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ガレキ

BL・ML小説と漫画を載せているブログです.18歳未満、及びBLに免疫のない方、嫌悪感を抱いている方、意味がわからない方は閲覧をご遠慮くださいますようお願い致します.初めての方及びお品書きは[EXTRA]をご覧ください.

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  • 05/08/11:48

3 Tidigare problem

「‥‥転校生?そんな奴いたんだ」

「あら、ひっしーもプリント全部見てないパターン?」

「興味ねぇからな」

「ふふ、ひっしーらしいや」

バンド練習後、菱和の自宅にて夕食をご馳走になるユイと拓真
今夜の献立は、ロールキャベツだった
柔らかく甘みのあるキャベツに巻かれた鶏ひき肉の脂分がコンソメスープに溶け込み、胃にじんわりと落ちる
まだ寒さの残る今時季にはぴったりの、温かい食事だ
テーブルを囲み、件の転校生の話題に花を咲かせる

「俺らのファンって云ってくれたんだ!気も合うし喋りやすくて、すぐ仲良くなっちゃった!‥でね、アズにも紹介したいんだけど‥‥」

「それは構わねぇけど、良いのかよ」

「何が?」

「そいつがどんな反応するかまで責任持てねぇよ。初対面の奴は大体、引くか逃げるかのどっちかパターンだから」

「大丈夫だよ!『楽しみにしてる』って云ってたし!」

単なる社交辞令かもしれないのに───他人の言葉をほぼ直球で受け取るユイは今回も正にド直球
翔太の言葉にも何の疑いも持っていない
菱和はテーブルに頬杖をつき、少し項垂れた

「んな過剰に期待持たすなよ‥‥まぁ、努力はするけど」

「努力って?」

「俺はお前らみてぇに人付き合い得意じゃねぇからさ。初対面の奴と流暢に話すとかぜってぇ無理だから」

「流暢に話すひっしー、見てみたいなぁ」

「‥‥勘弁してくれ」

拓真の言葉に、菱和は苦笑いする

「‥‥拓真と上田に会った時の翔太の顔、めっちゃ嬉しそうだったんだ。正直、翔太があんなに喜ぶと思ってなかったんだよね。だから、余計嬉しかった。翔太に出会えたことも、仲良くなれそうだってことも」

翔太のことを反芻し、ユイははにかんだ
新しい出会いは、予想以上の感動を生んだよう
願わくば、菱和ともこの感動を共有したいと思っていた

───こいつのことだから、『どうせならみんなで仲良くしたい』って思ってんだろうな

ユイの心中を察した菱和は、ふ、と笑んだ

「‥‥お前のそういうとこ、すげぇ尊敬してる」

「へ?」

「いや、何でもねぇ。ダチが増えんのは、単純に嬉しいもんな」

「‥ん!」

満面の笑みを零すユイ
ユイの至極ポジティブな思考は、菱和にとっては最早尊敬の域にあるようだ

 

孤独とは程遠い賑やかさ
心底音楽に向き合えるバンド
冗談を云い合える友人の存在
振り返ればこの一年で菱和を取り巻く環境は劇的に様変わりしており、その全てはユイとの出会いが齎したもの
尊く、愛おしく、決して手離せられない大事なものだ

「‥‥お前に絡まれてからもう一年経つのか。早えぇな」

菱和は感慨深そうに呟いた

「あ、そっか!そうだね!」

「ほんとだ。早いなぁ」

「なんか、嘘みてぇ。去年の自分に『ダチに手料理振舞ってるぞ』っつってもぜってぇ信じねぇわ」

「ははは。今や、こうしてバンド後にゴハンご馳走になる仲になったんだなぁ。色々作ってもらって、大感謝っす」

「いえいえ。こちらこそ、作らしてもらって感謝ですわ」

「ねぇねぇ、初めてアズんち来た時食べたもの覚えてる?」

「カルボナーラ。忘れるわけないっしょ、超美味かったもん」

「ね!めっちゃ美味かったよねー‥‥」

話題は食事のことから、次第に出会いから現在までの経緯や思い出話にシフトしていく
ユイと拓真が帰宅する頃には21:00を回っていたが、話を続けていれば日の出を迎える時間になってもおかしくないのではというほど話題が尽きなかった

 

***

 

翌日
ユイは休み時間もこまめに翔太と接し、親睦を深めていた
昼休みに入ると、小脇に弁当を抱えた拓真がユイを呼びに来た

「ユーイ。上、行くしょ?ひっしーと上田もう行ってるよ」

「わかった!翔太も行こ!」

「どこ行くの?」

「屋上!俺ら、去年から屋上で昼食べてんだ!」

「へー。この学校、屋上行けるんだ。ってか、俺も行って良いの?」

「勿論!あ、うちのバンドのベーシスト紹介したげる!」

「え、マジで!?」

翔太は顔色を変え、意気揚々とユイと拓真の後をついていった

 

「アーズっ!」

先に屋上に来ていた菱和と上田は、扉の開く音とユイの声に揃って反応した
ユイと拓真の後ろから、翔太が顔を覗かせているのが見えた

「お。翔太も連れてきたのか」

「‥‥、例の転校生か?」

「そうそう。ユイ、お前のこと紹介したいって張り切ってたぞ」

上田は菱和の問いに答えながら、軽く手を振った

「わ、わ、ベースの菱和くん‥!」

菱和の姿を捉えた途端、翔太の挙動はそわそわし始める

「え、緊張してるの?」

「するでしょ、普通!ああー、本物だぁ‥!」

「大丈夫だよっ!アズ、昨日話した転校生、翔太!」

ユイと拓真に宥められながら菱和の下へ向かう翔太
菱和を前にすると、一気にハイテンションになった

「うわぁ、間近で見るとめっちゃ迫力ある!!ほんと、背ぇ高いですね!!俺、俵 翔太って云います!」

「‥‥どーも」

引きもせず、逃げたそうな素振りも無い
予想外の反応に圧倒された菱和は拍子抜けしてしまい、素っ気ない返事と会釈しか出来ずにいた
すかさず、横から上田に肩を叩かれる

「んもぅ、ブアイソなんだからー。なんかこう、もうちょっとリアクションないのー」

「‥俺、“コミュ障”だから」

「っぶはははっっ!!!コミュ障の奴が、何で俺らとつるめるんだよ!」

「お前らのコミュ力がぶっ壊れてんだろ」

「あらそーですか。翔太、ごめんねー。こいつ、無表情でブアイソなのがデフォだからさー」

「いえ、イメージ通りです!めっちゃクールでシビれます!」

菱和が無表情で無愛想であることを、翔太は意に介さなかったようだ
寧ろイメージ通りだったらしく、菱和の態度にも感激の様子

「んじゃま、飯食いますか」

「翔太、こっち来なよ。親睦図ろうぜー」

「宜しくっす!お邪魔します!」

「頂きまーす!」

5人は輪になり、漸く昼食を摂り始めた

 

新たな仲間が増えた屋上での昼食は、変わらず賑やかだった
食後、ユイ達が談笑を続ける中、菱和は柵に寄り掛かってぼーっと景色を眺めているといういつもの構図が出来上がり
ユイは徐に菱和の横に行き、同じように柵に寄り掛かった

「‥翔太、どう?」

「‥‥‥‥お前がもう一匹増えたみてぇ」

「どういう意味?」

「一年前のお前も、あんな感じだった」

「‥‥、それって、良いの?悪いの?」

「さて、どうなんだろうな」

「‥意地悪っ!」

口の端を上げる菱和に、ユイは唇を尖らせた

 

ふと、上田は翔太がある一点を傍観していることに気付く
翔太が見つめる先には、アンバランスな2人が並んでいる

「‥どーしたん?翔太」

翔太は顔を上げ、小声で今の心境を吐露した

「‥‥、菱和くんって、みんなと全然キャラ違うなぁ‥って。ライヴで何度か観てるけど、あんまりワイワイするの好きじゃなさそうなタイプだと思ってて‥‥‥みんなと一緒に居るのが、凄く不思議な感じがする」

翔太が抱く菱和の印象は、嘗ての菱和そのもの
普段から菱和と接していない人間からすれば、翔太のような印象を抱くのは無理もない話だ
メッシュにピアス、近寄り難そうな雰囲気を纏っているのは変わらず
ユイ達と過ごすようになってから一年経った今も、特別バカ騒ぎが好きになったわけではない

「傍から見りゃそうかもなぁ。‥‥でも、結構面白い奴だよ。見た目あんなだけど、しっかりしてるし」

上田の言葉に、拓真が軽く頷く

一年時、同じクラスだったにも拘わらず、滅多に登校していなかった菱和とは一度も接することが出来なかった
二年になってから漸く菱和の人間性を知り、それは『こんなことならもっと早く仲良くなっていたかった』と思わせるほど魅力的だったよう
上田は、菱和の“魅力”に取り憑かれた人間の一人なのだ

親しげに話しているユイと菱和をゆったりと眺め、翔太はぽつりと呟いた

「‥‥、ユイと一緒にバンドやってるくらいだから、良い人なんだろうね」

「そりゃもう。俺と同じくらい男前よん」

「わ、うっっっざ」

拓真は、ドヤ顔の上田に強烈に突っ込んだ

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