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ガレキ

BL・ML小説と漫画を載せているブログです.18歳未満、及びBLに免疫のない方、嫌悪感を抱いている方、意味がわからない方は閲覧をご遠慮くださいますようお願い致します.初めての方及びお品書きは[EXTRA]をご覧ください.

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  • 05/07/14:04

8 “eichel”'s breads

アップルパイ、苺のデニッシュ、クイニーアマン、ピザパン、明太フランス、ガーリックラスク
そして、ショコラノエル
菓子パンと惣菜パンを、なるべく均等にトレイに入れていく
半分こすることにし、それぞれ一つずつ買い、二人はeichelを後にした

“おやつ”にしては多めになってしまったが、クラフトの紙袋に詰められたパンの香ばしい匂いに食欲は唆られる
ユイはどれから食べようかと思案しながら、菱和のアパートまでの道程を歩いた

 

***

 

切り分けられたパンを皿に乗せ、ユイは一足先にリビングへ
菱和が紅茶の入ったマグを携えて来、ユイの横に座る

「‥‥取り敢えず何がどうなってんのか説明してくんねぇ?」

寝耳に水の事態に若干目を細め、KY行動の意図を問い詰めた

「あのね、この前の練習前にカフェでナオさんに会ったの。んで、『アズのお友達ですよね』って話して、『今何してるんですか?』って訊いたら、これくれて」

ユイは以前手渡された名刺を見せて寄越した

「‥ほんまもんの美容師だったのか」

「今は見習いだって。ガッコ行きながらあの店で働いてるみたい。友達の髪切る人っているでしょ?カナもたまにリサの髪切ってるって云ってたし、カットモデルだったらお金もらわないし、そういう体でってことでナオさんに切ってもらうことになったの」

奈生巳が散髪したことをいまいち信じきれていなかった菱和は、“証拠”を見せられ漸く納得した
が、目は細めたまま
ユイをじとりと睨む

「‥‥何で黙ってたんだよ」

「それはさ、ほら、サプライズ的な、ね?ナオさんにもアズが迎えに来てくれること云ってなかったし、ダブルサプライズ!」

「何がダブルだ、ビビらせやがって。あいつが変わってなかったら一瞬で血の海だったかもしんねぇんだぞ。んなことしねぇってわかってたから良かったようなものの。てめぇ、この」

「いいい、痛いぃ‥!」

話の流れや先程の状況に納得はしたものの、菱和はピースサインを出して無邪気にしているユイの頬を抓った

「黙ってた罰だよ。なぁんで何も云わなかったんだよお前はぁ」

「だって、どうしても仲直りして欲しかったんだもん!それにもし云ってたら、ちゃんとお店に来てた!?」

「それは‥‥‥‥‥」

「ほらぁ!来なかったかもしんないでしょ!黙ってた方が良かったんじゃん!ナオさんもおんなじ気持ちでいるってわかってたから!」

「だからってなぁ」

「ぃい、ごめんなさいぃ‥!!」

結果的には何も起きなかったが、流石に今回のKYにはヒヤヒヤさせられた
嫌がらせも兼ね、頬を抓る手に力を込め上下左右に動かす

「‥ぷ。変な顔」

「何だよ、アズが抓ってるからだろぉ‥!」

一頻りユイの変顔で遊んだ後、菱和はソファに深く座した

「あー、マジ焦ったぁ‥‥‥」

髪を掻き上げ、安堵の表情を浮かべる
抓られていた頬を揉み解しながら、ユイはその横顔を覗き込んだ

「ナオさんと会うの、嫌だった?」

「まぁ、あんな態度とっちまった手前、気まずいっつーか恥ずいっつーか‥‥マジ心臓に悪いからもうこういうの止めてくれ」

「う、うん‥‥ごめん。でも俺が間にいるなら少しくらいそんなのも紛れるかな‥って思ったんだ」

「うん。多分あいつも俺もそうだったと思うよ」

「ほんと?‥もう、怒ってな、い?」

「怒ってねぇよ、最初から。‥‥‥やーっとあいつの顔まともに見れた。切っ掛けくれて、ありがとな」

「う、うん‥‥」

「さ、食お。‥‥‥っつーか、『飲みに行く』とかいって連絡先知らねぇ」

「俺が知ってるから良いでしょ!あとで教えたげるから!」

「ああ、そっか」

菱和は軽く鼻で笑い、ラスクを手に取る
かり、と噛む音が聴こえ、ユイも一口大に切られたクイニーアマンを手にし、口に入れる
固い表面を噛み砕くと、バターの芳醇な香りが鼻を抜ける

eichelのパンにハズレはない
そう思いながら咀嚼し飲み込むと、ユイはぽつりと呟いた

 

「───幾らでもダシにしてくれて構わないんだから」

「‥?」

「もし俺が、アズの力になるんだったら‥‥何だってするよ」

 

“仲良し”だった頃に戻れればと切望するも、その切っ掛けすらあったものの踏み切れないでいた菱和と奈生巳
複雑な事情と感情を鑑みれば、その想いもわからないではない
早まったことをしたかもしれない
二人の気持ちを丸々無視した、正にKYだった
だが、このまま何のリアクションもなければ、二人の縁は5年前で途切れたまま終わっていたかもしれない
そんなのは嫌だ、納得がいかない
折角“神様”の思し召しもあったのだから

だから、自分がその足掛かりになれば───

 

「───バカ」

KYへの当然な反応かもしれない、辛辣な一言
恐る恐る見上げた顔は、呆れたような歪んだ笑顔
言葉と表情が一致していないことに、違和感を覚える

菱和は手を伸ばし、ユイの頬に触れた
『また抓られる』と身構えるも、掌は優しく触れているだけ
怪訝な顔をするユイの額に、菱和の額がこつん、とくっつく
大きな掌に包まれた頬が、ぼっと熱くなった

「‥‥‥お前のそういうとこ、すげぇ好き」

暖かく、柔らかい漆黒の瞳に捕らえられたまんまるの目が、泳ぐ

「う、え、‥?」

「‥超似合ってる。今の髪型」

「そ、そぉ‥‥?」

「うん。あと、すげぇ良い匂い。ワックスかな」

「で、しょ。お店に置いてるやつなんだって。‥‥てか、やっと感想云ってくれ、た」

「ふふ‥‥待ってた?」

「いや、うん‥‥どう、かな‥」

「めんこい。好き」

「あ、ありがと‥‥前と、どっちが良い?」

「どっちも好き。‥ほらな、云った通りだろ。‥‥‥結局、“お前が好き”ってことなんだよな」

「ん、そ‥!!」

 

照れまくり、慌てふためくユイの頭部をがっちり捕らえて離さない菱和
折角セットされた髪がくしゃくしゃになってしまうほど触れ、嗅ぎ、今一度ユイへの“好き”を募らせる

 

確かにユイはとんだKY行動を起こした
だが、その行動力と据わった度胸は自分の中には存在しないものであると、菱和は実感する
結果的に、ユイの持つ“強さ”による今回の“荒療治”は、功を奏したのだった

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