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ガレキ

BL・ML小説と漫画を載せているブログです.18歳未満、及びBLに免疫のない方、嫌悪感を抱いている方、意味がわからない方は閲覧をご遠慮くださいますようお願い致します.初めての方及びお品書きは[EXTRA]をご覧ください.

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  • 05/03/12:15

166 布石

合宿も受診も無事に終え、始業式を明後日に控えた日
ユイは晴れ晴れとした面持ちで、バンドメンバーと共にマンスリーライヴの会場にいた

ここ数ヶ月の間欠席続きだったマンスリー
合宿に出掛けていたこともあり、練習時間が十分に取れないと踏んだHazeの出演は今回もお預け
演奏者としてではなく観客としての参加だったが、久々のライヴハウスに心は躍る

演者の中にはSCAPEGOATの面々、“BLACKER”との諍いの際に“お世話”になった高橋を擁する“WINDSWEPT”の姿もあった
対バン仲間との久し振りの再会に終始はしゃぎまくるユイや拓真、そしてアタル

 

「そっか、合宿行ってたのな」

「そーそー。春休みの恒例行事なの」

「たけちゃんがいるときからずっとだもんな」

「っつーか、めっちゃ楽しそうだよな!楽器弾きまくって、酒も飲んでってか?」

「カップラーメンもね!今回はチョコ味の焼きそば買って、あっちゃんが当たったんだよ!」

「流石だな、のせ。籤運の良いこって」

「バカ野郎。あんなとこで使う運じゃねぇっつの」

「菱和くんは初めてだったんだよね」

「‥‥はい」

「ひっしーってばさ、めっちゃ腕振る舞ってくれたから、ゴハンには困らなかったよ」

「ほんとな。サイコーだったぜ」

「え、なに、菱和くんて料理するの?」

「おう。コイツ、こんな形してっけどベースと同じくれぇ料理上手ぇんだよ」

「っマジかよそれ!!ね、今度なんか食わしてくんない!?」

「いつでも大歓迎す」

「よっしゃーっ!!じゃあ俺、パエリア食いたい!」

「俺は天麩羅が良いなぁ」

「俺はー、えーと、えーと‥‥‥‥何でも良い!」

「なにラピュタのアンリみてぇなこと云ってんだよお前」

「だぁってよ、ベースと同じくらいっつったら、相当上手いってことだぞ?」

「‥‥、人並みすよ」

「全っっ然人並みじゃないから!てか人並み以上だから!ね?」

「ああ」

「うん」

「ほらなー!あー楽しみ過ぎんぜー!」

「菱和くん、楽しみにしてるね」

「はい。俺も楽しみにしてます」

菱和も、自然と輪の中に巻き込まれていった
この界隈ではガラが悪いことで有名なSCAPEGOATとWINDSWEPTのメンバー
銀メッシュの長身男が一人紛れている程度、彼等を知らない周囲の人間も「奴もメンバーのうちの一人だ」と何の疑いも持たぬほど馴染んでいる

「‥‥で?合宿の成果はどうだったの?」

「上の上の上、だな」

「うは、そんな良いもんだったんか」

「ひっしーがね、曲作ってきてくれたんだ。それがまた滅茶苦茶良くってさー」

「マジ!?菱和くん、曲も作れるんだ!」

「や、昔遊びでやった程度なんでまだまだ‥‥」

「なーに云ってやがる、てめぇは」

「誰が歌うん?あっちゃん?」

「いや、こいつ。こいつが作詞の英訳済ませりゃ早々に御披露目出来ると思う」

「ゆっちゃんが歌うの、珍しいなぁ!」

「大役じゃーん、ユイユイ」

「ねぇ‥‥もぉ、毎日辞典引いてるから頭痛くなりそうで‥‥」

「頑張ってるね」

「早く聴きてぇな!」

「対バンすんの楽しみにしてるぜ」

ハジや高橋が肩を抱いたり頭をくしゃくしゃに撫で回し、ユイはもみくちゃになった
だが、その顔は終始楽しげだった

───久し振りだ、こういうの。楽しいな

 

バンドをやっていなければ、楽器を弾いていなければ、全ての出会いは無かったかもしれない
対バンが叶わず残念がり次の機会を歓迎してくれる仲間の姿に、ユイは頬が綻びっぱなしだった

いつでも最前列で見守っていてくれる幼馴染み、完全無欠のリーダー、頼りになるマブダチ、そして“大事な人”───ちっぽけな自分を取り巻く全てに救われているのだと、改めて実感する
それは大きな糧となり、バンドとしても個人的にも更なる飛躍を目指す原動力となる

自らの、そしてバンドの未来に、大いなる期待を抱かずにはいられなかった

 

バカ騒ぎは続く
沸き立つオーディエンスはヘッドバンキングをしたり、サークルを作ってぐるぐる回り出す
Hazeのメンバーもその中に紛れ、SCAPEGOATやWINDSWEPTの曲を最前線で愉しむ
いつまでもこの空間に居たくなると思わせる熱気に塗れ、演者と共に昇りつめる

 

***

 

此度のライヴに出演していないのにも拘わらず、ちゃっかり打ち上げに参加することとなったユイたち
まだ春休み中だ、もう少しくらいバカ騒ぎを続けても良いだろうと誰もが思っていた

演者たちが片付けを進めている隙に、ユイは用を足しにいそいそとトイレへ向かう
その途中、擦れ違い様に誰かと肩がぶつかった

「っと、すいません」

「───あ、Hazeのギター‥!」

 

咄嗟に謝り振り返ると、同じく振り返った相手はユイを凝視した
どうやら、ユイのことを知っているよう
目が合うと至極嬉しそうな笑みを零し、興奮してその場で躍り跳ねた

「やべぇ!!こんなとこで会えるなんて!マジラッキー!!しかも今日出演してなかったよね!?うわぁ、これって運命ってやつ?」

初対面で“ラッキー”“運命”などと思わぬことを云われ、相手の興奮にすっかり取り残されたユイは反応に困ってしまった

「え、えと、あの‥‥」

「あ‥ごめんごめん。‥俺、結構マンスリー観に来てて。君の顔すっかり覚えちゃった。Haze、俺の推しバンドだからさ」

 

ぶつかった相手は、Hazeの一ファン
短髪に眼鏡、ロンTにジーンズとラフな格好をした、恐らくユイたちと同世代であろう気さくな少年だった
Hazeのメンバーであること、ギター担当であること、今回は出演していないことまでも知っており、更には“推し”であることまで伝えられたユイは、素直に感謝の気持ちを述べた

「え、ほんと!有難う!!」

「最近マンスリー出てなかったよね?今日こそは観られるかなーなんて思って来たんだけどさ」

「あ、うん‥‥ちょっと、色々あって‥‥」

「そうだよね。色々事情あるよね、きっと。赤い髪の人は年上でしょ?社会人?年齢層が違うメンバーがいると、練習するのもライヴ出るのも大変なんだろうなー‥‥って思ってたんだ」

「今んとこそんな大変でもないんだけ、ど‥‥」

「そうなんだ?‥俺は演奏してるとこしか観られないけど、他のバンドもきっと時間作って沢山練習とかしてんだろうなーと思うとさ、こう、胸がアツくなるっていうかさ。嬉しくなるんだよね」

「その気持ちめっちゃわかる!今日は友達のバンドが出てたんだけど、やっぱ滅茶苦茶上手くて、みんないつ練習してんだろうなー?とか思っちゃった!」

「ふふっ。他のバンドもマンスリー常連さんばっかだったもんね。お友達のバンドって、どれ?」

「SCAPEGOATと、WINDSWEPTだよ!」

「うわ、マジで!?あの2バンドも俺の推し!」

「! ほんと!」

「うん!Hazeと同じくらいめっちゃ大好き!」

本来の“目的”をすっかり忘れ、ぶつかった相手と意気投合するユイ
初対面で馬が合ったこともさることながら、演奏面だけでなくそのバンドの背景にまで思いを馳せてくれるファンがいるのだと思うと、“益々精進せねば”と奮い立つ

暫し立ち話をしたところで、少年はふと顔を上げた
見上げた先には、トイレの表示───

「ってか、トイレ行くとこだったんだよね?呼び止めてごめんね。会えて嬉しかった。有難う」

「こちらこそ!‥また会えると良いね!」

ちょっとした偶然が及ぼしたこの出会いを大事にしたいと思ったユイは、『その言葉が現実になるように』と想いを込めてにこりと笑った
少年もふ、と笑む

そして、含みを持った声でポツリと呟いた

 

「───どうせまたすぐ会えるよ」

「へ??」

「‥ううん、何でもない。じゃあ、またね」

「うん、またね!」

少年は軽く手を振り、その場を後にした
ユイは、彼の姿が見えなくなるまで大きく手を振り、見送った

 

『───どうせまたすぐ会えるよ』

彼が云ったその言葉は『きっとまたライヴで会える』という意味だと、ユイは信じて疑わなかった

自分達を観てくれている人間がいる───その事実に胸は躍り、『マンスリーに出たい』『ライヴをやりたい』という気持ちが逸る

ふと身体が震えたユイは、急いでトイレへ駆け込んで行った

 

 

 

 

NEXT→[Haze.Ⅱ]

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