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59 密談①
週末のライヴが終わり、月曜の朝
朝は嫌いじゃない
学校に行けば、友達にも会えるし
でも今朝は、起きた瞬間から気が重い
───何ていうか、最低な朝だ
リサはライヴの帰りに後をつけられたことをユイたちに話すつもりでいたが、胸がざわざわして落ち着かない
学校へと向かう足取りも、自然と重くなる
教室に入ると、ユイと拓真は既に登校していた
違うクラスの上田もユイたちに混ざり、ゲラゲラ笑いながらライヴの話をしていた
リサは真っ直ぐユイたちの元へと向かった
「おはよ」
「あ、リサ。はよー」
「‥‥‥‥ちょっと話あるんだけど」
「おう、何?」
リサは上田を一瞥した
出来ることなら、ユイと拓真にだけ打ち明けたい話───
「‥‥俺、教室戻るわ。そろそろ予鈴鳴るし。また昼休みな」
上田はリサの表情を見て『恐らく自分には聞かれたくない話題なんだろう』と察した
にこりと笑み、ふらふらと教室から出ていった
リサは申し訳ない気持ちになったが、空気を読んでくれた上田に感謝した
上田を見送ると、拓真は怪訝な顔をした
「結構大事な話?」
「うん、‥‥あのね‥‥‥‥──────」
話し出そうとしたとき、菱和が教室に入ってきた
リサはぐっと口を噤み、言葉を飲み込んだ
「‥‥、あとでにする」
「え、どしたの?」
「‥またあとで」
「‥‥‥‥?ん、うん。‥‥わかった」
さっと自分の席へ向かうリサの後ろ姿を見て、ユイも拓真も首を傾げる
ふと、菱和が着席したのが目に入る
拓真は、『菱和絡みの話なのかもしれない』と、何となく察しがついた
昼休み
いつものように屋上に集うユイたち
昼食後、男共がライヴのことやら小テストのことやら下らない話に花を咲かせる傍ら、リサは柵に寄りかかりぼーっとしている
カナはリサの横に並び、話し掛けた
「‥‥‥‥もう話したの?昨日のこと」
「‥‥まだ。放課後話すよ」
「そっか‥‥‥ねぇ、私も一緒に居て良い?」
「うん」
リサは輪になって話し込んでいるユイたちをちらりと見た
その輪の中には、勿論菱和も居る
その見た目と雰囲気で随分損をしてきたんだろうなと、リサは思う
勿論本人の所為ではないのだが、初めから拒絶されるくらいならば寧ろ自分から他人と接触するのを避けようとしてしまう
事実、絵に描いたような一匹狼の菱和はユイたちと関わるまではそうして過ごしてきた
リサにも身に覚えがあった
日本人以外の血が混ざっているリサの顔付きはどちらかというとキツめだ
その大きな瞳で見つめると、怒りの感情を抱いていないにも関わらず『こいつは今とても機嫌が悪い』『怒らせてはならない相手』だと思われ、他人の態度に多少は傷付いた経験がある
自分にも他人が近寄り難い雰囲気があるのを自覚している為、リサはわざと他人を遠ざける行動を取ってしまう菱和の気持ちがよく理解出来た
だが、ユイと仲良くなってからの菱和は明らかに表情が変わった
冷たい無表情の中にも柔らかく穏やかな心が時折現れ、ふとした拍子に滲み出る
菱和と自分は、よく似ている──────
初めは、大嫌いだった
大事な幼馴染みが間違った方向へと誘われて行くような気がしていた
多少は嫉妬の気持ちもあっただろう
でも、今は違う
漸く菱和の“人間性”とやらがわかり、自分はそれを受け入れられている
だから、出来ることならこの日常がいつまでも続いて欲しいと願っていた
それなのに
──────ぶち壊してくれんな、バカ野郎
リサは心底、“あの”男たちを地獄に突き落としてやりたいと思った
***
リサはまだ話が出来ていないまま放課後になってしまったことを少し悔いた
今週は視聴覚室の掃除当番だったのだ
予め、ユイと拓真に待っていて貰えるようカナに頼んでおいている
毎日使うわけではない視聴覚室は、綺麗な方だった
何故綺麗なのに掃除をしなければならないのか
少しくらいサボっても良いだろうに
そう思い苛立ちながらさっさと掃除を済ませ、待たせているユイたちに申し訳なさを抱きつつも急いで教室に戻った
教室で、ユイは自分の机に、カナはユイの椅子に座り、拓真は2人の傍らに突っ立って3人で話をしている
菱和の姿がなく、リサはほっと胸を撫で下ろした
「お、来た来た」
「ごめん、なかなかタイミングなくて。あんたら今日バンド練習でしょ?なるべく早く終わらせるから‥‥」
「タイミング?」
ユイは首を傾げた
「‥‥‥‥ひっしーには聞かれたくない話なんでしょ?」
「え?」
拓真の一言に、ユイは驚いた
リサも、目を丸くする
「今日はもう献立リクエストしといたから。『買い物すんのに早めに帰る』って」
「何リクエストしたの?」
「ナポリタン。簡単に作れるもんにしといた。好きっしょ?」
「わぉ!好き好き!」
ユイの顔が綻ぶ
「これで、安心して話せるっしょ」
拓真はにっこりと笑った
他人の感情に敏感なタイプの拓真は、リサの心情を汲み取ると同時に菱和にも不快な思いをさせないよう機転を利かせてくれていた
拓真に多大な感謝をし、リサは心置きなく話し出した
「‥あのね、昨日の帰り、変な奴らに後つけられたの」
「──────え!!!」
ユイと拓真の顔付きが瞬時に変わる
「何ともなかったの!?」
「うん、平気。大声で叫んで走って逃げたから。‥‥‥‥でもね」
カナは軽く笑って答えたが、続きの言葉を云いづらそうにする
同じく云いづらそうにしていたリサは、ここからが本題だと思い、意を決して話し出す
「‥‥‥‥この前、私のこと拐った奴等だったの」
ユイと拓真の顔が曇った
リサを拐った人物
大切な友人を傷付けた人間
ユイも拓真も、その顔をはっきりと覚えている
「それって‥‥」
「菱和が前にいたバンドの奴。主犯格の奴は居なかったけど、残りの2人だった。ちらっと見ただけだけど、間違いないと思う」
目を見開いたユイは、そのまま動かなくなる
拓真は大きな溜め息を吐いた
「‥マジかよ‥‥、しつこい奴等だなぁ‥‥‥‥ほんとに何もされてない?」
「うん、大丈夫だよ。‥‥でも、菱和くんには黙っておいた方が良いんじゃないかな‥‥って」
カナは不安そうに、リサの顔をちらりと見た
リサが拐われた一件は、カナも知っている
しかし、カナがその事を知ったのはあれから数日後のことだった
例えその場に居たとしても何も出来なかったかもしれないが、下手をすればリサが一生残る傷を負うことになったであろうことを考えると、一足先に帰宅したことを後悔し、殊更リサのことを心配していた
そして昨晩、リサを拐った人物と先日後をつけていた人物が恐らく同一人物であると打ち明けられた
リサもカナも、菱和の所為ではないことはとっくに承知の上
しかし───
「‥‥‥‥あいつのことだから、また喧嘩でもしそうでおっかなくて。もし今怪我したらライヴも出来なくなるでしょ。そうでなくても“あのとき”結構酷い怪我だったし。‥‥あんたたちにもあいつにも、もうあんな思いして欲しくない」
拓真は、何故リサがこの話を菱和の耳に入れたがらなかったのか十分納得した
「うーん、そうなー‥‥ひっしーなら即ボコりに行きそうな予感」
「でしょ?もう何の関係ないのに、余計な心配かけたくないし‥‥私たちほんとに何ともないから、今話したことはあいつには黙ってて」
「‥‥‥‥わかった」
リサの話を黙って聞いていたユイは、唇を噛み締めて頷いた
***
───何だ、あいつらまだ居たのか
唐突に今日の夕食をリクエストしてきた拓真
ざっと冷蔵庫の中身を思い出し、足りない食材の買い出しに行く為早々に帰宅しようとした菱和は、提出物の出し忘れに気付き、教室に戻って来た
教室に入ろうとしたところ、リサの重苦しい声が聞こえた
「‥‥‥‥この前、私のこと拐った奴等だったの」
菱和は気配を殺し、教室の外で4人の話を黙って聞いていた
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