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ガレキ

BL・ML小説と漫画を載せているブログです.18歳未満、及びBLに免疫のない方、嫌悪感を抱いている方、意味がわからない方は閲覧をご遠慮くださいますようお願い致します.初めての方及びお品書きは[EXTRA]をご覧ください.

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  • 02/04/23:30

84 また、明日

翌朝

目を覚ますと、すぐ傍に菱和の顔がある

「‥‥おはよ」

「‥‥はよ、アズ」

徐に伸ばされた大きく無骨な手は、優しくユイの頭を撫でる

「‥‥良く眠れた?」

「うん」

ユイは柔らかく笑み、菱和の胸元に額をくっ付けた
頭を撫でているその手で、菱和はユイを抱き寄せる

 

気怠い朝の心地好さ
寝惚け眼にも、心から想っていた人の姿がはっきりと写し出される
その人が目覚めの瞬間に隣に居てくれることが、嬉しくて堪らなくなる

好きな人の腕の中で眠ることが出来るなんて、思ってもみなかったこと

優しさに触れる度、“この時間が永遠に続けば良いのに”と願ってしまう

 

体温計が鳴る
表示は「36.8」となっていた

「アズ、見て」

ユイはドヤ顔をして菱和に体温計を見せた


「だいぶ熱下がったな」

「うん!アズのお陰!ほんとにありがとね!」

「いえいえ。飯も普通に食える、よな?」

「うん!腹減ったー!」

にしし、とはにかむユイ
何時ものユイの顔が、そこにはあった

「‥‥待ってな、今なんか作るから」

菱和はぐしゃぐしゃとユイの頭を撫で、キッチンへ向かった

 

昨日の朝が粥だっただけに、ちゃんとした菱和の朝餉は初めてだ
炊きたての白米、味噌汁、焼き魚、すり下ろした長芋、法蓮草のお浸し───絵に描いたような和食
立ち上る湯気と香りに、思わず喉が鳴る

「‥‥頂きます!」

「どーぞ」

手を合わせて挨拶をするや否や、白米に豪快に長芋を掛け、大雑把に醤油を垂らして勢い良くかき込む

「‥‥んんんーまぁ!!俺とろろごはんめっちゃ好きなんだー!」

「美味いよな、長芋」

「うん!美味い!!お代わりしたい!」

「どーぞどーぞ」

ユイがいちばん“美味しい”と感じたのは、味噌汁だった
“お袋の味”を彷彿とさせるような、五臓六腑に染み渡る味
“お袋の味”を味わった記憶がないユイだが、『きっとこんな感じなのだろう』と思い、菱和の料理の腕に改めて感動した

昨日までくったりとしていて粥を食べていたとは思えないほどのユイの回復力に、菱和は感心しながら食事を進める

大満足で朝餉を終えたユイは、洗い物をした
食器を洗うのは久し振りだ
結局2日間も菱和の自宅で世話になり、“一宿一飯の恩義”どころの話ではなくなってしまったが、ユイは感謝の気持ちを込めて食器を洗った

 

***

 

「これ」

洗い物が終わってソファで一息吐いていると、菱和が衣服を寄越してきた
雨に濡れ、滴るほどびしゃびしゃになっていたロンティーとパーカー、ジーンズ
もうすっかり乾いており、柔軟剤の良い匂いがした

もう、菱和の温もりを忘れることはない
この2日間で、すっかりと馴染んでしまった
だからこそ離れ難くなり、これ以上迷惑を掛けられないと思うも、帰宅するのも躊躇われる

───でも、今日は帰らなきゃ

「‥‥ありがと」

ユイは名残惜しそうな顔で衣類を受け取り、膝を抱えた

「‥‥どした?飯の時と比べたら随分テンション低いけど」

「ん?うん‥‥‥‥、‥‥帰りたくない、なぁ‥‥って」

ユイは素直に今の心境を吐露した

「もう一泊してく?」

「‥‥‥ううん、流石に今日は帰んなきゃ。明日、ガッコだし」

「また泊まりに来れば良いよ。今度は、佐伯も一緒に」

「‥それ、超楽しそう!お泊まり会だ!パジャマパーティーだ!」

「ぱじゃまぱーてー、か」

「うん!ピザとか取って、夜中までトランプとかゲームやりたい!‥‥あ、アズはゲームやる?」

「あんまやったことねぇ」

「そっかぁ。でも、ゲームはやろ!持ってくるから!スマブラ知ってる?超楽しいよ!」

「‥‥‥‥俺のネス、強えぇぞ」

「ぷっ‥‥はは!なんだ、やったことあるんだ!俺のカービィも超強いし!」

「あんな風船のなり損ないみてぇな奴に負ける気しねぇし」

「いやいや!ネスなんか何回でも吸い込むし!」

「何それ、超怖えぇんだけど」

2人は、声を出して笑った

菱和の笑い声が聴けた
何時ものユイの笑顔が見られた
こんな下らない話題すら、嬉しいと思える
今まで知らなかった相手の一面が、次々と現れる
それを見せ、見られること

互いに、その喜びを分かち合った

 

脱衣所を借りて、ユイは自分の服に着替えた
部屋着を洗濯機に放り込んだところで、キッチンで煙草を喫っている菱和に声を掛けられた

「終わった?」

「‥‥うん。ばっちり!」

ユイは脱衣所から顔を覗かせ、Vサインをしてにこにこ笑った
その顔を見て、菱和はふ、と笑んだ

「‥‥‥‥あ、そーだ。アズの使ってる香水、見てみたかったんだ」

「‥‥そうだったな」

菱和は煙草の火を消し、脱衣所に入った
洗面台の棚の一番上に、10㎝程の小さな筒上の缶ケースがあった
それを手に取り、ユイに手渡す

「これ。開けてみ」

ユイは手渡されたケースをしげしげと見つめた
その名の通り、デニム生地のような柄の小さなアルミ製の缶
黄色い文字で“VERSACE BlueJeans”と書かれており、文字の下には星のマーク
その中央に円があり、ギターを弾くオジサンのイラストが描かれていた

「‥‥‥‥わ」

徐に蓋を開けた途端、何時も香っていた匂いが鼻を擽る

中には、7㎝程の小さな青い小瓶が入っていた
本当に酒のボトルのような瓶だった
やはり、“BlueJeans”と黄色い文字で書かれている
獅子の顔を象った細工が瓶の中央を巡るようにぐるりと施されており、キャップにも獅子の顔があった

「‥ほんと、“めんこい”!」

「だろ。貸してみ」

菱和は瓶を受け取り、キャップを外す

「手首出して」

「手、首?」

「ん」

どういう意図でそんなことを云われたのか全く要領を得なかったが、怪訝な顔をしつつも云われるままに手首を差し出す
その華奢な手首に、菱和は香水を一滴垂らす
瓶を置き、ユイの両手を掴むと、手首の内側を合わせ、ぎゅっと押した

「‥‥擦り合わせてみな」

またも云われるままに、ユイは自分の手首を軽く擦り合わせた
2、3度手首を擦り合わせたのを見て、菱和はその手をユイの項に持っていき、押し付けた

嗅ぎ慣れた匂いが、ふわりと漂う

「わぁ‥‥‥‥‥‥“アズの匂い”だ」

「‥‥“俺の”っていうより、“BlueJeans”の匂いだけどな」

「“アズの匂い”なの!すげぇ、アズになった気分!」

「‥‥何だそりゃ」

「ふふふー。‥‥っていうか、香水ってこうやって付けるんだね。知らなかった」

「体温高いとこに付けると良いらし。肩とか腰に付ける奴もいるみてぇだけど」

「ふーん‥‥豆知識」

「‥‥‥‥どうすか?“初めての香水”は」

「‥‥うん‥‥‥‥初めてがアズと同じので、嬉しい!」

「‥‥そーですか」

満足気に笑うユイを見て、菱和は少し口角を上げた

 

***

 

玄関に行くと、ヒーターの傍に置いてあったスニーカーがきちんと揃えてあった
ユイはスニーカーを履き、菱和に向き直った

「ほんとに、ほんとーに、お世話になりました!」

「いえいえ。‥‥そこまで送ってく」

菱和も、すっかり草臥れた自分のブーツを履いた
揃って部屋を出て施錠したところで、菱和はユイに云った

「‥‥‥‥あのさ、」

「ん?」

「‥‥手、繋ぎたい」

「え‥」

「ちょっとそこまで、手ぇ繋いで歩きたい」

「‥‥‥う、うん‥‥」

菱和は徐に手を伸ばした
若干躊躇いつつ、ユイはその手に触れた
触れた途端に、大きな手に包まれる小さな手
ぎゅっ、と握られる自分の手を見て、ユイの顔が赤くなる
菱和は少し口角を上げ、歩き出した

 

日曜の午後
人通りは少なく、霜月の風が一段と冷たく吹く
雨はすっかり上がっているが、あの雨は本格的な冬への兆しだ
寒さに少し身を震わせると、握られた手にぐっと力が込められる

菱和は何も云わず、ただユイの手を握って歩いた
最寄りのバス停までの、ほんの僅かな道程
菱和の歩みに少し遅れて、ユイも歩く

───大っきくて、あったかいな

手を引かれて歩いているということに少し照れ臭くなるも、その温みに心が綻んだ

 

バス停が見えると菱和はゆっくりとユイの手を離し、その手をボトムのポケットに突っ込む

「‥‥ありがと」

「う、うん」

「‥‥また、繋いでもい?」

「うん。‥‥嬉しい」

「‥‥そっか」

「‥‥‥‥じゃ、俺行くね!」

「ん。気ぃ付けてな」

「また、明日ね!」

「‥ん、また明日」

穏やかに笑むと、菱和は踵を返して自宅の方へ行った
菱和の姿が見えなくなるまで、ユイはその後ろ姿を見送った

深く息を吸うと、菱和の香水の香りが鼻を擽る

パーカーのポケットをまさぐると、silvitで購入したギターの弦が出てきた

──────まずは、弦張り替えなきゃな

 

明日から、また何時もの日常が訪れる
何時ものように、拓真やリサ、上田、カナにも会える
明日から訪れる全てのことに、ユイは心が躍った

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