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ガレキ

BL・ML小説と漫画を載せているブログです.18歳未満、及びBLに免疫のない方、嫌悪感を抱いている方、意味がわからない方は閲覧をご遠慮くださいますようお願い致します.初めての方及びお品書きは[EXTRA]をご覧ください.

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  • 05/17/18:14

130 頌春

AM5:30

辰司が眠りこけ、他の皆がユイの部屋で未だトランプを続ける中
菱和は一人階下に降り、キッチンで雑煮の下拵えを進める
鍋に湯を張り沸かせる傍ら、大根、人参、牛蒡といった根菜を千切り、鶏胸肉を削ぎ切りにし、彩りにと用意した三つ葉も刻む
餅はトースターで軽く焼き色を付けて置いておく
持参した白出汁を鍋に注ぎ、散らした干し椎茸が戻ってから味を見る

───‥‥こんなもんかな

ほんの少し調整を加え、あとは材料を煮込むだけの状態となった

下拵えを済ませた菱和は、換気扇をつけて煙草を喫い始めた

 

AM6:00

リサが洗顔をしに降りてきた
キッチンから漂う出汁の香りに唆られ、思わず鍋の蓋を開ける

「‥‥良い匂い。お腹空いてきた」

「餅、多めに入れてやろうか」

「3つで良い。‥ほんとは、いっぱい食べたいけど‥‥正月太りしたくない」

「別に食や良いじゃん。お前なら、多少肥えても変わんねぇ気すっけどな」

「戻りにくくなるから、やなの」

「ふーん。案外気にするのな、そういうこと」

「‥女、ですから?」

「‥‥そ」

「‥‥‥‥‥‥でも‥‥今年もゴハン沢山食べさしてね」

菱和に背を向けたままそう呟くと、リサは洗面所へ向かった
怠そうにダイニングの椅子に腰掛けている菱和が、くす、と笑う

 

AM6:20

「お、なんか良い匂いする」

「ヤバい!腹減ってきたー!」

「‥かー‥‥眠みぃー‥‥」

「やっぱ、あっちゃんここにいる?」

ユイ、拓真、尊、アタルの4人が、トランプを切り上げて2階から降りてくる
ダイニングテーブルに座っている菱和が、リサの淹れた焙じ茶を堪能していた

「お、俺もお茶飲みたい!」

「あー、俺も貰おっかな」

「うん。今淹れるから座ってて」

「これ飲んだら、初日の出&初詣行くかぁ」

夜明けまであと数十分
極寒の寒さに備え、皆一同に温かい焙じ茶を啜る

「冗談抜きでさ、リサの淹れたお茶って美味いよな」

「ほんと。ただのお茶なのに、美味く感じる。‥‥なのに何で、カレシ出来ないんかねぇ‥‥」

「余計なお世話だよ。大体、お茶淹れるの上手いからって何の徳もないでしょ」

「俺はポイント高いと思うけどな!てか、リサは学校でもモテモテじゃんっ!」

「モテてないようるさいな」

「リサ、焦るこたねぇぞ。お前が“イイ女”だっての、俺らはわかってるかんな」

「‥‥別に焦ってるとかじゃないけど‥‥‥そういう気持ちにならないってだけで」

「じゃあ、そんじょそこらのヤツじゃ駄目だってことだな。っつうか、生半可な野郎じゃ俺が赦さねぇ」

「っていうか、何であっちゃんの許可が必要なんだよ?」

「あ?そりゃあ、悪い虫つかねぇように‥‥」

「それこそ余計なお世話なんじゃないの」

「‥そのうち『リサの父親です』とかって云いそう」

「おいおい、それ名案じゃんか!」

「初めて彼女の家に遊びに行って、こんな髪赤い人出てきたらドン引きだよね‥‥」

「‥‥ぜってぇ悪い虫付かなさそう」

「だろー!?ははっ!」

「ある意味“度胸試し”だよな」

「ああ、あっちゃんを見ても引かない人だったらOKってこと?」

「それはアリかもね!」

「見た目も中身もヤバいからなー、あっちゃんは」

「は?どこがだよ!?」

「いや、褒めてるから!」

「‥‥‥‥、もし、もし万が一彼氏が出来そうになったら、まずはあっちゃんに紹介するよ」

「───ぶはっ!ははは!」

「リサ、マジかよっ!」

「マジだよ。あっちゃん、お願い出来る?」

「おー、任せろ!」

一頻り笑ったところで、皆揃って支度を始める
何だかんだと云いつつ、アタルも出掛ける準備をし始めた

 

AM6:40

石川家を出発した一同は、朝焼けがよく見える高台を目指して歩き出す
凍てつく空気が頬を刺し、吐く息も凍りつきそうな寒さの中
6人でなるべく固まりながらその道程を歩いた

「うー‥‥さむ‥」

「ほんと、寒いなー」

「あっちゃん、やっぱ家にいたら良かったのに。てか、今からでも帰れば?」

「や、ここまで来たら帰るのも面倒臭せぇ。うぅー早く帰って飲み直してぇ」

「腹減ったぁ‥‥お雑煮つまみ食いしてくれば良かった‥‥」

「ああ、早く食いたい!めっちゃ良い匂いしてたもんね!」

「‥‥口に合うと良いけど」

「合う合う。絶対合う」

拓真は謙遜する菱和にくすくす笑った

高台には、既に近所から集った先客がいた
なるべく朝陽が見易い位置を陣取り、数十分後の日の出を待った

 

AM7:25

空が朱鷺色に染め上げられていく
待ち侘びていた瞬間が訪れ、その場にいる全員が一同に食い入り、歓声や拍手が沸いた
シャッターを切る機械音も、ちらほらと聴こえてくる

 

 

森羅万象を照らす日輪はゆっくりと地平線を焼いてゆく
燦然と煌めきを増し、凍てついた空気を仄かに和らげる

 


「───‥わ」

ユイは思わず、小さく声を上げた
毎年のように見ているのだが、やはり込み上げてくるものがある
この瞬間に日本中が赤く染まっているのだと想像すると、背筋に悪寒が走った

 

「晴れて良かったな」

菱和は、柄にもなく感動に浸っているユイにゆったりと体当たりした

「ぅ‥うん‥‥。‥‥綺麗だ、ね」

「綺麗だな。‥来て良かった」

そう云った菱和の横顔が太陽の光で赤く染まっている
きっと、皆もそうなってるはず───そう思い、ユイははにかんだ

 

AM8:05

初日の出を観覧した後、一同は近くの神社へ向かった
参拝客も疎らな神社には、既に多くの御神籤が木に括り付けられていた
境内の傍にテントが張られているのが目に入る
中には初老の男性が二人おり、参拝客に紙コップを手渡している

「‥‥なに、あれ」

「甘酒。町内の人が毎年やってくれてるの」

リサが菱和の問いに答えた
テントでは温かい甘酒が無料で振る舞われており、焚き火も起こされている
どちらも、冷え切った身体を暖めるオアシスのような存在だった
ユイたちも早々に参拝を済ませ、甘酒を受け取った
極寒の中味わう温かく円やかな甘さは、格別だった

「ああー‥‥生き返る‥‥」

「毎年毎年思うけどさ、“五臓六腑に沁みる”ってこういうことだよね」

「ほんと、あったかい」

アタルは焚き火の側に置かれた木材に腰掛け、煙草を咥える

「ひっしー、煙草は?」

「‥あ。置いてきた」

「じゃあ、ほれ」

「ありがと」

菱和はアタルから煙草を一本貰い、隣に腰掛ける
二人は煙を吹かしながら暖をとった

 

AM8:30

石川家に到着した一同
リビングには寛いでいる辰司がいた

「ただいまー!」

「うお、眼鏡が曇る‥‥」

「ういぃ‥‥天国だ‥あったけぇ‥‥‥」

「やぁやぁ、お帰り。お疲れ様、寒かったろう。お雑煮あっためといたから。すぐ食べられるよ」

「やった!早く食お!」

「てか、先食ってれば良かったのに」

「いやー、そりゃ父さんも皆と一緒に食べたいさ」

「待たしてすいませんでした」

「とんでもない!さ、食べよう食べよう!」

湯気が立つ椀を携え、全員揃って雑煮を食す
三つ葉の香りが風味を増しており、根菜には出汁が沁み、程よく溶けだした餅が口内で蕩ける
こちらも、五臓六腑に沁みる味だった

「ふは、あつっ‥」

「うーーーんめえぇ‥‥」

「美味しいね。ほっとする」

「ほんとな。はー、美味い」

「菱和くん、有難うね」

「いえ。口に合ったなら何よりです」

「『合う』って云ったでしょ。ふふ」

「ほんと美味い!お代わりしたい!」

「お餅、焼こうか」

「ああ、少し焼いといたよ。トースターに入ってるから。足りなかったらもっかい焼こう」

「ラッキー!父さん、気が利くぅ!」

「みんな腹空かしてるだろうと思ってね」

「っつうかよ、雑煮で食うのも良いけど普通に餅としても食いたくなってこねぇ?」

「それなら、あとで作るよ。きな粉?醤油?」

「やっぱきな粉だろ、そこは」

「だよね。でも磯辺焼きも捨てがたい」

「意外とチーズも合うのよね」

「じゃあ、色々やってみますね」

「俺もやるー!」

「私も手伝うよ」

 

石川家での団欒

大好きな家族と友達、そして恋人と美味な食事を共に出来ることがより一層食欲を増進させ、胃も心も満たされていく

こんな時がまた来れば良いな───そう思い、ユイは餅を口に含んだ

 

そのうちアタルと辰司はビールを飲み出し、ソファで眠ってしまった

「ほんっと、飲兵衛だな」

「ふふ。おじさん、さぞ嬉しいんだろね」

「まぁ、あんま普段飲まないからな」

そう云って、尊は二人に毛布を掛けてやる

「餅は昼にでも食おっか」

「そうだね。じゃあ片付けするか」

「良いよ。やっとく」

リサは率先して片付けを始めた
食器を流しへ運ぶとキッチンは思いの外綺麗で、切り餅ときな粉、醤油がスタンバイされている

「───あんた、いつの間に」

「‥‥‥‥ん‥‥ああ、すぐ食えるようにと思ってさ」

菱和は換気扇の下で、素知らぬ顔で煙草を吹かしている

「眠くないの?」

「‥‥少し」

「寝てくれば。ユイの部屋、空いてるよ」

「お前こそ寝れば。‥‥ひでぇツラしてんぞ」

「るさいな」

菱和をじと、と睨み付けると、リサは洗い物に取り掛かろうとした

「ああもう、んなことしなくて良いってば」

「俺らがやるから、休んでて!」

ユイと尊が腕を捲りながらキッチンへと来る
二人は並んで洗い物を始めた
拓真はダイニングの椅子に座り、二人の後ろ姿を眺めながら呟いた

「‥‥こーやって並んでると兄弟だな、やっぱ」

「‥ほんと」

リサはふ、と笑った

 

AM11:20

 

「───あれ、アズは」

「多分あんたの部屋にいるよ。さっき上あがってくの見た」

「そっ‥か」

「‥‥行かないの?」

「いや、うん‥‥」

「今のうちに行ってきなよ。こんだけ人いたら、なかなか二人きりになれないもんね」

「ぅ‥‥‥」

「‥‥大丈夫。暫く誰も上に上げないでおくから」

「‥‥ありがと、リサ」

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