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ガレキ

BL・ML小説と漫画を載せているブログです.18歳未満、及びBLに免疫のない方、嫌悪感を抱いている方、意味がわからない方は閲覧をご遠慮くださいますようお願い致します.初めての方及びお品書きは[EXTRA]をご覧ください.

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  • 05/03/05:57

151 合宿に行こう‐Extra‐

合宿まで、あと3日

 

23:03
silvitの事務所内に、PCを操作する音が淡々と響く
我妻は事務作業をしながら、ヘッドホンをつけて作曲に勤しむ菱和の姿を静かに見守っていた

菱和は、暇さえあればsilvitに赴いて作曲作業をしていた
『好きなときに何時でも』という我妻の言葉を真に受け、例え深夜であろうと、電話一本で我妻にPCを借りたい旨を告げ、赴いた
無論、我妻もそのつもりで『何時でも』と云い、文字通り“何時でも”事務所を明け渡した

 

『言い忘れてたけど、あの曲一音下げで作っちまった(^ω^)テヘペロ 無理しなくて良いからな!夜露死苦★☆』

CDRを受け取った2日後、アタルからこんなメールが届いた

別に怒りなどしない
ただ、もう少し早めに、出来ればCDRを渡してきた時に云って欲しかったと思った
だが、今更後に引くつもりは毛頭無い
“色”をつける作業が楽しくなってきたのもあるが、託された“想い”にどうにか応えたい───その気持ちが、一心不乱に菱和を掻き立てた

 

23:27
ふと顔を上げ、我妻はラストのスタジオ客の様子を見に一旦事務所を離れた

 

「どうも有難うございましたー」

「はいはーい。お気を付けてー」

客を見送ると、我妻は軽く閉店作業を始めた
入り口の看板を“CLOSE”に換え、ドアを施錠
スタジオの様子を確認し、イコライザーを元に戻す
レジを閉め、伝票をまとめる
店に並んだ誇らしげな楽器たちを見回してから、事務所に戻った

 

「‥‥‥‥おやおや」

コーヒーでも淹れようかと思いながら戻ってきたものの、菱和はPCの前で突っ伏していた
静かに、深く、寝息が聴こえる

我妻はくす、と笑み、電話をかけ始めた

 

「あ。もしもし、真吏ちゃん?こんばんは、我妻です」

『こんばんは。どうしたの、こんな時間に?』

「いやね、今アズサちゃんうちの店に居るんだけど‥‥‥‥実はさ、寝ちゃったんだよね」

『あらやだ。どうしよう‥‥今から迎えに』

「ああ、良いの良いの!うちは全然構わないんだ。ただ、真吏ちゃんが心配しちゃアレだなーと思ってさ。遅くにごめんね」

『そう‥‥ごめんなさいね。わざわざ連絡くれて有難う』

「いえいえ。明日、朝起こして、ちゃんと学校行かせるから。真吏ちゃんに連絡入れるようにも伝えとくね」

『ほんとにごめんなさい‥‥‥宜しくお願いします』

「うん、大丈夫。じゃあ、おやすみなさい」

 

気心の知れた同級生の顔
息子を心配する母の顔
どちらの真吏子も知っている
奇妙な偶然が齎した再会は、懐かしくも淋しくもあった
電話を置いた我妻はそっと笑むと、菱和を一瞥した

「‥アズサちゃん。奥行って寝てきなよ。ここで寝たら風邪引いちゃうよ。身体も休まらないし」

返事がない
席を外していた数分の間に、深い眠りに就いてしまったようだ
再度声を掛け、菱和の肩を軽く揺すった

「アズサちゃん。アズサちゃ───」

「‥るせぇ」

突然、嗄れた声がした
か細く開かれた眼が、我妻を睨み付ける
菱和はすく、と立ち上がり、拳を構えた

「え、ちょっと‥」

殴られると思った我妻は咄嗟に身構えたが、菱和の拳はするりとその肩を抜けた
そのまま、菱和の全体重が我妻にずしりとのし掛かる
次に聴こえてきたのは、先程と同じ寝息だった

「──────えええええー‥‥‥‥」

どうやら菱和は寝惚けていたらしく、夢の中で喧嘩でもしていたようだ

───こんな大きな身体の人間、担いだことないよ‥‥

やっとの思いで、我妻は菱和を奥の部屋まで引きずっていった
事務所の奥は6帖程の小部屋で、ソファーとベッド、机、コーヒーメーカーが置いてある
簡易冷蔵庫とヒーター、小さな流しも設置されていた
寝食程度はここで十分済ませられるが、我妻が店に寝泊まりする機会など殆ど無く、全て念の為に取り付けたものだった
何とかしてベッドに菱和を横たわらせ、身体に布団を掛けてやる

「ふー‥‥びっくりしたぁ。‥あーんど、疲れたぁ」


「‥‥上等だ‥よ。かかって、きやがれ‥───」

一息吐いていると、突然菱和が喋り出した
思わず肩を竦ませたが、寝言だと判明した途端に笑いが込み上げてくる

「‥‥ふふ。初めてここに来たときに戻ったみたいだね、アズサちゃん。‥ゆっくり休みな」

菱和がベースに触れるようになった頃、ここで寝泊まりすることが何度かあった
その時も一心不乱にベースをいじっていた
懐かしさを感じた我妻は、そっと事務所に戻った

 

***

 

───‥‥‥‥寝ちまった。くそったれ

菱和が目を覚ましたのは、翌朝7:00頃だった
いつ記憶が途切れたのかもわからず、ただ深い眠りに就いていた
目覚めた瞬間に、“ここ”が自宅ではないと気付いた
ソファには、折り畳まれた布団が置いてあった
我妻はソファで眠り、菱和の“お泊まり”に付き合ったようだ
我妻に“借り”を作ってしまったことに、菱和の心に少しだけ悔しさが募った

 

「‥あ、おはよ。朝飯買ってきたから、食べよー」

コンビニの袋を提げた我妻が部屋に入ってきた
菱和は、怠そうに頷いてベッドから出た
淹れたてのコーヒーを啜りつつ、我妻が買ってきたサンドイッチを怠そうに貪る

「ここんとこ、ずーっと遅くまで作業してたもんね。流石に疲れ溜まってるんじゃない?」

「‥‥‥、んー‥‥」

「ふふ。相変わらず朝は覇気がないねぇ。夕べ真吏ちゃんに連絡しといたから、あとで電話でもしなよ。あんまり心配掛けるようなことするんじゃないよー」

「‥‥ん」

まだ頭が働いていないのか、生返事しか出来ない菱和
ぼんやりと、煙草を口に咥える

───そういえば、夢の中に“あいつら”が出てきたような‥‥‥‥気のせいかな‥‥

霞んだ景色
懐かしい声
喧嘩の、痕
未だ眠気が抜けないまま、夢を反芻する

しゃきっとしたいのは山々だが、朝はどうしても力が入らない
しょうがねぇかと開き直り、菱和は起き抜けの煙草をゆっくりと味わった

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