忍者ブログ

ガレキ

BL・ML小説と漫画を載せているブログです.18歳未満、及びBLに免疫のない方、嫌悪感を抱いている方、意味がわからない方は閲覧をご遠慮くださいますようお願い致します.初めての方及びお品書きは[EXTRA]をご覧ください.

NEW ENTRY

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

  • 05/03/00:43

148 合宿に行こう①

2回目のデートは、3月初頭の週末に行われた

初デートの折にも話し合った、所謂“映画デート”

選んだ映画は、予てよりユイが観たいと希望していたアクション物の洋画だった
公開から日数が経っており、客足も若干減っていたので、そこそこベストポジションで観賞することが出来た
派手に一回転し炎上する軍事用ジープや高速で飛び回る戦闘機、拳銃や機関銃を乱射するけたたましい轟音が鳴り響く
普段バンドの練習で鍛えられているものの、スタジオの数百倍はあるだろうかという音響の迫力に耳の適刺激が追い付かない
上映時間前に売店で購入したチリポテトを摘まみながら、ユイはスクリーンに食い入る

隣から無骨な手が伸び、チリポテトを摘まんで戻っていく
その手を目で追っていくと、足を組み、肘掛けを使って頬杖をついてだらしなく座る菱和がいる
かり、とチリポテトを噛む音が微かに聴こえてきた

ブラックジョークがツボにハマったらしい横顔が、静かにふ、と笑んだ
途端にとく、と心臓が鳴る
視線を感じた横顔がふとユイの方を向く
目が合うと、今度は心臓がどく、と鳴った
菱和は口の端を少し上げ、徐に指先をスクリーンへと向けた
意地悪そうな眼が、『俺のカオより映画観ろ』と云っている
ユイは慌てて、スクリーンに目を移した

 

***

 

「───やっぱ、ああいうのは観ててスカッとする!」

「戦闘シーン、良く出来てたな。わりと楽しかった」

「うん!楽しかったぁ‥‥コレにして良かった!」

「あの軍人のオッサン、超カッコ良かったな」

「ほんと、良い俳優さんだったよねー‥‥」

感想を延べつつ、2人は映画館を後にする

 

時刻は14:00を回っていた
少し早めの“おやつタイム”にしようとめぼしい喫茶店を捜して入店し、ユイはアイスロイヤルミルクティーとガトーショコラ、菱和はホットとベルギーワッフルを注文した
頼んだ商品を一つのトレイにまとめるも会計は別々に支払い、適当に席を見つけて座る

 

「そろそろ“合宿”の計画立てないとなー‥‥」

ミルクティーを啜りながら、ユイはぼんやりと呟いた
菱和はベルギーワッフルを齧りつつ、ゆるりと首を傾げる

「‥‥‥‥がっしゅく?」

「‥あ、アズは初めてだもんね。前にちらっと喋んなかったっけ、バンドの強化合宿のこと。毎年春休みにやってんだ」

「ああ、あっちゃんの親戚の別荘でやってるってやつ?」

「そーそー!大体三泊四日なんだけど、行けそう?」

「行けんでねぇかな、多分」

「ほんと!てか、合宿っていうよりちょっとした旅行って感じ?めっちゃ楽しいんだ!夜中にドライブしたり変な時間にカップラーメン食ったり、あっちゃんがカクテル作ってくれたりしてさ!」

菱和はふと、ベルギーワッフルを咀嚼する口と付着した砂糖を払っていた手を止めた

「‥‥お前、酒飲めんの?」

「ぜーーーんぜん!超弱い!へなちょこ!何年か前にジュースと間違って飲んだことあるんだけど、一口飲んだらすぐ寝ちゃった!」

「弱っ」

ドヤ顔で下戸だと明かされ、菱和は苦笑しつつ突っ込んだ

「いや、あんとき飲んだのブラッドオレンジジュースみたいな色のやつでさ、あんまキレイだったから、つい‥‥‥カクテルの名前ももう忘れちゃったけど」

「まぁ、ジュースみてぇな酒もあるもんな」

「そうそう!皆に『こんなので酔うなんて』とか云われてさー。兄ちゃんもあっちゃんも、‥‥あんま大きい声では云えないけど実は拓真も結構飲めるんだよね。俺だけお子ちゃまなんだ。やっぱり、どうしても」

「‥‥そこが良いんじゃねぇの、お前は。めんこくて」

菱和はユイの“めんこい”ところを長所と捉えているが、それはユイが理想とする自分の姿とはだいぶ掛け離れていた
体格も性格も味覚も“お子ちゃま”なことは自覚しており、周囲が子供扱いすることも長年に渡り常態化しているもの
『もっとカッコ良く、男らしくなりたい』と思うも、成長や生まれ持った素質はこれ以上どうすることも出来ず、悔しいが“この辺が限界”なのだと感じている

───わかっちゃいるけど、“そこ”に留まったままは釈然としないんだよ‥‥

「‥‥どうせペットか何かだと思ってんでしょ、皆して」

ユイはやさぐれ、ストローを吹き始めた
ミルクティーがボコボコと音を立てる

「‥‥‥‥、なんか問題あんの?」

さも当然のことと云わんばかりの菱和の態度に、ユイはいきり立った

「‥もおぉ!やっぱりそうなんじゃん!てかアズもそう思ってるってこと!?俺だってさ、好きでチビな訳じゃないし、お酒弱いのだって‥」

「冗談だって」

菱和はくすくす笑いながらユイの話を遮った

「そりゃ、お前にしたらそれが不満なときもあんのかもしんねぇけどさ。皆、お前のそういうとこが好きで、めんこがったり世話焼いたりしてくれんだろ。それって、結構得してると思うけど」

「得‥‥?」

「特別意識したり何にもしなくても、つい“めんこ”がりたくなる。そういう人柄とか人懐こさとか、それがお前の人徳だろ。そのお陰でだいぶ得してると思うけどな。‥‥‥そういや前にもおんなじようなこと話したっけ」

夏の放課後、朱け色の空、共有した“味”
“おんなじようなこと”を話した時の情景を思い出した菱和は、ゆるりと口角を上げた

「そ、だ。屋上で、話してくれた、よね。んー‥‥俺の、人徳‥かぁ」

再び、ミルクティーがボコボコと音を立て始めた
菱和の話を聞き事実を受け止めようとする顔と、やはりそれでは納得がいかないという顔が入り交じっているユイ

“めんこい”は“可愛い”とほぼ同義だが、仔犬や仔猫などの動物や、祖父母が孫を慈しむような感覚に近い表現
サイズ的にも性格的にもつい構いたくなる“めんこさ”───それはユイの良さだと周りの人間は思っており、だからこそ愛を込めてからかい、いじるのだ
構えば構うほど単純な反応ばかり返ってくるいじらしさは、その“甲斐”があると思わせる

───まぁ、それを“良し”としねぇ奴も居るけど‥‥でも別にそんなんは大した問題じゃねぇ。いちばん大事なのは‥‥‥‥

「───お前が好きな人は皆、そういうお前が、好き。‥俺も、な」

不意に訪れた“好き”に、ユイの頬は次第に紅潮していく
それに伴い、ミルクティーの音が徐々に止んでいった

すっかり常態化したからかいやいじりに愛情が籠っているのは理解している
誰しも万人に好かれることなど無いという理の中、自分の好きな人達が自分を好いてくれている
それはとても貴重で、尊く、立派な事実
胸中は複雑、しかしながら沢山の好意を寄せられているそれは限りなく幸福であると感じる

ユイは唇を尖らし、まだ少し赤くなっている頬を両手で覆った

「‥‥、人間扱いだけは、してね」

「してるしてる」

菱和は口角を上げ、こくこくと頷いた
その顔は少し意地悪そうな笑みを浮かべており、ユイは大袈裟に疑いの眼差しを向けた

「も、ほんとかなー!?‥‥ね。俺ってさ、犬に例えたら何犬?」

今度は頬杖をつき、眉を顰めて尋ねる
暫し考えた後、菱和は至極真面目な顔をして答えた

「‥‥‥‥豆柴。‥‥の、仔犬」

「あ、もぉ!!もっとカッコ良い犬種にしてよ!ポインターとか!」

「‥‥どっちにしても仔犬」

「むううぅ!!」

“愛を込め”て、菱和はくすくす笑った

 

「‥‥てかさ。アズは、ボルゾイっぽいよね」

「そうか?」

「うん。手足長いし。それか、ボーダー・コリー」

「成犬になるとでかいやつ、なのな」

「だって、でかいじゃん!あっちゃんも大っきいやつ。ドーベルマンかシェパードかハスキー」

「ふふ。っぽい。佐伯は?」

「アイリッシュ・セターか、ダルメシアン」

「“シュッ”としてる犬種か」

「そうそう!リサは、白いラブラドールかサモエド」

「サモエド‥‥なるほど。確かにチワワとかポメとか可愛らしい感じじゃねぇな」

「でしょ?‥『でしょ』とか云ったら、怒られるかな‥‥」

「良いんじゃねぇの。どっちかってと、愛玩犬タイプじゃねぇもんな。っつーか、犬ってより猫っぽい」

「あ、そうかも!ふふっ!」

「‥‥話戻るけどさ、“合宿所”はキッチンあんの?」

「うん!何だっけ‥‥“あいるらんど”、タイプ?」

「‥“アイランド”型な」

「そう!それ!すげぇお洒落なやつ!」

「そっか。じゃ、折角だからなんか作りてぇな」

「マジ!?ラッキー!わー、なんか楽しみ増えた!」

「“夜中のカップラーメン”も食いてぇけど。結構唆る」

「そうなんだよねー!なんか、めっちゃ美味しく感じるんだよねー。何でかなー、夜中だから?」

「何でなんだろな。昼間に食うより美味く感じるよな」

「ね!てか、アズもジャンクフード食うんだ?毎食手作りだと思ってた」

「食うよ。作んの超絶面倒臭せぇ日は、コンビニのポテチとガラナで済ます」

「‥ガラナ!コーラじゃないとこが良いね!俺も好き!夜中のポテチも何故か美味いんだよね、これがまた!」

「‥なんかさ、夜中のジャンクフードって、そこはかとない背徳感があんだよな」

「はいとくかん?」

「何つーか、『今ちょっと悪いことしてるかも』って感じ。別に悪くもなんともねぇのにさ」

「あー、なんかわかる気がする‥!」

「ふふ‥‥‥‥献立、考えねぇと」

「そーだね、皆で考えよ!買い物も行かなきゃだし!えーと、食材とお菓子と‥‥」

「‥カップラーメンもな」

「ふはは!だね!」

来る合宿に思いを馳せると、話は止まる気配がない
会話に花が咲き誇り、2人は喫茶店で3時間近く駄弁り続けた
合間にドリンクとおやつをもう一品ずつ注文し、それも無くなった頃に漸く店を出た

拍手[0回]

PR
URL
FONT COLOR
COMMENT
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
PASS

TRACK BACK

トラックバックURLはこちら