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Overture-Padparadscha
露木という変人?変態?と出会ってから3日後の昼休み
俺は絵の題材の参考資料を探しに図書室に赴いていた
ふと室内を見回すと、部屋の隅の方で熱心になにかを書いている様子の露木くんがいた
───勉強でもしてんのかな
気配を殺してそっと近付き、徐に後ろから覗き込んだ
「──────っうお!!!」
しんと静まり返っている図書室に響く、俺の叫び声
露木くんが書いてたのは、繊細で緻密な何かのデザイン画だった
勉強してたんじゃなくて、絵を描いていたんだ
今まで見たことのない斬新なフォルムと細部に渡る描き込みを目にし、思わず叫んでしまった俺
露木くんも含め、図書室にいる誰もが皆俺に注目する
「‥‥あ‥‥‥‥すいませ、ん‥‥」
畏縮して軽く頭を下げ恥ずかしそうにすると、露木くんはくすくす笑っていた
気を取り直して露木くんの隣に座り、小声で話し掛けた
「‥‥これ、露木くんが描いたの?」
「うん」
「‥‥‥‥すーげえぇー‥‥緻密‥‥感動‥よだれ出そう」
「ふふ‥‥どうも有難う」
「なにかのデザイン、だよね?‥‥蓮の花?」
「当たり。真ん中にこの石埋めたら綺麗かなーって、色々妄想してた」
露木くんの側には、宝石の本と花の図鑑が置かれていた
開かれている宝石の本のページを読み上げてみた
「‥‥“パパラチア”。‥‥“透きとおるような彩りが魅力的なオレンジでもピンクでもない、そのちょうど中間の色合いのものを「パパラチア・サファイア」という。ピンクが強すぎても、オレンジが強すぎてもパパラチアとは呼ばれない。「パパラチア」とは「蓮の花」という意味。その独特の美しい色みは「サファイアの王」とも呼ばれ、極めて産出が少ないことから「幻の石」ともいわれる”。‥‥‥‥ふーん‥‥すげぇ綺麗だなぁこの石」
「石のことはあんまよくわかんないけど、この“謂れ”が良いなぁと思って」
「“幻の石”とか格好良いね」
「厨二心擽られるよね」
「ははっ。ほんと。‥‥てかやっぱ、絵が好きなんだ?」
「絵っていうか、デザインに萌える」
「‥‥“もえる”?」
「‥‥‥‥萌え~」
露木くんは、無表情で手でハートの形を作って見せた
「ぷっ‥‥くく‥。‥‥露木くんて、絶対そういうキャラじゃないよね」
「うん。違う」
思わぬギャップを見せ付けられ、口元が歪む
堪らず吹き出し、くつくつと笑ってしまった
「‥‥でも、“萌える”っていうのはわかる。具体的にさ、どんなのが好きなの?」
「市松模様とか、入れ墨によく使われてるトライバルとか、雪の結晶とか。それこそよだれ垂らしそうになる。‥‥蓮の花のこのフォルムも、凄く好き」
そう言って露木くんは図鑑を捲り、蓮の花のページを開いて見せた
確かに、あの花は綺麗だ
御釈迦様が座してて極楽にも咲き乱れてるらしい花は、荘厳でちょっぴり畏怖もあって、凛としてて美しいと思う
露木くんのデザイン画を一瞥し、思い付いた妙案が口を滑る
「‥いっそ美術部入れば良いのに。‥‥あ、俺美術部なんだけどね。主線書くだけじゃなくてさ、これ色も塗ったらきっともっと楽しいよ」
露木くんは俺の言葉を聞いて、ゆっくりと俯く
「‥‥‥‥色彩感覚ゼロでさ。色を塗るのは、苦手なんだ」
「ふぅ‥ん‥‥」
俺は訝しげに、俯く露木くんの横顔を見ていた
昼休みが終わる少し前に、図書室をあとにした
並んで歩きながら教室へと向かう途中、思い切って露木くんに尋ねてみた
「ねぇ、土曜日空いてる?」
「‥‥、バイト終わったら暇だけど」
「露木くん、バイトしてるんだ」
「うん。ほぼ毎日」
「え、マジで!?」
驚く俺を尻目に、露木くんは軽く頭を掻いた
「‥‥‥‥俺、苦学生なんだ。‥‥‥わけあって親戚んとこで世話になってんだけど、学費とか面倒見てくれてて、少しでも足しになればーと思って。‥‥ほんとは『しなくて良い』、寧ろ『やめろ』って言われてんだけど、諸々申し訳なくて」
まだ知り合ったばかりで、露木くんのことはまだ何も知らない───“変態的な部分があるということ”と、“デザイン力に長けている”ということしかわかっていない
その私生活のほんの一部が垣間見え、少し複雑な気持ちになった
「‥‥そ、なんだ‥」
「で、土曜日は何があるの?」
「ああ‥‥友達と美術館遊びに行くんだ」
「美術館?」
「今ちょうど好きな画家の絵が展示されててさ。で、もし良かったら一緒にどうかなー‥と思って」
「ふーん‥‥‥何時から?」
「13時くらいからって約束してる。美術館は17:00で閉まっちゃうから‥‥で、そのあとはどっかご飯食べに行こーって話してるんだけど‥‥‥‥」
「‥‥土曜は早番だから、上手いことバイト終わったら行くよ」
「‥ほんと!?」
「うん。行けたとしても多分閉館ギリギリだと思うけど。あんま遅かったら、帰ってて良いから」
「全然大丈夫!っていうか、美術館行けなくてもご飯行こうよ!」
自分の好きな画家に共感してくれるかどうかは別にして、“露木くんが来てくれる”と思っただけで何故か俺のテンションは上がった
露木くんは口角を上げて、会釈した
「わざわざ声掛けてくれて有難う、高村くん」
「“アカ”で良いよ。仲良い奴は、みんな“アカ”って呼ぶ」
そう言うと、露木くんはふんわりと笑った
「‥‥‥‥じゃあ、俺も“アオ”って呼んで。親しい人は、そう呼ぶから」
「そっか。露木くん、下の名前“アオイ”だっけ」
「覚えててくれてたんだ」
「男で“アオイ”って、あんまいないから」
「そうなんだよね。よく女と間違えられるんだ」
今までの“あるある話”を聞いたところで俺とアオは分かれて、それぞれの教室へと入っていった
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