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85 WAITED
月曜日
日曜の夕方、『明日からバスで通学』と拓真から連絡が来ており、ユイはその手筈で登校の支度をした
パーカーの上からブレザーを羽織ると、“冬仕様”の出来上がり
玄関を開けると、冷たい風が吹き付けてくる
予想以上の寒さに驚くも、玄関先にいる2人の幼馴染みの姿を捉えると、心なしか寒さも吹き飛ぶ
何時ものように、3人は挨拶を交わした
「おはー」
「‥おはよ」
「はよっ!」
多少の気恥ずかしさはあるが、何時もと変わらない2人の態度に、ユイは今一度安堵した
「すっかり良くなったなー」
「うん!お陰様で全快!“PANACHE”いつ行く?」
「‥‥今日」
「うぉ、今日か‥‥俺、今財布淋しくてさー。先週、弦買っちゃったし‥‥」
「別に明日でも良いけど」
「俺今日バイトないし、行くべ!ユイ、足らない分は貸しといてやるよ」
「お、助かる!」
3人は仲良く並び、バスに揺られて通学した
学校に着き、教室で談笑していると、菱和が来た
約一ヶ月振りの菱和の登校に教室内はざわめくが、ユイと拓真は以前と何ら変わらない態度で、揃って菱和に挨拶をする
「はよっ、アズ!」
「ひっしー、はよー」
「‥‥はよ」
何時もと同じ、素っ気ない返事
だが、その表情は何時もと少しだけ違った
その微妙な変化に気付くクラスメイトは、当事者であるユイたちを除いて一人も居なかった
***
昼休み
ユイたちは揃って上田とカナが来るのを待つ
昼食を提げて現れた上田は相変わらずオニキスのブレスレットをチャラチャラ鳴らし、チャラい調子で菱和に話し掛ける
「よー菱和、久し振り!何してたんだよずっと、やっぱサボりー?」
ニヤニヤしている上田の問いに、菱和はこくん、と首を傾げる
「───‥‥‥‥雲隠れしてた」
「‥は??」
眉を顰める上田の頭の上には無数のはてなが浮かんでいる
全ての事情を知っている拓真はくすっと笑い、上田の肩を叩いた
「‥‥まぁ、何でも良いっしょ!早く飯食うべし!」
「‥そだな。移動すっか!」
ユイと拓真、菱和、上田
そして、リサとカナ
6人は、昼食を取りに移動を始める
「あれ‥‥アズ、屋上行かないの?」
旧校舎に到着するも、菱和は屋上への階段を昇ろうとはしなかった
「ん。別んとこ行く」
「へ??」
何時ものように屋上へ向かうつもりでいた5人は、怪訝な顔をして菱和を見た
見詰められた菱和はその意図がわからず、硬直するしかなかった
「‥‥ひっしーさ、ずーっと屋上で昼食ってたわけじゃないんだ?」
「‥‥‥‥冬の間は、流石に」
「───え゙!!!??そうなの!!??」
「うん。だって、寒みぃじゃん」
「‥‥‥‥‥‥」
『当然のこと』と云わんばかりに放たれた菱和の言葉に一番驚いたのは、ユイだった
確かに、菱和は一学年時から旧校舎の屋上で昼休みを過ごしていた
ユイはてっきり、雪も寒さも我慢し一年間ずっとそうしていたのだとばかり思っていた
だが、寒さが厳しくなると流石に屋上では過ごさず、一人になれ、尚且つ暖かい“別な場所”を捜し、雪解けの季節までは“そこ”を使っていたのだった
「‥‥だから『ホールとか教室で食べよ』って云ったのに。あんな寒い中ずっと屋上に居てさ。ほんと、バカみたい。だから風邪引くんだよ、バカ」
「‥‥‥そんなバカバカ云うなよ‥‥」
呆れるリサの横で、ユイは唇を尖らせ萎縮した
拓真と上田は、肩を震わせている
笑いを堪える口元は歪み、今にも噴き出しそうになっていた
「‥‥‥‥くっ、‥‥」
「‥‥いっちー、やめろって」
「‥たっくんこそ‥‥‥‥ぶふっ‥」
「‥‥‥ぶはっ!‥もう無理!!あははは!!!」
「‥俺も無理!ぎゃははは!!ユイ、だっせぇー!!!」
涙を流してゲラゲラ笑う拓真と上田
ユイは堪らず赤い顔をして叫んだ
「笑うなよ!!!そんなん知らんかったもん!!!」
「うん、そーだねそーだね。知らんかったもんなぁ、そんなこと」
「いやー、マジ腹痛てぇ。やっぱ寒いもんな、屋上は」
一同の反応を見て、菱和はきょとんとした
「‥‥‥‥ほんとに、待ってたのか?‥‥んな寒い中‥‥」
「そうだよ。11月入ってからも、ユイくんずっと屋上でお昼食べてたよ。放課後も居たし。ね?」
ユイを慰めるような顔をして、カナは菱和に云った
『あんたが学校来なくても、ユイは屋上に居るの!ずっとずっとあんたのこと待ってんだよ!!それがどういうことか、あんたならわかるでしょ!?』
電話でリサに云われた言葉が、菱和の頭の中を駆け巡った
──────こいつは、何処ででも待ってたんか。‥‥学校でも、俺んちでも
「‥‥‥‥そっか‥‥」
「‥‥云ったでしょ、『バカ』だって」
リサは追い討ちをかけるようにまた『バカ』と云い放ち、溜め息を吐いた
菱和はふ、と口角を上げる
「‥‥‥‥うん。バカだな」
「なっ‥誰のこと待ってたと思ってんだよっ!!」
ユイが待ち続けていた人物
その張本人からも『バカだ』と罵られ、ユイは耳まで真っ赤になる
「──────うん」
菱和は、穏やかに笑った
溢れる感情をそのまま表したような菱和の笑顔に、上田とカナは驚く
「‥‥ありがとな。待っててくれて」
菱和は徐に手を伸ばし、ユイの頭の上にぽん、と置き、穏やかな表情を崩すことなくユイに礼を云った
ゆっくり、優しく、頭を撫でる
ユイは唇を尖らせたまま、もじもじとした
拓真たちは、その光景微笑ましく見つめた
拓真と上田は、今度は嘲笑ではなく安堵の気持ちで軽く笑った
「‥‥じゃあさ、菱和くん、冬の間はどこでお昼食べてたの?去年も、教室にはずっと居なかったよね‥‥?」
ふと、カナが未だ残っている“謎”を口にする
「‥‥‥‥ついてきな」
冬期間を過ごしていたその場所へと案内するべく、菱和は旧校舎の最奥を目指してゆっくりと歩き出した
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