忍者ブログ

ガレキ

BL・ML小説と漫画を載せているブログです.18歳未満、及びBLに免疫のない方、嫌悪感を抱いている方、意味がわからない方は閲覧をご遠慮くださいますようお願い致します.初めての方及びお品書きは[EXTRA]をご覧ください.

NEW ENTRY

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

  • 05/02/08:15

Overture-変人②

購買の自販機に佇む俺と、前髪がうざい生徒
彼は小銭を出しながら、尋ねてきた
 
「何飲む?」
 
「‥‥‥‥ヨーグルファーム」
 
注文を受けた彼は、自販機へ小銭を投入する
ヨーグルファームと呼ばれる紙パックに入ったジュースを2つ買い、その一つを俺に寄越す
 
「どーぞ」
 
「‥‥どーも」
 
「絵、見せてくれたお礼。遠慮しないで飲んで」
 
傍らにいる生徒は紙パックからストローを取り外し、紙パックに挿して飲み始めた
『そういうことか』と少し納得し、俺もストローを紙パックに挿した
 
 
 
「──────タカムラ、アケオ」
 
「‥‥え‥」
 
口内の液体を飲み下した彼は、俺の名前を呟いた
急に名前を呼ばれて、俺は目を丸くした
だって、俺、名乗ってないんだもん
 
「スケッチブックに書いてあったから、名前」
 
そうだった
筆記体で書いてあったんだ、名前
 
「あ、ああ、うん。そう」
 
「“アケオ”って、変わってんね。どういう字書くの?」
 
「‥‥朱色の“朱”に、中央の“央”」
 
「ふぅーん‥‥‥‥。‥‥綺麗だね」
 
その目もとは見えないけど、少し口角を上げて彼はそう言った
俺はまた目を丸くした
 
「‥‥どうしたの?」
 
「や、昨日も“綺麗”って言われたばっかで‥‥二日連続で自分の名前褒められるなんて、思ってなかったから」
 
「ふぅん‥‥でも、『どういう字書くの?』は、よく訊かれんじゃない?」
 
「まぁ、ね」
 
「‥‥だよね」
 
彼はくす、と笑った
 
人の絵を盗み見るような無作法で不躾で無神経な奴
そう思っていた彼の、柔らかい表情
その顔を見て、心なしか違和感を覚えた
第一印象は決して良いものではなかったけど、『わざわざジュースを奢ってくれたのだから不躾だったことは水に流そう』と思った
 
 
 
「ヨーグルファーム好き?」
 
「うん。この自販の中じゃ、一番好き。量も多いし」
 
「わかる。量も質もいちばんだよね」
 
「うんうん」
 
「‥‥高村くんて、筆圧濃いよね」
 
「え?あ、うん。直したいんだけど、なかなか‥‥」
 
「直さなくて良いと思う」
 
「そ、かな‥‥」
 
「うん。あの強弱、結構好き」
 
「‥強、弱?‥‥‥‥てか、そんなとこ見てたの?」
 
「全体的に見た。けど、『あ、ここ』っていうとこにしっかり強弱ついてて見易かった」
 
「‥‥変わった着眼点をお持ちのようですね」
 
「そう‥?‥‥あと、『これ描いてるときどんな気持ちだったんだろうな』って想像したら、すげぇ楽しかった」
 
「‥‥‥‥それでなにかわかった?」
 
「公園の絵。‥‥あれ見て『相当苛ついてたんだなー』と思った。他の絵よりも刺々しかったから」
 
「あー‥‥当たってる‥‥‥ちょうどくさくさしてたときに描いたんだ、あれ」
 
「やっぱり?」
 
「‥‥、てか、人が絵描いてるときの心理状況探るなんて、なかなか変態だね」
 
「よく言われます」
 
彼の変態振りは、日常茶飯事なのか?
だってそうでしょ、描いた人間の心理状況探って『楽しい』とか抜かす奴は紛うことなき変態ですよ
トキもイナも、そんな感想は一度も言ったことがない
見透かされてたなんて、思わなかった
心の中を覗き込まれているような気がした
でも、何でか“気持ち悪い”とか“気色悪い”とか思わなかった
だから、正直に彼にそう伝えた
 
 
 
「‥‥‥‥、嫌いじゃないけど」
 
「‥‥そう言われたのは初めて」
 
 
 
『嫌じゃない』って言われたのが嬉しかったのか、彼は静かに笑った
よくわからないところで、彼とは意気投合したっぽい
どちらからともなく顔を見合わせて、くすくすと笑った
 
 
 
「露木ーーー!先生呼んでるぞーーー!!」
 
大きな叫び声が廊下に響く
生徒が一人、階段から身を乗り出してこっちに向かって叫んでた
 
「つゆ、き‥‥?」
 
目の前にいる“露木”と呼ばれた彼に向き直ると、その口角がふ、と上がった
 
「‥‥‥‥露木、蒼衣。俺の名前」
 
前髪が鬱陶しくて勝手に人の絵を覗き込んでその詫びにジュースを奢ってくれた彼の名前が、ここで漸く判明した
聞き慣れない“露木”という名字にきょとん、としてしまった
この国には、変わった苗字が存在するんだなぁ
 
「今日、日直なんだ。‥‥またね、高村くん」
 
そう言って、露木くんは徐に歩き出し、階段へと消えていった
 
一人残された俺は、彼が昇っていった階段を暫し見つめていた

拍手[0回]

PR
URL
FONT COLOR
COMMENT
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
PASS

TRACK BACK

トラックバックURLはこちら