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ガレキ

BL・ML小説と漫画を載せているブログです.18歳未満、及びBLに免疫のない方、嫌悪感を抱いている方、意味がわからない方は閲覧をご遠慮くださいますようお願い致します.初めての方及びお品書きは[EXTRA]をご覧ください.

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  • 05/17/18:53

139 “Ruby gemstones”

熱を帯びた快楽と興奮の余韻が立ち籠めるBスタ
たった一曲演奏しただけで全員が肩で息をするほどの疲労感に支配され、暫し休憩の時を求める

「───‥‥‥‥涼ちゃん‥‥」

「‥‥はー‥い‥‥‥」

「やっぱり‥‥涼ちゃんの目に狂いはない。サイコーだね」

「で、しょう‥‥ふふふ‥‥」

楽器隊に負けじと全力で喉を酷使しへろへろになっている我妻は、額から汗を垂らす苑樹の言葉に項垂れながらもしたり顔をした

「‥凄いね、君たち‥‥イントロとアウトロ、ソロ、勿論リフも‥‥ポールとビリーみたいに、コンビネーションばっちりだった。とても高校生とは思えない」

「‥はー‥‥有難う、ございます‥」

「‥‥恐縮、です」

苑樹の称賛に応えたくとも、今は言葉が出てこない
天を仰いだり座り込んだりして、身体の震えが治まるのを待つ

2人が落ち着くのを見計らい、苑樹は感想を求めた

「如何でしたでしょうか、お二方?」

「すっっっげぇ楽しかったです!ENさんのドラム、生きてるうちに生で聴けて良かったー!有難うございました!」

「‥‥悶えました。暫くシャッフルが頭から離れなさそうす。‥まだこの辺に残ってる」

ユイは漸く、溌剌と返事をした
菱和も、胸元に触れながら心境を吐露した

“元”とはいえ、巧みの技は未だ健在───アマチュアの自分達とは別次元の、圧倒的なオーラを放つ苑樹のドラム
演奏中、一打一打が確実に心臓を射抜いてくるような、そんな感覚がしていた
その身をもってプロの凄みを肌で感じた2人は、自分達と『演りたい』と申し出てくれたことに謝恩の念を抱き、深く頭を下げた

若さ故か、2人とも然程回復に時間を要さなかった
菱和はともかく、ユイは輪をかけて疲れ知らずだ
未だ興奮冷めやらぬユイと澄まし顔の菱和を見遣り、我妻もニコニコしながら会話に混ざる

「イイ演奏だったね。俺も悶えたよ。苑樹もまだまだ衰えてないな」

「いやー、あんまり気分イイもんだからついつい気合い入っちゃった。暫く叩いてなかったからなぁ‥‥仕事に響きそうだ」

「選曲ミスだったかね?ごめんねー」

「‥‥何を今更」

「アズサちゃあん!ごめんねってば!2人が『MR.BIG好き』だって話したら『どうせ演るなら激しいのにしようか』ってつい盛り上がっちゃってさー」

「全然!ほんと、楽しかったです!ソロんとこなんか超ヤバかった!店長のヴォーカルも、サイコーだったね!」

「いやいや!本職には程遠いレベルで‥‥俺がヴォーカルで何だか逆に申し訳なくなっちゃった」

「‥そんなん云うくらいなら最初からてめぇがベース弾いてりゃ良かったじゃねぇか」

「あら、そんなことしたらアズサちゃんが歌うことになっちゃうじゃーん?それでも良かったの?」

「何でそうなんだよ、ざけんな」

「俺はそれでも良かったなー、アズもイイ声だもん!」

「‥‥、あんなん高くて出ねぇ」

菱和はユイと我妻を横目で睨みつつ、被っていたニット帽を脱ぎ捨て髪を掻き上げた

 

演奏の技術、音、“元プロと演る”というプレッシャーをものともせず、堂々とした態度
ユイは“クソ度胸”と云われるほど肝が座っており、何より愉しむことを最優先にしている
菱和も、我妻に悪態をつくだけの余裕と“愛弟子”と讃えられるほどの技量を兼ね備えている
どれほどの場数を、練習量を重ねてきたのか定かではない
きっと気の遠くなるような時間を費やしてきたのだろうと、苑樹は思った

「やっぱり、生音は良いね。‥‥演ったばっかだけど、もう一曲リクエストしても良いかな」

「マジですか!?嬉しい!!何演りますか!?」

ユイはまた気持ちが昂り、待ち切れないという様子で楽器を構えた
やれやれ、と云わんばかりに、菱和も徐に立ち上がる
苑樹はにこりと笑み、ある曲の一部分を叩いて見せた

散々耳に馴染んだ一節のリズムパターン
その曲を、自分達は誰よりもよく知っている

打ち付けたシンバルを手で押さえて音を消した苑樹が、悠然とした笑みを浮かべた

 

「───“Haze”の“DIG-IN”を」

 

「──────‥‥‥‥え‥‥」

先程度肝を抜かれたばかりのユイと菱和は、自分達のレパートリー曲を悠々と叩いた苑樹に更に圧倒された

 

***

 

「───苑樹は、ROCK-ON BEATの『Ruby gemstones』っていうコーナーを担当しててね」

「え!マジですか!俺、“ルビジェム”大好きなんです!あれに紹介された動画とかめっちゃ観てます!」

「ほんとに?嬉しいな」

「“アマチュアバンド応援し隊”、ってやつすよね」

「“隊”って云っても、俺一人なんだけど‥‥自分の足で全国各地を回って、“ルビーの原石を発掘する”‥っていうコンセプトでやらせてもらってます」

「‥‥だからロゴが鶴嘴なんすね」

「! そんなとこまで気付いてくれてたんだ。ほんと、有難いなぁ」

「アマチュアでも良いバンドは沢山あるからねー。苑樹はちょっとこだわりがあって、全国津々浦々、小さい箱ばっかり巡ってるんだ。しかも、自費で」

「‥自費!?すげー!!」

「会社から近場の箱だけね。遠方の交通費は経費で行ってる。チケット代分くらいは貢献したくてさ‥‥‥これだけ情報が錯綜してるご時世なのに‥‥だからなのかな、埋もれてしまってる良いバンドがほんとに沢山あるんだ。なかなか芽が出なくてデビュー諦めかけてるとか。それって、何だか凄く『勿体無い』と思ってね。ちゃんと自分の耳で聴いて、老若男女関係なく沢山の人に知って欲しいと思うバンドを記事にしてます」

「そうだったんだ‥‥なんか、感動しちゃった!」

「‥俺の独断と偏見で、だけどね」

スタジオから事務所に場所を移した4人は、苑樹の職業について談笑に耽る
“ルビジェム”の愛称で親しまれているコーナーの由来やコンセプト、想いの丈を担当者から直々に聞き、ユイと菱和は興味深そうな顔で頻りに頷いていた

「‥‥それでね、是非Hazeをルビジェムで紹介させて欲しいと思ってるんだ」

 

今日は、何という日なのだろう
silvitに来てからというもの、驚きの連続ばかりだ
苑樹の言葉の意味をいまいち飲み込めない
ユイと菱和はぽかんとし、何度か目を瞬かせた

「──────‥‥‥‥‥‥」

「ちょっと、お2人さん。固まっちゃってるけど、大丈夫?」

我妻の呼び掛けに漸く我に返るも、ユイは怪訝そうに菱和の服の袖を引っ張った

「‥‥‥‥だって‥ねぇ‥‥」

「‥‥すいません。俺らを『雑誌に掲載させてくれる』、ってことで合ってますか」

「うん。合ってる。是非、お願いしたいです」

不安げな2人を他所に、苑樹はにこりと笑った


「ちょうど3日くらい前に『この辺の箱回る予定』って連絡受けててね、わざわざウチに顔出してくれたんだ」

我妻は追加の飲み物を持ってきて、デスクに置いた

「‥‥元々、ネタ集めの為に涼ちゃんにはちょいちょい探り入れてて、君たちのことは結構前から教えてもらってたんだ。でも、なかなか時間取れなくて‥‥いつか絶対会える機会を作ろうと思って、せめてそれまでは送ってもらった音源聴いてよう、って。ほんと、覚えちゃうくらい沢山聴きました」

「だから“DIG-IN”も難なく叩けちゃった、ってワケ。‥‥で、どうせ会うならセッションしちゃえーー!‥ってなノリでね」

「すいません、折角2人で遊んでるところ水差しちゃって‥‥」

「‥いえ、それは全然。どうせこいつの悪乗りすよね」

「そんなこと云ってー。楽しかったでしょー?」

「‥‥あのベース、マジでどうにかしちまうぞ」

「ぁああ、それはもう、勘弁、して‥‥」

 

『あの2人なら、きっと断らない。例えアズサちゃんが嫌がっても、ユイくんは乗ってくれる筈』

そんな風にでも伝えていたのだろうか

話の後半はほぼ我妻の悪乗りなのだろうと思い、菱和は睨みをきかせた
そんな態度をとってみても、何だかんだと云いつつ菱和もベースを弾き通した
それも見越した上での悪乗りだったのだろう、そこはかとなく師弟愛を感じた苑樹はくすくす笑った

「涼ちゃんの云う通り、『会えるなら生で聴きたい』と思ってたから。付き合ってくれてほんとに有難う。実際の音聴いて、益々記事にしたくなりました。‥‥ルビジェムの件、是非前向きに考えて欲しいです」

向き直り、改めて雑誌掲載の意向を2人に問う

ユイは、目を丸くしたままだった
毎月楽しみにしている、お気に入りの雑誌のお気に入りのコーナー
そこに自分達が掲載されるという、俄には信じ難い現実

「‥‥俺らが、雑誌に載る‥‥‥‥全然、実感が、ない‥‥」

「‥奇想天外過ぎる話だな‥‥」

「うん‥‥‥‥それに、あの‥‥俺ら、全然ルビジェムに載るようなレベルじゃ‥」

「そんなことないです」

苑樹は首を横に振り、ユイの言葉を打ち消した

「何度も聴いたけど、君たちのバンドは、曲の雰囲気も演奏の技術もとても素晴らしいと思う。君たちは、まさに“原石”。磨き抜けば絶対に“光る”。もっと自信を持ってください」

元プロから賜ったその一言が、ユイの心にずしりと響く

まだまだ技術は荒削り、音作りも研究中
愉しむ気持ちだけは常に持ち続けているが、そこに実力と自信が伴っているかと云われればそれはまた別の話だった
だが、自分が積み重ねてきたものを評価してくれる人物がいる
沢山の原石を発掘してきた人物のお眼鏡に敵った───それだけでも、音楽に向き合ってきた時間と自分の腕が報われるような気がした

「ふふ‥‥ほーんと、ユイくんは素直でイイ子だね。俺も、もっと自信持って良いと思うな。あれだけ堂々と演奏出来るんだし、もっと胸張って欲しい。勿論、アズサちゃんもね」

我妻と苑樹の称賛と督励が、胸に沁みる
ユイは堪らず、はにかんだ

菱和はユイの様子を見て、その頭をぐしゃぐしゃと撫でた
軽く息を吐き、苑樹を見据える

「‥‥凄げぇ有難いお話ですけど‥‥‥他のメンバーに相談してからで良いですか。俺らの一存じゃ決めらんないす」

「そうだよね‥‥こんな大事な話‥皆で話し合わなきゃ」

「勿論。バンドで話し合って決めてください。結論は急がないから‥‥‥‥名刺の裏に携帯の番号書いてあるので、話がまとまり次第、いつでも連絡ください」

物柔らかに笑んだ苑樹
先程ドラムをドカドカしばき倒していた人間と同一人物とは思えないほど、穏和な笑みだった

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