NEW ENTRY
[PR]
161 träningsläger⑥
煙草を取りに一旦席を外した菱和は、階段を昇る途中で、降りてきた拓真と会う
「───お。どう?ユイの様子?」
「うん。いつも通り」
「そっかー、良かったー」
「ごめん。巻き込んじまって」
「いやいや、俺らがからかい過ぎたからね。反省反省‥‥」
「いや、佐伯たちは何もしてねぇじゃん。あいつの機嫌悪かったのは、100パー俺がやらかした所為っしょ」
「えー?そんなことないと思うけどなー?」
「‥へ‥‥?」
「ん?‥あ、煙草でしょ?」
「ああ、うん」
「じゃあ、ユイと待ってるわ」
「ん、おっけ」
含みを持った拓真の言葉を疑問に思いつつも、菱和は階段を昇って行った
「ゆーい」
「あ、拓真」
ユイは胡座をかいてギターのチューニングをしており、菱和の云った通り機嫌も直っているようだった
安堵した拓真は、ユイの傍らにすとんと腰を下ろした
「機嫌、直った?」
「別に。いつものことだし。しょーがないから、拓真とあっちゃんのこと、許してあげるっ!」
ユイは、わざと唇を尖らした
“愛のある弄り”は、日常茶飯事
それでも、拓真はちょっぴり反省をしていた
ユイの機嫌が悪いのは自分の所為だと思ったらしい菱和だが、拓真の読みは“チェリー弄り”:夕べの一悶着=9:1くらいの割合だった
菱和がユイに何をしたのかはわからないが、不機嫌になるとすれば“無理矢理迫った”くらいの理由しか思い浮かばず
菱和の性格を鑑みると、無理矢理迫るタイプには到底思えず、仮にもしそうだったのだとしたら“酔っていたから致し方なかったのだろう”という結論に達する
それに、菱和に対するユイの態度は不機嫌というよりも“気まずい”という印象だった
菱和とユイ、ユイと自分達との関係性はまるで別物、夕べの一悶着と“チェリー弄り”は別問題
拓真は、そう思っていた
“アフターフォロー”の大義名分の下、僅かな野次馬根性を覗かせ、ユイを突っつき出した
「───ぶっちゃけさ、夕べひっしーと何してたの?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥“ベロチュー”‥‥‥」
「‥‥、だけ?」
「‥‥ん」
「ふーん‥‥‥」
「‥‥何?」
「別にー。良いペースなんじゃないかなーって」
「‥ペース?」
「“そういうことする”ようになるのに要した、時間」
「え‥‥‥、それって、早い、の?遅い??」
「さぁ。する人は即日するし、しない人は何年経ってもしないだろうし。二人の場合は、4ヶ月ってとこ?人それぞれのペースがあるし、早いとか遅いとか考えなくても良いんじゃないの」
「うーん‥‥‥」
「‥‥したくてしたくてずっと我慢してたのがとうとう爆発しちゃったのかもね」
「───え゙!!!そうなの!!?いつそんなこと云ってた!?」
「いや、知らん。そんな話したことないし」
「‥何だよもぉ!びっくりしたぁ‥‥‥‥っていうかさ、“そういうことしたい”って、誰でも思うもの?」
「そりゃあ、好きならしたくなるっしょ。フツーに。ならない?」
「や、キス、とかは、わかるけど‥‥え、えっちなことは、まだ‥‥‥‥さっき、アズと、“そういうこと”は“お互いにそういう気持ちになったら”、って話してて‥‥」
「そっか‥‥‥多分、ひっしーは、お前のこと物凄く大事に想ってるんだなぁ」
「そ、そぉ‥?」
「じゃなかったら、お前の気持ちなんか無視してとっくにヤってるって。それに、“ベロチュー”までしかしてないんでしょ?」
「‥‥‥それもつい数時間前に初めてしたんだけ、ど」
「まま、やっぱり我慢出来なかったんじゃないかねー。夕べはお酒の力もあったし?『酔ってるときにその人の本性が出る』とかよく云うでしょ」
「んん‥‥そっか、我慢させてたの、か‥」
「そこは本人に聞いてみないと何とも云えないけどねー。っていうかさ、愛がなきゃ我慢なんかしないってフツーは。大事にされてるよ、お前は」
「そう、かな‥‥」
「うん。自信持って良いと思う。‥‥お前、ひっしーとベロチューしてどう思った?」
「‥‥‥、正直云うと、嬉しかっ、た。凄く」
「うんうん」
「恥ずかし過ぎて爆発しそうだったけど、“そういうことしたい”と思ってくれてんだ、って、嬉しくて‥‥身体中の力が抜けて、こう、ドロッと溶けてアズと一緒に混ざっちゃいそうになる気がして‥‥‥‥って、何云ってんの俺ってば‥!もおぉ!!今!今爆発する!!」
「っははは!良いじゃん良いじゃん、お前がそういう風に思ってるって知ったらひっしーも喜ぶって。ひっしーのこと、超好きなんだなー」
「‥‥‥大好き」
「はーい、御馳走様でしたー。あー、愛し愛されるって良いなぁ。二人が仲睦まじいと俺も幸せ」
「も、何だよそれ‥!」
「正直、羨ましいんだよね。そんなに深く恋愛したことないし。良いなぁ‥‥俺も、そこまで好きになってくれて、好きでいられる相手に出会いたい。お前はこれから、ひっしーと一緒に色ーんなこと経験してくんでしょ。身も心も曝け出すのは恥ずかしいかもしんないけど、とーっても有意義な時間になると思うよ。いつか“そういうこと”も“愉”しめると良いな、ひっしーと」
「ぐ‥‥!俺の話はもう良いよ‥!拓真も、彼女作れば!」
「まぁねー。でも、現実はそんなに上手くいかないってば。所詮、いっつも“良い人”止まりだからさ。‥‥さぁて、今日も楽しく演りますかー」
夕べは強引だったが、普段は遠慮なり我慢をしているかもしれない
それでも、“互いに同じ気持ちになった時に”と二人は約束をした
少し頭の整理がついたユイは、菱和の深い愛情を自分だけが独り占めしていることを改めて自覚し、拓真の“アフターフォロー”は功を奏する形になった
拓真にとっては二人の仲の良さを知る良い機会となり、今後も見守っていくことを決めた
***
風呂掃除を終えたアタルがリビングへ戻ってくると、菱和がキッチンで煙草を喫っていた
早速自分も、と、先程のように菱和の横に並ぶ
「解決したか?」
「‥どうにか許してもらいました」
「そっか。ははっ。お前ら、案外進んでたのな。意外だったぜ」
「‥‥、ベロチューって、進んでるんすかね」
「‥は?ベロチュー??何だよ、それしかしてねぇのか?」
「うん」
「っマジかよ!超~健全じゃねぇか!!俺なら、ベロチュー止まりだったら堪んねぇぜ‥‥お前、大丈夫なの?溜まったりしねぇ?」
「元々、そんなに性欲ないんすよね。あいつもまだそんな気ねぇみたいだし、あいつが望まない限りは必要以上求めるつもりねぇっす」
「うわぁ‥‥‥ピュアあぁ‥‥やべぇ、涙出そ‥」
「そんな、大袈裟な」
「いやいや、なまら良い話聞いた。そっかそっか、うんうん‥‥」
「お騒がせしてすいませんでした」
「なんも。これからもそゆことはあるだろ、きっと。俺らで良ければ中入るからよ。遠慮なく使ってくれ」
「うん。ありがと」
「おう。‥‥‥ユイとたーは、地下か?」
「はい、多分居ると思います」
「‥よっしゃ。お前、ちょっとあっち座って待ってろ。髪弄るぞ」
「‥‥ああ‥‥‥うん‥‥はい」
思い出したように菱和の髪を弄ると云い出すアタル
菱和は煙草を喫い終えると渋々カウンターの椅子に座り、今日もアタルに散々弄ばれた
ユイと拓真が地下室で談笑していたところ、菱和の髪を弄り終えたアタルが扉を開けて入ってきた
「待たせたな。なんか演っか」
「遅ーい、二人とも!」
アタルに続き、納得がいかないような面持ちの菱和が怠そうに部屋へ入ってくる
「なに、ひっしーの髪いじってたの?」
「どーよ?今日もなかなか良い出来だぜ」
ドヤ顔のアタルは、菱和の肩に腕を回した
「良いねー、昨日よかファンキーじゃん」
「うん、キマってる!!」
「だろー?」
「似合ってるよ、ひっしー」
「‥‥‥‥‥」
アタルが髪を弄り慣れているのは納得したが、『似合っている』と云われてもちっともピンと来ない菱和は何とも渋い顔をしていた
楽器を弾いて気を紛らわせるしかない───そう思い、昼食の時間まで一心不乱にベースを弾き続けた
***
昨晩の唐揚げが見事に“丼”に様変わりした昼食
ジューシーな鶏肉と、甘辛い味付け、半熟の玉子は、正しく“親子丼”のような風味だった
空腹だった四人は一気に掻っ込み、あっという間に平らげた
合宿中の食事を堪能出来るのは、今日の夕食と明日の朝食のみ───明日は、帰宅の日だ
菱和は冷蔵庫を物色し、食材を上手く使い切れる献立を考え始めた
他の3人も帰宅に備え、部屋の掃除や私物の片付けをする
その後は再び地下室で楽器を触る算段でいたが、気付けばそろそろ“良い時間”になっていた
「おいお前ら、早えぇとこ海行ってこいよ」
アタルが声を掛けなければ、タイミングを失っていたかもしれない
ユイも菱和もはっとし、時計を見た
「わ、もうこんな時間!陽が暮れちゃう!」
「ほんとだ。行っといでよ。ひっしー、米は研いであるんだよね。なんかやっとくよ」
「ああ、メモしといたから適当に頼むわ」
「寒いだろうから、あったかくしてけよ」
「うん!行ってきます!」
ユイと菱和は、いそいそと合宿所を後にした
- トラックバックURLはこちら