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157 träningsläger⑤
「あー楽しかった!‥‥さぁて、地下室行こっか?」
「うん!行こ行こ!」
「‥あ。お前、今日一日その頭で居ろよ」
「‥‥‥‥うぃす」
菱和の髪の毛を散々いじくり回した後、一同は楽器を触るべく地下室に向かった
拓真とアタルはヘアワックスでツンツンにし、いつものスタイルで足早に地下へ向かった
ユイもアタルにピンで留めてもらい大層ご満悦な様子だが、何度鏡を見ても「自分ではないようだ」と思わざるを得ないヘアスタイルになった菱和は一人浮かない顔をしていた
地下への階段を降りる足取りが重いことに気付いたユイが、菱和に声を掛ける
「どしたの、アズ?」
「‥‥‥‥、変じゃねぇ?」
そう云って、納得しない面持ちで毛先を軽く触る
ユイはにしし、と笑みながら返事をした
「全っ然!超似合ってる!あっちゃん、ほんと髪いじるの上手だよね!」
「上手いとは思う、けど‥‥なんか、落ち着かねぇ」
渋い顔をする菱和
特に不満はないものの、初めて派手に弄られた髪と、それにそぐわない自分の無愛想な顔の取り合わせのアンバランスさを否めなかった
「‥もぉ、そんな顔しないで!超似合ってるってば!」
「‥‥は‥そぉ‥‥‥」
「ねぇねぇ、俺の髪はどぉ?」
ユイは陽気に自分の毛先を触り、菱和に感想を求めた
髪は全体的にヘアワックスを馴染ませており、所々にピンが留められ、ぴょんぴょんと跳ねている
───なにが「どぉ?」だ、畜生
昨晩同様、加虐心が芽生えた菱和はユイの手首を掴んで引っ張り、地下へと向いていたユイの脚を止めた
「───ゎ、っっ‥!!」
ユイは、菱和の胸板へと思い切り顔をぶつけた
菱和はそのままユイを力一杯抱き締め、耳元でボソリと呟いた
「‥めんこい」
髪を弄る習慣がないユイの新鮮な姿に対する、率直な感想だった
だが、息苦しさの中に反響する低い声が若干苛ついているように聴こえたユイは、戸惑いながら菱和の様子を窺った
「え、な、なに‥なん、か、怒って、る‥‥?」
「‥別に」
菱和は、更にぎゅう、と力を込めた
「も、苦し、ってば‥!!離してよ‥!」
「やぁだ。めんこいから離せねぇ」
「何だよそれ‥意味わかんない、‥!」
「褒めてんだろ、めんこいって」
「わかったからぁ‥!も、早く地下行こって‥‥!」
がっちりホールドされた腕は、ユイの力では到底振り解くことは不可能
夕べ、“覚えてろよ”と思った
その思いをぶつけるように、菱和は少しの間ユイに“嫌がらせ”を続けた
***
「───じゃ、今日は亜実の結婚式の余興の曲決めて演りてぇんだけど‥‥‥“To Be With You”とかどうかなと思ってたんだよな」
「おおー‥ふぅーん‥‥でもあれって、失恋した女の子を励ます歌じゃなかったっけ?」
「英詞だし歌詞の意味なんざ誰も知らねぇよ、多分。それに、“To Be With You”が『君と一緒に居たい』って意味だからちょうど良くねぇかと思ってよ。一応、結婚式だし?」
「『あ、これ聴いたことある』って思うくらいかな、きっと!」
「知名度はあるもんな」
「な。んで、原曲みたいにしっとりバラードじゃなくて、ちょっとアレンジしても良いかなーとか」
「あ、それ良い!“ALLiSTER”みたいにロックっぽく演ってみるとか!」
「楽しそうだね。‥演るのは、一曲だけ?」
「余興の時間が15分くらいなんだと。だからあと2曲くらい‥‥亜実のリクエストは、“FREEWAY”だってよ。俺らの演ってる曲ん中でいちばん好きだから、って」
「へぇー!亜実ちゃん、結構シブいね!」
「‥“ノリノリ系”が好きなんすか、亜実さんは」
「そーそー。テンポ速めで縦揺れ出来るのが良いみてぇ」
「あっちゃんとおんなじ好みじゃん!流石、姉弟だね!」
「あんなのと好み同じでもちっとも嬉しくねぇや‥‥」
「ふふ‥‥。じゃあその2曲は決まり、で良いかな?」
「うん」
「あとの1曲は、演りながら決めるべ」
「おっけー!」
「よっしゃ。したら、“To Be With You”から演ってみっか」
地下室で膝を付き合わせて余興の曲を決める四人
“To Be With You”はMR.BIG珠玉のバラード
拓真の云う通り、失恋した女の子を励ます歌詞となっている
『誰よりも君の隣に居たいのは、僕なんだよ』と、純粋で熱い想いが籠められている
“FREEWAY”はHazeのレパートリーで、Bメロが転調するアップテンポのナンバー
そのBメロこそが、亜実の“ツボ”をがっちりと掴んでいる
残りの1曲も、レパートリーから“GO FOR IT”と決まった
“FREEWAY”を凌ぐハイテンポで最後まで突き進む
キーも高めで、ユイをメインヴォーカルに据えた楽曲だ
アタルの「腹減った」の号令が出るまで、四人は地下に籠って汗だくになりながら演奏し続けた
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