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18 kissmark
学校祭当日
各教室は、学校祭ではお馴染みのお化け屋敷や喫茶店などに様変わりし、生徒に混ざる保護者や一般客でごった返している
『俺らの出番、昼くらいからだから!遅れないで観に来てね!』
前日、ユイに念を押された菱和は、ステージ発表が始まる正午頃になって漸く登校した
今までの自分からすると、こんな日に登校したことはとてつもない変化のように思える
だが、頭から自分を不良と決め付ける周囲の反応は、何ら変わらない
この学校の生徒が校内彷徨いてて一体何が珍しいっていうんだ
でも、それが当然の反応だっていうのはだいぶ前からわかってることだ
ユイたちと過ごすようになって3ヶ月余り
一人で校内をぶらつくのも、自分を恐れる視線も、思えば久々だった
───あいつが一緒に居たら、また少し違ったんだろうか
初めてまともに学校祭を目の当たりにした菱和は、その雰囲気よりもまずすれ違う人々の視線を鬱陶しく感じ、ステージ発表までの時間を潰す為に行く宛もなく校内を歩いた
***
午後からステージに上がり、バンド演奏をするユイたち
結局、当初の予定通り誰もが一度は耳にしたことのある無難な曲をやることに落ち着いた
体育館のステージでは、照明やPAの準備が進められている
体育館横の倉庫は控え室として使用されており、他にもバンドやコントなどをやる予定の生徒たちの姿があった
ユイはそわそわしながら指慣らしに練習をしていた
上田も、楽器の調整をしている
「噂のテンダーバードじゃないんだ?」
「おう、あまりにもダサ過ぎてやめたわ。普通にユウスケのベース借りてきた」
「てか、今度ユウスケさんにライヴでテンダーバード使ってって云っといてよ」
「やめとけって。あいつマジで真に受けんぞ?」
───菱和、来てるかな。どうせなら一緒にガッコ来れば良かった。連絡してみようかな。連絡、‥‥レンラク‥‥‥‥?
拓真と上田がケラケラと笑う横で、ユイは菱和のことが気になりつつ、ピックを弾く
───そういや、ケータイの番号とかまだ知らないや
菱和のことを考えながら黙々とギターを弾いていたユイ
突然、バチンと金属音が鳴り、ギターの弦が切れた
切れた弦は勢いよく撓り、弧を描いてユイの首筋を掻いた
「───ぃってぇっ!!」
弦の切れた音とユイの声に、控え室内の生徒たちが驚く
「───!おい、どうした?」
ユイの首筋はミミズ腫れのようになっており、血が滲んでいた
細く鋭いギターの弦が、だらしなく震えて揺れている
上田はベースを置いて、ユイに手を差し出した
「血出てるぞ?弦替えとくから、保健室行ってこいよ」
「え、ほんとに!?‥じゃあお願い!替えの弦、ケースん中入ってるから!」
「なるべく急げよー」
ユイはギターを上田に託し、首元を押さえながら保健室へと走って行った
***
ユイは賑わう校内の人集りを掻き分け、保健室へと辿り着いた
保健室のある校舎には人気がなく、しんとしている
ドアには『不在』と書かれた看板がぶら下がっていた
ひょっとしたら保健室の先生も学校祭を楽しんでいるのか、と想像し、少しだけ『ズルい』と思った
───勝手に貰ってこ。先生探してる時間ないし、バンソコの1枚くらい無くなっても誰も気にしないよね
「───よう」
保健室のドアに手を掛けようとしたところ、後ろから聞き覚えのある声がした
振り返ると、いつものように怠そうに立つ菱和が居た
「───菱和だ!おはよ!」
「『おはよ』って‥‥もう昼じゃん」
「あはは、そう云われればそうだね!朝から来てた?」
「ついさっき来た。昼頃って云ってたろ、出る時間」
「うん、もうちょい!どっか回った?迷路とかお化け屋敷とか」
「どこも行ってねぇ。っつうかまず一人じゃ絶対つまんねぇ」
「あ‥‥ごめんね、俺最初から一緒にガッコ来てれば良かったなって思った。そしたら、色々回れたのに‥‥」
「別に。元々バンドだけ観て帰るつもりだったし」
「‥じゃあさ!ステージ終わったら、お化け屋敷行こ!」
「‥‥遠慮しとくわ」
「あれ~?ひょっとしてそういうの苦手?」
「いや、そういうわけじゃねぇけど。お化け役の奴がビビるんじゃねぇかって」
「ふはは、何だよそれ!」
連絡先を知らずとも、菱和と他愛もない会話が出来るようになった
それだけで、ユイは充分だと思った
ふと、菱和はユイの首元に視線を落とした
赤く滲んだ線がくっきりと見える
「───どしたん、それ」
菱和に問われ、ユイは傷のことや保健室に来た目的を思い出した
「え?あ、これ?練習してたら弦切れちゃって、直撃しちった」
「‥血、出てる」
「うん、そうなんでしょ?自分じゃ見えないんだけど‥‥もぉ、暫く弦張り替えてなかったから───」
傷に触れようとした手が、パッと捕らえられる
菱和はユイの手を引き、乱暴に保健室のドアを開け、中へ入った
いきなり手を捕まれ、乱暴に開けられた扉の音にユイはたじろいだ
目を丸くするユイを、いつもの無表情で菱和は見下し、覗き込む
「見してみ」
「‥だいじょぶたいじょぶ!唾付けときゃ治るから!」
ユイは笑って菱和から手を離そうとしたが、菱和はユイの手首を掴んだまま、少し俯いた
「ふぅん‥。‥‥そっか」
「‥‥?‥──────」
刹那、ユイは菱和に肩を強く掴まれ、手首と共に壁に押し付けられた
背中に硬く冷たい壁の感触が伝わり、菱和の香水の香りがいつもより強く漂った
「───い‥‥っ!!」
首筋に鋭い痛みが走る
傷痕に沿うようになぞる生暖かい感触
背筋の悪寒
最初のものとは違う、鈍い痛み
自分が何をされているのか認識する隙もなく、ユイの顔が歪む
「───や、めろよ‥っ!!」
ユイは無我夢中で菱和を突き飛ばした
若干よろけた菱和は、首筋を擦りながら面食らった顔のユイを無表情で見つめた
「‥‥‥‥“唾付けときゃ治る”んだろ?」
そう云って、不適な笑みを浮かべる
───何だ、今の
今まで見たことのない菱和の表情と行動に、ユイは混乱した
傷口を舐められ、噛まれたということ
取り敢えずそれだけ理解すると、みるみる顔が真っ赤になった
「───う‥‥あ」
口をぱくぱくさせ、かなり間抜けな顔になっているのがわかる
自分の姿に居たたまれなくなり、ユイは慌てて保健室を脱出した
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