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ガレキ

BL・ML小説と漫画を載せているブログです.18歳未満、及びBLに免疫のない方、嫌悪感を抱いている方、意味がわからない方は閲覧をご遠慮くださいますようお願い致します.初めての方及びお品書きは[EXTRA]をご覧ください.

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  • 05/17/17:56

127 アズとあっちゃん

「だーーーーーもうやってられっかっっ!!!」

ユイのドヤ顔、拓真と尊の失笑に居た堪れなくなり、アタルは勢いよくトランプを床に投げつけた

「あーマジ腹痛てぇ‥‥あっちゃん、ほんと弱過ぎ」

「うっせぇ!折角俺が出そうとしてんのにこいつが邪魔してくんだろ!」

「いや、そうしないとユイも勝てないしな」

「大富豪て、そういうルールでしょ。てかトランプ全般そういうもんでしょ」

「わかってるよ!!でも今日はもうやめだ!ひっしー、一服しに行くぞ!」

「ちょっと、憂さ晴らしにアズを付き合わすの?」

「煙草でも喫わなきゃやってらんねぇんだよっ!お前、また今度やっかんな!覚えてろよっ!!ひっしー、行くぞ」

「うん」

ちょうどニコチンを欲していた菱和としては、願ったり叶ったりな誘いだった
尊は首を傾げ、訝しげに声を掛ける

「菱和くん、無理しなくて良いんだからね?」

「いえ、俺も喫いたいと思ってたんで」

アタルが立ち上がって部屋を出ていくと、菱和は尊に軽く会釈をしてからそのあとをついていった

 

***

 

「ちょっと外出ても良いか?」

「うん」

上着と煙草を携えたアタルは、菱和を玄関へと促す
菱和も自分の煙草を持ち、靴を履き始めた

「おお、寒っ‥」

戸を開けると、風が頬に突き刺さってくる
元旦の深夜は凍て付いていた
空は驚くほど澄んでおり、暖かく賑やかな室内とは正反対の静寂に包まれている
腕を擦りながら玄関先まで出ると、アタルはジッポを取り出す
手を添えてラッキーストライクに火を点け、一息吹かした
ジッポを手渡された菱和も、JPSに火を灯す

「付き合わせて悪かったな」

「いや、全然」

二人が吐いた煙と言葉が、静寂に消え失せる
アタルは軽く頭を掻き、ボソリと呟いた

「‥‥‥‥何つーか、‥‥ありがとな」

「‥‥、何が?」

「チビ助のこと。‥‥たーから聞いた。過呼吸のことも、お前んちに暫く泊めてたってことも。色々世話掛けたな」

尊からならば理解に苦しむことはないが、アタルからの謝辞は予想外だった
菱和は目を瞬かせ、その真意を探る

 

物心ついた頃から、アタルは弟が二人いるような感覚を抱いて過ごしてきた
幼馴染みであり親友でもある尊、その弟であるユイ
ユイと幼馴染みであり、アタルの従兄弟である拓真
4人はいつも一緒におり、沢山の時間を共有してきた
バンドを組むことになったのも、極自然な流れだった

ユイの周りにはいつも
兄である尊が、幼馴染みの拓真とリサが、そしてアタルがいた
その誰もが皆一様に、ユイを想っている

それは今までもこれからも不変な、ただ一つの事実

 

───あいつ、ほんと幸せ者だな

ユイとアタルの関係とユイを取り巻く人物の関係性を一つずつ辿っていくと、アタルの想いがじわりと心に滲んでいく
少し照れ臭そうに感謝を述べるアタルの横顔を見て菱和は少し口角を上げ、煙草を吹かす

「んーん。好きでやったことだから」

「そっか‥‥‥‥ほんとに好き、なのな。あいつのこと」

「うん。好きだね」

ユイへの想いをきっぱりと口にする菱和の実直な想いに心底安堵し、アタルは高らかに笑い声をあげた

「っふはは!云うねぇ!お前ほんと面白ぇな!!お前のそういうとこ、俺結構好きよ」

「‥俺も好きすよ、あっちゃんのこと」

「あ?‥云われなくても知ってるっつーの!」

無口で無愛想な菱和が時折“ぶっ込んで”くる所もお気にのようで、菱和という人間を知れば知るほどそのキャラクターがツボにハマっていく
反面、菱和はアタルのギターの技術や作曲のセンスに一目も二目も置いており、豪快で清々しい性格にも好感を抱いている

他の面々に比べると共に過ごした時間は少ない二人だが、何時しか妙な連帯感が構築されていた
それは互いに感じているところで、奇妙ではあるもののそれを受け入れることには何の抵抗も無いようだった

アタルが一頻り笑った後、菱和がぽつりと話し出した

「‥‥‥どうしたら良いすかね」

「ん?」

「ずっと迷ってたんすよね。ユイと俺のこと、尊さんに話して良いもんかどうか。‥あっちゃんと佐伯には話して良かったけど、尊さんはちょっと違うっていうか‥‥やっぱ“お兄さん”ってなると‥‥‥‥」

そこまで云ったところで、今度は菱和が頭を掻く

 

その気持ちもわからんでもない

ダチに話すのとは訳が違う

況してや、ユイと菱和は一般的な恋愛関係ではない

自分達の関係を打ち明ける前に外食に招かれたり年越しを共に過ごしたり
順番は逆になってしまったが、打ち明けるならば尊が確実に石川家に居る今がチャンスだ
話したところで何がどう変わるかは知る由も無いが、菱和は菱和なりに色々思案していたようだった

───こいつ、蕎麦湯がきながらそんなこと考えてたんか

アタルはふ、と笑みを零した
尊と自分の関係を知った上で殊勝に打ち明ける菱和に対し、真摯に返事を返す

「‥‥別に無理して話すこともねぇんじゃねぇの。俺らに話すのとは全然訳が違うんだから。俺から尊に話すって手もあっけど、それじゃなんか、やだろ」

「‥‥んー、‥‥‥そうすね」

菱和は頭を掻きながら煙を吐いた

気を揉むのは十分わかる
何処を見るわけでもなくぼーっと煙草を咥える菱和を見つめ、アタルは口角を上げた

「───何となくだけど、尊はお前らのこと気付いてんじゃねぇかな」

「‥‥‥‥マジ、すか?‥‥なんか、そんな雰囲気ありました?」

「結構前に尊と電話したとき云ってたんだけどよ。あのチビ、『名前は出さなかったけど“大好きな人が居る”』って、すっげぇ嬉しそうに喋ってたみてぇ。あいつの云う“大好きな人”って、1000%お前のことだろ」

“1000%”という奇想天外な数値に圧倒されつつ、菱和は面食らった

「‥‥‥‥それってほんとに“1000パー”俺のことすかね」

「ああ。“俺”が云うんだから間違いねぇぞ」

アタルは親指で自分を差し、したり顔をする
“尊の親友であるアタル”からの言葉は、ユイの云う“大好きな人”が菱和であるという信憑性をより高める

 

『兄ちゃん、聞いて。俺ね、今、すっげぇ大好きな人がいるんだ。でね、ちょっと前にわかったんだけど、その人も俺のこと好きでいてくれてたんだよ。なんか、めちゃめちゃ嬉しくてさー‥‥』

 

図らずも、ユイも菱和との関係を尊に打ち明けたいと思っており、そして既に伝えていたようだ
だが、“名前を出さなかった”ということを考えると、やはり『自分達の関係は受け入れられ難い』という思いがあったのだろう
それでも、大好きな兄に自分の存在を伝えてくれていたことは“嬉しい”の一言に尽きる

「んで、この前飯食いに行ったんだって?そんときはさ、別れ際のお前ら見て、なんか知んねぇけど『安心した』っつってたよ」

「安、心‥‥」

『尊が自分をどう捉えているか』
菱和にはそれがわからなかったが、少なくとも“弟が気を赦している相手である”ということは火を見るよりも明らかだったようだ
そうでもなければ、前回も今回も、わざわざ家族団欒の場に長身で無愛想な人間を招きはしないだろう
アタルの見解では『恐らく尊はユイと自分の関係に気付いている』とのことだが、尊本人の口からその事実を聞くまでは定かではない
だが、こんな見た目の自分であっても“安心感”を与えられていたのだとしたら、それでもう十分だと菱和は思った

───そっか

深く吸い込んだ煙草の煙をゆっくりと吐き、穏やかに笑んだ

 

アタルは短くなった煙草を地面に落とし踏み付けると、新しい一本に火を点けた

「‥‥石川家の“カテーのジジョー”的な話、聞いたことあるか?」

「ああ、うん。ユイが過呼吸になったときに聞いた」

「そっか。なら話しても大丈夫だな。俺もそこそこ知ってんだけどな、っていうかほんの少し関わってんだけどよ」

「‥‥そうなんすか」

「おー。‥‥ある日突然尊がユイ連れて、血相変えてうちに来てよ‥‥‥‥」

アタルは当時のことをゆっくりと語った

 

13年前
自宅で拓真と遊んでいたアタルは、夕方の来訪者を出迎えた
尊は息せき切った様子で玄関に佇んでおり、その傍らには、尊に手を握られて目を泳がせているユイがいた

「よぉー尊、“たっち”も。どうしたんだよ?」

「悪い。ちょっとこいつ預かってて欲しい」

「ん、それは良いけど‥‥あ、飯食ってく───?」

いつもの調子で接していたアタルは、改めて尊の顔を見てゾクリとした

どちらかというと冷静沈着な尊の眼差しから冷静さがほぼ欠落しており、憤怒、悲哀、憎悪───どす黒い感情が滲出していた
そんな尊を見たのは初めてのことで、その幼馴染みの表情は恐らく一生涯脳裏に焼き付いて離れないだろうと思える程のインパクトだった

「あ、ただしくんだ!」

とても『遊びに来た』とは云い難い雰囲気を感じ取ったアタルが怪訝な顔をしていると、そんなことは知る由もない拓真がリビングからドタバタと現れる
拓真は歓迎ムードだったが、ユイは不安げに尊を見上げてばかりいた

「‥兄ちゃ‥‥」

「お前はここに居な。アタルと拓真に遊んでもらえ」

「や‥‥兄ちゃん‥やだ」

尊はなかなか手を離さないユイの頭をぽん、と叩き、優しく笑った

「あとでちゃんと迎えに来るから。‥アタル、頼む」

「え、おい‥‥」

半ば無理矢理にユイを託すと、“弟を想う兄の顔”から再びどす黒い感情を剥き出しにし、尊はアタルの自宅を去った

『“なにか”あったのだ』
『放っておけない』
直感的にそう思ったアタルは、閉まりかけていた戸を思い切り蹴飛ばし開け放った

 

尊に託されたユイと、ドアを蹴飛ばした音に驚いた母の怒声などお構いなしに、アタルは尊を捜し近所を走り回った
辺りは夕暮れ、陽は沈みかけ足元も暗くなり、街灯が疎らに点き始めている
ふと目についた公園に尊が居るのを見つけ、一目散に駆け寄る
公園に足を踏み入れ尊に声を掛けようとしたところで、アタルはその動きを止めた

───あれは‥‥尊の叔母さん‥?

公園には、尊の他に尊の叔母の姿があった
尊は、先程見せたどす黒い感情の全てを叔母に向けて立っていた
対する叔母は、何やら青ざめた表情だった

 

「だから違うのよ、唯くんの“あれ”は‥」

「何が違うんだよ?あいつは何も喋らなかったけど、あんたの名前出した途端顔色変えたんだ。絶対あんただろ」

「だから、違うの。誤解よ‥‥あの子が、いけないのよ」

「あいつが悪いから、躾けたって云うのか?躾であんな身体になるのか?それともあれが“普通”なのか?だったら、世界中の子供の身体に痣が出来てるだろうな」

「なん、違‥‥」

「あんた、大人のくせに“躾”と“虐待”の違いもわかんないの───?」

 

二人でなにか話している
間に割って入ることを何となく躊躇し、アタルは公園の入り口で様子を窺った
内容は聞き取れないが、如何にもただならぬ状況であるということだけははっきりと認識出来た

「───もう二度と家に来るな。俺にも家族にも、近寄るな」

程なくして尊が一歩身を引き、叔母を残したまま公園を去ろうとした
叔母は激しく狼狽え、尊を引き止めようとしている
『行くならここだ』と、アタルは尊に駆け寄った

「! アタル‥‥たっちは?」

「悪り、お前になんかあったんだと思って‥‥置いてきちった」

バツが悪そうな顔をするアタル
尊は軽く溜め息を吐き、呆れ顔で云った

「‥‥そっか。やっぱこんな時間に連れてったのが悪かったな。俺の方こそごめん、有難う。もう帰るから」

先程の表情がまるで嘘のように、尊は“少年の顔”に戻っていた
見慣れた尊の顔を見て、アタルは安堵の表情を浮かべる

「尊くん待って、話を聞いて‥」

狼狽えたままの叔母が尊の腕を掴み、歩みを制止する

途端、尊はその腕を思い切り振り解き、また“あの”顔になる

そして、目の前に居る幼馴染みから一生聴く機会がないと思えるほど冷徹な声と言葉が、アタルの耳に谺した

 

「──────くたばれ。クソババァ」

 

アタルの安堵は忽ち消え失せ、尊の憤りを肌で感じた

そのうちアタルの母がユイと拓真を連れて公園に現れ、尊とアタルは事情を説明し、ユイへの虐待の実態が次第に明るみになっていった

 

「‥‥‥‥勿論オバサンにゃムカつきMAXだったろうけどよ、あいつがいちばん怒ってんのは自分自身だったんだよ。一つ屋根の下で一緒に暮らしててユイが酷てぇ目に遭ってたのに何も気付かないでいた‥って。『未だに後悔してる』って、たまに漏らすんだ。‥‥尊がどんだけユイのこと想ってるかは、俺がいちばん理解しているつもりだ」

尊は、親友にどす黒い自分をさらけ出すことも厭わずユイを護った
自らの範疇内でユイが虐げられていることに愕然とし、その事に気付かなかった自分の愚かさを卑下した
ただでさえ、母親が居ないことでユイは淋しい思いをしていた
勿論自分も同じ思いなのだが、『母が命を賭して護った大事な弟』だと、誰に云われずとも『自分は“兄”だから』と、直向きにユイを思いやって過ごしていた
そしてそれは、アタルを始めとした周りの目から見ても明らかだった

『もっと早く気付いてれば───』

ユイが過呼吸になった折、尊は幾度となく云い放ったその言葉をまた口にした
相手がアタルだからこそ安心して吐ける、弱音

「‥‥尊はさ、すげぇ“強か”なんだよ。あいつだって相当傷付いたと思う。でも、俺に話すのはいっつも“後悔”ばっか。てめぇのことなんかよりもまず、ユイのこと優先してんだよ。‥まぁでも、それが“血が濃いもの同士の絆”的な、さ。あいつら見てたら、『男兄弟って良いなぁ』とか思うんだよな」

 

そんな態度はおくびにも出さない
だが、それは確実に在る
無償の、愛

 

ユイと尊
石川家の“兄弟の絆”を聴き、菱和はゆっくりと頷いた

「‥‥‥‥うん、それは何となくわかる」

「‥‥尊とよく似てるよ、お前は。表面上はクールだけど、頭ん中じゃチビのことで細々と悩んだりしてるとことか、な」

くす、と笑い、アタルは煙草を咥えた

 

『アズって、兄ちゃんに似てるかも。‥‥よくわかんないけど、似てる‥気がする‥‥』

 

何時かユイに云われた言葉が、菱和の頭に蘇る

「‥‥‥‥、それ、前にも云われた」

「あ?」

「前にユイに云われた。尊さんと俺が『似てる』って」

「ははっ!そっか!ちゃらんぽらんなくせに意外と理解ってんじゃん、あいつも」

アタルはしたり顔でニヤニヤとした
露程も感じていなかったことをアタルにも指摘され、再び面食らう菱和
その肩を軽く叩き、アタルは穏やかに呟いた

「誰だって、家族の幸せを望むだろ。‥‥尊も、ユイが幸せなら相手が誰だろうと文句ねぇよ、きっと」

 

それは、『その相手が自分でも良いのだ』と思わせてくれる台詞だった

菱和にとって、石川兄弟と深く長い付き合いのあるアタルからの言葉は心強いものだった
ユイへの想いも些細な悩みも真摯に受け止めてくれた“リーダー”に、菱和は心から感服した

 

ユイを幸せにしてやりたいなんて、そんな烏滸がましいことは思わねぇ

でも、ユイが幸せに感じられるのなら

自分の存在が、少しでもユイの為になるなら

俺はずっとユイの傍にいる───

 

そんなことを思いながら、菱和は煙草の煙をぼんやりと見つめた

「‥‥‥‥あっちゃん」

「あん?」

「ありがとね。‥‥やっぱあっちゃんのこと好きだわ」

「ぶっ‥はは!!だぁかぁら、知ってるっつーの!‥‥と、そろそろ中入るか‥‥凍っちまいそーだ‥‥‥続きは中で、酒でも呑みながら話そうぜ」

「うん。なんか作ってくれる?」

「おお。お前結構イケる口だから安心したよ」

アタルはケラケラと笑いながら先程踏み付けた煙草を拾い、菱和を石川家へと促した

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