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ガレキ

BL・ML小説と漫画を載せているブログです.18歳未満、及びBLに免疫のない方、嫌悪感を抱いている方、意味がわからない方は閲覧をご遠慮くださいますようお願い致します.初めての方及びお品書きは[EXTRA]をご覧ください.

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  • 05/03/10:45

159 drinkare

「‥あのバンドの『ファンの女食ってる』って噂は、ホントだったのか?」

「みたいすね」

「お前は、食わなかったのか?」

「‥‥何度か出待ちっぽいのに囲まれたことあるんすけど、基本楽器弾いたらすぐ帰ってました」

「ほんっっっと真面目よな、お前」

「そうすかね‥‥幾らファン?とはいえ、どこの誰かもわかんねぇ女とヤるのは無理っす」

「じゃあ、どこの誰だかわかってたらヤれるってことか?」

「どうなんすかね‥‥よくわかんねぇっす」

 

「───‥‥‥‥お前、童貞卒業したのいつ?」


「ちょ‥、なに聞いてんの!?」

ユイは、飲んでいたプッシーキャットを噴き出した

「いやー、今ならどんなことでも答えてくれそうな気がしてよ。云いたくなかったら云わなくても良いぜ、別に」

アタルはニヤニヤしており、拓真も菱和の女性遍歴には興味がありそうな様子
だが、ユイの顔は若干曇った
グラスに残っていたハイボールを飲み干すと、菱和は首を傾げながら云った

「‥‥いつだったかな‥‥‥‥‥中学のとき、かな。‥‥や、でもアレを“卒業”と云ってしまって良いもんかどうか‥‥」

「なに、なんか事情があるの?」

「よくわかんねぇけど、全然記憶に無くて」

「覚えて、ないんだ?」

「‥‥とにかく、色々あったっぽい」

「“っぽい”っていうのは、誰かから詳細を聞いたってこと?」

「ん。当時つるんでた奴がゴチャゴチャ云ってた。もうそれも覚えてねぇんだけど‥‥」

菱和自身もよくわかっていない“裏事情”
拓真の問いにも、歯切れの悪い返事しか出来ないでいる

「その“色々”が聞きてぇんだけどなぁ‥‥ま、覚えてねぇならしゃあねぇか。で、そのヤった相手とはそっから何かなかったのか?」

「それっきり」

「そういや前にも云ってたな、『女と付き合ったことない』って」

「うん、ほんと興味なくて。女って、面倒臭せぇし煩せぇし。“色々あった”所為もあって余計苦手で。そういう奴ばっかじゃねぇってのは、わかってんだけど」

「煩わしく思うのは、何となくわかるわ。やれデートだの記念日だのっていちいち面倒臭せぇんだよな。それなら一日中ギター弾いてた方がよっぽどマシだぜ」

「そんなだから、付き合ってもすぐフラれるんだよねー」

「ばっか、俺は優しいの!“来るもの拒まず、去るもの追わず”なんだよ!どの女も、最初は『ステージでギター弾いてるのがカッコイイ』とか『ずっとギター弾いてて欲しい』とか云うんだよ。でもそのうち『私とバンドどっちが大事なの』とか云われてよ」

「そこで『バンド』って云っちゃうんだよね、いっつも。そういや、一回スタジオに怒鳴り込んできた人いたっけね」

「あー、そんなこともあったな!懐かしいなー、もう顔も名前も覚えてねぇけど」

「今まであっちゃんが付き合ってきた人は、完全にルックスに騙された感あるよね。あのときも、『こんな人だと思わなかった』とか云われて思いっきりビンタされちゃってさー」

「‥軽く修羅場だな、それ」

「何だよ!俺の所為かよ!?大体、一回ライヴで見掛けたからって俺の何がわかるってんだよ!」

「そりゃそーだけどさ、お付き合いするんなら大事にしないといけなくない?」

「俺は『構ってやれねぇ』って云ったんだよ!向こうが『それでも良い』って云うんだから仕様がねぇだろ!それで『こんな人だと思わなかった』って、堪ったもんじゃねぇよ」

「まぁ‥‥疲れますね、そりゃ」

「もう暫く要らねぇわ、そういうのは。女とデートするよか、お前らといる方がよっぽど楽しいっての」

拓真も菱和も、アタルの言葉に軽く笑った

 

「───おい、大丈夫か」

桃色の話題には特段耐性が無く、会話に参加せず禄に反応もしないでいるユイを、アタルは一瞥した

「‥‥‥何が」

「‥ああ、お前にゃまだ早かったか?こういう話」

「別に。俺抜きで話続けなよ」

そう云って、ユイは目を細めた

「ユイも全っ然興味ないもんね、そういうの」

「して、どうせお前はまだチェリーだよな」

「っ!うっさいな!関係無いだろ!!あっちゃんと拓真はどうなんだよ!?」

「愚問だ」

「俺は‥‥‥‥内緒」

「何だよそれ!ずるい!!」

拓真とアタルに関しては、“云わずもがな”なのだろう
菱和も、記憶が無いだけで経験済みのよう
ただ一人、“確定”であるユイは、蚊帳の外にいる自覚があり膨れっ面をした

 

「───‥ほんとに童貞なの」

菱和が意地悪そうな顔をし問うと、ユイは目を真ん丸にして赤面し、口を結んだ

「‥‥今のも愚問だったみてぇだぞ?」

「!!‥何だよっ!チェリーでも何でも良いだろ!?」

「ゆーい。今の発言、『自分はチェリーだ』って認めたようなもんだぞ」

「‥なぁ゙っっ‥‥!!?」

「ぎゃはははは!!お前、マジで面白ぇー!!」

「っははは!あははは!!」

「───~~~~~~~っっ!!!」

堪らず、バカ笑いする拓真とアタル
声にならない唸り声を出しながら、ユイは顔を真っ赤にして憤慨した

ふと視線に気付いたユイがそちらを見遣ると、菱和と目が合う

「──────っはははは‥‥、‥ふはははは!」

二人は暫し見詰め合っていた、が、徐々に顔を歪め、菱和も声を出して大笑いした
菱和が声を出して笑う機会は、滅多に無い
腹を抱えて笑う菱和の姿をほぼ初めて見る拓真とアタルは、思わず仰天する

「うわ、笑ってるひっしーめっちゃレア」

「‥‥何だよ、まさかの笑い上戸か?」

「わかんねぇすけど‥‥‥っはは‥‥今、めっちゃ楽しいっす」

「そりゃ良いこって。酒の“あて”にゃちょうど良い話題だった、かな?」

「あっちゃん、いじめになるからもう止めなよ」

「いじめじゃねぇよ、事実じゃんか」

「まぁ、そう‥‥みたいだけどさ?」

「‥‥くっ‥はははは‥‥!」

「ふっはははは!!」

再び、バカ笑いの波が来る
ユイは仏頂面をし、ボソリと呟いた

「‥‥もうみんな嫌い」

「悪り悪り。でも良いじゃん、チェリーでも。経験ありゃ偉いってもんでもねぇんだから」

「そうそう。節操無しよりは全然マシだよ、ね?」

拓真に同意を促された菱和は、目尻を指で軽く拭いながらユイを見据える

「‥‥‥、“好きな奴”なら、そんなんどうでも良い」

「‥‥だってよ、ユイ」

菱和の云う“好きな奴”───アタルに指摘された途端、ユイはまた赤面した

「ま、いざ“そういうこと”になったらひっしーに全部任せりゃ良いんじゃねぇの?」

「‥‥っつっても、ほぼ未経験みてぇなもんすけど‥」

「記憶にねぇからか?それはそれでちょうど良いじゃんか!“初めて”の気分味わえんだろ。なーに、同性同士の方が“ツボ”わかるだろうし、楽勝だべ!」

「宜しく御指導御鞭撻の程を‥‥」

「承りました」

「‥な、勝手に決めるなよ!!」

下ネタについていけないユイはすっかりおいてけぼりを食らう
バカ笑いする3人を、恨めしそうに眺めていた

 

***

 

「あっちゃん、も一杯ちょうだい」

「おー、気に入ったか?」

「うん。美味い」

菱和が空になったグラスを手渡すと、アタルは上機嫌で2杯目のハイボールを作った
ウイスキーを炭酸で割ったハイボールは、ストレートよりも若干度数が下がる
炭酸の心地が良く、菱和は堪く気に入ったようだ

なるべく下ネタを封印しつつ、四人は暫し談笑した
が、

「‥ね、アズ大丈夫?ちょっと、酔ったんじゃない?」

会話を続ける中、ユイはいち早く菱和の口数が減っていることに気付いた

「‥‥んー‥‥そーかな‥‥‥」

「キツかったか?」

「んーん。美味いっすよ。も一杯貰えますか」

再び空になったグラスをアタルに手渡す菱和
思いの外ハイペースで飲んでおり、実はこれで4杯目のハイボール
愉しんでいるところに水を指すのも気が引けるが、これ以上は明日に残るのではないかと、ユイは危機感を募らせる

「も、寝ようよ。具合悪くなったら大変だし」

「‥‥んー‥ああ、そういや明日海行くんだったな。悪い」

菱和はユイの頭をぽんぽん、と叩いた
顔色は普段と変わらないが、酔いが回っている所為か、その目はとろん、としていた

「いや、それは良いんだけどさ‥‥」

「よっしゃ。俺らももう寝るべ。片付けはやっとくから、先にひっしー連れてけよ」

「う、うん。じゃ、おやすみ‥‥アズ、行くよ」

「んー、‥‥また明日」

「はいはーい、おやすみー」

ユイは菱和の腕を自分の肩に回し、寝室へと促した

 

「アズ、だいじょぶ‥?」

「んーー、何が」

「‥もう、酔っ払い」

寝室に入るや否や、菱和はベッドへダイブした
溜め息を一つ吐いたユイは菱和の身体に布団を掛けてやり、まだ片付けをしている拓真とアタルがいる階下へと向かおうとした
ドアに手を掛けようとしたところ、菱和が徐に起き上がった

「───‥‥唯君。ちょっとこっちおいで」

「‥“ただしくん”!!?」

いきなり本名で呼ばれたユイは、思い切り振り返った
菱和がユイを“タダシ”と呼んだのは、これが初めてのことだ

「‥もー、寝なよアズ‥‥酔ってるんだか、ら‥」

「良いから早く来いって」

上体を起こし、掌を上にして仰ぐように“来い”と合図し、低い声でユイを呼ぶ菱和
その目は、完全に据わっていた
拓真とアタルの応援に向かいたいが、酔っている菱和の行動は未知数で、一体何を仕出かすかわからない
ひょっとしたら、殴られるかも───ユイはビビりつつ、菱和のいるベッドへゆっくりと近付いていった
手の届く距離まで辿り着くと、菱和はユイの腕を掴み、ぐっと引っ張り寄せる

「───ぅわあっっ!!」

そしてそのまま、自分の胸へと抱き止めた
ユイがぶつかった反動で二人はベッドへと倒れ込み、菱和はユイに頬擦りする

「‥んー‥‥ユイ‥めんこい」

酔っている人間の力とは思えないほど、菱和のユイを抱く力は強かった
振り解こうにもがっちりとホールドされ、全く身動きがとれない
ユイは軽く混乱し、無我夢中で抵抗をする

「も、寝なってば‥!」

「‥‥‥‥‥、じゃあ、」

「あ‥っ!?」

今度は、視界がぐらりと揺れる
気付けば、ユイの身体は菱和に跨がる形になっていた

「‥お前からして。そしたら寝る」

菱和は自分の唇を指差し、不敵に笑んでいた
『自分からキスをしてくれれば大人しく寝る』という交換条件の提示にユイはまたしても混乱し、ただただ赤面して菱和を見下ろした
剰え、手首をがっちりと捕まれており、逃げる隙はほぼ無いと云っても良い状態だ

このままこうしていても、きっと菱和は云うことを聞いてくれない───そう思ったユイは意を決し、菱和へと顔を近付けた

「‥‥目ぇ閉じて」

「‥‥‥‥」

「っ早く目ぇ閉じて!」

悪戯に、愉しげにユイを見上げる菱和
ユイが声を上げると、菱和は漸く、ゆっくりと瞳を閉じた

軽く息を飲み、ユイはそっと菱和にキスをする
ほんの少し唇が触れただけの、軽いキスだった

「‥‥‥、それで終わり?」

菱和は、不満そうにそう呟いた
約束は果たしたのだから、自分の役目は終わり
そう思ったユイは抗議しようとした

「‥も、俺ちゃんとしたよ!だから早‥───!!」

刹那、菱和はユイの頭を掴むとぐっと引き寄せ、強引に唇を押し付けた
そして、食むように何度もユイにキスを繰り返す
顔が離れたかと思えばまた視界は揺れ、今度は菱和がユイに覆い被さった
徐に伸びてきた無骨な手はユイの小さな手に重なり、もう片方の手はふわふわの髪の毛に絡まる
ユイの混乱はピークに達し、されるがままになっていた

「───‥ユイ」

荒く、乱暴で、甘い口付けの隙間
溶けるような吐息混ざりの声で名前を呼ばれ、ユイの心臓が跳ね上がる

「‥口開けて」

それは、触れるだけに踏み止まらないキスへの甘美な誘い
何度も交わした普通のキスでさえ、まともに受け止める余裕は未だにない
ユイにとって未知の領域───唐突に訪れた“ベロチュー”の機会に、益々混乱する

「や、む、無理‥‥っ」

「‥‥‥、‥‥」

とろんとした目でしっとりとユイの瞳を捕らえたまま、菱和は舌先でユイの唇を舐めた
ユイは咄嗟に口を固く結んだが、輪郭をなぞるように這う舌は『開けろ』と促してくる

酔った勢い
欲望に塗れた漆黒の瞳
甘い唇
どんな感覚が待ち受けているのか全く想像がつかないが、“求められている”ことに無性に心臓がざわつく

 

吸い込まれ、る──────

 

ユイは、困ったような顔をしながら僅かに口を開けた
菱和はふ、と笑むと、震える唇を親指で何度か優しく撫で、ユイの口を覆うように唇を重ね、ゆっくりと舌を絡ませた

「‥ふ、ぁ‥っ‥‥」

───お酒くさい

嗅ぎ慣れた香水と煙草の香りを、アルコールの匂いが掻き消していく
逃げ場の無い口内に侵入する舌は夢中で求め続け、ねっとりと、しつこく、何度も何度もユイの舌を撫でた
濡れた唇が隙間なく密着し、互いの唾液が交ざり合う水音と、溜まったそれがこくりと喉を通る音が聴こえてくる

───な、に、これ‥わけわかんなくな、る

官能的な刺激に全身が支配され、情欲塗れの濃厚な愛撫にユイの脳内は次第に麻痺し、抵抗する気はすっかり失せ、蕩けていった
執拗で淫らな音が止む気配はなく、悪戯に菱和を昂らせる

 

「───ぎゃあっ!!!」

無骨な指先がTシャツの中へするりと侵入し、脇腹辺りを撫でてくる
ユイは擽ったさに身を捩らせた

「ちょっと、何してんの‥!?」

「‥‥お前、美味そう。食いたい」

菱和は妖艶な笑みを浮かべ、切れ長の眼を細くさせた

「食う!?って‥‥や、やめっ‥!」

「動くなよぉ。食えねぇだろぉ」

「ちょ、待っ‥!!」

「待てねぇ」

菱和の手はユイのTシャツを捲り上げつつ、どんどん上へと伸びていく
麻痺していた脳内は瞬時に冷静さを取り戻し、ユイは必死で抵抗を試みた
だが、菱和にマウントを取られていては出来得る抵抗など高が知れている

先程の3人の会話が頭を過る

自分だけが“未経験”だという恥辱
“好きな奴”が相手なら、そんなことは『どうでも良い』と云い放った菱和
ユイにとっては有り難く、嬉しい話だ
だが、

何の覚悟も準備も出来ていないのに“食われてしまう”というのか
菱和は、酔った勢いでヤれてしまうというのか
求められるのは嬉しいが、“初めて”がこんな状況で訪れるとは───あまりの急展開に様々な感情が錯綜し、ユイの頭の中はぐちゃぐちゃになる

“慣れてない”なんて、嘘吐き───

「アズ──────!!!」

ユイは堪らず目を瞑り、縋るように叫んだ

 

「───‥‥‥‥‥あれ、」

ユイが叫んだ途端、菱和の動きがピタリと止んだ
待てど暮らせど何の刺激も起きない変わりに、菱和の身体の重みがずしりとのし掛かってくる
不審に思ったユイは、そっと目を開けた

「‥アズ。‥‥アズ?」

「‥‥‥‥くー‥‥」

どうやら、菱和は力尽きたようだ
先程の騒動などまるで無かったかのように、静かな寝息が聴こえた

───ええええええ!!!

 

「たっ、拓真ぁ、あっちゃあぁんっ‥!」

片付けを終え、ちょうど階段を昇っていた拓真とアタルがユイの声に気付き、扉を開ける

「なーにー、呼んだ?」

「なんだお前ら、何してんだ?」

「ちょ、アズどかして‥‥っ」

二人が室内を覗き込むと、ベッドの上で菱和の下敷きになっているユイがじたばたしていた

「‥おやおや‥‥」

「寝ちゃったの?ひっしー」

拓真とアタルは菱和を引き剥がし、ベッドへと仰向けに寝かせた

「っつーか、何でこんなことになってんのよ?」

「‥知らないよ!!も‥大変だったんだから‥‥!」

漸く解放されたユイは肩で息をし、すやすやと眠る菱和を畏怖の目で見遣った
乱れたベッドやユイの顔を見て何となく察しがついたアタルは、ふ、と笑みを零した

「こいつ、酔ったらこんなんなるのな‥‥いつものクールな感じと全然違げぇじゃん」

「お酒の力って、怖いねー」

ユイの修羅場を他所に、拓真も呑気に呟く

「お前、どうする?ここで寝るか?それとも別な部屋使うか?」

「同じベッドで寝たら、また身動き取れなくなっちゃうかもねー」

野次られたユイは赤面した後俯き、ボソリと呟いた

「‥‥そこのソファ使う」

「何だよ、ベッド余裕あんぞ?」

「‥ソファで寝るのっ!!」

未だ早鐘を打つ心臓が早く治まらないかと、ユイは夢中で声を上げる
アタルは、ぷっと噴き出した

「‥‥ま、こいつももう朝まで起きねぇだろうし、大丈夫だろ。じゃあな」

「おやすみ、ユイ。よい夢を」

拓真とアタルは、ニヤけ顔で部屋を去っていった

 

しんと静まり返る室内
ベッドで爆睡する菱和
口内に残る舌の感触
欲情した瞳
乱れたシーツ
濃厚な余韻
求めてきた手

決死の覚悟もただの取り越し苦労に終わりほっとするも、この気持ちをどう昇華しろというのか───

「‥‥アズのバカ」

ユイは膨れっ面で菱和に布団を掛けてやると、毛布を携えてソファに深く項垂れた
徒労感でいっぱいだったが、眠気が一向に訪れなかった

 

***

 

翌朝

目を覚ました菱和は起き上がり、ボサボサの髪をざっと掻き上げた
寝惚け眼で室内を見回すと、ベッドに自分が居る他は何もなかった
ふと目に入ったソファの上に、畳まれた毛布が置いてある

「───‥‥‥‥‥」

酒は抜けているが、起き抜けの脳はぼーっとしており、夕べの記憶は途切れ途切れ
取り敢えず、煙草が喫いたい───菱和はベッドから出て、リビングへ向かおうとした

 

「あ、おはよー」

「よう」

「‥‥はよ」

リビングには起床した3人が既に揃い踏み、朝食を摂っている最中だった
拓真とアタル、階段を降りる菱和は朝の挨拶を交わしたが、ユイだけは菱和と目を合わせようとしなかった
わざと菱和に背を向けるようにし、パンを口に運んでは必死に咀嚼している

様子がおかしい───そう思った菱和は、階段を降りきったところで首を傾げながら問う

「‥‥‥‥‥俺、夕べなんかした?」

「いや、別に。な?」

「うん。ね?」

「‥‥‥‥‥‥」

拓真の同意にユイは返事をせず、口をもぐもぐさせている

やはり、様子がおかしい
俺、絶対なんかやらかしたな───そう直感したところ、わかりやすい反応をするユイを一瞥したアタルはコーヒーを啜りながら菱和に尋ねる

「覚えてないのか?夕べのこと」

「‥‥‥ここで、チェリーがどうのって話したとこまでは覚えてっけど‥‥‥‥」

ボリボリと頭を掻き、菱和はそう呟いた

「───ぶはっ!!!あははは!!お前、サイコーだな!!」

「そこだけ覚えてれば十分じゃない?‥‥っく、あはは!!」

拓真とアタルは、堪らず噴き出した
菱和は眉を顰め、どうしても思い出せない夕べの記憶を必死に辿った

「‥みんな大っ嫌い」

恥辱を蒸し返されたユイは、暫しの間不機嫌そうに過ごした

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