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ガレキ

BL・ML小説と漫画を載せているブログです.18歳未満、及びBLに免疫のない方、嫌悪感を抱いている方、意味がわからない方は閲覧をご遠慮くださいますようお願い致します.初めての方及びお品書きは[EXTRA]をご覧ください.

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  • 02/04/23:31

68 Fallin’ 【Y SIDE】

『菱和が問題を片付けるまでバンドは一時休止。但し、個人練は怠らない』と決まった数日後
ユイと拓真は気持ちを切り替えるのには最適だと判断し、スタジオに行って音を出すことにした
アタルは相変わらず課題に忙しそうなので、暫くは2人での練習になりそうだった

「店長、こんにちは」

「お、いらっしゃーい。Bスタ、もう入れるよー」

「え、でもまだ少し時間あるし‥‥」

「ぜーんぜん気にしないで!今日は予約少ないし、ゆっくり使ってって良いよー」

「いつもすいません、有難いっす」

「いえいえー」

 

拓真が我妻と話をしている間、ユイは喫煙所の方を見つめていた

いつも
アタルと並んでベンチに座ってのんびりと煙草を喫い、他愛もない話をしていたんだろうか
自分の知らぬ間に、煙草が2人の信頼関係を築いていたのか

そろそろ、あの扉から菱和が入ってくるような気がしてならない
シルバーのメッシュが入った黒い長髪を揺らして怠そうに、腰から提げたウォレットチェーンを鳴らして───

 

「‥‥行こ」

拓真に背中を叩かれ、ユイははっとした
名残惜しそうに喫煙所の方を見つめ、拓真と共にBスタジオに入った
拓真には、ユイの視線の先と、『一体何を考えていたのか』ということが手に取るようにわかった

ドアを閉めると、ユイはギターをスタンドに立てて椅子に座り、小さく溜め息を吐いた
拓真もドラムセットの椅子に座り、ユイの図星を突いた

「‥‥ひっしーのこと考えてたんでしょ?」

「ん‥‥うん。‥‥‥皆で“待つ”って決めたけどさ、アズに会えないのはやっぱ淋しいなー‥‥って」

そう云って、ユイは薄く笑った

 

「───好きなんだもんな。ひっしーが」

拓真は敢えて“好き”という単語を口にした

「‥‥え?う、うん‥好き、だよ。大事な友達だもん」

「いや、“そういう好き”じゃなくて」

「へ?」

上手く核心をついたつもりだったが、どうやらユイはピンときていないようだ

───あーあ、ほんと鈍いんだから

この際だからと、拓真は立ち上がってユイの前へ行く

「目ぇ閉じて」

「‥は?」

「いいから目ぇ閉じて」

拓真はユイの目を手で隠した
その意図を理解する間もなく目の前を遮られ、ユイは云われるままに瞳を閉じた

「‥‥今、真っ先に思い浮かぶのは、誰?何も考えないで、“その人”のことだけ考えてみ」

拓真の問いに、ユイは一度頭を空っぽにした

 

無愛想な無表情
怠そうに煙草の煙を吹かす横顔
時折見せる笑顔

鮮明に、克明に、次々と菱和の顔が思い浮かんでくる

意識せずとも、今まで見てきた菱和の顔が浮かぶ

不思議な気持ちだった
同じ空間にいなくても、つい菱和のことばかり考え、菱和の顔ばかり思い起こされる

さっきだってそうだ
いつも菱和がいる場所に、居るような気がしていた
怠そうな歩みと共に鳴るウォレットチェーンの音が聴こえてくる気がした
あの香水の香りが、漂ってきそうな気がした

ユイの頭の中を占拠しているのは、菱和だった

 

「‥‥その場にいない人のことって、相当その人のこと想ってなきゃ思い浮かばないじゃん。‥‥友達としてじゃなくて、それ以上にひっしーのこと特別に想ってるんじゃないの?俺もひっしーのこと好きだし尊敬してるけど、お前の“好き”はもっと“特別なやつ”でしょ」

拓真はユイの気持ちを代弁する

「‥‥違う?」

手を退け、こくんと首を傾げた

 

優しい菱和が、大好きだ
菱和の笑った顔が、大好きだ
それは“友達として”という感覚だと、ずっとそう思っていた

菱和が時々見せる笑顔や突然触れてくる手に、心臓が鳴った記憶がある
身体中の熱が上がり心臓が早く動くあの感覚に、ずっと違和感を覚えていた
何故そうなるのか、さっぱりわからなかった

拓真に云われた今、それが恋愛感情だったのだと、ユイは初めて自覚した
気付けば、目を丸くしたまま顔を真っ赤にしていた
拓真は思わず、くす、と笑う

「‥‥やっぱりね」

「‥‥‥‥たく‥ま‥‥お、俺‥‥」

ユイは口をぱくぱくさせたが、堪らず顔を伏せ、困ったような顔をした

「‥いつから‥‥わかってた?」

「ずっとそう思ってたけど、俺は」

「ずっと、‥‥?」

「んー‥‥‥ひっしーがバンド入ってちょっとしたくらいかなぁ」

「‥‥‥‥何でそう思った、の?」

「‥‥なんとなく?」

そう云って、拓真はドラムセットの椅子に座った

「惚れるのもわかるよ。優しいし格好良いし男前だもん、ひっしーは。同性から見ても、『良いな』と思うもんね」

言葉にしなくても、拓真にはこの気持ちは明け透けだった
そう思うと、恥ずかしくて堪らない
耳障りなほど、心臓が五月蝿い
そのうち爆発してしまうのではないだろうかと思うくらい、胸の鼓動はバクバクし続ける

ユイは唇を尖らせ、萎縮した

話を聞いてくれた
一緒に演奏してくれた
ご飯を作ってくれた
下らない話に付き合ってくれた
一緒にサボってくれた
車で送ってくれた
自分の誘いを真剣に考えてくれた
大切なものを護ってくれた
ベッドに寝かせてくれた
震える手を握ってくれた
抱き寄せてくれた
『恩人』だとお礼を云ってくれた
笑い掛けてくれた
いつも、隣に居てくれた

今まで菱和がしてくれたことの全てが、嬉しかった

自分の感情を認めた今、その行き場が無くなる

 

「変、だよね‥‥こんなの、普通じゃないよね」

「何?普通って」

「普通は、女の子に抱く気持ちだよね?でも、アズも俺も男だし‥‥」

「───だから?」

「‥‥え‥‥‥‥?」

「『だから何?』って感じ。‥‥‥人を好きになるのって、凄く素敵なことだからさ。相手が男でも女でも、関係ないっしょ」

拓真はタムに頬杖を付いて、にこっと笑った

 

ユイの気持ちに気付いた当初から、拓真はその恋を応援するつもりでいた

ユイが誰を好きになろうが、自分がユイのマブダチであることはこの先もずっと変わらない
後押しが必要なら、遠慮なく背中を押してやる
愚痴りたければ、思う存分捌け口になる
マブダチとして、出来る限りのことをしたいと思っていた

純粋に人を想う気持ちは、誰にも止められはしない
ユイの場合は、叶わない恋になるかもしれない
だが、それはそれで良いのではないか
そこまで人のことを想えるその気持ちを、大切にして欲しいと願った

 

『お前は、そのまんまがいちばん良い』

 

いつか菱和が云った言葉が、ユイの頭の中に反響する

 

そうか、そうだ
俺はアズが好きだ
あっちゃんはアズが俺らのこと『気に入ってる』って云ってたけど、俺は少し‥‥いや、大分違ったみたいだ
ひょっとしたら、アズは俺の気持ちなんか迷惑かもしれない
かといって、今更簡単に止められる想いでもない
今はまだ心に仕舞っておく
『アズを好きになった』
この気持ちを、大事にしよう
いつか機会が巡ってきたら、その時アズに打ち明けよう

 

ユイは、照れ臭そうに笑った

「ありがと、拓真」

「うん。‥‥さ、なんか演ろう!」

拓真は思いきりスネアを叩いた

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