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117 Varje gång jag ser ditt sovande ansikte‥‥
朝は嫌いだった
“今日一日、また生きなければならない”と思っていたから
沈んだ気持ちを起こすのに、多大なエネルギーを要する
朝が来る度、自分を支配していたのは“死んでいなかった”という後悔
毎朝こんな気持ちになるくらいなら、いっそ永遠に何も考えられず終わっていた方がマシだった
でも今は違う
目を開ければ、ふわふわの髪の毛が見える
童顔の寝顔はより子供っぽく見えて、可愛らしく思える
自分をしっかりと捉えている華奢な手
とるに足らない重さ
手離したくない温もり
目覚めの瞬間に愛おしい人が隣にいることが、こんなにも嬉しいとは思わなかった
寝顔を見る度に、朝を迎える度にこんな気持ちになれるのなら、生きていることもバカには出来ない
不思議と
だが、確実に
───何でか知んねぇけど、この顔見てたら“何でも出来る気”になんだよな‥‥
ぼんやりとユイの寝顔を見つめながら、菱和は柔らかく笑んだ
ふとユイが目を覚まし、菱和に笑い掛ける
「‥‥‥‥はよ、アズ」
「おはよ」
寝起きの瞼にそっとキスされると、ユイは気恥ずかしさに顔を埋める
「‥‥、今、何時かな」
「知らねぇ」
アンニュイな朝
だらだらとベッドに横たわり、じゃれ合ってみたり優しさや温もりを感じたり
二人にとってはいつもの情景となった朝の一時が、今日も訪れる
腹の虫が騒ぎ始めた頃に、二人は漸くベッドから起き上がった
菱和は煙草を一本喫い、ユイはカラカラの喉に麦茶を流し込んでその横顔を見つめる
怠そうに煙を喫っては吐き出すその仕草を見ることが、ユイにとっては至福の瞬間だった
───アズは俺の寝顔が可愛いとか云うけど、俺はこの顔が好きなんだよな‥‥なんて
煙草を喫っている菱和は、寝起き同様酷く無防備だ
ぼーっと煙草を吹かすその後ろから“膝かっくん”でもすれば、奇声を上げて慌てふためく姿が見られるかもしれない
行動に移そうとは思わないが、そんなことを想像して、ユイはほくそ笑んだ
「‥‥‥‥そういやさ、」
「‥‥‥‥‥‥あ、何?」
やはりぼーっとしていた菱和は、多少のタイムラグを置いてユイの声に返事をすふ
「アズってさ、結構喫う方だよね、タバコ」
「ああ、うん。あっちゃんよりは少ねぇかもしんねぇけど」
「あっちゃんは俺から見ても喫い過ぎだよ‥‥。ガッコにいる間はさ、我慢してんの?」
「‥‥一人でいたときは、屋上で喫ってたよ。‥お前らが出入りするようになって、学校に持ってくこと自体やめた」
「! そうなんだ‥‥何で?」
「万が一先公に喫ってるとこ見られて、お前らも疑われたり停学んなったら嫌じゃん」
「‥‥‥そ、っか‥」
「‥‥朝飯、何食おっか」
「‥パン、ある?」
「角食とバターロールならあるけど。どっちが良い?」
「じゃあ、ロールパン食べたい。‥‥あと、トマトのスープ」
「‥‥トマトのスープ?」
「うん。‥‥初めてここに泊まったとき、作ってくれたでしょ。今思い出した、あれ超美味かったなーって。‥また食べたい」
「ああ、ミネストローネか‥‥今作るから、待ってて」
「お願いします」
***
菱和がミネストローネを作っている間、ユイは寝室の布団を整えることにした
ベッドから布団を下ろし、シーツと枕を直していると、机に置きっぱなしの菱和の携帯が鳴った
特別見るつもりはなかったものの、表示されている電話の主の名前が目に入る
ユイは携帯を持ち、キッチンで調理している菱和の下に行った
「アズ、電話。拓真から」
「‥‥佐伯?」
菱和は調理をやめ手を洗い、タオルで軽く拭いてから携帯を受け取った
新しい煙草に火を点けつつ、通話ボタンを押す
『もしもし、ひっしー?おはよー』
「はよ。どした?」
『ユイ、どう?』
「‥元気だよ。よく寝てるし飯も食えてる」
『そっかぁ。大したことなさそうなら良かったよ。やっぱ“そこ”にいるのがでかいんかねー』
「どうだろな。だと嬉しいけど、俺も」
『ふふ。‥‥あのさぁ、ちょっと相談なんだけどね』
「ん、何?」
『たけにいとかあっちゃんと色々話したんだけど、年末年始‥‥‥‥───』
二人の会話が気になりつつも、ユイは布団を整える
掛け布団を広げたところで、菱和が寝室に入ってきた
「ユイ」
ユイが布団を整えていたことに若干驚き、菱和は半ば呆れたような顔をした
自分を呼ぶ声に振り返ったユイはきょと、とする
「‥‥‥佐伯がお前と話したいって」
菱和はユイに携帯を差し出すと、ユイの頭をくしゃくしゃと撫でて寝室から出ていった
ユイはベッドの脇に座り込み、拓真との会話を始めた
「拓真、おはよ!」
『お、ユイ。元気そうだな』
「うん!元気だよ!」
『良かった良かった。心配するだけ無駄だったかな』
「そんなことないよ。‥‥どうも有難う」
『いいえー。‥明日さぁ、親父さんとたけにい帰ってくるまでリサと一緒にお前んち居るから。たけにいがお土産くれるっていうからさー。親父さんも、晩飯食いにどっか連れてってくれるって』
「‥ほんと!うん、わかった!兄ちゃん、何買ってくんだろう」
『何だろなー、美味い銘菓だと良いな』
「ふふ、ゴハンも楽しみだね!」
『だな。‥‥んじゃ、明日な』
「うん!どうもありがとね!」
拓真なりの気遣いか、それとも本当に“尊からお土産を貰う為”だけなのか
どちらの場合であっても、誰かと一緒にいられること、独りでいる時間が少なければ少ないほど、ユイの心は安堵した
***
「別にあんなことしなくて良いのに」
「ん?」
「布団。一人でごそごそ何してんのかと思えば‥‥‥‥あんなもん夜寝る前にぱっと出来んだろ」
「あれくらいはやって当然でしょ。ただでさえ色々迷惑かけてんのに‥‥バチ当たっちゃうよ」
「‥‥どんだけ心狭めぇんだよ、お前の信じてる神様は」
千切ったパンを齧り、菱和はくすくす笑った
「ここにいる間は、何でもいいから俺が出来ること、やらして」
ユイは唇を尖らせ、少し俯く
菱和にとっては、自分の好意でユイを自宅に置いているのだから申し訳なく思うことも特別気を遣う必要もないことだった
反面、ユイは、菱和の好意は“一宿一飯の恩義”どころでは済まされないと感じており、布団を整えた程度で返せるものでもないが、自分に出来ることをやりたいと切に思っていた
───ただ近くにいてくれりゃ、それで十分なんだけどな
それでも、ユイの気持ちは有り難く、菱和はユイの頭をぽんぽん、と叩いた
「‥そ。じゃあ、何かかんかお願いしますわ」
「うん‥‥‥何でもいいからさ、ほんとに」
「‥‥‥‥‥‥、したっけさ、『脱げ』っつったら全裸になってくれる?」
「‥そういうのは違うだろ!!」
「今“何でもいい”っつったろ」
「家事とかの話だよっ!」
「‥‥冗談だって。‥冷めるから早く食いな」
───も、冗談か本気かわかんないときあんだよな、アズって‥‥
からかわれて顔を赤くするユイを尻目に、菱和は意地悪そうにくすくす笑いながら悠々とコーヒーを啜った
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