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ガレキ

BL・ML小説と漫画を載せているブログです.18歳未満、及びBLに免疫のない方、嫌悪感を抱いている方、意味がわからない方は閲覧をご遠慮くださいますようお願い致します.初めての方及びお品書きは[EXTRA]をご覧ください.

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  • 02/04/17:07

10 Aggressiv Ljud(Mjölk te)

「アズサちゃん、調整がてらちょっと弾いてみなよ」
 
そう云って、我妻がシールドを寄越した
 
「ああ」
 
「菱和、弾くの?」
 
「‥少しだけ」
 
「っマジかよ!それ超ヤバい!聴きたい聴きたい!」
 
一瞬にして興奮したユイ
目がキラキラしている
 
───まただ、忙しい奴
 
「‥弾くっつっても慣らし程度だぞ」
 
「良いよそれでも!ね、聴いてても良い?」
 
「俺も聴きたいな、菱和のベース」
 
2人は揃って菱和に期待を寄せる
ワクワクする2人を尻目に、菱和は軽く頭を掻いた
 
「‥‥構わねぇけど」
 
 
 
***
 
 
 
「これ使って良い?」
 
「ああ、何でも良いよー」
 
一応確認をとるも、我妻は生返事をする
菱和は目の前にあったベースアンプにシールドを繋ぎ、スイッチを入れた
しゃがみ込んで音量やイコライザーをいじる菱和の横で、拓真が尋ねる
 
「菱和って指弾き?」
 
「ああ」
 
菱和はアンプをいじりながら「ピックは嫌いだ」と呟き、ピックでガツガツ弾き倒すイメージがあった拓真には菱和のプレイスタイルにも興味が湧いた
 
ポーン、ポーンとハーモニクスの音が響く
慣れた手付きで調弦を進める菱和
その間に、ユイはこっそりと、レジで伝票整理をしていた我妻に尋ねた
 
「ね、店長。菱和のベースってどんな感じ?」
 
「んー?‥‥俺は好きだよ、アズサちゃんの音」
 
「ほんと!?やっぱ、上手い?」
 
「‥‥ま、いい機会だから自分の耳で聴いてご覧よ」
 
我妻はニヤニヤしながらレジで作業を続けた
 
 
 
アンプの調整が済み、菱和は立ち上がってベースを構えた
少しだけ弾き、感触を確かめる
 
 
 
───大きい手だな
 
ユイは菱和がベースを触る手つきを見ながらそう思った
 
菱和は、俯き気味にユイを見つめた
さらりと流れる長い前髪の隙間から切れ長の瞳が見える
菱和の視線に気付いたユイは、にこっと笑った
 
菱和はユイから目を逸らさなかった
その目が何を訴えているのかわからなかったユイは怪訝な顔をし、少し首を傾げる
 
 
 
───さて、調子はどうかな
 
 
 
ユイの仕草を見た菱和は一瞬だけ笑みを浮かべ、一気に弦を叩き出した
 
 
 
 
 
ユイは菱和が笑った瞬間を見逃さなかった
 
刹那、アンプから響く菱和のベースの音が耳に届くと同時に心臓が撃ち抜かれたように感じ、ゾクリとした
 
 
 
親指の第一関節で思い切り4弦を打ち付け、人差し指と中指で2弦と3弦を引っ張り上げる
その繰り返し───
 
 
 
──────スラップだ!
 
 
 
ツーフィンガー奏法でベースを弾くものだと思っていたユイは、目の前で奏でられるスラップに完全に目を奪われた
 
弦は激しく叩きつけられ撓り、その振動はピックアップを介してケーブルに伝わり、漆黒の箱から重く低い唸り声を上げて飛び出してくる
獰猛で攻撃的で、只管威嚇しながら襲い掛かってくるような重低音
何度も何度も、貫き、抉り、突き刺してくる
スラップもさる事ながら、指板を押さえる細く長い左手の指が、しなやかに動く
 
轟轟と唸るアンプ
店内中に響き渡る鋭い重低音
ユイと拓真の他にも店内に居た客達がその音に集まり、一気にざわついた
 
 
 
いつまでも攻撃の手を止めない
相手が力尽きる最期の瞬間まで、威嚇と攻撃を続ける音
当の菱和は、涼しい顔をしてベースを弾いている
リズムを取る身体と共に長い髪がふわりと揺れ、いつも無表情が心なしか楽しそうに見えた
 
 
 
ほんの1、2分の演奏だったが、まるで何時間もずっと聴いていたような感覚だった
 
菱和のベースに、「上手い」「下手」の次元を超越した凄さを感じた
 
 
 
“太くて、しなやか”な───
 
ユイは、そう思った
 
 
 
***
 
 
 
弾き終わった菱和は、ふ、と息を吐いた
 
店内は静まり返り、BGMだけが遠く聴こえていた
客たちは次第にざわざわとし始めたが、菱和に一瞥喰らうとそれぞれ散って行く
したり顔の我妻が、菱和に声を掛ける
 
「どうかね?アズサちゃん」
 
「‥ん、上々」
 
「相変わらずだねーキミは、調整したばっかなのに」
 
我妻は苦笑いしながらも、満足げに店の奥に戻って行った
 
 
 
「──────すげ」
 
呆然と立ち尽くし、ぽかんと口が開いたままでいた拓真が漸く声を出した
 
「何だよ今の‥‥“上手い”なんてもんじゃねぇぞ。一体何者なんだよ、菱和」
 
「‥‥別に、フツーだよ」
 
「フツーて‥‥‥‥ぅう、なんか寒い。鳥肌立ってきた。‥俺トイレ行ってくる」
 
同じく立ち尽くしたままのユイを残し、拓真は腕をさすりながら小走りでトイレへ向かった
 
 
 
「‥どうした、大丈夫か」
 
目を見開いたまま呆然とするユイ
菱和に声を掛けられ、漸く我に帰る
 
「───うん」
 
「‥‥、ご感想は?」
 
「───‥‥‥‥、凄い。凄過ぎる。びっくりした」
 
目を丸くしたまま、ユイは感想を述べた
 
「‥そっか。そりゃどうも」
 
菱和はしゃがんでアンプのスイッチを切り、片付けを始めた
 
 
 
「───やっぱり一緒にバンドやりたい」
 
「‥あ?」
 
「菱和に、ベース弾いて欲しい」
 
ユイの眼差しが、菱和の瞳を捉える
ただならぬ意志を見据えた菱和は、返答に詰まった
 
「‥‥‥‥‥」
 
「でもやっぱ駄目、だよ、ね‥‥」
 
「‥駄目じゃあねぇけど、今すぐには無理だ」
 
「うん、わかってる。でもやっぱり菱和に、うちのバンドでベース弾いて貰いたい」
 
 
 
───そんなに欲しいのか、俺が?
 
 
 
菱和はユイから目を離せなかった
自分の音を欲している人間がいることが、不可解でならない
 
「‥‥‥‥俺で良いの?」
 
「うん、菱和が良い!今の聴いて、ほんとにそう思った。菱和と、バンドやりたい!」
 
「‥‥そ、か‥」
 
菱和は徐に立ち上がり、ベースをスタンドに立てた
 
「‥‥もう少しだけ、時間くれないか。今のバンド、結構ライヴやってんだ。区切りのいいとこで抜けるつもりでいるから‥‥返事はそれからでも良い?」
 
「‥うん!いい返事待ってる!」
 
ユイは期待に胸を膨らませ、にこっと笑った
ユイから見えない角度で、菱和は少し口角を上げた
 
 
 
「───おんなじ、だ」
 
ユイの口の中は、ほんのりと甘くなっていた
幼少期、兄の奏でるギターの音を耳にした時と同じ───まるでミルクティーのような、円やかな甘さだった

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