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12 Carbonara
瞬く間にスタジオの時間は過ぎていった
「二人でやれば」と云いつつも、拓真は途中でしっかりと演奏に加わり、遊びも含めて一時間ほぼぶっ通しで演奏した
時刻は18:30を回った頃
まだ陽は落ちていないが、普段なら夕餉を迎えている時間だ
3人はsilvitを後にし、最寄りのバス停へと向かった
「んー腹減ったぁー」
「マックでも行くか?」
「うーん‥俺、マックよかパスタ食いたいな」
「あっそ。じゃあファミレス行く?」
「うん!菱和も行く?」
行き先を決めたユイと拓真の後ろから、菱和がかなり予想外な返事をした
「───それなら、うち来るか?」
「へ??」
ユイと拓真は振り返り、菱和をガン見した
菱和は二人の視線に若干引いたが、続けて話した
「その方が金かかんねぇだろ。うちこっからそんな遠くねぇし、ついでに食ってけば‥‥」
「マジ?お邪魔しちゃって良いの?」
「‥2人さえ良ければ」
「じゃあ、菱和んち行くー!」
ユイは嬉しそうに拳を突き上げた
「‥‥ちょと待って‥菱和んちってあけぼのの高台じゃないの?結構遠くない?」
「それは実家。俺、今一人暮らししてるから」
「へぇー!菱和一人暮らしなんだ!」
「てことは、アパート借りてるかなんか?」
「ああ」
「じゃあ、今日は親御さんでも来てるの?だったらなんか悪くない?俺らの分まで余計に作らしちゃ‥」
「親は来ねぇ。俺が作る」
「───‥‥え??」
ユイと拓真は再び振り返り、不安そうに菱和を見つめた
菱和は噴き出しそうになったが、何とか堪えた
「‥‥安心しな。人並みに料理は出来るから」
***
バスを降りた3人は広い通りから中道に入り、4室ほどある2階建ての小さなアパートに辿り着いた
壁はコンクリートが打ちっぱなしのシンプルなデザインの外観だった
菱和の住む部屋は2LDKで、15帖のリビングダイニングに、4.5帖と6帖の部屋があった
4.5帖の部屋には楽器やアンプが、6帖の部屋にはベッドと小さな机が置かれていた
リビングの中央にはテーブルとソファーがあり、余計なインテリアは一切無かった
「あっちの部屋に楽器あるし、本とかDVDもあるから」
ユイと拓真はリビングに通された後、菱和が指差した4.5帖の部屋に入り、窓際にある本棚を物色した
スコアとCD、DVDがぎっしりと並んでいる
ユイが持っているCDやDVDと同じものも幾つかあった
部屋の隅には、菱和がスタジオで弾いていたものとは色違いのベースと、ソフトケースに入っているであろうギターがスタンドに立て掛けられていた
「あ、ベース!ギターもあるんだ!」
「アンプはRoland?‥お、そういやこの前云ってたDVDってこれじゃん?」
「そう、これこれ!菱和も持ってたんだ!こないだ結局観れなかったもんなぁ‥‥ねー菱和、これ観てても良い?」
「好きにしてな。さっきパスタとか云ってたな、何系がいいんだ?」
「何でも作れる?」
「ああ、大概のものは」
「えっとねー‥‥、‥んじゃあ、カルボナーラ!」
「佐伯は?」
「‥‥カルボナーラて、結構手間じゃない?」
「そんなんでもねぇよ」
「そう?じゃあそれでお願いします」
菱和は服だけを部屋着に着替えた後、カルボナーラを作るべくキッチンへ向かった
***
ふと、ユイはキッチンで料理をする菱和の様子を見に行った
パスタを茹でる傍ら、菱和は換気扇の下で煙草を喫っていた
ユイが知る限り、最も“不良らしい”菱和の一面だった
「菱和って、煙草喫うんだね」
菱和はユイに気付き、喫いかけの煙草を差し出した
「‥‥‥‥、喫うか?」
「冗談でしょ!俺らまだ未成年だよ?」
「‥そっか」
「『そっか』って‥‥」
ユイはただ苦いだけの煙を好んで喫う人間の気持ちは一切理解出来なかった
バンドの中ではアタルが唯一の喫煙者であり、普段から煙草の煙に多少は慣れているとはいえ、喫おうとしたことは決して無い
───でもなんか‥‥似合うなぁ、タバコが
例え未成年であろうと、ユイは単純に『菱和に煙草は似合う』と思った
菱和は煙草を灰皿に押し付け、火を消した
「‥もう良いのか、観なくて」
「ああ、あれ俺も持ってんだ。拓真にどうしても見せたいシーンあってさ」
「ふぅん‥‥」
「おいユイ、ポールどこに映ってんだよー!?」
「あ、今行くー!」
自分を呼ぶ声がし、ユイはDVDを鑑賞中の拓真の元へ戻って行った
***
「だから、結局ポールのそっくりさんだったんじゃん」
「違うって!あれはポールだよ!」
「ポールはあんな髪薄くねぇよ!」
「もういい年したオジサンなんだから、きっと普段はヅラなんだって!」
ユイと拓真が、DVDについて何やら揉めている
二人は次第にじゃれ合い、菱和の耳に笑い声が聞こえてきた
ちょうどカルボナーラが出来た頃合いになっても、その声は止まず
菱和は部屋を覗き込み、暫く2人を静観していた
「‥‥出来たけど」
無表情に見下ろされているのに気付いた二人は、じゃれ合うのを止めた
「‥‥‥‥はぃ」
初めて訪れた友人宅でついいつものノリではしゃいでしまったユイと拓真は少し気恥ずかしくなり、大人しくリビングに向かった
二人の目の前に置かれたカルボナーラは、レストランのメニューに載っているように綺麗に盛り付けられていた
濃厚な薫りに食欲が唆られ、自然と唾液が分泌される
「おお、良い匂い。美味そー!」
「んじゃ早速、いただきまーす!」
「‥どーぞ」
二人は一口目を口に運び、数回咀嚼した後硬直した
「‥‥‥‥、口に合わなかったか?」
「───っ何これ!?超美味いんですけど!!」
「マジやばいこの味!ねぇ、お代わりある?」
決して味に不満はなく、寧ろ大絶賛だった
一口しか食べていないのにも拘わらず、お代わりを催促するユイ
『不味かったのではない』とわかり、菱和は安堵した
「‥ああ、あるけど‥‥」
「俺さー、店行くとシャバシャバしたカルボナーラなときあんじゃん?あれ苦手なんだよね」
「あーわかる!水っぽいやつ出てくる店あるよね、俺もあれ許せない!でもこれめっちゃとろとろ!ほんっと美味い!」
「な!マジ美味いわー。俺もお代わり貰おうかなー」
目の前でカルボナーラを頬張るユイと拓真
空腹だったこともあり、絶品のカルボナーラは瞬く間に二人の胃を満たした
自分も少食な訳ではないが、皿まで舐め尽くしそうな食欲の二人を見ながら「よく食うな」と思いながら菱和は云った
「‥‥多めに作ったから、遠慮しないで食えば」
***
結局、カルボナーラを3杯ほどお代わりしたユイと拓真
「腹キツい」「暫く動けない」と云い、菱和が淹れた麦茶を飲みながら胃を落ち着かせる
「気になったんだけど、菱和んちの冷蔵庫って生クリーム常備されてるの?」
「‥‥、あぁ、一応」
「結構本格的に料理するんだ?」
「まぁ、それなりに」
「それなりって‥‥てか全っ然“人並み”じゃ無かったけど。下手に店で食うよりずっと良いわ」
「っていうか、生クリームって料理に使えるんだね?知らなかった」
「お前、マジかよ‥‥生クリーム無かったらこんな美味いカルボナーラなんて食えなかったぞ?」
「へぇ、そうなの?」
「まぁ、牛乳で代用も出来るけどな」
「ふーん‥‥そぉなんだ」
ユイは徐に立ち上がり、食器を重ね始めた
「‥、置いといて良いよ。後で片付ける」
菱和は、それを制止する
「良いから良いから!てかついでに洗わして!セッションとカルボナーラのお礼!」
「‥‥ああ、じゃあ頼む」
「俺ね、食器洗いは得意なんだー。あ、拓真も座ってなよ。さっき梅サイダー奢って貰ったし、拓真の分も洗うよ」
「当然だろ」
何だかんだと云いながらも、拓真はスタジオ後にユイに梅サイダーを奢っていた
ユイは上機嫌でキッチンへと食器を運び、洗い物を始めた
「いやー、ほんと大満足。俺は別な機会になんかお礼させて貰うわ」
「‥‥別にそんなん気にしなくて良いよ」
「いやー、こりゃ梅サイダー100万本分くらいの価値あるっしょ!」
「‥‥そうか」
菱和は少し口角を上げた
ユイが鼻歌混じりで食器を洗う中、拓真は菱和と話を続けた
「ここ、家賃幾ら?」
「‥‥親父の持ち物だから、タダ」
「え、マジで!?‥てかさ、他にも住んでる人居るの?あんまそういう雰囲気無かったから気にはなってたんだけど」
「いや。俺しか住んでない」
「貸し切り状態!?」
「‥ああ」
「ひぇー‥‥‥‥息子の為にアパート一軒丸ごとか‥‥やっぱどエラい金持ちだったんだ‥菱和さん」
「俺、ここの隣借りよっかなー」
二人の話を聴いていたユイは、独り言のように云った
「‥‥まずお前にゃ無理だよ、一人暮らし」
「そんなことないよ!朝は自分で起きれるし、飯はここで食えるっしょ!」
「‥お前それ“集り”って云うんだぞ?」
「だって俺、料理出来ないもーん」
「だから一人暮らしなんて無理なんだっつの」
「代わりに菱和んちの洗い物するし!それでチャラじゃん?」
「‥到底釣り合ってねー」
開き直るユイに呆れる拓真
二人の会話を聞いて菱和は少し口角を上げ、麦茶を飲み干した
***
「御馳走様でした!アンドお邪魔しました!」
「‥‥気ぃ付けて」
菱和は、玄関先で二人を見送る
ユイは笑顔で菱和に手を振った
「また明日ね!」
「‥‥ああ」
静かになった室内
単なる思い付きで云った自分の言葉が、思いもよらぬ方向へと進んでいった
───これが“普通”ってやつなのか。‥‥案外、悪くねぇな
友達付き合いに未だ不慣れな菱和
先程までユイと拓真が自分の家に居た時間を楽しんでいた自分自身に、少し驚いていた
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