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Overture-変人①
とある日の昼休み
トキは部活の集まりがあるってんでそれに参加、イナは部員でもないのに何故かそれに混ざるって言って、2人で写真部の部室に行った
昼食もそこそこに切り上げて、俺は中庭に向かった
スケッチブックとルーズリーフ、筆記用具を持ち、お気に入りの場所でスケッチに勤しむ
2人が居ないときは、それが俺の昼休みの過ごし方だった
花壇を椅子代わりに腰掛け、周囲を見渡す
校庭で遊ぶ生徒たち、花壇に咲く花、スケッチの対象はあらゆるところに満ち溢れている
時間も忘れ、結果的に授業をサボってしまうこともしばしばあった
───今日は良い天気だ、スケッチ日和やね
上機嫌で、スケッチブックを下敷きにしルーズリーフに絵を描いていく
描いては下に放り、終わったところで回収をする
夢中で描き続けている俺の足元には、ルーズリーフが次から次へひらひらと舞う
そのルーズリーフたちがとある生徒に次々と拾われているとも気付かずに、俺は鉛筆を走らせていた
「‥‥‥‥」
俺の足元に落ちているルーズリーフを一枚一枚拾い、描かれている絵をしげしげと眺める生徒
全ての絵を見終えると、俺がルーズリーフを放るのを待つ
そしてそれを拾い、またしげしげと見つめる
「───‥‥‥‥ん」
俺の傍らに、ルーズリーフを眺める生徒が居たことに漸く気付いた
顔を上げると、うざったそうな前髪で目元がよく見えない長身の生徒が俺の放ったルーズリーフを全て手に持っている
───うっざい前髪だな‥‥目の前見えてんのか見えてないのかもわかんねぇ
正直にそう思い、訝しげにルーズリーフを眺める生徒を見た
「‥‥あの。何してんの?」
「‥‥‥‥、‥‥早く次のやつ描いて」
全ての絵を見終えた生徒は、俺の顔へと視線を落とした
───見えてんのか、一応
怪訝な表情のまま、またルーズリーフに絵を描き始めた
描き終えるとまた下に放り、傍らにいる生徒がそれを拾い上げる
その生徒は徐に俺の隣に座り、今度はスケッチをする手元を覗き込んできた
一度気付いてしまうとなかなか意識せずにはいられなくなり、一旦手を止め、溜め息を吐いた
「‥‥はー‥‥‥‥あのさ、何なんさっきから?人に見られてると思ったら気になって集中出来ん」
「気にしないで続けて」
「いや‥‥そういうわけにもいかんくてね」
俺はスケッチブックを抱え込み、暫し黙りこくった
隣に座る生徒は俺を一瞥すると、また一からルーズリーフを眺め始めた
───あーも、今日は無理
そう思って、スケッチを切り上げることにした
「‥‥‥‥もう描かないの?」
「ん。それ返して」
手を差し出し、ルーズリーフを返すように隣の生徒に促した
隣の生徒は大人しくルーズリーフを手渡したが、ガードの甘くなったスケッチブックを俺の手からひょい、と奪い取った
「あ!!ちょっと‥!」
隣の生徒は咄嗟に反対側を向き、スケッチブックをぱらぱらと捲り出した
石膏やフルーツのデッサン
自分の手のデッサン
トキとイナにモデルになってもらったクロッキー
それらを一つずつ、しげしげと見つめる生徒
───全部見終わるまで、返してくれそうにないな‥‥別に減るもんじゃないから良いけど
諦めて溜め息を吐き、スケッチブックを眺める生徒に声を掛けた
「‥‥絵、好きなの?」
「‥‥‥‥たまにここで何か描いてるの見掛けてて、気になってた」
隅から隅までスケッチブックに描かれた絵を見つめる生徒
時折感心したように頷き、唇を触る
どうやらその仕草は、彼の癖のようだ
彼が、俺の描いた絵が気になっていたのか、はたまた俺自身が気になっていたのかはわかんなかったけど、取り敢えずスケッチブックを見終わるまで待ち続けた
「───どうも有難う」
ぱたん、とスケッチブックを閉じ、返してきた生徒
立ち上がってその場を去ろうとしたけど、その生徒に突然手首を掴まれた
俺はビクついて、咄嗟に振り返った
「な‥‥」
「自販行こ。何でも好きなもの奢る」
自分の顔を見ているのであろう目の前の生徒
鬱蒼とした前髪から、その目を覗くことは出来ない
彼の意図が全くわからずも、俺は小さくこくりと頷いた
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