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ガレキ

BL・ML小説と漫画を載せているブログです.18歳未満、及びBLに免疫のない方、嫌悪感を抱いている方、意味がわからない方は閲覧をご遠慮くださいますようお願い致します.初めての方及びお品書きは[EXTRA]をご覧ください.

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  • 02/04/18:42

11 Session

用を足した拓真の耳には、先程聴いたばかりの菱和のベースの音が強烈に残っていた
 
───ありゃ相当なもんだなぁ‥‥スラップ奏者、なのかな?そういやピックは嫌いだって云ってたっけ。なんかもっと色々知りてぇな‥‥
 
「───あ、そっか」
 
妙案を思い付いた拓真は、思い立つや否や小走りで店内へと戻って行った
店内でユイと談笑中の菱和を見付けるとほっとし、すかさず声を掛けた
 
「菱和、これから時間ある?」
 
椅子に腰掛けていた菱和は足を組み、拓真に返事をした
 
「あぁ、別に暇だけど」
 
「じゃあさ、スタジオ入らない?」
 
「‥‥スタジオ?」
 
「うん。俺ら17時半に予約してあんだよね。良かったらセッションとかどうかな?と思って」
 
「‥拓真?」
 
「ほんとはもう一人ギターが来るんだったんだけど来られなくなって、2人でスタジオの予定だったんだ。ベース入ってくれたら出来る曲も増えるし、もし良かったら‥‥な、ユイ?」
 
ユイは肘で突いてくる拓真に、やっと反応した
 
「あ、うん。セッション‥‥かぁ。‥良いね、やりたい!」
 
「‥‥‥‥、‥‥」
 
───セッション‥‥確か、ギターとドラム、だったか
 
菱和は少し俯き、考えた
 
「あ、無理にとは云わないから。ほんとに時間あったらで良いからさ。菱和の分の料金も俺が払うし‥どうかな?」
 
「───‥‥面白そうじゃん。‥俺で良ければ、是非」
 
菱和の返事を聞いたユイは飛び上がる勢いでガッツポーズをとり、拓真にハイタッチを求めた
 
「マジ!?やったー!まだ聴けんの?菱和のベース!」
 
「正直云うと、俺ももっと聴いてみたかったんだよねー」
 
ハイタッチをし喜ぶユイと拓真を眺め、菱和はほんの少し口角を上げた
 
「‥‥そん代わし、金はちゃんと払うよ」
 
「良いんスか菱和さん~?遠慮しなくて良いんですぜ?こっちから誘ったんだしさー。俺ちょうどバイト代出たからリッチなもんで」
 
キャラが変わったように、拓真はおどけて見せた
横からユイが割り込む
 
「そうなの?じゃあ俺の分も払ってよ!」
 
「やなこった。お前は別だよ」
 
「じゃあ、練習終わりのジュース!梅サイダー!」
 
「ぜってー奢んねぇ。ブラックの缶コーヒーなら奢ってやるよ。梅サイダーよか安いし」
 
「‥要らない!苦い!不味い!何だよ、俺が苦いの飲めないのわかってるくせに!どケチ!!」
 
「お前なぁ、何の為に俺がバイトしてると思ってんの。汗水垂らして必死に稼いだ金、何でお前のスタジオ代やらジュース代に消えなきゃなんないわけ?」
 
「良いじゃん、ジュースくらい!ツーバスなんか必要ないよ!」
 
「全っ然良くなーい、ツーバスじゃなきゃやだー。ああー早くツーバス欲しいなー!あっちゃんも『買え』って云ってるしなー」
 
「あっちゃんとかどうでもいいよ!俺の梅サイダーあぁ!!」
 
「あーもう聞き分けねぇなぁ。‥‥てか、今あっちゃんのこと『どうでもいい』とか云ったな?」
 
「‥云ってないよ!云ってない!気のせいじゃない!?」
 
「いーや、はっきり聞こえた。“マジどうでもいい”って」
 
「云ってないって!!俺“マジで”とか云ってないじゃん!」
 
 
 
恐らく、ユイと拓真は多くの時間を共有し合い、他愛もない冗談話がすっかり常態化するほどの関係を築いてきたのだろう
 
2人の仲が良いのは学校で共に生活する中で知っていたが、菱和は心のどこかでそれを羨ましく感じていた
少なくとも、今の自分には真に友達と呼べる存在はいない
信頼だとか友情だとか、そんなものは絵空事で、自分には必要の無いものだと思っていた
だが、その価値観をぶち壊すような清々しい2人の関係に、尋常じゃない“絆”を感じずにはいられなかった
 
目の前で繰り広げられる悪ふざけの応酬は、とても新鮮な光景だった
ユイと拓真にとってそれは“いつものこと”に過ぎないのだが、それを自分の前で惜しげもなく披露する
そして、そんな奴等が自分をバンドに誘ったり、楽器や音楽の話をしたり、演奏を聴きたがったり、一緒に演奏したいと云ってくれたり───自分が受け入れられつつある状況にあることを、半ば信じられないような、嬉しいような
複雑な感情が、菱和を支配していく
 
 
 
───ほんと、何なんだこいつら
 
込み上げてくる感情を抑え切れず、菱和はく、と笑った
 
 
 
「───笑った」
 
驚きのあまり、ユイと拓真はハモった
 
「ねぇ、今菱和笑ったよね!」
 
「‥‥今の、絶対レア画像だよ」
 
「菱和って、そういう顔で笑うんだね!笑った顔見たの初めて!」
 
「俺も俺も。なんか、良いね」
 
菱和はすぐに顔を逸らし、口元を隠した
 
「‥‥、悪い」
 
「え、何が?謝るようなことじゃないよ!」
 
「‥‥てか、俺ら今笑われたんだよな‥それって絶ーっ対ユイの所為じゃん」
 
「‥何でだよ!拓真だって同レベルってことだよ!?」
 
「うわー‥‥屈辱‥」
 
「‥そこまで云わなくてもよくね?」
 
 
 
スタジオに入る時間ギリギリまでユイと拓真の悪ふざけは続き、ツボにハマる言動が紡ぎ出される度に、菱和は噴き出しそうになるのを堪えた
 
 
 
***
 
 
 
「‥菱和ってさ、実は結構真面目でしょ?」
 
「‥‥そうか?‥何で?」
 
「うーん‥‥今までの菱和見てて、何となくそう思った。あ、勿論良い意味でね」
 
「‥‥考えたことなかったな、自分が真面目だとか」
 
「あくまで俺の印象だから、あんま気にしないでよ」
 
「ああ‥‥‥‥つーか、真面目っていや佐伯の方が当て嵌まんじゃない?」
 
「え?俺?」
 
「真面目じゃん、石川に比べりゃ。‥‥勿論、良い意味で」
 
「うーん‥‥‥‥ユイと比べられると、なんかちょっと複雑‥‥」
 
「‥そうか?‥‥ひょっとして今の、“屈辱”だった?」
 
「‥‥、菱和さん、案外イケるのね‥‥」
 
「ん?」
 
「いや、何でもねっす!」
 
 
 
***
 
 
 
3人はスタジオに入り、それぞれ楽器の準備を始めた
 
「さーて、何演ろっか!」
 
「うーん‥‥折角ベース居るんだから、普段演れない曲演りたいよな」
 
「菱和は?なんか演りたい曲ある?」
 
「‥二人に任せるよ」
 
菱和は指を広げながら返事をした
 
「任されちった。‥んじゃあさ、MR.BIG演りたいな!菱和も知ってるし!」
 
「またそんな激しいやつ‥‥初っ端から殺す気か?」
 
拓真はユイを睨んだ
 
「えー‥駄目?」
 
「‥‥じゃ取り敢えず、な。何にする?」
 
「“Addicted To That Rash”」
 
「やっぱ殺す気で来てるな‥‥てか初めて合わすのにイントロからユニゾン地獄じゃんあの曲。大丈夫?」
 
「何とかなるんじゃない?ね、菱和!」
 
ユイは適当にアルペジオを奏でながら呑気に同意を求めた
 
「‥‥まぁ、努力するわ」
 
菱和がベースを構えたのを確認した拓真は椅子に座り直し、スティックを持った
 
「‥おけ。俺らいつもやってる感じにするから、菱和は適当に入ってよ」
 
「ああ」
 
「んじゃ、いきまっせー」
 
 
 
激しく疾走感のあるドラムと、ベースの超高速トリルから始まる“Addicted To That Rash”
この曲はイントロからギターとベースのユニゾンが待ち構えており、おまけに初っ端から2拍3連が続く
リズムキープも含め難易度は言わずもがな高く、尚且つテンポは130とかなり速い
 
初めて合わせるのだ、いきなりピタリと合うことは無いだろう
最悪、グダグダな演奏になってしまうかもしれない
拓真はそう思っていたが、『取り敢えず楽しもう』と決める
拓真のカウントが、狭いスタジオ内に響いた
 
 
 
件の、ベースのトリルが聴こえてくる
 
目をやると、拓真は余裕綽々とライトハンドでトリルを繰り返す菱和と目が合った
自分の刻むリズムと滑らかに重なり、背筋がゾクリとした
 
たった8小節、音を重ねただけ
にも拘わらず、既に掌は汗でじっとりしている
だが、ここで手を止めるわけにはいかない
気が気ではなかった
8小節が過ぎると、そこから容赦無しにギターが滑り乗ってくる
 
スラップに加えライトハンドも難なく駆使する菱和は、他にも“武器”を持ち合わせているのではないか───
 
───グダグダにさせたくない
 
拓真は強くそう思い、より気を引き締めた
 
 
 
ユニゾンまでの4小節
ユイは一つ一つ、音を正確に紡ぎ出していく
4小節のフレーズを、こちらも余裕綽々に弾いていく
そして、
 
───笑ってる‥‥‥‥さぞ“愉しい”んだろうな
 
ユイのギターは、黄色のレスポール
尊のお下がりで、尊がベースに転向してから、ユイは大切に弾いてきた
ピックガードには無数の傷が付いているが、ボディは比較的綺麗に保たれている
 
 
 
恐らく、ユイは、成功だの失敗だのということは考えていない
ただ、只管、愉しんでいる
 
ユニゾンパートが近付いてくると、ユイは菱和に目配せした
拓真同様『グダグダになるかもしれない』と思っていた菱和は、その考えを捨てた
 
ユイの性格と同じように、無邪気に跳ねるギターの音
 
───“飼い主”に似る、ってか
 
 
 
2人の音の粒は、ぴったりと重なり合った
 
 
 
***
 
 
 
曲はAメロへと進んでいく
自分が止まるわけにはいかないというプレッシャーを抱え、余裕がない中でも、拓真はベースに耳を傾けた
ユニゾンパートが多い曲であるにも拘わらず、ユイのギターにしっかりと寄り添う菱和のベース
決して他のパートの邪魔をせず、絶妙なタイミングで“気持ち良い所”を突いてくる
当初、選曲をミスったかもしれないとさえ思った拓真はその考えを見事に覆され、このベースなら心置きなくリズムを任せられると感じていた
 
普段はアタルがメインヴォーカルを張っているが、不在なときはユイの担当になる
ギターに集中するあまり歌まで手が回らないのは自覚しているので、隙さえあれば歌う、という感じだった
この曲はサビに掛け合いがあり、拓真は大声でがなる
2人の声に勢いづいたのか、菱和も掛け合いの部分をがなった
菱和が声を発するとは思っても見なく、忽ち嬉しくなったユイはヴォーカルもそれなりに務めた
 
後半のギターソロ部分にはまたしてもベースとのユニゾン、そしてギターとベースが交互に弾きあうところも存在する
やはりユイは、にこにこしたまま目配せしてくる
 
 
 
───『来てよ、思いっきり』
 
そう云っているように感じた
 
 
 
──────上等
 
 
 
菱和は口角を上げ、その瞳を捉えながら音を重ね合わせた
 
 
 
2人がソロや掛け合いをする最中、ドラムはリズムを刻み続けている
ユイは拓真にも目配せをし、拓真も笑顔で応える
 
安定感のある拓真のドラムと、期待を裏切らない元気なユイのギター
 
その音は、何よりも愉しんでいた
 
その中に、自分のベースが存在している
俄に信じられない光景だが、確かに“そこ”に居る───
 
弾き慣れている筈のフレーズが、新鮮味を帯びる
共に奏でることがこんなにも愉しいと思ったのは、これが初めてかもしれない
そう思わせる、ギターとドラム
音の粒が狂いもなく真っ直ぐ進んでいくそれは、徐々に“愉しさ”から“快感”へと変わる
今所属しているバンドではまず得ることが出来ないものが、ユイと拓真によって齎された
 
 
 
───何だこれ
 
妙にテンションが上がる
菱和にとっては、今まで楽器を演奏してきた中でも特に快感だと思える瞬間だった
 
 
 
***
 
 
 
まだ一曲目が終わったばかりだというのに、3人は既に汗だくになっていた
ユイがチョイスした激しい曲により、一番汗だくになっていたのは拓真だった
 
「‥‥はー‥つっかれたー‥‥マジ腕死ぬわ‥乳酸が‥‥」
 
「‥‥お疲れさん」
 
菱和はどかりと椅子に座り込んで、拓真を労った
 
「ああ‥うん‥‥菱和も。‥‥ってかさ、ほんと只者じゃないね‥‥‥‥ユニゾン、ハマり過ぎててめっちゃヤバかった」
 
「そうか‥‥。‥‥すげぇパワーあんな。めっちゃノれたし、超弾き易かった」
 
「そーぉ‥?恐縮っす。もー、2人見てたらトチるわけにゃいかんと思ってさ‥‥」
 
「いやいや、十分だよ」
 
「───ふわあぁ‥‥超楽しい!!!」
 
「おま‥‥何でそんな元気なの‥?」
 
拓真と菱和がそれぞれ感想を述べる中
ユイは深く息を吸い込み、全力で思いの丈を吐き出した
すっかり疲弊しきった拓真は、スタジオいっぱいに広がるユイの声に呆れる
 
「あー、やっぱベース入ると全然違うね!安定感あるし、楽しいし!」
 
「‥そりゃ、曲選んだ本人だも。お前が一番楽しかったろうに」
 
呆れた視線を向けると、ユイはギターをスタンドに立て、パーカーを脱ぎ出した
 
「俺らかなりあの曲やってるけど、菱和も相当やった?」
 
「‥ああ、昔結構弾いてたな」
 
菱和は髪を掻き上げながら息を吐く
 
「やっぱり?てか、あのベースラインめっちゃ難しくない?」
 
「‥‥難しい方、かな」
 
「でもさー、かなり弾き込んでないと絶対出来ないよなー。初めて合わすのにあんな綺麗にハモっててって、びっくりしたわ」
 
弾き込んでいなければ合わせることも難しい
それも確かなことなのだが、菱和のベースはそれだけではない要素もあった
 
ベースは他のパートより地味で目立たないが、重く太い旋律はバンドを支える重要な役割がある
目立たない振りをしつつ、しっかりと目立たなければならない
単音の粒で1本の太い線で紡ぎながら“道”を創り、その上に華やかなギターのフレーズが乗る
また、ドラムの振動と絶妙に重なることで全体のグルーヴを生み出す
初めて音を交わしたというのに、的確に“嵌まる”ことの出来る感覚や耳を持っていること
それは、菱和の生まれ持った才能だ
菱和はベースの役割をきちんと弁えており、ユイと拓真も菱和のベースは『ただ上手いだけではない』と感じていた
 
「次何やるー?」
 
「あーもう激しいのは勘弁。俺まだ手ぇ震えてる。ちょっち休まして」
 
拓真は天井を仰いだ
ギターを構え、ユイは菱和に尋ねる
 
「菱和は?休憩する?」
 
「‥‥俺は良いよ、いつでも」
 
菱和はシャツの袖を捲り、楽器を構えた
 
「‥上手い上にタフかよ‥‥怖ぇなぁ‥‥」
 
「俺ら準備万端なんだけどー?ちゃっちゃとやんないとさー、時間も限られてるしー」
 
ユイはトリルを繰り返して拓真を煽り始めた
 
菱和も無言でユイのトリルに合わせるようにスラップを始め、拓真を煽り出した
 
 
 
その内、ユイと菱和はどちらからともなく顔を見合わせ、トリルとスラップで即興のセッションを始めた
 
「はー‥‥もう2人でやれば良くない‥?マジ休ましてよ‥‥」
 
楽し気な様子の2人を見て、拓真は少しげんなりとした

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