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9 楽器屋にて
「最近さ、ユイくんと拓真くん、菱和くんと一緒に居るよね」
「そうみたいだね」
「なんか、急に仲良しじゃない?」
「‥‥バンドに誘ったみたい」
「菱和くんを?」
「そう」
「へぇー!あ、でもリサ的にはちょっと心配?」
「‥別に。今まで『殴られた』とかそういう話聞いてないから、大丈夫かなって」
「ふーん。私も菱和くんと話してみようかな、1年のとき一っ言も喋ってないし」
「まぁ‥‥良いんじゃないの」
「あ、そうだ!今日こそカラオケ行こ!」
「‥‥行かない」
「んもう、何回誘っても『うん』って云わないんだから‥‥あ、じゃあクレープ食べに行こ?」
「うん」
「それは行くんだね‥‥」
「カナ、早く」
「‥はいはーい」
***
2学年になって一月ほど経ったとある日の放課後
下校する生徒、部活に勤しむ生徒、雑談に耽る生徒
様々な生徒が行き交いごった返していた校内も、徐々に人が疎らになる
拓真はアタルから着信があったのに気付き、折り返し電話をかけていた
ユイは拓真が電話を終えるのを横で待つ
「ああ、うん、わかったわー」
「‥あっちゃん、何だって?」
「珍しくゼミに出るから、今日は無理だってさ」
「何だよそれ、いきなりやる気出しちゃってさー」
「まぁ留年してるし、伯母さんたちのプレッシャーとかあるんじゃないの」
「ふーん‥‥でも、あっちゃん居ないとつまんないなぁ‥」
「ドラムとギター1本じゃな‥取り敢えず行くだけ行く?折角予約してるし、爆音出せるだけでも違うじゃん」
「そうだね!じゃあ早く帰ろ!」
二人は足早に帰宅の途についた
帰宅後、ユイはお気に入りのパーカーとジーンズに着替え、ギターを背負って拓真を迎えに行った
拓真も支度を整えており、揃って馴染みの楽器屋へと向かった
バンドを始めて間もなく、ユイたちはスタジオが完備されている楽器店“silvit”に通うようになった
ユイは音に味を感じる共感覚のお陰で、音が混ざり過ぎると口の中に不快感を覚え、時には吐き気を催し、最悪の場合嘔吐してしまう
拓真を始め、ユイの兄である尊も、そしてアタルも、共感覚によって生じるユイの症状については重々理解している
silvitは他の楽器店と比べて店内BGMが小さく設定されており、またユイにとっては好きな系統の曲ばかりかかっているので、吐き気や嘔吐の心配がない
スタジオの料金も安価に設定されていて財布に優しく、尚且つ気さくな店長のキャラが気に入っており、友人の家に遊びに行くような感覚で気軽に通える場所となっていた
「こんちはー!」
「あら、いらっしゃい。今日はスタジオだったね、いつも有難うね」
silvitの店長・我妻は、見慣れた常連客に気付き挨拶をした
見た目は40代半ば程で、無精髭にサングラスをかけている
「いえいえ、こちらこそいつも大変お世話になっております!」
「ははっ。スタジオ入るまでまだ時間あるよね?まぁゆっくりしてってよ」
「うぃーす!」
silvitの店内はウッド調で、壁や床には楽器が、棚には楽譜が所狭しと並んでいる
平日の夕方にも関わらず、客はそれなりに入っているようだった
予約をしたのは17:30
スタジオが空くまでは20分弱あり、その間店内をぶらつくユイと拓真
ユイは“ask”と書かれている如何にも高額そうなギターをにやけながら見つめ、拓真は楽譜が置いてある棚を物色し始めた
「あ、FACTの新譜出てる」
「えー、どれどれ!?」
拓真の声にユイが駆け寄り、一緒にスコアを眺める
ふと横を見ると、かなり長身の男性客が同じ棚のスコアを見ていた
どこかで見たような気がしてならなかった拓真は、その客を上から下まで眺めた
長く伸びたメッシュ混じりの黒髪
長髪から時折見え隠れする銀色の環状のピアス
気怠そうな眼差し───
「───あれ、菱和?」
横に居た客は、私服に身を包んだ菱和だった
制服と同じように着崩したシャツ、ダメージジーンズ、燻んだウォレットチェーン、そして年季の入ったブーツ
私服の菱和は、とても大人びて見えた
「あ、ホントだ!菱和!」
ユイが拓真の横からひょっこりと顔を覗かせる
「‥おう」
菱和は二人に気付き、軽く返事をした
「なに、菱和もココよく来るの?」
「ああ、店長が顔馴染みで」
「なんだそっかー、俺ら知らぬ間に居合わせてたかもしんないな」
「ね!」
「‥かもな」
そう云って、菱和は見ていたスコアを棚に仕舞った
***
「アズサちゃん、出来たよー」
我妻が一本のベースを抱え、店の奥から出てきた
名前を呼ばれた菱和は、ベースを受け取りに行く
歩く度に、ウォレットチェーンがチャリチャリと鳴った
「‥‥そういや菱和の下の名前、“梓”だっけ」
「そうだね、一瞬誰のことだかわからなかった。女の子でも呼んでんのかと思っちゃった」
ユイと拓真は、菱和のあとをついていった
「つか、いい加減下の名前“ちゃん”付けで呼ぶの止めてくんない?」
「何で?良いじゃないの~呼びやすいんだから。“ヒシワ”ってなんか噛みそうなんだよねー」
我妻はのらりくらりと話しながら菱和にベースを渡した
その後ろから、ユイと拓真が菱和の愛機を覗き込む
「修理してたの?」
「や、定期的に見てもらってて」
「おー噂のジャズベ、綺麗だなー」
「ほんと、カッコイーね!」
菱和のベースは、フェンダー社製のジャズベース
ボディのカラーは白、ピックガードと革製のストラップは黒
白と黒のメリハリがついた楽器だった
「白は意外だったけど似合うな、菱和に」
「うん、すげぇ似合ってる!」
「‥そうか」
褒め言葉に慣れていない菱和は、若干返事に困った
菱和のベースを覗き込むふたりに、我妻ははっとする
手招きをし、ユイを店の奥へと呼んだ
「───君ら、アズサちゃんと友達だったの?」
「え?あ、うん‥まぁ‥‥クラスメイト、だよ」
「‥‥アズサちゃんがガッコ行ってるってホントの話だったんだ」
疑念を含む表情で、我妻はボソリと呟いた
「え?何?」
「いやいや、何でもない!」
「‥‥?」
怪訝そうな顔をするユイ
我妻は軽く咳払いをした
「‥アズサちゃんとは仲良しなのかい?」
「今年同じクラスになったばっかりでさ。ベース弾くってこともつい最近知ったんだ。今日は、ついさっきたまたまココで会ったんだよね」
「ふぅーん‥」
「菱和は店長と顔馴染みだって云ってたけど、そうなの?」
「まぁね。かれこれ5年くらいの付き合いになるかな」
「そうなんだ!やっぱ知らないうちにココであってたかもしんないなぁ」
「ふふ。そんな時もあったかもね」
「‥俺、菱和と仲良くなりたいんだー。俺と音楽の好みが似ててさ!楽器もカッコイイね!弾いてるとこも見てみたいなー、ふふ」
嬉しそうににこりと笑むユイ
あまりに純粋過ぎるその瞳に、我妻は呆気にとられた
しかし、すぐにサングラスから覗く目が柔らかく細くなった
「‥‥そっか」
ユイの云う通り、菱和がユイと仲良くなれる日が来ることを願っていた
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