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ガレキ

BL・ML小説と漫画を載せているブログです.18歳未満、及びBLに免疫のない方、嫌悪感を抱いている方、意味がわからない方は閲覧をご遠慮くださいますようお願い致します.初めての方及びお品書きは[EXTRA]をご覧ください.

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  • 05/03/07:38

156 träningsläger④

「───あれ、」

リビングに降りてくると、人の気配は無かった
てっきり自分達が思いきり寝坊をしたのかと思っていたが、拓真もアタルもまだ眠っているようだ

「なんだ、俺らが一番乗りか」

「そうみてぇだな」

「‥みんな、何時まで起きてたの?」

「2時くらい、かな」

「そんな遅くまで起きてたの‥‥‥てか俺、何時に“落ちた”のか全然記憶にないや」

「1時にはそこで突っ伏してたよ」

「あ、そぉ‥‥‥‥」

「‥何食う?パンもあるし、パスタも出来るし、ゴハンも残ってるけど」

「迷うとこだなぁ‥‥うーん‥」

 

「おはよー」

「あ、拓真!はよっ!」

「はよ」

朝食の献立を考えていると、拓真が起床してきた
普段は整髪剤でツンツンにしている髪はぺたんとしており、おまけに立派な寝癖が付いている
短髪ならではの宿命に、突っ込まずにはいられない

「‥‥すげぇ寝癖」

「んははー。一応、普段はセットしてるからねー。寝起きはいっつもこんなんよ」

ほぼ寝起きのままの髪でいる自分とは、まるで裏腹
毎朝きちんとセットしている拓真の習慣と努力に、菱和は感心した
寝癖は凄まじいがテンションはいつもと変わらず、拓真はのほほんと笑った

「ちょっと、新鮮だな」

「なんか照れるなぁ。‥ところで二人とも、朝飯は?」

「これからだよ、俺らも今起きたとこなんだ。パンかパスタかゴハンかって話してたとこ!」

「そっか。じゃあ俺も‥‥朝は朝らしく、パンかゴハンにする?」

「どっちにしよっか?‥‥昨日のゴハン余ってるなら、先食べちゃった方が良くない?」

「じゃあ、白米にすっか。おかずはなんかテキトーに作るわ」

「おけ。手伝うよ。ユイ、先に顔洗ってくれば」

「うん!」

ぱたぱたと洗面所へ駆けていくユイを見送ると、菱和はさっと髪をまとめて朝食の準備に取り掛かった
拓真は寝癖頭のまま食器を出したり下拵えを手伝ったり等、菱和のサポートをした

 

かりかりに焼いた香ばしいベーコン
ふんわりとした甘い厚焼き卵
昨夜の鍋で余った白菜と茸で炊いた味噌汁からは、食欲を唆る湯気が立つ
ツナ入りの甘辛い餡が掛けられた豆腐も、昨夜の鍋で余ったものだ

「うおー、めっちゃ良い匂いすんじゃん」

欠伸をし、腰の辺りをぼりぼり掻きながらアタルが降りてきた
アタルも拓真同様、普段は整髪剤で髪を逆立てているが、元はウルフカット
髪を下ろしているアタルもまた、菱和にとっては新鮮だった

「‥おはよ」

「おう、はよ。っつーか、朝から贅沢な気分すんなぁ‥‥味噌汁の匂いマジやべぇ」

「はよっ!ゴハン、ちょうど出来たとこだよ!」

「グッドタイミングだね、あっちゃん」

配膳は既に済んでおり、あとは席に着いて食すのみ
正しくグッドタイミングだった

「食おーぜ食おーぜー」

「うぃー。頂きまーす」

「頂きます!」

「頂きます」

各自、手を合わせて朝食を摂り始めた

 

「‥‥そういやさ、」

白米を頬張るユイが、唐突に話し始める

「アズと一緒に、冬休み中にsilvit行ったらね、店長の元バンドメンバーさんに会ったんだ」

「───は、何だそりゃ!!?」

アタルは驚愕し、身を乗り出した

我妻のバンド“RiOT”は、知る人ぞ知る伝説のバンド
アタルはその元メンバーが営む楽器店に出入りしていること自体名誉なことだと感じており、驚愕してしまうのも無理もない話だった
一方、拓真はアタルほどRiOTについて詳しくはないからか、ふーんと頷くだけだった
菱和がユイの言葉の続きを話す

「我妻が『会わせたい人がいる』って云うから訪ねてみたら、ドラムのENさんって人が居て‥‥」

「でね、店長も一緒に4人でセッションしてきちゃった!」

その時のことを思い出し、ユイは満面の笑みを零した

「えーーー!元プロとセッションなんてすげぇじゃんか!俺も混ざりたかった‥‥バイトだったもんなぁ‥」

「ちくしょー、俺もバイトなんて入れなきゃ良かった!してお前ら、何でもっと早く云わねぇんだよぉ!!」

「合宿中の話のタネに、楽しみに取っとこうと思って!ね!」

目配せしてきたユイに、菱和はこくこくと頷いた
一度口の中を空にすると、ユイは“メイン”の話をし出した

「でさ、ENさんは今“ROCK-ON BEAT”の編集者さんで、“ルビジェム”の担当なんだって。そんで、俺らを“ルビジェム”に載せてくれる‥って」

「───んだよそれ!マジかよ!!」

先程よりもでかい声を出し、アタルはまた驚愕した

「元々、店長から俺らのこと聞いてたんだって。“ルビジェム”は、ENさんが自分の足で色んなとこ回って自分が『紹介したい』と思うバンドを載せてるんだってさ。で、会ったときにちょうど俺らの住んでる地域回ることになってたみたいで、」

「我妻がセッティングして会うことになった。‥つーわけなんだけど‥‥」

 

菱和はHazeのメンバーの中で唯一、我妻とプライベートで連絡を取り合う間柄
我妻が菱和を懇意にしていることも今回のオファーの要因として十分当てはまるのではないかと、アタルは改めて二人の関係の“深さ”を感じた
拓真も驚愕せざるを得ず、言葉少なに呆然とした

「マジでー‥‥嘘みたい‥‥‥」

「俺らもそう思ったよ!あの日はさ、何もかもが予想外過ぎて!」

「すげぇ話だなぁ‥‥‥。で、なんか返事したのか?」

「ううん。俺ら二人の独断じゃ決めらんねぇから、佐伯とあっちゃんに相談してから返事する‥‥って話になってます」

「そうか‥‥」

飲み込めない事実だが、事実は事実
きちんと向き合うべきだ
しかし、メンバーの意見が揃わなくては苑樹に連絡をすることもままならない
アタルは箸を置き、皆を真摯に一瞥した
アタルに倣い箸を置いた全員と目が合ったとこで、尋ねる

「───どうしたい?」

皆が思案し黙りこくる中、まずは拓真が重そうに口を開いた

「‥‥‥なんか、全然実感沸かないのと、“畏れ多い”ってのが正直なとこかなぁ‥‥そりゃあ、すごい名誉なことだと思うよ。だけど、『ほんとに良いのかな』って。いや、“良い”と思ってくれたからそういう話をくれたんだろうけど」

拓真の話に、全員が頷く
アタルは、菱和に目線を移した

「お前は?直接会って話聞いて、どう思った?」

「‥‥俺らですら“信じらんねぇ”って感じでした。“畏れ多い”ってのも、滅茶苦茶わかる。‥‥でも元プロのお眼鏡に敵ったって事実には自信持って良いんじゃねぇかな‥って。雑誌に載ることでバンドに何かしら利益が生まれるんだとしたら、全然悪りぃ話じゃねぇと思う」

「そうな。‥‥もしかしたら、もしかするって可能性も高くなるよな」

「‥“もしかしたら”、って?」

「例えばの話だけど、“このバンドがメジャーデビューする”、とかな」

「───!!」

アタルを除く全員が、顔を上げた

「そんなの、夢のまた夢の話‥」

「それが、より現実に近くなるってことだよ。‥‥バンド自体の将来性を見据えてって考えりゃ、雑誌の掲載は一手段としてアリなんじゃねぇの」

アタルがさらりと云った“メジャーデビュー”という単語は、雑誌掲載の可否と同等か、それを上回るインパクトがあった

「‥メジャー、デビュー‥‥‥」

「‥‥ほんと、夢みてぇな話」

「てかさ、あっちゃんはそういうつもりなの?あっちゃんがプロのギタリストになりたいっていうのは知ってるけど‥‥それはバンド全体の話じゃないでしょ?」

「そんなことねぇよ。『このバンドがプロになれたら』ってのは、尊がいるときからずっと考えてたよ」

「え‥‥?」

「‥‥尊とも散々話した。『プロになれたらなぁ』って。でもあいつにゃそれ以上の夢が見付かった。正直『残念だ』と思ったし、尊も俺に詫びてきたけど、あいつがどんな道選ぼうと俺にはそれを妨げる筋合いはねぇ。‥‥お前らだって、これから先バンド以外に夢中になれるもんが見付かるかもしんねぇだろ?勿論それを妨げるつもりもねぇし、『バンドとしての』ってのは、半分は“夢物語”みてぇなもんだ」

 

アタルがそこまで考えていたということを、ユイも拓真も菱和もたった今初めて知らされた
ユイと拓真は目を瞬かせ、菱和は真摯にアタルを見る

かつて尊と語り明かした夜もあったのかもしれない、メジャーデビューという夢
プロへの挑戦を虎視眈々と見据える中に自分達も含まれていたということを、3人は感慨深く思った

「‥何でもっと早く云ってくんなかったのさ‥‥」

「俺は音楽で食っていく気しかねぇけど、お前らもそうか?って云われれば、そうとは限らねぇよな、とか、変にプレッシャーかけちまったりとか、将来ほんとになりてぇものが見付かったときに邪魔になっちまうとしたらどーかなとか、人生左右するレベルの話だし、コーコーセーのお前らにはまだ早えぇかな、って思ってただけだ。事の序でだから今ぶっちゃけちまったけどよ!」

アタルは歯を見せて笑む

「‥プロ、か‥‥漠然と考えたことはあったけど、まだまだ先の話ーとか思ってた‥‥」

「そんなもんじゃねぇの?コーコーセーのうちは」

「でも、早い人はもっと早く決断するでしょ‥?」

「まぁな。でもそれも人それぞれだ。スタートが早いから成功も早いかって云われれば、それはまた別の話だしな」

「そうだね、結局は実力主義の世界なわけだし」

「ただ、元プロが身近にいるってのは強みだぞ。現に、メンバーのうち2人が元プロと接点持ったんだからな。それを考えたら、俺ら運はある方だと思うんだよな。我妻さんと接点があるひっしーがこのバンドに入ったことは、全部何かの巡り合わせ‥‥俺ら、“ツいてる”んだと思うぜ。運も実力のうちだからな」

運も実力のうち
その言葉に、拓真と菱和は妙に納得し頷いた

 

「───‥‥‥あっちゃんはさ、」

「あん?」

「‥怖く、ないの?プロとか、ギョーカイとか‥‥」

「ははっ!!俺に怖いもんなんか、なーんもねぇよっ!‥‥ま、バンド以外にもまだまだ色んな選択肢も可能性もあんだから、あんま重く考えんなよ。あくまで俺個人の夢、だからな」

にこりと笑むその顔に、畏怖など全く存在しなかった

一握りの者しか得られぬ“称号”を手にするその日まで、どれ程の時間を費やすことになるかわからない
何故そこまで、夢を追い掛けられるのだろう
何が、アタルを掻き立てるのだろう
アタルの自信は、一体どこから来るのだろう
ただ一つ、揺るぎない信念を抱いていることだけは間違いない
この自信についていけば、夢を夢で終わらせないことも可能かもしれない───ユイは、アタルの自信に不思議と勇気付けられた

「‥‥俺もね、俺個人がだよ、正直“ルビジェム”に載るようなレベルじゃないと思ってて。‥‥でもENさんが、『磨けば光る』って、云ってくれただ。だから‥‥‥‥───」

『自信を持ってください』

苑樹が掛けてくれた言葉が、甦る

「‥今まで以上に、バンドのこと、ちょっと真剣に考えたい」

ユイが真摯に言葉を紡ぐと、アタルがニヤリと笑む

「‥‥ただ皆で楽しくバンド続けられたらーと思ってたけど、俺も今の話聞いてちょっとだけ真面目に考えちゃった。‥チャンスがあるなら、逃すわけにいかないよね」

拓真はくす、と笑い、ユイの言葉に続いた

「じゃあ、OKってことで良いか?」

「‥‥名刺貰ってるんで、あっちゃんから連絡してくれますか」

「おう、任せとき!‥さて、今日は亜実の余興考えるぞ!」

「おけ!」

「早く食べちゃお!」

 

苑樹に『Hazeの“ルビジェム”掲載を依頼する』ということで話が纏まり、一同は晴れやかな気分で食事を再開した

「つーか、卵焼きうめぇ」

「ね、ふわふわだよね。流石はひっしーだわ」

「お豆腐の餡もめっちゃ美味い!」

「味噌汁も、染みるねー」

「‥どーも。‥‥‥‥髪、下ろしてても似合うすね」

「‥そーか?お前も、纏めてんの似合ってんぞ」

「‥‥そ、すか‥」

「あ!てかさ、昨日『アズの髪いじる』って話してたよね!今思い出した!」

「あー、云ってたね」

「飯食ったら、やるか」

「やるやるー!って、俺は見てるだけだけど!」

「おめぇの髪もいじってやるよ。ピンあるから」

「‥ほんと!やりっ!」

喜ぶユイを他所に、菱和の箸は進まずにいる

「‥‥‥‥‥‥」

「‥ひっしー、良い?」

合意を求めてくる拓真
ユイとアタルはニヤニヤし、見詰めてくる

「‥‥‥‥‥わかった」

どんな奇想天外な髪型にされるやら全く想像がつかず不安に思うも、観念した菱和は髪をいじられることを渋々了承した

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