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75 Waitin' ⑤
silvitを後にしたユイは、晴れ晴れとした気持ちで帰宅を急いだ
来週、アズが学校に来る
今までの“想い”を、打ち明けられる
その結果がどうであれ、アズの顔が見られるなら何だって良い
アズに会えるなら、何だって───
菱和に会えるという喜びに、自然と笑みが零れてきた
そしてふと、立ち止まる
そういえば、アズはどっちの家から来るんだろう?
学校に近いのはアパートの方だから、実家にいたとしてもこの週末を使ってアパートに帰ってくる‥かな
それなら、もしかしたら今日にも帰ってくるかもしれない
‥‥もし、もし今、アパートに行ったら、アズに会えたりするかな
来週まで待とうと思ってたけど、何だか待てそうにない
待ち惚けでも良いや、きっとアズはアパートに帰ってくる───
逸る気持ちは、最早抑え切れない
ユイは、菱和のアパートへと足を向けた
アパートの電気は点いていなかった
まだ帰ってきていないのか、それとももう眠ってしまったのか
自宅に携帯を忘れてきたお陰で、今の時刻がわからない
もう、いっそのこと日曜日までここで待とうか
待つことは、苦じゃない
アズに会いたい
ここで待ってれば、きっと会える
びっくりさせちゃうかもしれないけど、早くアズに会いたい
会えたらまず、何を話そう
話したいことが、沢山ある
お礼を云いたい
謝りたい
アズの声を、沢山聴きたい
顔を見て、話したい
ちゃんと、“好き”だと伝えたい
ユイはアパートの入口にしゃがみ込み、菱和を待つことにした
「───‥‥あ、‥‥‥」
頬に一粒、雨が落ちてきた
次第にぱらぱらと降り注ぐ雨粒は、直ぐに止むようなものではなさそうだった
生憎、アパート周辺には雨避けになりそうな場所がない
ユイはパーカーのフードを深く被り、蹲って霜月の雨風に耐えた
***
繁華街の外れを彷徨いていると、ポケットに突っ込んだ携帯が着信を報せて震える
『っていうか、今どこにいるの?』
菱和は辺りを見回し、目に入ってきた建物の名前を呟いて電話を切った
「‥‥‥ラブホ」
『え?ちょっ───』
我妻の返事も待たず通話をぶった切り、携帯をポケットに仕舞った
「‥‥あのお節介」
憎まれ口を叩くも、お節介を焼かせてしまったのは自分の失態だ
何を意固地になっていたのか、リサに『バカ』と一蹴されるとどうでも良くなってしまった
そして、お節介な我妻からの電話は、菱和の背中を更に一押しした
来週学校に行かなければ、今度こそリサに殴られる
殴られるのは痛い、痛いのは嫌だ
きっと、今まで食らったどの一撃よりも痛いのではないかと思う
ただ、今度も殴られずに済みそうだ───
「──────‥‥雨かよ」
ぱらぱらと、雨粒が落ちてきた
自宅アパートまでは、まだ少し距離がある
菱和は溜め息を吐き、最寄りのコンビニでビニール傘を買った
雨足は次第に強まり、11月の空気を一層冷たくする
時刻は日付を越える一時間ほど前
少し足早に、アパートまでの道程を歩いた
怠そうに傘をさす菱和は、自宅を目前にして立ち止まった
アパートの前に、蹲る何かを見つけた
暗くて良く見えないが、恐らく人だ
目を細めてみると、よく見えないながらも見慣れたパーカーとスニーカーが目に入った
まさかとは思ったが、蹲る小さなそれに歩み寄る
しゃがみ込み、ずぶ濡れの小さな体に持っている傘を差し、声を掛けた
「‥‥ユイ‥?」
ユイは、聞き覚えのある低く嗄れた声にはっとして顔を上げた
目の前には、いつもの無表情で自分の前にしゃがみ込んでいる菱和の姿があった
菱和の髪や肩が、僅かに濡れ始めていた
「‥‥‥、アズ‥」
「お前‥何で」
「‥アズ───」
ユイは菱和に抱きついた
その拍子に、菱和の手から傘が落ちる
無我夢中で菱和に抱きつくユイは、すぐに安堵の表情を浮かべる
「会いたかったんだー、アズに」
びしょ濡れの小さな身体と、自分を掴んで離さない手
『会いたかった』という言葉
菱和は胸が苦しくなった
「‥‥ユイ」
「会え、て‥良かっ‥たぁ‥‥」
全ての言葉の云い切る前に、ユイはずるずると崩れ落ちた
咄嗟に菱和が支える
「おい、ユイ」
「‥あはは、どうしたんだろお、れ‥‥力、入んない、や‥へへ」
額に手をやると、異常に熱い
上から下までずぶ濡れの状態で寒空の中にいたユイは、風邪をひいたようだった
菱和を待ち屋上で過ごしてきたことも要因としては充分だったが、追い討ちをかけるように降り注ぐ雨はあっという間に小さな身体を風邪に冒した
「‥まえ、熱‥‥」
「だ、いじょぶだ、よ‥‥アズと‥話が、したくて」
「話?」
「うん‥‥」
「‥あとにしろ、とにかく中入れ」
菱和はユイを半ば引き摺りながら、アパートに入っていった
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