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69 恋ワズライ
「あのさ‥‥‥‥あっちゃんとかリサには、云わないで欲しいんだけど‥‥」
スタジオ練習を終えたユイと拓真は、足早に帰宅する
その道すがら、ユイは恥ずかしそうに拓真に云った
『言わずもがなだろ』と思い、拓真は軽く笑った
「俺からは何も云わないよ。‥‥そのうち嫌でも伝わっちゃうだろうから」
「───え゙!!」
ユイは立ち止まり、また顔を赤らめる
歩を進めていた拓真は振り返り、くすくす笑った
「‥‥俺ってそんなわかりやすい?」
「うん、めちゃくちゃ。ひょっとしたら、ひっしーにもバレちゃってるかもなー」
「え!?‥‥うぅー‥‥‥‥」
「‥‥今日はなんか食ってくか。久々にマック行く?」
「うん‥‥。俺、グラコロ食いたいな」
「そっか、もうそんな時期か。俺もグラコロにしよっかなー」
いつもなら、菱和の自宅によって夕食を作って貰っていた
しかし、今はそれは出来ない
菱和の料理は、いつも美味しかった
味は勿論申し分なかったが、盛り付けまで気を抜かずにいた
お代わりも沢山用意してくれた
飲み物がなくなると、直ぐに注いでくれていた
やはり、思い浮かぶのは菱和のこと
───またいつか、あの時間を
そう願わずにはいられなかった
***
菱和が来なくなって3週間目になる
未だ学校に菱和の姿はないが、ユイたちは相変わらず屋上に集う
段々と冬の気配が近付いてくる霜月
ドアを開けると、冷たい風が吹き抜けた
「おー、流石に寒くなってきたなー」
「もう11月だしな。そろそろ教室とかホールで飯食う?」
「皆は教室で食いなよ。俺はここで食うから」
そう云って、ユイはすたすたと柵の方に向かった
「そんなわけにもいかないでしょ、風邪引くよ」
「んーん。ここに居る」
リサの声掛けにも応じず、ユイは座り込んだ
拓真やリサのみならず、上田やカナもユイのことが気になっていた
菱和が居ないだけでこうもユイの元気が無くなるとは、予想外だった
2人はユイの恋心に気付いていないが、ユイにとって菱和が大事な友達だということくらいは普段の姿を見てとっくに理解している
一人で屋上の景色を眺めるユイの姿が、いつもそうしていた菱和の姿と重なって見えた
───健気だねぇ、ユイも
上田は軽く笑み、ぽつりと呟いた
「‥‥俺、コーンスープ飲みてぇな」
「あ、私もあったかいミルクティー飲みたい」
「お、したっけコンビニ行くべ!拓真と近藤サンはどうする?」
「俺ら、ホールに居るよ」
「じゃあ、なんか皆でつまめるお菓子買ってくるね!」
上田とカナは、足早にコンビニへと向かった
ユイを一人にするのは心許ないと思ったリサは、その後ろ姿を見つめたままでいた
「‥‥今は、そっとしといてやろ」
拓真がリサを促し、2人は屋上を後にした
「‥‥やっぱり、ユイがあんな感じなのはあいつが居ないから?」
「んーまぁ、何というか‥‥‥‥“恋患い”、ってやつですかね」
「‥‥‥は?」
「ま、見守ってやってよ。いつもみたいに」
特に心配の色を見せることもなく、拓真はリサの肩を軽く叩いた
拓真の様子から、過剰に心配する必要はないのだろうとリサは思った
だが、小さく哀しげなユイの背中が気になり、少しだけ胸がちくりとした
***
ユイは昼食を置いたまま、ぼーっと景色を眺めていた
草木や空の色、空気までもが、学校祭と時期に見た風景とは違う
あれは初夏だった
賑やかな校内、ざわめく木々
放課後、2人並んで座り、他愛もない話をした
つい半年くらい前のことだが、何だかとても懐かしく感じてしまう
季節はすっかり秋になり、吹き抜ける風は冬の訪れを予感させる
ユイたちが出入りする以前、菱和は独りで屋上にいた
今のユイと同じように、ぼんやりと景色を眺めていたのかもしれない
アズは今も、独りで何処かに居るんだろうか
それとも、誰かと一緒に居るのかな
独りは、淋しいな
アズは、いっつもこんな気持ちだったのかな
俺なんかと違って強いから、独りでも平気だったかな
俺、やっぱうるさかったかな
独りでいた方が、アズは気楽だったかな
でも、俺は、アズと一緒の方が良いな、やっぱり
きゅうう、と、腹の虫が鳴った
「‥‥‥‥腹減った」
ユイは漸く、昼食を食べ始めた
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