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ガレキ

BL・ML小説と漫画を載せているブログです.18歳未満、及びBLに免疫のない方、嫌悪感を抱いている方、意味がわからない方は閲覧をご遠慮くださいますようお願い致します.初めての方及びお品書きは[EXTRA]をご覧ください.

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  • 05/17/21:16

118 “More Than Words”

ユイが菱和の自宅で過ごすのも残り約一日
帰宅する時間が刻一刻と迫り、時計に目をやっては『帰りたくない』という気持ちが募っていく

 

『明日、16:00くらいに行くから。のんびり帰ってきなヽ(・∀・)ノ』

「おけ、わかった(・ω・)ノシ」

『 あと、ひっしーも明日の晩飯誘っとけば♪』

「うん、聞いてみる★」

 

電話を切った後、ユイは拓真とメールでそんなやり取りをしていた
それからは昨日までと何ら変わらず
昼までだらだらと過ごし
昼食を終えたら軽く家事をして
菱和の手の絆創膏を替え
夕餉の時間まで好きな音楽を聴いたり楽器を触ったり
そして、この日も二人揃って入浴をした

風呂上がり
キッチンで冷たい麦茶を飲み身体の水分を補っていると、リビングの掛け時計が目に入る
時刻は21:35頃
明日の今頃には兄と父が帰ってきている
会えるのを、ずっと待ち望んでいた
嬉しい筈の兄と父の帰り
だがユイの心には淋しさが募っており、壁に寄りかかってぼーっと時計を見つめていた
キッチンの換気扇の下で煙草を喫っていた菱和は、ユイの様子に気付き声を掛ける

「‥‥どした?ユイ」

「ん?んー‥‥‥‥なんか、明日のこの時間はもうここにいないんだなぁとか思って‥‥。‥‥‥帰りたくない、なぁ‥って‥‥」

ユイは正直に心境を伝え、はにかんだ
菱和には、感謝してもし足りないほど尽くしてもらった
なにか少しでも返せればと思い自分にできることをやったものの、十分ではないと感じる
何よりも、すっかり菱和から離れがたくなっており、会えない時間を考えては憂いた

「‥‥‥‥正直云ってい?」

「ん、何?」

菱和は煙草の火を消し、ゆっくりとユイに近付く
壁際に佇むユイの頬に触れ、顔を寄せた

「‥俺も帰したくねぇ」

耳元でボソリと呟かれ、ユイの心臓が鳴る
す、と身体を離すと、菱和はユイの頬を親指で擦りながら優しく云った

「‥‥でもさ、明日お前んちで佐伯たち待ってんだろ。皆で飯食いに行くんだよな。約束は守んねぇと。‥年明けたら、また泊まりに来れば良いよ」

ふ、と笑む菱和
ユイは少し不安げに顔を上げ、菱和の服をきゅ、と掴んだ

「また、来ても、良い‥‥?」

「なぁに野暮ったいこと聞いてんだよ」

菱和はユイの額にデコピンをした

「って!何すんだよもぉ‥‥」

「‥お前が来たいと思ったときに、いつでもおいで」

「‥‥、‥‥うん‥‥」

ユイは額を擦り、気恥ずかしそうに頷いた
菱和はユイに笑い掛けると、新しい煙草に火を点けた

 

***

 

菱和はベッドに寝っ転がり、俯せになってだらだらし始めた
軽く欠伸をし、怠そうに枕に顔を埋める
ユイはベッドの脇に腰掛け、菱和の顔を覗き込んだ

「‥‥眠いの?」

「ん‥‥今日は俺の方が先に寝そ‥‥」

「そっか‥‥‥‥じゃあ、今日は楽器弾くのやめるね」

「良いよ別に。‥‥なんか子守唄になりそうなの弾いて」

「子守唄‥‥?んー‥‥‥‥あ、じゃあ“More Than Words”とか如何でしょうか」

「‥EXTREME?」

「うん。小さいとき、寝る前に兄ちゃんに弾いてもらったことあるんだ」

「ふぅん‥‥。確かに入眠にはぴったりかもな。‥じゃあ宜しく、ヌーノ」

「あんなイケメンじゃないし恐れ多いよ!‥大好きだけど」

「ふふ‥‥‥‥イケメンだよな、ほんと」

「ね!‥チューニング下げるからちょっと待ってて」

「ん‥‥」

ユイは隣の部屋からギターとアンプを携えて戻ってきた
“More Than Words”に限らず、EXTREMEの楽曲は全て『半音下げチューニング』になっている
菱和はチューニングをするユイをぼーっと見つめていた

軽く爪弾いてから、ユイはイントロを弾き始めた
指板を滑る指の音と、節々にボディーを叩く音が心地好く響く
ユイは上機嫌で歌い始めた

 

俺が聞きたいのは「愛してる」って言葉じゃないって云ってるのさ
望んでない訳じゃないけど
でも、『感じるままを表現することが如何に簡単なことか』っていうことを君がわかってくれさえすれば、とは思ってる

その愛が本物だと証明するには、言葉以上のもの以外にないんだ
そしたら、わざわざ「愛してる」なんて云う必要もなくなるんだろうな
だって、云わなくてもわかるからさ

この心が二つに引き裂かれたら、君はどうする?
君に教えたい言葉以上のものっていうのは、俺への愛が本物だと感じられるものだ
君の「愛してる」を奪ったら、君は何て云う?
もしそうなったら、ただ「愛してる」って云えば良かったものも、変えられなくなるね‥‥‥‥

こうして君と話して、わかってもらおうとしてる
君はただ目を閉じて、手を差し伸べてくれさえすれば良い
そして触れてきつく抱き締めて、絶対に離さないでくれ
俺が何処へも行かないように

俺が欲しいのは、言葉以上のもの以外にないんだ
そうしたら、「愛してる」なんてなんて云う必要もなくなるんだろうな
だって、云わなくてもわかるからさ

言葉なんかよりも───

 

この曲に関しても、ユイは和訳を知らない
“More Than Words”という言葉の意味は理解しているが、この歌詞が何を伝えたいのかまではわからない
ただ、“言葉よりも態度で気持ちを表して欲しい”という想いは、今のユイならば多少は理解できるかもしれない──────

最後のピッキングを終え、ユイは顔を上げた

「‥‥‥‥あ‥‥」

気付けば、菱和が肘を枕にして眠っている
静かに、深く、寝息が聴こえてきた

───寝ちゃった‥‥やっぱ気疲れさせちゃってたかな

ユイはギターを置き、そっと菱和に近付いた

「‥‥アズ」

声を掛けるも、反応がない
やはり眠ってしまったようだ

静寂の中に、菱和の寝息が聴こえてくる
自分がいつもそうしてもらっているように、ユイは菱和の髪を撫でた
さらりと流れる黒髪から、閉じられた瞳と通った鼻筋が見えた
顔のパーツを一つ一つ目で追っていくと、やがて唇へと辿り着く───

 


ふと、ユイは菱和に“キスしてみたい”という衝動に駆られた

途端、心臓が速く脈打つ

 

あ、どうしよう
なんか、止められそうにない‥や
アズ寝てるから良いかな‥‥アズも俺が寝てる間に『しちゃいそうになった』って云ってたもんな‥‥‥‥
っていやいや、違う違う!
それでもアズは俺が起きてるときにしてくれた‥!
‥‥ああ!でももうなんか無理!よくわかんないけど無理!
アズ、ごめん───

 

ユイは、菱和の唇にそっとキスをした
キスと云えるかどうかも微妙なほど、軽く触れただけだった
すぐに顔を離し、急激に照れ臭くなり赤面する
何故こんなことをしたくなったのか、自分でも何がなんだかわからなかった
ただ、無性に、菱和に“キスがしたくなった”

───アズが俺に“したくなる”気持ちって、こんな感じなのかな‥‥

「‥、‥‥‥」

初めて自分から菱和にキスをしたユイ

衝動を押さえられなかったことを反省し、眠っている間にしてしまったことに『ちょっと卑怯だったかも』と思いつつも、菱和の寝顔を見つめて少しはにかんだ

 

「───‥足んねぇ」

菱和が眠りに就いていると思っていたユイは、突然聴こえた低い声に驚き弾けるようにビクついた

「‥!‥‥起きてた、の‥あ───」

菱和は目を開けると徐に手を伸ばし、ユイの頭をぐっと引き寄せ、謝罪の言葉を述べようとしたユイの口をその言葉ごと塞いだ

「‥ん‥、‥ふ‥‥っ‥‥‥‥」

大きな掌が、頬と頭を捕らえて離さない
細長い指が、ふわふわの髪に絡みつく
乱暴な、強めのキスだった
ユイはすっかり面食らってしまう
されるがままなのをいいことに、菱和は角度を変えて何度もユイにキスをする

ただ触れるだけでなく、時折あむ、と口に含み、軽く吸う

ちゅ、と鳴る唇

菱和の深い息遣いを、感じる

 

ユイは、ただただ困惑した
唇が離れるほんの僅かな瞬間に息を吐こうとするも、濃厚な口付けは不意討ちの連続
おまけに顔をがっちりとホールドされ、一切身動きがとれない

「んん、ん‥‥───」

息苦しさを覚え、声にならない声が漏れる

菱和はユイを解放し、顔を離すや否や軽く頭突きをして低い声でボソリと呟く

「‥‥こんなことなら俺も、お前が寝てるときにすれば良かった」

菱和が執拗にキスを繰り返したのは、半ば“当て付け”のようなものだった

「‥‥ん‥‥す、みません‥でした」

ユイは目を丸くしたまま、色んな意味で謝罪をした

菱和は“当て付け”たようにしすっかりユイを困惑させてしまったが、いじらしさにふ、と笑みを零す

「‥‥‥‥ありがと。‥‥悪い、ほんと先寝る」

そう云って、ユイの頭を軽く撫で、また枕に顔を埋めた

「‥うん‥‥おやすみ‥‥」

 

───‥びっくりしたー‥‥‥

自分のキスも十分不意討ちだったかもしれない
だが、菱和のキスはそれ以上だった

 

『“習うより慣れろ”って云うだろ』

 

何時かの菱和の言葉が頭に響き、ユイは口を結び何度も目を瞬いた
鼓動はバクバクし続けており、治まる気配がしない

───でも、全然嫌じゃなかった

沢山のキスをくれた菱和
「好き」と言葉にしなくとも、愛情表現が出来る
“そういう関係”になれたということを、改めて実感する

 

「───‥あ」

笑い合えること
傍にいること
寝食を共にすること
抱き締め合うこと
手を繋ぐこと
キスをすること
その全ての行為に、愛情を感じる

言葉じゃなくても、言葉なんかよりも、伝えられる想い───

 

ユイは、先程奏でた曲“More Than Words”の意味がストンと心に落ちていくのを感じた

───そっか、

 

慈愛の心を抱いているのは、自分だけではない
胸の辺りが、じんわりとする───

「‥‥‥ありがとね、アズ」

ユイは菱和に布団を掛け、ギターを片付け始めた

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