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Overture-ちゅーがくせいにっき③
「アカ、おはよー」
「お早う」
「あのさ、これ」
2人が初めて喧嘩をした日から3日後
トキはまた照れ臭そうな顔して、あの時ビリビリに破かれた筈のノートを返してきた
捲ってみたら、綺麗にテープが貼られてて、ちょっと感動した
「‥‥大変だった、でしょ。ありがとね」
「んん、いや。俺らも、いっぱい踏んづけちまったしさ。俺、このノートの絵、結構好きなんだよ。だから、破かれたとき完全頭キちゃって‥‥ほんと、ごめん」
俺だって、マブダチの大事なものが壊されたりしたら怒るし、バラバラになったんだとしたら例え元通りにならなかったとしても最大限努力して直すよ
だからって喧嘩までは出来ないと思うけど、多分
「んーん。ほんとに、有難う」
俺は思わずノートを抱き締めた
「ジグソーパズルみたいで楽しかったよ」
どうやら、イナも一緒に修復作業をやったようだ
表紙は靴の痕がついてたけど、軽く拭いたのか喧嘩の日よりは少しだけ綺麗になってた
新しいノート買ってくれただけじゃなくて、このノートを元通りにしちゃうなんて
この時は、正直涙腺に響いた
もう、2人の気持ちがめちゃめちゃ嬉しかった
嬉しかったけど、ほんと、バカだなぁ、と思った
男子って、基本バカだと思うんですよ
街を歩いてて“イイ女”を見かけたら、やれおっぱいがでかすぎるとかお尻がコンパクトでキュートとかそういう話するし
“横断歩道の白い部分だけ渡らないと落ちるゲーム”したり
放課後の帰り道で石ころを金鍔かなんかの和菓子に見立てただけのただの石蹴りをしたり
河川敷で友達のノートが破られたくらいで喧嘩しちゃうし
喧嘩して負けたら人数増やして報復に来たりとか───
トキとイナが伸した高校生達が、俺らの中学に報復にやって来た
放課後に校門で待ち伏せしてて、俺らは逃げられなかった
人気のない場所に連れてかれて、正直チビりそうになってた
だから、この学校の制服のデザインした奴は(以下省略)
「懲りないね。この前、俺ら2人に負けたのに。まだやんの?」
「るっせぇな。だから人数増やしてきたんだよ。ボコボコにしちまうからな」
「やってみろよ。バカ野郎」
「てかさー、中坊相手に何でそんなムキになってんの?あんたらほんとにコーコーセー?恥ずかしいと思わないの?」
「っ黙れよ!!!おい、お前ら」
イナの煽りに頭に血が上ったらしいリーダー格風のオニーサンが、残りのオニーサン達に目配せした
ああ、ヤバい
また始まっちゃうの
どうしよう───
「───アカ。下がってろ。ってか、隙見て逃げろ」
‥‥え?
「え‥‥?」
「喧嘩するようなタイプじゃないもんね、アカは。大丈夫。行って」
なになに何なのこの2人
俺一人だけ、“逃げろ”って?
「な‥‥そんなこと出来な」
「お前さ、人殴ったことある?」
「無い、けど。でも」
「アカの手は、お絵描きする為にあるんでしょー」
「そーそー。人をぶん殴るにゃ勿体無い。痛めたら絵描けなくなるぞ」
目の奥が、ずんとした
まさか、この前もそんなつもりで守ってくれてたの?
何なんだよこの2人、男前過ぎるじゃん
でもさ、俺一人だけ逃げるなんて、そんなの卑怯じゃん
そんなの、駄目だ
「だ‥」
「何ゴチャゴチャ言ってやがんだ!?殺すぞ!!」
「だから、やってみろっての。バーカ」
トキがベロを出して中指を突き立てた
オニーサン達が、一斉にトキとイナに襲い掛かってきた
目の前で起きてるマジ喧嘩にすっかり足が竦んじゃった
この前は4人だったけど、今回は6人
トキもイナも喧嘩が強いってのはわかったけど、多勢に無勢だ
黙って見てることしか出来ない俺の目の前で、トキとイナは次第に崩れ落ちてった
「───‥めろ」
トキもイナも、歯を食い縛ってた
「‥もう、やめろ」
2人は俺を守ってくれたんだ
だから、俺も──────
「っやめろおおおおおおっっっ!!!!!」
俺は、オニーサン達目掛けて持ってた鞄をフルスイングで投げ付けた
「いてっ‥んだよ何処のどいつだ───」
オニーサンが言い終わる前に、飛び掛かってた
倒れたオニーサンに馬乗りになって、足が竦んだことなんか忘れて無我夢中でグーパンした
「俺のっ、大事なっ、マブダチにっ、何してくれてんだよっ!!!」
俺も頭に血が上ったみたいで、ひたすらグーパングーパンアンドグーパン
気付いたら、オニーサンは顔面血塗れで失神してた
ぶっちゃけ、皆引いてた
「───‥‥ははっ。アカ、やるねぇ」
「俺らも休んでる場合じゃないなっ!」
俺のグーパンに勢い付いたのか、トキとイナは立ち上がってまたオニーサン達にかかっていった
「お前、手大丈夫か?」
「うん。平気」
「びっくりしたぁ。アカって、あんなでかい声出るんだね」
「俺も、びっくりした‥‥」
「はははっ!がなった自分がいちばんびっくりしてるってか!‥‥てかあいつら、また来るかもしんねぇな」
「ま、そーなったらそーなったでしょ。アカ、次はやるなよ」
「え‥何で」
「だから、言ったでしょ。アカの手は、絵を描く為にあるんだって」
「‥‥‥‥、絵も大事だよ。‥‥だけど、友達も大事」
「‥‥‥‥‥アカったら、もう‥‥」
「ふふっ。サイコー。‥でも、怒らせたらヤバいな」
「みたいだね。キレたら何するかわかんないタイプだったんだ、アカは」
「そー、だったんだね‥‥」
知られざる自分の姿を目の当たりにして、俺自身もちょっと不思議な気持ちだった
結局、この日も喧嘩に勝った
あのオニーサン達は群れて強くなった気でいるタイプの人種だったらしく、この日を境にすっかり鳴りを潜め、報復に来るようなことも無かった
初めて人を殴った
正直、手が痛かった
俺にあんな力があったり、喧嘩が出来るなんて思いもしなかった
だけど、やってやれないことはなかった
手を怪我するリスクよりもマブダチが傷付く方が嫌なんだって、この時、そう強く思った
それからちょいちょい俺も喧嘩に混ざるようになった
手首捻ったりして、暫く絵を描けない日もあった
でも、トキとイナのお陰で、すごく充実した中学時代を過ごせた
高校に進学しても、きっと3人で変わらず過ごすんだろうな───そう思ったら、わけもわからず胸がドキドキした
よもや『中学時代に高校生をぶっ飛ばしたのを皮切りにだいぶ“馴らした”3人組』として名を馳せることになるなんて、バカな男子中学生だった俺達は誰一人とて想像もし得なかった
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