奴なんだよ。とにかく『ジャズやらせたら右に出る者はいねぇ』‥‥と、俺は思ってる」

「ジャズかー。渋いなぁ」

「ジャズって難しいもんね!出来るだけでも尊敬しちゃうよ!」

「な。‥‥近いうち、打ち合わせ兼ねて来てもらう予定なんだけど。どーよ?」

「良いよ、別に」

「問題無いす」

「ピアノ入ったアレンジ、凄く良さそう!楽しみだね!」

自分達の演奏やレパートリーに鍵盤楽器が入るのは初めてのこと
どんな人物なのか、どんな演奏をするのか───誰もが、どのような仕上がりになるのかを想像しては愉しみながら練習に勤しんだ



***



翌週
件のピアノ奏者の都合がついたとのことで、アタルから『早めに集合』との連絡が入った
ユイ、拓真、菱和の3人は放課後になると足早に帰宅し、Silbitへと急いだ



「こんにちはー!」

「おや、3人お揃いでいらっしゃい。アタルくん、スタジオ入って待ってるよ」

我妻の歓迎に軽く応え、アタルが待つBスタジオへと足を運ぶ3人
ドアを開けると、アタルの他にもう一人──────

ウェリントン型の眼鏡をかけており、茶髪に緩いパーマがかかっている小柄な人物が、スタジオに置かれているアップライトピアノの前に座していた
とても中性的な顔立ちをしており、初対面の3人には、少なくとも現時点ではその人物の性別を判別出来ないほどだった

「お、来たか」

ニカッと笑むアタルを他所に、件の人物はちらりと3人を見遣るが、さほど興味がないのかすぐに顔を逸らした

「"サツキ"ってんだ。宜しくな。‥こいつら、俺のバンドメンバー」

3人にサツキを、サツキに3人を紹介したアタルは、軽く首を振って3人に目配せをする

「こんにちは!ユイです!」

「拓真です、始めまして」

「ども。菱和です」

3人はすぐさま挨拶をしたが、サツキは目も合わせようとしない

「‥‥‥、宜しく」

そう、小さく返事をした

『冷たい』『ツンとした人』『不機嫌そう』
そんな印象を与える態度だった

───なんか、とっつきにくそうな感じの人だなぁ‥‥

現に、ユイは特にそう感じていた
アタルは軽く息を吐いてサツキの肩をぽん、と叩いた

「こいつ、人見知り中の人見知りでよ。なかなかOK貰えなくて‥‥でもな、この前も話したけどめちゃくちゃすげぇんだよ。ピアノは勿論、ジャズギターも弾けんだぜ。絶対音感あるし、どこで弾くんでもちゃーんと演奏代貰ってるし」

ドヤ顔でサツキの情報をぺらぺら喋るアタル
サツキが『実はとてつもない人物である』と認識したユイのテンションは、一際上がった

「え、プロ!!?すげぇ!!」

「いつの間にプロの人と繋がっちゃってんの、あっちゃんったら」

「‥‥バンドやってて、飲み屋で働いてれば、繋がってもおかしくはねぇと思うけど」

「でもさ、ヤバくない!?バンドもバーテンもやってて良かったね、あっちゃん!」

「まぁなー」

アタルの人脈の広さを称賛する3人と増長するアタルを尻目にサツキは赤面し、背中からアタルを引っ張って小さくあたふたし始めた

「余計な事云わなくて良いから‥!早く始めてよ!」

「何だよ、良いじゃん。減るもんじゃなし」

「そんな、自慢するほどのことでもないし‥」

「お前さ、それ"謙遜"ってんだぞ。もっと自慢しとけよ。折角上手ぇのによぉ?」

「そんなことないから!いちいち大袈裟なんだってば!」

3人は、アタルとサツキのやり取りをぽかん、と傍観していた
"とっつきにくそう"という第一印象は拭えないが、アタルとは至極打ち解けているように見えていた

───まだ会ったばかりだもんね、俺らとは。‥よし、俺も頑張ろう!

気を取り直すことにしたユイは、自分もサツキに恥じぬ演奏をすると決め、気合いを入れた



***



「んじゃまず、俺らの生の雰囲気掴んでくれ」

「‥‥うん」

予めアタルから楽譜を渡されていたサツキは、それを眺めながら余興で演奏する予定の曲をそれぞれ1回ずつ聴いた
時折目線を上げてはユイたちを見遣り、再び楽譜に視線を落とす
2曲、3曲と進んでいく中、その様子は一切変わらなかった

「───、ワンコーラスだけ"To Be With You"やってくれる?」

演奏が終わると、楽譜を台に立て掛け、颯爽と身体をピアノに向けた
指を静かに鍵盤に置き、構える

「おう。たー、頭からもっかい」

「おっけー」

「え、‥」

てっきり「ここから細かい打ち合わせが始まる」と思っていたユイはきょとん、とした
拓真のカウントに反応が遅れ、ギターの音がズレる

「‥早く。時間が惜しい」

演奏がストップすると、ピアノに手を置いていたサツキは一度その手を降ろし、低い声でそう呟いた
さも「お前の所為で」と云わんばかりに、ユイが立っている足元の辺りを軽く睨んだ
自分の姿を直視されてはいないものの、ユイには鋭く突き刺さった

「っすみません!!拓真、ごめん!」

「はいはい。もっかいねー」

「ボーっとしてんなよ。やるぞ」

改めて、拓真はカウントを取った



AメロとBメロは、ユイが弾くストロークギターとアタルのヴォーカルのみ
リズム隊が加わるサビから、サツキのピアノも乗ってきた

サツキはコードに則って自由に弾いているだけだったが、一音一音が4人の演奏にピタリとハマっていた

他の楽器に劣らぬ強いピアノの音が、ガン、と4人に伝わる
ピアノはスタジオの端に備え付けられており、4人に背を向けて弾かざるを得ないのだが、細い指がダイナミックに鍵盤を滑るのがちらりと見えた

───凄い。凄い!

自分たちの演奏に、何の違和感も与えず混ざるピアノ
技術もさることながら、僅かな時間の中でHazeというバンドの音を掴み、捉えるサツキは、やはり只者ではなかったと思わざるを得なかった



***



「凄いね、ピアノ!も、何回も鳥肌立っちゃった!」

「俺も。ぞわっとしたわ。繊細だけどダイナミックだった。流石、プロだね」

「あんな感じなんだな、鍵盤入ると。あの人が弾いてるから余計なのかもしんねぇけど。すげぇ自然だった」

「ほんと。あっちゃんの人脈もバカに出来ないね」

「うん!あっちゃんと繋がってくれて感謝だね!」

「結局、全部にピアノ入れることになったしね。曲調が豊かになって、心強い」

「あの人なら造作もねぇんだろうな、そんくらいのことは」

練習後、ユイと拓真と菱和はサツキのピアノに甚く満足し、大絶賛した
見た目通りの繊細な演奏も、小柄でありながらの大胆な演奏も熟すサツキは、プロフェッショナルを謳うに相応しいピアニストであると思ったらしい
結局、余興で演奏予定の楽曲全てにピアノを入れることに決定したようで、快諾を得られたことにも安堵する



サツキは、歓談中の3人を傍観していた
眼鏡の奥の色素の薄い瞳が、屈託のない笑い声を発する無邪気な姿を捉える
その傍らにいるアタルは煙草を吹かし、何か云いたげなサツキの横顔を思議した

「アタル」

唐突に聴こえた小さな声
サツキは対象から目を逸らさず、アタルに問う

「ん?」

「云ったよね、『フォローする』って」

「ん、するよ。ちゃんと」

「‥ちょっと、“意地悪”してきて良い?」

「‥ああ。程々にな」

ふわりとニヤついたアタルを一瞥すると、軽く笑みを返したサツキは颯爽と“対象者”の許へ向かった



「俺、一服してくる」

「俺もトイレ行ってくるわ」

「行ってらっしゃい!」

2人を見送り、その場に留まるユイ

「───ちょっといい?」

まるでタイミングを見計らっていたかのように、サツキが声を掛けてくる
ユイは諸々の胸の内を伝えようと、笑顔で向き直った

「あ、はい!あの、今日はほんとに有難うございました!あの、俺、」

「もっと真面目にやってくれる?結婚式の余興なんて凄くおめでたい舞台だけど、浮かれるのはまだ早いんじゃない?あと、チューニングからしっかりやって。常識でしょ。楽しむのは良いことだけど、常に自分のペースで演奏しちゃってたら皆に迷惑掛けるって自覚してる?ズレも多いし、はっきり云って不快。耳障りなの」

サツキは冷たい態度で、矢継ぎ早にユイの笑顔を跳ね返す
その言葉も、態度も、確実にユイの心を抉った
あまりの衝撃を受けたユイは、数秒間固まってしまった
次第に狼狽し始めた大きな瞳を冷たく見下ろすと、サツキは「やれやれ」と云わんばかりに軽く溜め息を吐いた

「アタルから云われてるの、『遠慮せずバシバシ云え』って。きみはメンタルも演奏も特に不安定だから、はっきり云うね。頼まれた以上、こっちも本気でやってる。次、少しでもチューニング狂ってたりぼーっとしてるようなことがあったら帰るから。輪を乱してるのは、きみだからね」



サツキの言葉や態度は、明らかに棘を生やしていた
サツキが放った感情の全てが、無邪気な心を押しつぶそうとしている
それは、ユイにも十二分に伝わっていた

さりとて
自分のペースで突っ走るとズレてしまうことは想像に難くない
メンタルも演奏面も不安定であることは自覚している
輪を乱すとすれば、自分以外には当てはまらない──────サツキが突いてきたことは、ほぼ事実
反論の余地が見付からない

さりとて
敵意すら感じられる態度
いやに刺々しい言葉
相手に何かを伝えるにも、“云い方”というものがあるのではないか
こんなに冷たい感情をぶつけられたのは、何時振りだろう

「‥‥気を付けてよね」

踵を返すサツキ
目も合わせようとしない去り際

「は、い‥‥」

意図せず溢れ出そうになる流涕を堪え、ユイはぐぎゅ、と下唇を噛んだ



あんな云い方しなくても良いじゃないか
でも
やっぱ
皆に迷惑掛けてたのかな
いつも、皆は「お前はそれで良い」って云ってくれる
皆が合わせてくれるのは、皆が優しいから
皆が上手いから
でも、それに甘えてた
それはわかってる
下手なのも、気持ちが不安定なのも、よくわかってるよ
でも、だからって
あんな云い方しなくても──────

───悔しい



“慙愧に堪えない”
その言葉が、今のユイにはぴったりだった



「ん、どした?サツキは?」

ふらりと現れたアタルに、ユイは肩を竦ませた

「‥帰った、んじゃないかな!」

悔しくて泣きそうになっていたことを悟られまいと、何とかいつも通り屈託のない笑みを浮かべ、アタルに向き直る

「はぁ。そっか」

作り笑顔が張り付いているのが、手に取るようにわかる
向き直る直前の如何にも沈痛な背中を反芻し、アタルは小首を傾げた

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イラスト詰め合わせ スマホ向け

*増えたら追加していきます


川崎悠仁様に色を塗って頂きました♪

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死逢わせ PC向け

死逢わせ③ スマホ向け

死逢わせ② スマホ向け




*③に続きます*

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死逢わせ① スマホ向け



 




*②に続きます*

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窓の月 PC向け

窓の月② スマホ向け

窓の月① スマホ向け



*②に続きます* 

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Deadlock PC向け

 

*DEADEND*
 

*「窓の月」に続きます*

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Deadlock② スマホ向け



 







*DEADEND*  

*「窓の月」に続きます*

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Deadlock① スマホ向け

*時系列:過去*






*「Deadlock②」に続きます*

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「いつかの」「頌春」 PC向け

いずれもツイッターで公開したものです

いつかの
(恋人同士になってから初めて二人で迎えたクリスマス) 


頌春
(時系列的には最新のお正月)

おまけ


伯父ばか

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「いつかの」「頌春」 スマホ向け

いずれもツイッターで公開したものです


いつかの
(恋人同士になってから初めて二人で迎えたクリスマス)




頌春
(時系列的には最新のお正月)


おまけ



伯父ばか

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1~2話完結の短いお話 PC向け

入社一週間後


謎の飴ちゃん


ビールの行方(Deadlock)


兄弟喧嘩・ラウンド0(死逢わせ)

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1~2話完結の短いお話 スマホ向け

入社一週間後



謎の飴ちゃん


ビールの行方(Deadlock)


兄弟喧嘩・ラウンド0(死逢わせ)

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七回忌 PC向け

*時系列:過去*



*「Deadlock」に続きます*

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七回忌 スマホ向け

*時系列:過去*



*「Deadlock」に続きます*

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蓮華宝土 PC向け

*時系列:現在*

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凪 PC向け

*時系列:現在*

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ReBirth PC向け

*時系列:現在*

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