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Overture-Whose is the power of that?
「───藤沢ぁ!!ツグ!!居るかぁ!!?」
ある日の昼休み
皆で屋上で駄弁ってたら、眩しいほどのド金髪なおっかない人がいきり立ってドアを蹴破って来た
その後ろから、おっかないオニーサン方総勢30人近くがぞろぞろと屋上に立ち入る
リーダー格風の金髪の人はとにかく殺気立ってて、屋上は忽ち物々しい雰囲気になった
もしかして千歳さんと継さんに喧嘩売りに来たのかと思ったけど、2人には好戦的な色が一切見えなかった
「柏木じゃん。どーしたん?」
継さんはこくんと首を傾げて、千歳さんは集団を一瞥しただけでその後のリアクションは無かった
どうやら喧嘩の心配はなさそうだと安堵した
柏木って人は、柵に寄り掛かって座ってる千歳さんの前に行ってわざわざ跪いた
「週末、北月(きたつき)の奴等とヤるからよ。今度こそ加勢してくれや」
千歳さんは白羽の矢が立ってるにも拘わらず、目も合わせようとしない
「‥‥やなこった。何で俺が」
「お前が強えぇからに決まってんだろ!!」
「強くねぇ。だから、加勢はしねぇ」
「そこを何とか頼むよ‥!この通りだ!!」
「‥‥‥面倒臭せぇ。無理」
柏木って人は土下座する勢いで千歳さんに食い下がった
取り巻きの先輩たちも、柏木って人の後ろで必死に頭を下げている
呆れ顔の継さんが、溜め息を吐いた
「勘弁してよ‥。この前も言っただろ。ボクタチ、平和に高校生活送りたいんだよ」
「今更何言ってんだよ!!このガッコ纏めたのお前らだろ!?」
え、マジで?
柏木って人の話が事実なら、千歳さんと継さんは自分達以外の3年生を───少なくとも、今屋上に来てる先輩達全員をたった2人でブッ飛ばしたってことになる
それまではこの柏木って人がこの学校の3年を牛耳ってたんだろう、多分
この2人、そんなに強いの‥‥?
トキもイナもヒカルくんも、目を見張ってた
継さんはボリボリと頭を掻いて、困ったような顔をした
「平和に過ごす為に已む無くヤっただけだっての。大体、お前らが勝手に突っ掛かってきたんじゃん」
「そりゃそーだけど‥‥‥‥でも、お前らの力がありゃぜってー勝てんだ。藤沢、ツグ、頼む!!今回だけで良いから‥!!」
屋上は、騒然とした
部外者の俺らは完全に蚊帳の外
先輩達の話を、固唾を飲んで聞き入った
継さんはさっきよりも大きな溜め息を吐いて、柏木って人と話をした
「‥‥お前ら、この前も錦西の奴等と揉めたんだってな」
「あ?ああ‥‥ちょっと、な」
「そんとき、千歳の名前でも出したか?」
「いや‥そんなことはしてねぇよ」
「ああそう。でも、他の誰かが千歳の名前言ったかもしんねぇよな?」
「それは‥‥‥‥」
「‥可能性はゼロじゃないよな。俺らは俺らの平和なハイスクールライフの為にお前ら全員ボコった。その話に尾鰭が付いて、“浦南には傍若無人な鬼畜が居る”なんてとんでもねぇ噂が流れた。さも俺らが『浦南を纏めた』って思われるようになってさ、噂を聞き付けた他校の奴等に絡まれるようになってその度に伸して黙らしてきた。それもこれもぜーーーんぶ俺ら自身の為。浦南のカオがーとか、そんなん全然考えてねぇし、個人的に絡まれたんなら問答無用でヤるけど、学校単位の話でお前らに貸せる力はねぇよ」
知らなかった
この学校の不良事情も、不本意ながら千歳さんと継さんが事実上この学校の“頭”に据えられているってことも、2人が喧嘩強いってことも
事実に尾鰭が付くのはもうはっきし言って仕方ないこと
特に『あの学校の誰それが強い』とかいう話は真実とはだいぶかけ離れてることが多かったりする
不良はそういう話が大好きだけど頭の悪い奴も一定数いるから、誰かが誇大に言い触らしたりして途中で解釈が捻じ曲げられていくんだ
だから、喧嘩をしてみたら思いの外強かったり弱かったりする
実際に拳を交えるまでは、噂はあくまで噂なんだ
「‥‥‥それにな、間接的に千歳の妹が被害被りそうになってんだよ」
「は‥どゆこと?」
継さんの言うことがいまいちわからない様子の柏木さんは、千歳さんと継さんを交互に見遣る
ヒカルくんが、はっとした
「───あ、この前すばるが錦西の奴等に囲まれてたのって‥もしかして」
「多分、こいつらと揉めた奴等の仲間かなんかだったんだろ。中学ん時剣道で全国行ってるし、おまけに千歳の妹だから、不良界隈ではそこそこ有名人なんだよすばるちゃんは」
「全、国‥‥」
「あいつ、そんな強かったのか‥」
マジかよ、こっちも驚きの真実だ
そこまで不良にどっぷり浸かってるわけじゃない俺らには、知る由もなかったこと
すばるに向かって日常的に悪態ついてるトキ、今までよく生きてられたな
「でも、不良でも何でもねぇただの15歳の女の子だ。幾ら剣道強えぇからっていっつも竹刀持ち歩いてるとは限らねぇし、男に集団で囲まれたら太刀打ち出来ねぇ。たまたまこいつらが妹の顔見知りで、この前はたまたま囲まれてるとこ通りかかったから事なきを得たんだ」
継さんが俺らに目配せしてきて、柏木さんは漸く俺らの方を見てきた
「え、こいつらが?」みたいな顔されたけど、俺らは素知らぬ振りをした
継さんは、柏木さん含む3年生全員と俺らに諭すように続けた
「‥‥‥この前が初めてじゃねぇんだよ、すばるちゃんが絡まれるのは。これからもそういうことがあっちゃ、すばるちゃんだって千歳だって困るんだよ」
「そー‥だった、のか‥‥」
漸く事態を重く見た柏木さんは、深刻そうな顔をした
「面倒臭い」っていうのも、千歳さんの本音だろう
でもその言葉の裏には、“大事な妹に余計な火の粉が降りかからないように”っていう純粋な兄の気持ちがあった
千歳さんは徐に立ち上がって、柏木さんに思い切り壁ドンした
「‥‥北月とも錦西とも、喧嘩でも何でも勝手にやんな。でももしその所為で妹とこいつらに何かあったら、もっかいお前らクシャクシャにすっからな」
そして、耳元でそう囁いた
「‥、‥‥───」
不謹慎にも千歳さんの壁ドンが素敵に見えた───のは、俺だけじゃない筈だ
柏木さんは、冷や汗をかいてた
前回、どんだけ“クシャクシャにされた”んだろう
千歳さんの牽制にどれほどの効果があったかはわかんないけど、すばると俺らに何かあった場合は千歳さんが多分継さんと共にどうにかしてくれるらしい
全国レベルで剣道の強いすばるのお兄さんだ、何とも心強い
千歳さんは踵を返してすとんと座り込むと、けろっとして不良が好きそうな話をし始めた
「‥‥‥‥そういや今年、東星(とうせい)にも気合い入った一年が来たみてぇ」
「え、東星って‥‥」
「東星は、殆どの生徒がどっかこっかのチームに所属してんだ。でも、中にはチーム自体が持て余すくらい強かったり我儘過ぎんのが一学年に何人かは居るんだと」
「俺らと、タメすか‥‥」
「‥‥相当無茶苦茶ヤるって話だ。かち合っても喧嘩すんなよ」
千歳さんは、俺らを心配してくれてるみたい
普段からあんま喋らない人だけど、言葉の端々に優しさが籠ってるのがわかる
先輩として、友達として、とても有難い話だ
「‥大丈夫す。俺らも、売られない限りヤんないすから」
イナはにこりと笑ってピースサインを出した
むざむざと無駄な喧嘩したくないもんね、全面同意です
継さんがニコニコしながら頷く
「それが良い。力は、わざわざひけらかすもんじゃねぇからな」
「向こうがその気だったら問答無用でヤりますけどね」
「あー、それなら俺、新しい技試したい」
嬉々としてその機会を待ち侘びるのは、ヒカルくんだ
「なになに、どんなの?」
「まだ内緒。でも名前だけは決めた」
「なんて?」
「“毒霧”」
「っ何だよそれ!!」
「やべー、全然想像出来ねぇ」
「ははは!ヒカルが技かけたら、案外イイとこいくかもしんねぇな!」
「プロレス部のホープですから!!」
再び和やかな雰囲気に包まれる屋上
今度は柏木さん始めその他3年生の先輩達が、すっかりと蚊帳の外だった
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