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98 Malice④
終業式を明日に控えた午後
美術準備室で昼食を摂り終えのんびりと過ごす最中
上田はユイが用を足している間に準備室に隣接する美術室に拓真と菱和を呼び、ユイへの嫌がらせの件を伝えた
「───じゃあ、今までのアレは工藤がやってたってのね」
「そー。飯田も新谷も、素直にゲロってくれたよ。菱和の下駄箱に入れた理由は、ユイと菱和を誤解させ合う為だったみたい」
「悪質だな‥‥‥ま、そんなこったろうと思ってたけど」
「取り敢えず、あの2人はお咎め無しってことで。ちゃんと全部話してくれたし」
「俺からしたら見て見ぬ振りしてた2人も同罪だけどな」
「どうかーん。‥‥でも、俺に免じて多目に見てやって。『次はない』っつっといたし、あいつらはほんとに何もやってないみたいだから。‥‥‥で、どうする?ユイに話す?」
「‥‥‥‥いや、黙ってよ。『もう飽きた』って云ってたんだろ?」
「またなんかやってくることあったら、そんときはボコろーぜ」
「‥‥出来れば穏便にしたいとこだけど」
「たっくんてば、ほーんと平和主義だねぇ」
「いや、わざわざ新しい諍い作らなくても良いだろ」
決して怒りの感情が沸かなかったわけではない
だが、無駄な火種をわざわざ生み出す必要もない
拓真の意見は至極最もだ
上田はつまらなさそうな顔をして、壁に寄り掛かり黙って話を聞いていた菱和に声を掛ける
「菱和はどう思うよ?」
「放置で良いんじゃねぇの。‥‥‥でももし今後ボコるような機会があんなら、俺もやる」
「じゃ、菱和と俺でボコるってことで!」
「嬉しそうに云うなよ!だーかーらー、万が一そういうことになったとしても話し合いで済ませば良いんじゃないのぉー!」
「上手いこと話の通じる相手じゃなかったら、そんときは“仕様がねぇ”ってことで良いんじゃねぇか」
「そだな、そうしよ!」
「もおぉ、勘弁してよ2人とも‥‥」
「ふふっ、冗談だってばぁ」
「ほんとかなぁ‥‥お前のそのニヤけ顔見てると冗談に聞こえない」
「‥‥‥‥っつうか、“工藤”って誰」
「俺のクラスの奴。‥‥って、わかんねぇか。クラス違うなら尚わかんねぇよな」
「正直、皆同じ顔に見えっから」
「‥‥どう過ごしてたらそういう感覚になるんだよ?」
「‥‥‥‥、大した興味ねぇからかな」
菱和の言葉を噛み砕くと“自分達はしっかりと認識されている”と捉えられ、拓真と上田は顔を見合わせ軽く噴き出した
「ね、お邪魔して良い?」
話が一区切りついたのを見計らったかのように、リサとカナが準備室のドアからひょこっと顔を覗かせた
「あ、良いよ。どうかした?」
「明日さ、みんな予定ある?」
「いや、無いよ」
「俺もー!」
拓真は軽く返事をし、上田は嬉しそうに手を上げる
菱和も軽く首を横に振った
「ほんと!今2人で話してたんだけどさ、終業式終わったらみんなでPANACHE行かない?」
「おお、良いねぇ。明日は午前中で終わりだもね」
「やった!じゃ、“祝冬休み”ってことで、みんなでパーっと行こ!」
「‥‥っていうか、“みんな”って俺も入ってんの?」
上田が怪訝そうに訴えると、カナは溜め息を吐いた
「なに野暮ったいこと聞いてんの。行きたくないの?」
「いや、行きます!行かせて頂きます!」
いつもなら『あんたは別』などと云われ、今回もそうなのだろうと思っていた上田は心底嬉しそうにし、敬礼をした
「なんだ、みんなこっちに居たんだ」
用足しを終えたユイが、準備室からひょっこりと顔を出した
「あ、ユイくん。明日の放課後、みんなでPANACHE行こ!」
「‥‥あー‥‥。俺、図書室の受付やんなきゃなんないんだよね。冬休みの間本借りてく人の、貸し出しのチェック」
「ほー、ユイは図書委員なのな。んじゃ、それ終わるまで待ってるか」
「そうだね、借りてく人が少ないことを祈って、みんなで行こ!」
「え、良いよ。待たせるの悪いし、俺抜きで行ってきてよ」
「何云ってんのもう!ユイくんは絶対居ないと駄目でしょ!」
「そう‥なの?」
「うん!っていうか、このメンバーで行きたいの!ね、リサ?」
「‥‥‥‥暫くみんなで会うことなくなるしね」
リサは素っ気ない態度でそう云った
冬休みに入れば、このまったりとした昼休みは一月近くお預けだ
冬休みは冬休みで楽しみだが、この昼の団欒の機会が暫くの間無くなるのは惜しまれる
誰もがそう思い、納得した
「‥そっか。じゃあ、明日はクレープ祭りだね!」
「ふふ、楽しみ!」
午後の授業が始まる前に、ユイたちは談笑しながら教室へと戻る
「PANACHEとかめっちゃ久々に行くんだけど。楽しみだなぁ」
「上田も甘いもん好きだっけ」
「おう。PANACHEはケイがよく行くから、たまに一緒に行ってんだ」
「え、ケイさんも甘いもの好きなの!?」
「うん。あいつ甘党だよ」
「やだぁ、何でもっと早く教えてくんなかったのぉ!今度、ケイさんにスイーツ巡りしよって云っといてよ!」
「ああ、良いよ。きっと喜ぶわ」
「ひっしーはまた抹茶?」
「‥‥‥‥他に何があったっけ」
「メニュー多過ぎて覚えらんないよなぁ」
「それはうちらに聞いて!ねー、リサ?」
「生クリームチョコ、カスタードチョコ、キャラメルマキアート、ブルーベリーチーズケーキ、ストロベリーチーズケーキ、チョコバナナ、ガトーショコラ、ティラミス、抹茶、メープルバター、ツナサラダ、生ハムチーズ、モンブラン、ミルフィーユ、‥‥」
「うは、覚えらんねぇ!近藤サン、よくそんなスラスラ出てくるね!」
「暗記するほど行ってるからさ、うちらは!」
「‥‥モンブランとミルフィーユは期間限定だよ」
「うおぉ、“期間限定”とか唆られるなぁ」
───明日は何味にしよっかなぁ‥‥
ケラケラと笑う拓真たちを他所に、リサが羅列したメニューを思い浮かべるユイ
ぼんやりとしていると、誰かとすれ違い様に軽く肩がぶつかった
「‥あ、ごめん」
ユイは咄嗟に謝ったが、ぶつかった相手は何も云わずすたすたと歩いて行ってしまった
その相手が自分に嫌がらせを続けていた人物だと知る由もなく、ユイは少し首を傾げて教室へ向かった
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