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57 “GOLD RUSH”
マンスリーライヴ当日
ざわめくライヴハウス内
出番まで時間を潰すことにしたHazeのメンバーに、ライヴを観に来たリサとカナも輪に入り、人混みに紛れて過ごす
「ユーイユイ、こんばんはっ」
突然、誰かに後ろから抱き付かれた
驚いた拍子に振り返ると、唇にピアスを付け、頭は白に近い金髪の、ズタボロのガーゼシャツを纏った男がニコニコしていた
「ケイさん!びっくりしたぁ!」
「んっふー。友達のバンドも出るから、観に来たんだー」
朗な笑顔に、一同もつられて笑みそうになる
ケイの装飾品が増えていることに気付いたアタルは、こくんと首を傾げる
「お前、ピアス増えたの?」
「うん、初口ピ。似合う?」
ケイは唇のピアスを指差し、にこっと笑った
「今回は、残念だったな」
「ほんとねー。スケジュール合えば、俺らも出たかったんだけどなー」
「メンバーが社会人だと、都合つけるの難しいよね」
「うん。俺も来年専学卒業だし、いちばん暇なのはいっちーになるわ。あ、でもいっちーも来年は受験生か?」
ケイの話を聞いて、ユイは素朴な疑問を抱いた
「上田、大学行くのかな?」
「知らん。それよりもまず、あいつが行ける大学なんてあんのかね」
拓真は冷たく云い放った
カナが拓真の話に同調する
「それ云えてるー!樹、アホだもんね」
「お前ら‥‥あいつのアホさは俺もよく知ってるけど、この場に居ないからって寄って集って悪口云うなよ」
「何云ってんの、あっちゃんだって今上田の悪口云ったじゃん!」
ユイがアタルに反論した
ケイは更に上田のアホさ加減を嘲笑う
「いっちーがアホなのは周知の事実だから、仕様がないね」
拓真やカナはケイの言葉に同意し、くすくす笑った
***
のんびりと談笑していたHazeメンバーは、ライヴの開始とともに控え室に向かった
Hazeの出番は6バンド中4番目だった
リサとカナはケイの友人が所属するバンドを一緒に観た
「あのヴォーカルの人、上手いですね。たまに『何でヴォーカルやってんの』ってくらい下手な人いるけど、あの人はほんとに上手」
「‥学校で会ったら云っとくよ。あいつ絶対喜ぶわ」
カナの言葉に、ケイはニコニコと笑う
「ケイさんって、V系とか好きなんですか?ケイさんみたいなファッションの人って、V系好きな人多いみたいだし‥‥」
「ううん。俺はパンクとかメタルが好き。でもいちばん好きなのはMarilyn Mansonかな。知ってる?」
カナはケイが挙げた人物を知らず、首を捻り、うーん、と唸る
「‥‥なんか、『白い人』‥ですよね」
リサは少しは知っている様子で、その人物の印象を云った
リサが抱くマンソンの印象はかなり漠然としていて、ケイは思わず笑った
「『白い人』‥‥‥‥ふふっ、そうそう。かなりイカれてて、見てたらスカッとすんだよね」
「ユイくんたちはその人の曲聴く?CD持ってるかな?」
「聴いたことくらいはあると思うけど、多分持ってないんじゃないかな。ユイの好みとは少し違うから」
「なになに、Manson聴きたい?CDなら腐るほど持ってるから、良かったら貸すよ」
「ほんとですかー!?じゃあ、お願いします!」
「うん、いっちーに渡しとくね」
満面の笑みを浮かべるケイ
激しく裂けているガーゼシャツとサルエルパンツ、そしてラバーソール
一見女の子に見えなくもない童顔に加えて華奢な身体つきのケイがダイナミックなドラムを叩くことなど、見た目からはとても想像がつかないとリサは思った
***
あれこれ話しながら他のバンドを観ているうちに、Hazeの出番が来た
リサは今日も、握手をすることを忘れてはいなかった
いつも、いつも
『楽しめますように』
『無事終わりますように』
互いに想いを込めて、交わされる手
3人が握手する姿を見ていたカナは、いつか感じた羨ましさを思い出していた
アタルが弾くイントロがゆっくりと流れ、それが途切れるとキラキラとしたカッティングが響く
弾いているのは、ユイだ
「‥‥『GOLD RUSH』だ」
リサがそう呟いた
「ん?今の曲?」
「うん。あっちゃんが新しいギター欲しくて、でも高くて買えなくて、『金欲しい』って思いながら作ったんだって」
「ふふ、なんかあっちゃんらしいね」
「‥‥ほんとですよね」
リサが話すGOLD RUSHのエピソードを聞いて、ケイは微笑ましく思った
ユイの自宅に遊びに行けば、いつもギターの音が聴こえてくる
リサは何度も、ユイが練習するGOLD RUSHのフレーズを耳にしていた
新しい玩具を与えられてはしゃぐ子供のように、ユイはギターを掻き鳴らす
自宅でもライヴハウスでも、それは同じことだった
───今日も、大丈夫みたいね
リサは、笑顔でギターを弾くユイの姿を見て、そう思った
***
色とりどりのライトが、ステージ上の4人を次々と照らし、曲に彩りを添える
厭らしいがなり声と艶やかなギター
時折跳ねる賑やかなもう一つのギター
重く低く唸るベース
鳩尾に響くドラム
音を重ねるにつれて、新たな反応が生まれる
全てがぴたりと嵌まると、オーディエンスは息を飲み、一層沸き立つ
貪欲な観客たちは紡ぎ出される音を餓鬼のように貪り、息吐く暇さえ与えない
頭も、指先も、次第に感覚を失くしてゆく
演奏している方も、正気を保つのが精一杯だ
“GOLD RUSH”の他に3曲ほど演奏したHaze
全ての曲において、4人は互いに煽り煽られ、快楽の頂点まで上り詰める
「──────あっ!!!」
最後の曲の終盤、ピックスクラッチをした拍子に手が滑ったユイは、そのままピックを客席に放ってしまった
まだ間延びした機械音やシンバルの音が響く中、観客は我先にとピックに群がり、手にしたものは歓喜の声を上げた
ミュージシャンがライヴで客席にピックを投げることがあるが、まだまだ自分はそんなことが出来るレベルではないと思っていたユイは、事故とはいえ予想外の客席の反応に驚いた
「‥‥‥‥ほんと、アホなんだからよ」
最後の最後に失態を犯したユイに、拓真とアタルは呆れ顔
菱和も、無表情にユイを見つめていた
ユイは苦笑いして軽く頭を掻いた
「アタル様ーーー!!!」
「アタル様も投げてー!!」
自分の名前を叫ばれ、アタルはギクリとした
アタルのファンらしき女性客から、期待の眼差しが向けられている
アタルは困ったように客席を一瞥すると、ピックを放り投げた
女性客は押し合い圧し合いし、一斉に群がる
「女って怖えぇー‥‥」
拓真は苦笑いをして立ち上がり、袖に下がろうとした
「おーい、スティックも投げろー!!!」
遠くから、男性客の声が聞こえる
拓真ははっとして客席を見た
「ふふ、投げろって云われてるよ?」
「‥‥‥こんなボロ、わざわざ投げなくても良いだろ」
拓真は軽く一礼してそそくさと袖に引っ込み、ユイも客席に頭を下げてそれに続いた
「アンコール!アンコール!」
「行かないでー、アタル様ー!!」
「おぉーい、ベースは投げないのかー!?」
まだまだ興奮冷めやらないオーディエンス
黄色い声が行き交う客席に少し一瞥くれると、アタルは菱和の元へと歩み寄る
肩を抱くと、まだ何か期待している観客に向かって舌を出した
「もう投げれるもんはありません!俺らがダイブするしかなくなっちまうからー」
残念ながら、菱和はピックを使って演奏をしない
他に投げられるものといえば、自分達の楽器か自分達自身しかない
そのどちらも、出来る筈がない
オーディエンスはそれをわかっていながらも、大歓迎と云わんばかりに腕を上げる
「それでも良いぞー!」
「アタル様、来てー!!」
「冗談!‥また観に来てねー!有難うございましたー!」
アタルは菱和の肩を抱いたまま、客席に一礼した
菱和もそれに倣い、深々と頭を下げる
客席からは笑い声と拍手がいつまでも鳴り止まない
後ろ髪引かれる思いでそれを堪能し、2人は連れだって袖へ下がった
「お前もピック用意した方が良いかもな」
「‥‥まだそんなレベルじゃないと思うんだけど‥‥‥‥」
「なぁに云ってんだか‥‥ま、客席に投げるだけなら要らねぇか?指弾きだしな、お前」
控え室に向かって歩きながら、アタルはニヤニヤ笑った
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