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ガレキ

BL・ML小説と漫画を載せているブログです.18歳未満、及びBLに免疫のない方、嫌悪感を抱いている方、意味がわからない方は閲覧をご遠慮くださいますようお願い致します.初めての方及びお品書きは[EXTRA]をご覧ください.

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  • 05/03/11:58

153 träningsläger②

ウェルカムドリンクは、モスコミュール
菱和の分はアルコール入り、ユイと拓真の分はノンアルコールだ
本物のモスコミュールはウォッカとジンジャーエールで作られるが、ノンアルコールの方はジンジャーエールにライムジュースとガムシロップを加えれば出来上がる

「‥簡単だけど。本格的なのは夜までのお楽しみってことで」

アタルはニコッと笑い、各々にグラスを手渡した

「よっしゃー。じゃ、ひっしーの初合宿記念に‥‥」

「カンパイ!!」

「かんぱーい!」

皆がグラスを掲げ、乾杯をする
ユイと拓真は、ノンアルコールなこともあり半分程まで一気に飲んでしまった

「あー、美味いね」

「うん!飲みやすい!」

「そりゃ、ノンアルだからな」

アタルも口を付け、出来映えにこくりと頷いた
菱和も、モスコミュールに口を付ける
正月にも味わった、爽やかなライムの風味とジンジャーエールの炭酸が喉を通っていった

「どーよ?」

「‥ん。美味い」

菱和は軽く舌なめずりをした後、3人の歓迎に感謝し頭を下げた

「いやー、なんか“始まった”って感じだね」

「ふふ、ほんと楽しみ!曲演んのもゴハンも!」

「飯は楽しみだな、いつもと違ってひっしーの手料理だし?」

「腹一杯食おー!!」

「おいおい、楽しんでばっかもいらんねぇぞ。やることやって帰らにゃ」

「‥そりゃそーだけど!」

「あー、なんか腹減ったな」

「何だよ、結局あっちゃんもゴハンのことしか考えてないんじゃん!」

「んなことねぇよバカチビ」

合宿中はレパートリーの総浚いに加え、亜実の結婚式用の曲にも手を付ける予定である
山積みとまではいかないにしろ、課題はそれなりにある
ウェルカムドリンクを堪能しつつ、皆で輪になって合宿中の予定を話し始めた矢先
菱和が、徐に顔を上げた

「───‥‥‥‥そういえば、あっちゃん」

「お?何よ?」

「“例のやつ”、持ってきた」

「‥は‥‥??」

「‥‥ちょっと待ってて」

菱和はテーブルにグラスを置くと、一旦席を外した

「なに、“例のやつ”って?」

「あ、あぁ‥‥‥‥頼んどいたんだ、『曲作ってくれ』って。コードは出来てたから、メロとかリフとかアレンジをーと思って‥‥」

「‥マジで!?」

「ずるーい!何で黙ってたんだよ2人して!俺らに秘密にすることないじゃん!」

「いや、お楽しみにしといた方が良いかなーとか‥‥‥」

「ひっしーが作った曲かぁ、どんな感じなんだろー。ワクワクするなぁ」

 

───にしては、早過ぎやしねぇか‥‥?『ブランクある』とか『自信ねぇ』とか云ってやがったのに

アタルは目を見張ったまま菱和の後ろ姿を呆然と見送りつつ、横でやいのやいのと騒ぎ出すユイと拓真の声に応えていた

作曲に要する時間は、数時間から数日、数週間、数ヵ月、或いは数年───如何に時間を掛けるかは、作曲する者の腕次第だ
アタルが菱和に依頼したのは、凡そ2週間前
我妻の助力もあっただろう、だがそれを差し引いても2週間という期間は思いの外───否、予想以上に仕事が早いと感じ、アタルは只管驚愕した

「‥‥、聴いてみてくれる?」

CDRを携えた菱和が戻ってきて、皆に促した

その瞳は、自信が“ある”とも“ない”とも云えない光を放っていた

 

菱和がバンドに加入して以来、初
その感性が大いに詰めこまれた未踏の作品
その“産声”は、自分達がこれから聴き受けることになる

早く聴きたい───

ユイも拓真もアタルも逸る気持ちを抑えきれない様子で、CDRを受け取ると早速地下の防音室に向かった
菱和はモスコミュールを一口飲んでから、3人の後をゆっくりとついて行った

 

***

 

PCの作曲ソフトを用いて作られたその曲は、全てのパートが打ち込みだった

印象的なリフとドラムのパターンが重なるイントロは、菱和も違和感を覚えた変拍子
サビに入ると、リフは所謂“ピロピロ”に変化した

ベースは終始ゆったりと道を作り出しているがドラムは連打やフィルインが多用されており、拓真はイントロの段階で既に眉を顰めた

肝心のメロディーはピアノの音で奏でられており、どちらかというと高音域で朗だった

サビの盛り上がりが一度収まり、メロディーが低音になる
一息つくと、大サビへと一気に昇りつめる

イントロにも登場した印象的なリフとドラムのパターンは、曲の最後までずっと奏でられていた

 

間延びしたギターとベースの音がプツンと止み、地下室に静寂が訪れた
菱和が手掛けた曲を聴き入っていた3人は三様にして沈黙した後、入り口でその様子を静観していた作曲者に“驚愕” “感服” “称揚”といった表情を次々と向けた
3人から一斉に無言でガン見された菱和はその視線を全て受け止めるも、たじろぎ、僅かに肩を竦ませた

───‥‥、駄目、だったかな

やはり、この出来映えでは皆を満足させることは出来なかったか───そう思った矢先、切れ長の眼をきらりと光らせたアタルが、沈黙を破った

「──────‥‥お前、マジで2週間でコレ作ったのか?」

「‥‥‥‥、うん」

軽く頷いた菱和に、神妙な眼差しを向ける

「‥‥いつそんな時間あったんだよ?結構スタジオも入ってたし、こいつらと勉強もしてたろ?」

「‥、それが終わってから、我妻んとこ行って‥‥‥」

「え!ほんとに!?」

共に試験勉強をし、剰え夕食までご馳走になっていた拓真
漸く沈黙を破り、只管目を丸くした

「うん」

「‥‥俺ら、遅いときだと21時とか22時くらいまで居座っちゃってたよね‥‥‥それでも、その後silvit行ってたの?」

「うん」

「平日も?」

「うん」

「そんな、曲に手間かける時間なんて、あった‥‥?」

「‥‥毎日、コツコツ、みたいな」

「‥‥‥‥いつ寝てたんだよ?」

「2時とか3時まで作業して、その後、フツーに」

「アパート帰って、就寝?」

「うん」

「その後、起きて、フツーに学校行って?」

「うん」

菱和は、投げ掛けられる質問に淡々と答えた

「‥‥、マジでー‥‥‥‥」

拓真は気が抜けたように、身体をだらりとさせた

「お前、身体大丈夫か?」

「‥元々、睡眠時間短いから。‥‥‥‥一日だけ、作業中に意識飛んでsilvitに泊めてもらったけど。全然平気」

「んだよそれ‥‥タフ過ぎんだろ‥」

アタルも脱力し、半ば呆れたような顔をした

コード進行のみの土台に“色”を付ける作業を、菱和はたった2週間で終えてしまった
“この日”の為にわざわざ間に合わせてきたのだとしたら何ともニクい演出だと、アタルは思った

「‥‥“しっちゃかめっちゃかになるかも”みたいなこと抜かしやがって。心配して損したぜ」

「‥‥すいません。‥‥‥どう、でした?」

「どうも何も、このクオリティーのどこにケチつけろってんだ!?」

アタルはニカッと笑い、菱和に肩パンした
よろけた菱和は、目を丸くする

「たー、どうよ?」

「すげぇ好きな感じ。ちょと、リズム馴染ませんの時間掛かりそうだけど‥‥でも早く演りたい」

拓真もにこりと笑み、アタルに同意した

「‥おい、チビ。お前は?」

未だ沈黙を続けていたユイ
アタルに尋ねられ、真ん丸の瞳がきょろ、と動く

「‥“美味しかった”よ!!」

満面の笑みで、そう訴えた

「よっしゃあー。じゃ、レパートリーにすんぞー!」

「えーっと、タンタンタン、タン、タンタンタン、タンタンタン、タン、タンタンタン‥‥」

アタルは早速ギターのセッティングを始めた
拓真もリズムを口遊みながらドラムセットの椅子に座る

「アズ、すげぇっ!!この曲めっちゃ好きになりそう!!ん、んん、ん、んっんー‥‥こんな感じかな?」

ユイも意気揚々とリフを口遊み、ケースからギターを取り出した

先程の沈黙が“失望”や“遺憾”ではなかったのだと悟り、菱和は心底安堵した
軽く息を吐き、漸く室内に入ってベースのセッティングを始めた

「変拍子だからサビ以外の譜割りちょい複雑かも。タイミング良いと思うとこで分けてくれれば」

「うん。タンタン、タ、‥‥‥‥もっかいCD聴いても良い?」

「流しながらゆっくりやるべよ」

「アレンジも、もうちょい手入れたいと思ってたから知恵貸してくれたら助かります」

「おう。その辺も煮詰めるべ」

「あっちゃん、イントロのコードは?」

「E(onG#)、A、B、C#m、E」

「E(onG#)、A、B、C#m、E‥‥うん」

皆であれこれ相談しながら、菱和が“色”を付けた曲に“魂”を吹き込んでいく

 

「‥ところでよ。メロのキー結構高めだったよな?」

「そー‥だね、うん‥‥」

菱和は顎の辺りを軽く掻いた
決して歌えない音域ではないのだが、どちらかというとユイ向きだと踏んだアタル

「じゃあ、お前が歌え。詞も、お前が書け」

ユイを一瞥すると、そう云い放った

「‥え‥‥」

「そうだね。明るいし、ユイ向きの曲なんじゃない?」

拓真も、ユイが歌うことに異論はないようだった

「サビんとこって、こーゆー感じか?レガートで‥‥‥‥どうよ?」

「うん、良いかも」

「ピロピロしてんね」

「だろ。‥‥サビ前の“オカズ”、派手に欲しいな」

「じゃあ、ここら辺で1回切ろうか」

「うんうん‥‥‥‥」

3人は、CDに倣いどんどんアレンジを進めていく
メインヴォーカルと作詞を担当することになった状況をいまいち飲み込めていないユイは置いてけぼりを食らったような心境に陥り、話を進める3人に申し訳なさそうにしながらおずおずと声を発した

「‥‥‥あの‥‥」

「あん?」

「‥‥詞も、俺が書くの‥?」

「だって、まだ歌詞ないだろ。歌う奴が書くのが一番分かりやすいだろうし」

何か問題でも?
そう云わんばかりの3人の視線が突き刺さる

「いや、歌うのは全然良いんだけど‥‥歌詞は‥‥‥‥」

「英語でも日本語でも良いから、頑張って書け」

「個人の課題が出来て良かったじゃん。期待してるよー」

「‥‥宜しく」

3人は膝を突き合わせ、アレンジを再開した
ユイは楽器を触るのも忘れ、暫くの間目を瞬かせていた

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