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ガレキ

BL・ML小説と漫画を載せているブログです.18歳未満、及びBLに免疫のない方、嫌悪感を抱いている方、意味がわからない方は閲覧をご遠慮くださいますようお願い致します.初めての方及びお品書きは[EXTRA]をご覧ください.

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  • 05/07/05:42

1-2“ALLT”②

「っ離せよ!この変態ジジィ!!」
 
「うっせぇ、ブス。とっとと歩け」
 
「このやろ‥『痴漢だ』って叫ぶぞ!!」
 
「お好きにどうぞ。どうせ冤罪だし」
 
「みなさーん、この人痴漢でぇーす!!」
 
「みなさーん、このジョシコーセー万引き常習犯でぇーす。この鞄の中身は百均でパクった戦利品しか入ってませぇーん」
 
「っ、てめぇっ!!」
 
「ベンキョードーグは一体どこにあるんでしょおかぁー?」
 
「全部学校だよっ!!」
 
「教科書学校に置き去りにしたまんま、真っ昼間から万引きしてるジョシコーセーはここでぇーす!お巡りさぁーん!」
 
「うるせぇっ!!黙れ!!」
 
「お前が先に叫び出したんだろうが、このブス」
 
 
 
痴漢呼ばわりされたことなど意に介さず
蓉典は取っ捕まえたやんちゃな女子高生を引き摺るように、騒然とする街並みをずんずん歩いていく
女子高生は何とか逃れられないものかと必死に抵抗を試みるが、その手首を蓉典にがっちりと掴まれている
 
「俺に捕まっただけ有難いと思いな。店の人間に捕まってたら問答無用で警察行きだぞ。親とか学校に連絡されたくないだろ?」
 
「‥‥、‥‥‥っ」
 
女子高生は悔しそうに顔を歪めた
どうやら、『警察沙汰になりたくない』『親に連絡されたくない』は図星のようだ
 
「‥‥別に弱味握ってどうこうしようなんてこれっぽっちも思ってねぇから。ガキのくまちゃんパンツなんざクソも興味ねぇし」
 
「んなもん穿いてねぇよエロオヤジ!!」
 
「あっそ。とにかく、穏便にコト済ましたいなら大人しくついてきな。悪いようにはしねぇから」
 
蓉典はぱっと手を離し、女子高生を宥め賺した
 
今なら逃げられる、否、追い付かれてまた捕まってしまうかもしれない
『悪いようにはしない』という言葉だって、とてもじゃないが信じられない
だが、何の根拠も無いのに『その言葉を信用しても良いのではないか』という気になるほど、見上げた蓉典の顔はひどく穏やかだった
剰え、折角捕まえた“獲物”に逃げられる可能性が十分あるにも拘らず、いとも容易く拘束を解いたこの男───一体、何を考えてるんだろう?
 
女子高生の心に、寸分の迷いが生じた
 
「‥‥‥、どこ連れてく気だよ」
 
「珈琲が死ぬほど美味い喫茶店」
 
「‥‥は?」
 
「世界一美味いんだ。しかも、タダで飲める。ラッキーだと思わねぇ?」
 
「‥‥‥‥、私、珈琲飲めない」
 
「そうか。そりゃ勿体無いな‥‥じゃあ、何が好きだ?」
 
「‥‥‥、‥‥そこ、ココアある?」
 
「ああ、あるよ。奢ってやる」
 
蓉典はにこ、と笑むと、颯爽と歩き出した
この女子高生は逃げない、大人しく自分の後をついてくる───勿論何の根拠もないが、その思惑通り、女子高生は辿々しく蓉典の後をついて歩いた
 
 
 
***
 
 
 
店先に置かれたボードに、チョークで『今日のおすすめ』が書かれている
傍らには、錻の如雨露に入った橙、黄、桃色のガザニア
外で喫煙が出来るよう、灰皿とベンチも置いてある
窓硝子越しに店内をちらりと見ると、客は数えるほどしか居ないよう
 
「とうちゃーく。さ、どーぞ」
 
蓉典はNäckrosorのドアを開け、女子高生を中へ通した
 
歩く度に床が軋む木目調の店内
香ばしい珈琲の香り
ショーケースに並んだケーキ
BGMのジャズ
洒落た家具
レトロな雰囲気
 
女子高生は、不思議と心が落ち着いていくのを感じた
 
 
 
「うわぁああぁん‥‥ごめんなさいぃぃ‥‥」
 
突然、店の窓際のボックス席から号泣する男の声が聴こえてきた
 
「わかりゃ良いんじゃ、わかりゃ。もう二度とすんなよ。たかが万引き、されど万引き。今度見付けたら、絶対警察に連れてくけん。家族に迷惑掛けるようなことはしちゃいけん。な?」
 
「は、はぃ‥‥すいません、でした」
 
ボックス席には、嗚咽を漏らすスーツ姿の男と、それを宥める憂樹がいた
 
異様な光景に、女子高生は肩を竦ませて目を瞬いた
 
「‥‥‥‥お前も、ああなるのかな?」
 
『“あれ”が数分後の自分の未来の姿かもしれない』と予見した蓉典の言葉に、女子高生は弾かれたように反応を示す
 
「今泣いてるあの男もお前と同じ、万引きの常習犯だ。家庭に居場所がなくて、ストレス発散に繰り返しやってたらしい」
 
「‥‥私にも説教かまそうってハラかよ」
 
「そんなつもりはねぇよ。取り敢えず座んな。あったかいもんでも飲んで、オジサンとのーんびり喋ろうぜ」
 
蓉典はカウンターの一番端の席に座り、煙草に火を点けて吹かし始めた
 
今ならまだ逃げられる───心が揺れたが、何故か足が動かない
仕方なく、女子高生は蓉典の隣に座った
 
「お帰り、蓉典くん」
 
「ただいま。この娘にココアください」
 
「はい、ちょっと待っててね」
 
甘曽は蓉典に灰皿を手渡すと、冷蔵庫から牛乳を取り出し、ココアを作る準備を始めた
 
 
 
***
 
 
 
「いっつも行ってんのか、あの百均」
 
「‥‥うん」
 
「今の百均てすげぇよなぁ。生活雑貨、食料品、化粧品、工具‥‥何でも置いてある。見て回るだけでもワクワクするよな」
 
「‥‥、別に」
 
「‥お前、学校行ってないのか」
 
「私が学校に行こうがどうしようが、あんたに関係ないだろ」
 
「ああ、無い。無いけど、“学校サボって昼間から街彷徨いて万引きしてる女子高生の心理状況”は気になるんだよな。‥目の前に“その”女子高生が居るわけだし」
 
「‥‥なにあんた。説教するつもりはないんじゃなかったの?」
 
「ないよ。‥何でお前が万引きするのか、ってのが知りたいだけだよ」
 
「そんなもん知ってどうするわけ?」
 
「後学の為に役立てる。今後同じような女をナンパするときに使えるだろ?」
 
「は‥やっぱただのエロオヤジかよ」
 
「違げぇ。俺は“ムッツリ”だから」
 
「‥‥ぶはっ!何が!どこが!!」
 
「はぁ?ふざけんな、よく見ろよこの顔」
 
「“ガッツリ”じゃんかその顔は!どの面下げて“ムッツリ”って?笑っちゃう‥っはは!あははは!」
 
「‥‥‥‥‥ふーん‥‥笑うと結構可愛いじゃねぇか。“ブス”とか云って悪かったな」
 
「‥!!な、‥‥そんなお世辞云ったって、何も出ないんだから‥!」
 
「おまけにツンデレかよ。お前のカレシになる男、苦労しそうだなぁ」
 
「っ余計なお世話だよ!」
 
「ふふ‥‥。‥‥‥‥なぁ、コソコソ盗み働くよか、今みたいに下らねぇことで笑ってた方がよっぽど楽しいと思わねぇ?さっきも云ったけど、どんな理由があっても、万引きは問答無用で警察行きだ。今までは上手くやってたかもしんねぇけど、次“やる”時に誰にも見付かんねぇ保証はどこにもねぇじゃん。暇潰しかゲーム感覚かなんか知らねぇけど、バレた時のこともっとよく考えろ。‥‥今よりも“笑う時間”減っちまうぞ」
 
「‥‥‥、結局説教してんじゃんか‥‥」
 
「説教じゃねぇ。オジサンからの、有難ーーーいお言葉。もし暇潰しとかゲーム感覚でそんなことするくらいなら、一緒にゲーセン行って本物のゲームやろうぜ。俺、こう見えてプライズ獲るの得意なんだ。プリクラだって一緒に写りまくってやるよ」
 
「‥‥‥、プライズは良いけど、プリは、無理‥‥グラサンかけた変なオヤジとのツーショットとかマジあり得ないし」
 
「あ?何だよそれ。‥‥まぁ良いや。遊び終わったら、ここでまたココア飲も。‥あ、今度ココアだけじゃなくて軽食とかケーキ食ってみろよ。ここのものは、マジで何でも美味いぞ」
 
「‥‥‥‥‥‥。‥‥ゲーセン、付き合ってくれんの‥‥?」
 
「ああ。時間あるときはいつでも付き合ってやっから、またここに来な」
 
「‥‥‥‥ほんとに、来るよ。良いの?」
 
「うん。待ってるよ。‥俺、蓉典。お前の名前は?」
 
「‥‥‥、‥今度会ったときに教える」
 
「はぁ!?お前、俺だけ名乗るとかズルくねぇ?」
 
「ズルくない。タダで女子高生と遊べるんだから、感謝しなよ」
 
「は‥‥あっそ‥‥‥」
 
「‥‥‥‥。‥‥これ、預かっといて」
 
「‥‥、預かっとくだけで良いのか?一緒に謝りに行くか?」
 
「‥‥‥‥うん‥‥」
 
「うん。‥‥今日は良いから、決心ついたらここに顔出せよ」
 
「‥‥ココア、美味しかった。‥御馳走様」
 
「ああ。帰り、気を付けてな」
 
 
 
***
 
 
 
「あー、ええなぁ女子高生‥‥俺もしょぼくれたリーマンより女子高生が良かった」
 
女子高生を見送った後、憂樹が蓉典の隣に座った
 
「はは。今度女子高生の案件当たったら、ばくって(交換して)やるよ」
 
「ほんまか?約束じゃぞ?」
 
「ああ。約束」
 
───‥‥‥‥やっぱ美味いな、ここの珈琲は
 
蓉典は煙草の煙を燻らせ、ゆったりと笑った
 
「‥そういや、ぼっくんまだ帰ってきてへんよな?女子高生よりも活きの良い男子高校生‥‥しかも三人じゃけん、苦戦しとるんじゃないか?」
 
「いつものことじゃん。そのうち帰ってくるさ」
 
「まぁ、そうやな‥‥なんか、腹減ってきたなぁ。迦一さん、今オムレツ作れる?」
 
「あ、俺もナポリタン食いたい」
 
「ああ。ちょっと待ってて、すぐ作るから」
 
蓉典と憂樹は談笑しつつ、暫し伊芙生の帰りを待った
 
 
 
***
 
 
 
「───んのやろおぉ、待ちやがれこのクソガキ共っっ!!!!!」
 
蓉典と憂樹がNäckrosorでオムレツとナポリタンに舌鼓を打っている頃───閑静な住宅街に、激チャリする三人組の男子高校生をダッシュで追い掛ける伊芙生の怒号が響き渡った

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