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ガレキ

BL・ML小説と漫画を載せているブログです.18歳未満、及びBLに免疫のない方、嫌悪感を抱いている方、意味がわからない方は閲覧をご遠慮くださいますようお願い致します.初めての方及びお品書きは[EXTRA]をご覧ください.

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  • 05/17/16:18

122 家族会議

拓真とリサを自宅に送り届け、石川家に到着する
自室に入り、ベッドに腰掛けて一息吐いていると、ドアをノックする音が聴こえた

「──────ユイ。ちょっと良いかい?」

辰司の声がする
ユイはドアを開け、父を出迎える

「何?」

「家族会議」

辰司の後ろから、尊が顔を覗かせた

「家族‥‥会義?」

ユイは少し首を傾げ、二人を部屋へと入れた
再びベッドに腰掛けると、尊と辰司はユイの正面に座り込む
辰司はユイの顔を見上げ、穏やかに話を切り出した

「───‥‥カウンセリング、受けてみないか」

唐突な話題に、ユイはきょと、とする

「‥カウンセリング‥‥?」

「‥‥‥‥お前、明らかに心に負担掛かってるだろ。今回のことでさ、親父と話し合ったんだ」

この度ユイが過呼吸になったことで学校から連絡を受け、二人は即日今後のユイのことについて既に話し合っていた
辰司は優しい表情をし、ユイを見上げる

「‥‥もし今後も同じようなことが起こったら、とか‥‥不安じゃないか?」

ユイは口を結び、俯いた
尊は地方で就職しており、辰司は出張が多く家を空けることが多い
今回はまたまた拓真たちがいてくれ事なきを得たが、もし今後誰もいない中過呼吸や失神という事態に陥ったら───
その不安感は、菱和の自宅に泊まっていた間もなかなか拭えなかった

「‥‥‥‥うん‥‥めっちゃ不安」

「そういう不安とか今後のことも含めて、色々頭ん中で整理したり、自分の力で何とか出来る手段をカウンセリングで得られれば‥と思ってさ。親父や俺の力じゃどうにもならないもっと深い部分に、お前自身の力でも適応出来るように‥‥カウンセリングはその手助けになるんじゃないか、って」

不安そうな顔をしている弟を優しく見つめ、尊はカウンセリングの必要性についてユイに説く

「“カウンセリング”って聞いたら『結構深刻なのか』とか『自分は病気なのか』と思うかもしれないけど、あくまで手段の一つであって、重く受け止める必要は全然ない。‥‥“生きづらさ”を解消する一手段として、『利用する』ってだけ。勿論、俺らもお前のこと全力でサポートするし」

ユイの人懐っこさや天真爛漫さは、幼い頃の出来事があったからこそなのではないかと尊は思っていた
多大な信頼を寄せる相手から二度と虐げられることのないよう、人一倍人懐っこく天真爛漫な人格が形成されたのではないか、と
それはユイが今までの人生経験の中で学び培ってきたものなので、悪いことではない
しかし、天真爛漫な笑顔の裏の大きな心の傷は、未だ癒えてはいなかった
こんな形で思い出させてしまったことを尊も辰司も悔やんでいるが、自分達の力だけではユイの心の傷は治せない
ユイ本人が受け入れるしかない現実が、何をどうやっても存在する

「‥嫌なら、また何か別の方法を探そう。‥‥ちょっとよく考えてみて」

大切な家族の一員を思いやっての提案
まずは、どんな手段でも良いからユイの力になれるものを足掛かりにし、自分たちに出来ることは精一杯やろうと決心する

ユイは家族に多大な心配を掛けてしまったことを嘆いていたが、そこは“家族なのだから”と、素直に二人の提案を聞き入れた

「‥‥‥‥うん、わかった。考えてみる」

ユイがゆっくりと頷いたのを見て、尊と辰司は胸を撫で下ろす

「っていうかさー、俺があのときもっと早く気付いてればこんなことになってなかったかもしんないなー‥‥って、未だに思うわ」

「尊‥‥それ云うなら俺だろう。お前も子供だったんだ、それにお前だって傷付いただろ。俺は父親なのに、ほんとに何にも気付かなくて‥‥情けないったらない‥‥‥‥」

「親父はしゃあねぇじゃん、生活リズムまるで違ったんだしさ。俺なんか毎日ずっと一緒に居たのに全然気付かなかったんだよ?‥マジでアホ過ぎて嫌んなる」

「何云ってるんだ。寧ろお前が誰よりも早く気付いたから、あの環境から抜け出せたんだ。お前がユイの為に啖呵切ったこと、今でも武勇伝だと思ってる。‥‥お前は良い兄貴だし、良い息子だよ。俺の自慢だ」

「やめろよそゆこと云うの。恥ずかしいから」

ユイは二人のやり取りを聞き、きょとんとしていた
兄と父が当時のことを未だに悔やみ、真剣に自分のことを考えてくれているということを、ゆっくりと実感した

「‥‥‥‥」

二人はふと、ユイの顔を見る
辰司は改めてユイに向き直った

「ユイ。お前も俺の自慢の息子だ。お前が笑顔でいてくれることが、父さんは何よりも嬉しい。‥‥辛いときに傍にいてやれなくて、ほんとにすまなかった」

「‥‥俺も、帰ってくんの遅くなってごめん」

辰司はユイに謝罪し、尊も頭を下げた
ユイはふ、と笑顔になり、二人に云った

「───大丈夫。‥‥『淋しくない』って云ったら嘘になるけど、拓真もリサもあっちゃんもアズも、みんな一緒に居てくれた。だから、大丈夫だよ」

いつものユイの笑顔
嘘偽りのない、心の底からの笑顔と言葉

ユイはきゅ、と拳を握る

「俺、もっと強くなりたい。ちょっと“あんなこと”思い出したくらいで過呼吸んなったりしないくらい、強くなりたい」

「それは違うよ。心が強い弱いってのとはまた別の話だから‥‥」

「わかってる。みんなが教えてくれた。でもね、強くなりたいんだ、ほんとに。弱い自分も自分だってちゃんと認められるように、強くなりたい」

「‥‥‥‥、なんかお前、暫く見ないうちにちょっと大人んなったな」

「みんなのお陰。みんなが、傍に居てくれたから」

ユイは再三、周囲への感謝の気持ちを述べる
辰司は溜め息を吐き、自分ですら付け入る隙のない友情や絆にほんの少しだけ嫉妬した

「はー‥‥拓真くんにもリサちゃんにもアタルくんにも、頭上がんないなぁ」

「良い友達持ったな、ほんとに。‥‥あと、菱和くんも」

「ああ、背の高い彼ね。随分仲良さそうだったなぁ。父さんは、あんまりみんなでワイワイするのは苦手なタイプかと思ってたけど」

「‥‥‥‥多分、今でも苦手だと思う‥‥」

「あ、そうなの?やっぱり苦手なんだ」

「俺さぁ、なーんか見たことある顔だなぁと思ったら3年くらい前に一回観てんだよな、菱和くん」

「え‥ほんとに?」

「うん。我妻さんの友達が主催したイベントでさ。夜遅かったからお前は連れてかなかったんだよ。アタルもバイトだったから俺一人で観に行ったんだわ」

ユイはピンときた
3年前、我妻の無茶振りに付き合わされたという菱和の話を思い出した

「‥‥あ、それ多分アズが云ってたやつだ。店長に無理矢理ステージ上がるように云われて演った、って‥」

「へぇ‥‥‥‥のわりには、めっちゃ上手かったけどな」

「‥ほんと!」

「我妻さんが『ベース教え込んだ』って自慢気に話してたけど、流石“我妻さんの愛弟子”って感じだった。今のプレイはわかんないけど、あれは相当な腕だったよ」

「菱和くん、か。今までにないタイプのお友達だな。穏やかで大人な子だね」

「うん!アズってね、昔はちょっとワルだったみたいだけど、今はもう喧嘩とかしてなくて、ベース上手いし料理も上手いし、超優しいんだ!」

「俺もアタルからちょいちょい聞いてるけど、“真面目で良い奴”って話だよ」

「そうかそうか‥‥‥‥そういえば今思い出したけど、“菱和”ってあけぼのに豪邸構えてる資産家さんと同じ名前だなぁ」

「ああ。それ、アズの実家だよ」

「え‥‥そうなの?“あの”菱和さんのご子息とお付き合いある、ってこと?」

「うん。あけぼのの実家も一回見たけど、マジで超でっかいよね!びっくりした!」

「‥‥ほぉ‥‥‥‥」

自分の知らぬ間にユイがそんなところまで人脈を広げていたことに驚き、辰司は息子のコミュ力の高さに感心せざるを得なかった

 

「‥‥‥‥ま、今後も家族仲良くやっていこう。至らぬ点も多々ありますが、宜しくお願いします」

「なに改まってんだよ」

「いやいや、大事なことでしょう。‥‥尊、ユイ。父さんはいっつも見守ってるからな。お前たち二人は、俺の大切な家族だ」

「親父、くさいからもうやめて」

尊は恥ずかしげもなく語る父の言葉に自分が恥ずかしくなり、手で顔を覆った

「‥俺も大好きだよ!父さんも、兄ちゃ、も‥‥‥‥ っ、‥‥ふあぁ‥‥‥‥」

笑顔で気持ちを伝えたユイの顔は次第に歪み、目からぼろぼろと涙が落ちる
感極まってしまったユイの頭を、尊が優しく撫でる

「なに泣いてんだよ、お前は」

「だっ、て、‥‥」

家族の愛情を、ひしひしと感じる
孤独を感じたことは、今まで沢山あった
だが、この絆は揺るぎはしない

ユイと尊の母親───辰司にとっては最愛の妻を亡くしたことは、ただただ無念でならない
ユイがその最愛の人と血を分けた妹から虐げられていたことは、更に追い討ちをかけたと云わざるを得ない

その出来事があってから、尊は叔母にも自分自身にも憤り、辰司は妻の親戚と絶縁することを決めた
その決断が正しかったのかどうかは誰にもわからないが、今こうして家族三人で過ごせていられることは何物にも代えがたい幸せである
ユイも尊も辰司も、その想いは皆同じだった
今後も家族が仲良く過ごしていけることを、願わずにはいられない

ユイは心から安堵して泣き、尊も辰司も号泣するユイを見守り続けた

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