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ガレキ

BL・ML小説と漫画を載せているブログです.18歳未満、及びBLに免疫のない方、嫌悪感を抱いている方、意味がわからない方は閲覧をご遠慮くださいますようお願い致します.初めての方及びお品書きは[EXTRA]をご覧ください.

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  • 05/03/12:30

165 psykosomatisk medicin

がらんとした診療所の待合室に、足を投げ出してソファに座す長身の男
暇潰しにと適当に手に取ったのは、料理雑誌
パラパラ捲ると、“主婦”と野次られたことを思い出し、仄かに苦く笑む

 

遡ること一週間前───

ユイの父・辰司は、心療内科の予約を取った旨を合宿から帰ってきたユイに伝えた
“家族会議”の際に、辰司と尊が提案したカウンセリングの為の受診となる
了承したユイが打ち明けると、菱和は「付き添う」と即答した
カウンセリング初経験のユイにとってはとても心強く、有難い話だった

予約の時刻は14:00
二人は軽く昼食を済ませ、来院した
早々に受け付けを済ませたものの、そこから名を呼ばれるまで30分ほどを要した
ソーシャルワーカーによる診察前の主訴、生育歴の聞き取りが行われ、20分ほどで面談室を出る
そこから更に一時間近く待ち、漸く診察室へと促された

 

幼い頃に受けた傷は水面下では癒えておらず、押し込められていた忌まわしき記憶は小さな身体に多大なストレスを与えた
いつまた牙を剥くかわからない
心の問題は複雑で、短時間で解決出来るものではない
漠然とした不安を抱えていたものの、ワーカーもドクターも終始柔和な態度で、安堵したユイは“話を聞いてもらえること”に価値を見出だし、心に留まる疑問をあれこれ質問しまくった
幼少期の一件が原因ではあるものの、ユイのケースは所謂“病的”なものではなく“葛藤”に近いものだと明確に提示された
不安への対処が上手くいかなかった場合に備え、それ相応の薬の処方も可能だと提案され、“逃げ場”があることに更に安堵する
ユイはその“逃げ場”を心の拠り所にすることとし、それまでは自分なりに自分を見つめ直し、家族や友人の力を借りて対処の方法を模索すると決めた

『解決を急がず、あるがままの自分を受け入れること』

当たり前のようで困難だが、それが、ドクターと共に導き出したユイの結論だった

 

30分後
診察を終えたユイが面談室から出てきた
どことなくすっきりとした表情で、菱和の横に座る

「‥お疲れさん」

菱和はにこりと笑み、大きな手で優しく頭を撫で、ユイを労った

 

夕暮れ、帰り道
河川に架かる橋の欄干に、二人並んで寄り掛かる

「‥‥どうだった?」

「うん‥‥‥なんか、ほっとした。ちゃんと話してこれたし、話を聞いてもらえた。『困ったことがあったらまたおいで』‥って」

「ん。良かったな。そんときはまた呼んで。俺もまた一緒に行く」

「うん‥‥ありがとね、今日。来てくれて」

「いいえ」

「てか、めっちゃ待ったよね‥ごめんね」

「別に、なんも。待つのは目に見えてたから」

「そ、っか‥‥‥‥‥俺ね、いっこ決めたことがあって」

「うん?」

「まず、『また過呼吸になっちゃったらどうしよう』とか考えないことにした。ほんとは、これ以上みんなに迷惑掛けたくないんだけど、またなったらなったで今度は薬使ってみるとか、方法は沢山あるから、そこからいちばん自分に合ったやり方をやってみることに、する」

吹き抜ける風が、さら、と髪を揺らす
真ん丸の瞳は、確乎たる決意を湛えていた
自身を“弱い”と卑下し流した涙が、まるで嘘のよう

あの時間で“そこ”まで辿り着いたのか───改めてユイの“強さ”を見た菱和は、無意識に戦慄いた

「‥うん。ちゃんと自分で選んで、決められると良いな。何にしても、“絶対独りで抱え込まないこと”。これ、めっちゃ大事だから。なんかあったらすぐ云えよ」

「う、うん‥‥これからも、迷惑掛けちゃうことあると思うけど‥その‥‥」

「お前の周りの人間は、それでもお前の傍に居るよ。“生きづらい”と思ったら、俺も含めて使えるもんは何でも使っちまいな。みんな何とも思わねぇから、絶対」

「そ、かな‥‥」

「そうだよ。‥‥‥‥俺もお前の傍に居る。ずっと」

「ずっ、と‥?」

「うん。ずっと」

優しく揺れる瞳が、安堵を齎す
例え挫けそうになったとしても、きっと何度でも奮い立たせてくれる───そう思わせる“色”を、放つ

「‥‥有難う、アズ」

「ん。俺も、有難う」

「な、何でアズがお礼云う、の‥‥俺、アズに何も出来てな、い‥よ」

「何もしなくて良い。元気でいてくれるなら、それだけで十分」

「‥‥、‥‥‥」

「‥‥‥‥欲を云えば、時々くっついたり出来たらそれで満足。‥‥“ベロチュー”も出来れば尚良し」

「‥‥‥!!!だ、そ‥!!」

菱和は意地悪そうな顔をしてベロを出し、ユイの頬を軽く抓った
慌てふためく様を見、からかうように笑む

 

平日の夕暮れ時
自分達以外に、人の姿は無い
それを良いことに、菱和は徐にユイの手を取り、自分の上着のポケットに突っ込んだ

“これ”で良い
“それだけ”で良い
“そのまま”で良い
そう、強く想いを込め、しっかりと握り締める

自分とは比べ物にならないほどの、深く暖かな“力”が、いつも隣にある
これもまた、ユイの“拠”だ

 

『傍に居る。ずっと』

ずっと───

それは、いつまで?
言葉通り、“永久”に?
それとも、俺がアズと同じくらい強くなれるまで?
もし言葉通りだったなら、嬉しいな
いつまでも、こうして隣に居たい
でももし言葉通りじゃなかったとしたら、
この手が離れてしまうようなことがあったとしたら、
そんな時は永遠に来て欲しくないけど、

───それまでは、どうか、アズの“力”を借りることを許してください

寄り添う心に、ほんの少しだけ寄り掛かる強さを湛える

各々に想いを抱き、二人は暫し流れゆく川を眺めた

 

「‥‥‥腹減ったな。なんか食い行っか。何食いたい?」

「‥、何でも、良い。アズは?」

「俺も何でも良いんだけど‥‥‥あ、ずっと気になってたとこあんだけどそこでも良い?」

「何屋さん?」

「洋食屋、っていうのかな。エビフライハンバーグオムライス、みたいな」

「‥行きたい!食べたい!オムライス!!」

「じゃ、行くか」

時刻は18:00
もう陽も暮れ、すっかりと空腹
一処に留まらぬ川の流れを見送り、ユイと菱和は華やぐ街へと繰り出した

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