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52 LIVE!!③
リサはずっと、菱和の姿を観ていた
『つまんなそうに演奏したら、ぶん殴る』
菱和にそう云ったリサ
今日の菱和は、無表情とはいえつまらなさそうには見えなかった
『あいつが大事なもんは、俺にとっても大事』
嘗て菱和が放ったその言葉は、ユイを想う気持ちと同じくらいリサのことも想っているということに他ならない
自分を見る眼差しは、ユイを見るそれにどこか似ていると思っていた
時にはからかったり、悪態をついたり、意地悪なことを云ったり
自分が拐われたときは、身を呈して護ってくれた
隠れていた菱和の人間性がじわじわと滲み出てきては、第一印象とは程遠いものになっていく
足掻いたところでどうなるものでもないと、諦めかけていた筈のあらゆるもの
“普通”ということ、友達の存在、楽しみや快楽
そして、やっと手に入れた自分の居場所
少し躊躇いながらも、触れた瞬間、一気に愛おしくなる
手放すまいと必死にそれを抱く大きな手と、指
ポーカーフェイスは片時も崩さない
が、その裏の滾るような“熱”は伝わっていた
以前のライヴでは、“こんな音”じゃなかった筈だ
BURSTにいた頃の音とはまるで違う
勢いや正確さは変わらずだ
だが、自分が求めていた、求められている場所で自分の出し得る全てを解放するそのベース音は、気持ちの面でだいぶ変化のあったプレイに見事表れていた
求められているなら、存分にこの腕を奮おう
居場所をくれた優しさに、心からの慈愛を
自らを欲してくれた面々に、惜しみ無い感謝の意を込めて───
───これじゃあ、殴れないじゃん
リサは、菱和のベースに、全てを見守る“暖かさ”を感じた
***
“knife”の後にもう一曲演奏したHaze
オーディエンスの歓声は、彼等の演奏が終わったことを惜しむものになっている
「バンドの曲はこれで終わりです、聴いてくれて有難う!」
喉を酷使したアタルに代わって、ユイが頭を下げながらオーディエンスに礼を云う
菱和と拓真も、深々と頭を下げた
「そんじゃ、今からジョイントやりまーす!準備するから、ちょっと待っててねー」
アタルは袖に待機していたSCAPEGOATを呼んだ
SCAPEGOATのメンバーがステージに上がると、黄色い声援が飛ぶ
各々が準備を進める中、ハジが客に向かって話し始めた
「お邪魔しまーす、SCAPEGOATでーす!Hazeとのジョイントは2曲演ります!それ終わったら俺らの出番だから、最後まで逃げんなよー?」
客席から拍手が起こった
Hazeはアタルのインパクトとユイの可愛さとのギャップが好印象で、『どういう繋がりで一緒にバンドをやっているのか』と興味を引かれる客が多く、曲も評判が良かった
SCAPEGOATはルックスでも演奏面でも定評があり、メンバーの半分が社会人であることでファンの年齢層も幅広く、マンスリーライヴでも人気のバンドだった
HazeとSCAPEGOATが仲良しであることはマンスリーライヴの常連客にとっては周知のことで、ジョイントをやる度にどちらのバンドにもファンが増えていった
ジョイントの一曲目はケイがドラムを担当する
拓真はアタルとハジのいるマイクのところに行き、ハジを中心にして3人で並んだ
ステージの右にはユイと菱和が、左には上田とユウスケがそれぞれ並び、準備を整えた
「オッケーだよー」
ケイは全体を見回し、ハジに合図した
ハジはマイクを構え、一言呟いた
「──────一緒に遊ぼう?」
その声を合図に、上田がトルコ行進曲の冒頭部分を速弾きする
重いドラムのリズムと空弾きのギターが絡まり、ハジは叫ぶように歌い始めた
「DO YOU WANNA PLAY!!!?」
ユイの敬愛するバンド、EXTREMEの“PLAY WITH ME”
缶蹴り、かくれんぼ、モノポリー、刑ドロ、ジャングルジム、ロンドン橋、お医者さんごっこ、いないいないばぁ、ボール遊び、砂遊び‥‥
この曲の歌詞には様々な遊びが出て来て、ラップのように歌い上げる
そして何度も、繰り返す
“DO YOU WANNA PLAY WITH ME”
“君と遊びたいんだ、一緒に遊ぼうよ”
遊び心満載の曲の中盤は、かなり難易度の高いギタリスト泣かせの超絶速弾きが待ち構えている
ユイと上田とアタルは、話し合って小節毎に区切って決めた自分の担当のギターソロを順番に弾いていった
一人ずつ前へ出て、得意気に弾きこなしていく
アタルはともかく、ユイと上田のプレイには客席からどよめきが聴こえた
高校2年生という年齢を考えると、EXTREMEが好きでそれなりに聴ける演奏が出来るということはかなりの意外性があり、観客の度肝を抜いた
ドラムとベースは特段難しいことはなく、ケイはニコニコしながら叩き続け、菱和とユウスケは小節毎に交互に弾いたりオクターブで重ねて弾いたりした
「DOYOU,DOYOU
WANNA,WANNA
PLAY,PLAY WITH ME
PLAY WITH ME」
全員でハジの声に掛け合いをする
〆にユイと上田が速弾きのフレーズをユニゾンで弾き、一斉に締めた
息を吐く暇もなく流れるように曲は終わり、途端に大歓声が巻き上がる
特にミスもなく1曲目が無事成功したことと沸き上がるオーディエンスに全員が安堵し、全力で2曲目に臨む
***
「有難う御座いました!えーっと‥‥俺らは普段から結構仲良しで、今までも何度かジョイントさせて貰ってます。出会って何年くらいになるかな‥‥あっちゃん、覚えてる?」
ハジはMCを挟んだ
その間に、ケイが拓真と入れ替わる
ケイはハジの横に並び、拓真は椅子や太鼓の位置をセッティングし直した
「あー‥‥もう5年くらいなるかな」
ユウスケが横から話に混ざる
「出会った頃はまだ高校生だったよね」
「そうだ、お互い『ガラ悪いなぁ』とか思ってたんだよなぁ」
客席からくすくすと笑い声が聞こえた
「因みに、ココ3人同い年でーす」
ハジがアタルとユウスケ、そして自分を指差した
途端、客席からは「えー!?」だの「嘘ぉ!」だのとどよめきが聞こえる
「‥何今の!?タメに見えない?誰か老けてる?」
「お前じゃねぇの?」
「いや違うし!マジで同い年だから!」
また笑いが起きる
ユイや上田も笑っていた
「Hazeも俺らもメンバーの年齢バラバラなんだけど、楽しくやってます!今後も観る機会あったら宜しくね!あと一曲演ります、さっき演ったのと同じ、“EXTREME”っていうバンドの曲です。楽器隊が超かっけぇんで、注目してください!あんま俺ばっか観ないでねー!」
おちゃらけたハジのMCに、笑いと拍手が起こる
ハジが拓真を振り返りゴーサインを出すと拓真は軽く頷き、一度スティックをくるりと回してイントロ部分を叩き始めた
ドラムが築いたリズムにユウスケが一筋の重いベースラインを紡ぎ出し、アタルが奏でる妖しいアルペジオがその上に滑り乗る
そこへ、ハジが呟く
「You read the papers today?」
ユイと上田のグリッサンドを皮切りにリフが始まり、ラップのようなAメロが重なる
EXTREMEの楽曲の中でも特にファンク色の強い、“CUPID'S DEAD”
中盤にはこの曲の真髄とも呼べるギターとベースによるユニゾンがあり、未だギターキッズ達の心を捉えて離さない
歌詞はとある“悲劇的な喜劇”を歌ったもの
情熱故の犯罪
オムツをつけた身元不明の被害者は、片手に弓矢、もう一方には手紙を掴んでベッドに横たわっていた
手紙には一言、『キューピッドは死んだ』と書かれていた
何度も何度も、『“キューピッドは死んだ”と、新聞の見出しにはそう書いてある』と繰り返す
そして全員で、その特ダネを“号外”として伝え、合唱する
「EXTRA,EXTRA,EXTRA,EXTRA!!」
曲は中盤に入り、怒濤のユニゾンパートが始まる
楽器隊の4人が目配せする
ユイと菱和は互いを見やり、4小節を弾く
ユイはニコニコと、菱和はポーカーフェイスを崩さぬまま弾いていく
次の4小節は上田とユウスケが同じフレーズを弾く
そのあとは、ユイとユウスケが一緒に弾いたり、菱和と上田が一緒に弾いたりと組み合わせを変えて弾き続けた
ユニゾンの間、ハジとアタルとケイは手拍子をして楽器隊と観客を煽る
最後の大サビになってもユニゾンは続いており、ユイは上田と同じフレーズにハーモニクスを利かせて歪ませ、ユウスケは菱和より1オクターブ高く音を重ねて弾く
───“楽しい”どころの騒ぎじゃねぇ
幾度となくステージに上がってきたが、今日のこの日は今までとはまるで違った
味わったことのない高揚感
身体中の血が滾る
指は驚くほどよく動き、快感にも似た何かが脳内を駆け巡る
楽しむ余裕すら無くなるほどの快感が、菱和を支配していた
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