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ガレキ

BL・ML小説と漫画を載せているブログです.18歳未満、及びBLに免疫のない方、嫌悪感を抱いている方、意味がわからない方は閲覧をご遠慮くださいますようお願い致します.初めての方及びお品書きは[EXTRA]をご覧ください.

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  • 05/03/03:54

147 Valentine Day

暦は睦月から如月へ

 

朝、普段通りに登校するユイと拓真
駄弁りながら玄関に入り、下駄箱を開ける

「‥‥でさー、あっちゃん今年は7弦ギター買う気でいるみたいよ」

「ははは!そんなに使う機会ないのに、どうせすぐ手離しちゃうに決まって───」

開けた途端、下駄箱の中から何かが落下してきた
次々と足元に落ちてくるそれは、ピンクや赤などのカラフルな箱や紙袋だった
リボンや造花の可愛らしいラッピングに、ハート型のメモや付箋で添えられたメッセージ
2人は足元に転がるそれを暫く見つめ、やがて互いに目を合わす

「───‥‥これって、まさか‥‥」

「そのまさかですな。甘い匂いするし。てか、今日14日か」

2人が登校する前に、数名の女子生徒が下駄箱に忍ばせたチョコレート
下駄箱にギリギリ入りきる量のそれは、“モテる”という自覚が全くないユイと拓真には予想外だった

「まさか、こんなに貰えるとは思わなかったなー」

「ほんと!拓真、何個あった?」

「7個。ユイは?」

「俺も7個。おんなじだね!」

「いやー、奇特な人がいるもんだなぁ。ありがたやありがたや」

2人はチョコを鞄に仕舞い、上履きに履き替える
教室に向かおうとしたその時、ドサドサとけたたましい音が聴こえた
振り返ると、足元に落ちてきた大量の箱や紙袋を凝視している菱和がいた
音を聴いただけでも、その数は自分達よりも多いとわかる
菱和は、床に散らばった大量のチョコをただ見つめていた

「うお、すげぇ数。はよ、ひっしー」

「おはよ、アズ!チョコいっぱい!」

「‥‥‥‥おう」

困惑しつつ床に散乱するチョコを拾い、菱和もユイたちと共に教室に向かった

 

***

 

昼休み
いつものように美術準備室に集うユイたち
上田は菱和が貰ったチョコの数を数えている

「‥‥11、12。12個かぁ。大量だなぁ、持って帰んの大変そうね」

「‥‥正直、困ってる」

「予備の袋やるよ。多分全部入んじゃねぇかな。‥‥ほい」

「どーも。用意良いな」

「地味に俺、中学の時から毎年袋持参してるから。ってか、この感じだと帰りにはも少し増えてるかもしんないなぁ?」

「‥‥勘弁してくれ」

菱和はニヤニヤしている上田から袋を受け取ると、チョコを入れつつ軽く溜め息を吐いた

「いっちー何個貰った?」

「今年は20個だったかな」

「え!そんなに沢山貰ったの!?」

「うん。モテる男はツラいやね」

さらりと云う上田の言葉には、嫌味の欠片も感じなかった
上田がモテるのは周知の事実で、チャラいところもあるが基本的には誰にでも優しく気さくに接している
そういうところが、女子たちには人気のようだ

「毎年毎年、貰ったチョコ全部食うの?」

「わりとガチなやつとかアヤシイやつ以外は食ってるよ。特別ラブでもないのに作ってきてくれる人もいるんだよね、義理チョコも結構多いけど」

「‥‥鼻血出さない?」

「『チョコ食って鼻血』ってか?あれ、迷信らしいぞ」

「え、そうなの!?‥‥知らなかった」

「はは。‥‥‥‥で?そこのお2人さん?さっきからずっと気になってんだけど、その袋!」

上田はリサとカナの傍らに置いてある紙袋を指差してニヤリとした

「樹、めざとっ!‥‥あーあ、バレてるなら仕様がないか。もうあげちゃう?」

カナはギクリとし、観念したような表情でリサに云った

「良いんじゃない、別に」

「じゃあ‥‥‥‥はい、これ!“友チョコ”だけど手作りだよ、良かったら食べて!」

カナが机に置いた紙袋の中には、手作りのチョコが入った小さな箱が6つ
すぐに食べられるように、簡易包装になっている
カナはそれを一人一人に手渡した

「おおー、実は待ってましたぁ。今年は何?」

「原点回帰しようと思って、生チョコ」

「食後のデザートにどうぞー!」

ユイたちはチョコを受け取り、箱を開けた
ココアパウダーとシュガーパウダーが掛かった一口サイズの生チョコが、5個ずつ入っている

「わお!うーんまそう!」

「いやー、なんか毎年作って貰ってほんと幸せだな俺ら」

ユイと拓真は箱に入っていた楊枝でチョコを刺し、しげしげと眺める

「あ、云っとくけど樹の分は“序で”だから」

「え‥‥、‥じゃあ菱和はどうなのよ?去年も2人に作ってんのは知ってるけどさ、菱和も序でじゃねぇの?」

カナから急に意地悪なことを云われ、上田は怪訝な顔をした

「菱和くんとあんたを一緒にするわけないでしょ」

「‥‥‥あのさー長原、それ“依怙贔屓”って云わねぇ?」

「それがどうかした?文句云うなら食べなくても良いよ?」

「いや、有難く頂戴しますっ」

上田とカナのやり取りを聞いて、ユイと拓真はくすくす笑った

 

美術準備室は忽ちチョコの香りに包まれる
リサとカナが作ってきた生チョコを堪能しながら、のんびりと過ごす昼休み
ユイは窓際でぼーっとしながらチョコを食べる菱和の下へ行き、その横に座った

「アズ、なんか考え事?」

「‥‥ん、ああ‥‥‥‥貰ったやつ全部我妻んとこ持ってこうかなって」

「え、店長にあげるの?」

「ん。どうしょもねぇし。なんか、重い。‥‥物理的にも、精神的にも」

「‥‥‥重、い‥‥」

無口な人間がわざわざ口に出すくらいだ
バレンタインのチョコレートは、菱和にとっては負担以外の何物でもないのだろう

「菱和ぁ、そんだけ大量に貰っといてお返しとか何も考えてねぇの?」

「全然そんな気起きねぇ。‥‥お前は毎年返してんのか」

「まぁ、大体はな。自己申告してくるコも俺が貰ってないのに催促してくるコもいるけど」

「律儀だな」

「ふふん、“モテ男の秘訣”よん!」 

上田は楊枝をくわえてニコッと笑った

バレンタインは、女子が意中の相手にその想いを告げる日───ではあるものの、菱和には誰の気持ちも受け取る気はないとわかり、ユイは内心ほっとしていた

「我妻んとこ行った後になるけど、飯食ってかねぇ?」

「アズんち、行っても良いの?」

「うん。今日は佐伯もバイトだし、楽器触んのはうちでも少し出来るだろ。‥‥でもちょい別な用事もあっから、17時くらいに」

「わかった!適当に時間潰してる!」

「‥何食いたいか考えといて」

菱和はユイが持つ箱の中のチョコを楊枝で刺し、口に入れた

「あ!もぉ、俺の分減っちゃったじゃんか!」

「やっぱ美味ぇな、チョコって」

「むぅ‥‥」

「俺の一個やるから。ほら」

菱和は意地悪そうに口角を上げて、自分のチョコを楊枝に刺してユイの口元にやった
不満そうな顔をしつつも、ユイはチョコを口にする
そのやり取りを見ていたカナは、くすっと笑う

「菱和くん、どお?美味しいー?」

「うん、美味ぇ。来年も頼むわ」

「‥任せといて!」

カナはVサインを出し、ニコッと笑った

 

***

 

放課後
菱和が指定した時間まで、ユイは駅前を彷徨いた
街はバレンタイン一色
飲食店は軒並みチョコレートを推した商品が並び、甘い香りが漂ってくる

何の気なしに寄ったパン屋“Eichel”も、ご多分に漏れない
ユイはトレーとトングを持ち、店内を物色し始めた

お気に入りのショコラノエルには『バレンタインに最適』と、いつもは無いポップが掲げられていた

───バレンタイン、かぁ‥‥‥‥

 

『どうしょもねぇし』

『重い』

 

ショコラノエルを渡したところで自分も“重い”と思われたらどうしよう───ユイは、そんな途方もないことを思った

───でも別に『バレンタインだから』って訳じゃないし、いっか。チョコだからわざとらしいかもしんないけど、ただ一緒に食えたら‥‥ってだけだし。もしアズが要らなかったら、俺が一人で食えば良いや

半ば開き直り、ショコラノエルを一つ取ってトレーに入れた

 

***

 

ユイは時間通りに菱和の自宅を訪れた
ふと部屋を見渡すと、上田に貰った袋が何処にも見当たらなかった

「ほんとに全部店長にあげてきたの?」

「ん。なんか、喜んでたわ」

「店長、甘いもの好きなんだね。知らなかった」

「‥‥あいつ、引くほど甘党だぞ。めっちゃクリーム盛ってるくどそうなやつ平気で食いやがって、見てるこっちが胸焼けしそうになる」

「へぇー!俺、店長と甘いもの食いに行きたいな!ケーキバイキングとか!」

「話してみれば。多分、奢ってくれるよ」

「‥ほんと!?ふふ、今度云ってみる!」

我妻に意外な一面があることを知り、嬉しくなったユイはニコニコした

 

「───っつーか、さっきからチョコみてぇな甘い匂いする」

ボソリと呟く菱和
ユイはギクリとした

「‥‥え!!?‥‥な‥そぉ‥‥?」

「ちょーだい」

徐に差し出された、無骨な手

鞄に仕舞った“Eichel”のショコラノエルの存在を、菱和に云われるまですっかり忘れていた
ちらりと様子を窺うと、菱和は意地悪そうな顔をしていた

「‥‥‥‥っていうか、いる?‥‥‥ほんと、全然大したものじゃないんだけど‥‥」

「お前から貰えるなら、何でも嬉しいよ」

柔らかな口調で放たれた言葉に照れつつ、観念したユイは鞄から紙袋を出し、そっと菱和の掌の上に置いた
菱和は袋を開け、中に入っているものを取り出した

「‥‥ショコラノエルか」

「うん‥‥どうせなら一緒に食いたいと思って、さっき買ってきた。‥‥別にバレンタインだからこれにしたわけでも何でもないんだけど‥‥‥‥」

もじもじしながら説明し出したユイとショコラノエルを交互に見遣ると、菱和はくすくすと笑い出した

「‥‥‥、駄目、だった?」

「んーん。‥‥お前らしいわ。ありがとな。‥‥‥‥じゃあ、俺も」

「‥‥?」

菱和は徐に立ち上がり、キッチンへ向かった
戻ってくると、紙袋をテーブルの上に置き、またユイの横に座る
それは、先程菱和に手渡したものと同じ紙袋───

「‥‥“Eichel”の袋」

「ん」

「‥‥開けても良い?」

「うん」

「‥ショコラノエルだ!」

「我妻んとこ寄ってから買ってきた。‥‥俺も別にバレンタインだからってこれにしたわけじゃねぇけど、お前これ『好き』って云ってたから」

図らずも同じことを考えていたようだとわかり、2人は堪らず可笑しくなった

「‥‥ふふ‥‥はは!‥何だぁ、俺らおんなじこと考えてたんだ!」

「そぉみてぇ」

「‥ありがと、アズ」

「こちらこそ。‥‥なんかあったかいもん飲む?」

「うん!ミルクティーとかある?」

「ん。今淹れるわ」

チョコレートとの相性が抜群に良いミルクティーと共に
ユイは菱和が買ってきたショコラノエルに、菱和はユイが買ってきたショコラノエルにかぶりついた

「初めて食ったけど美味ぇな、ショコラノエル」

「でしょ?良かったぁ、アズも好きな味で!」

ミルクティーを一口飲み、ほっと一息吐く

「‥‥‥‥、中にはさ、本気のコとか居たかもしんないよね」

「‥ん?」

「ほんとにアズのこと好きでチョコ作ったコもいたんじゃないかなぁ‥‥って」

「‥‥、一方的にチョコ押し付けてこられただけじゃこっちも何もわかんねぇよ。大体、ほんとに好きならバレンタインじゃなくても告るだろ。チョコの力借りなきゃ告れねぇってんなら、どうせ大した想いじゃねぇんだよ」

「そう、かなぁ‥‥」

───アズが誰のものも受け取らなかったのは嬉しいけど、そんなんで喜んじゃう俺って器小さいな‥‥

そう思い、ユイはショコラノエルを小さく千切って口に入れた

 

「──────俺はお前が良い」

ユイの機微を何となく感じ取った菱和は、低い声でボソリと呟いた

「え?何?」

きょと、とするユイの顔を軽く引き寄せ、その額に軽くキスをする
ユイは思わず菱和から離れ、顔を赤くした

「───アズっ‥!!」

「何だよ。‥‥っつうか、キスする度そんなんじゃ俺も複雑な気持ちになるわ。いい加減慣れろよ」

「無、理だよっ‥‥いっつも不意打ちなんだからっ‥‥!」

「不意打ちじゃなきゃ出来ねぇもん。お前からしてくれるわけじゃねぇし」

「なっ‥!‥ん、そ‥‥っ‥!!」

自分の好きな人───菱和からのキスは、とても嬉しい
だが、余裕綽々な様子の菱和とは反対に、自分はいつまでも慣れず照れてしまう
澄まし顔の菱和を見ると、恥ずかしさでより心拍数が上がる

「‥‥‥‥俺はお前にしか“こんな気”起きねぇから」

顔を真っ赤にしているユイを尻目に、菱和は柔らかく笑みながらショコラノエルを堪能した

 

───ああ、そっか‥‥‥俺は自惚れてても良いんだった、“アズは俺を好きでいてくれてる”‥‥って

菱和の言葉を聞いて、ユイは忽ち安堵した

「ほんと美味ぇな、これ」

「うん‥でしょ?‥‥ふふっ」

「‥‥‥晩飯、何食おっか」

「お任せします!」 

「‥‥りょーかい」

菱和はくす、と笑い、ユイの頭を優しく撫でた

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