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41 Fallin’ 【A SIDE】
少しずつ秋の風が混ざる、学校の屋上
ユイと拓真と菱和、そして上田は、最早すっかりいつものこととなってしまった『昼休憩は屋上に集う』習慣に倣い、毎日のように一緒に過ごした
輪になって話し込むユイと拓真と上田を、菱和がぼーっと景色を眺めながら静観している
最早、これも見慣れた構図
「どうだったん?スタジオ」
「いやー、超楽しかったね。全員大興奮!ひっしーのベース、ほんとヤバいわ」
「そりゃようござんしたねぇ。俺もお前らの曲聴くの楽しみなんだけど!次のマンスリー出るっしょ?」
「一応その予定だけど、あっちゃんが『曲が間に合わなかったらその次にする』って。でも、早くライヴ演りたくてウズウズしてるよ!」
「ははっ!じゃあさ、近いうち対バンしよーぜ!」
「そっか、演るって云ってたもんな。久々にやりますかー」
「おー。俺らも楽しみにしてんだぜ、お前らと同じライヴ出んの!」
「じゃあさ、合同ミーティングしなきゃね!」
「そうねー。あ、皆で飯食い行っか。この前行けんかったし」
「行く行くー!」
頬杖をついてぼーっとしている菱和の横に、ユイが並んできた
にこにこと、菱和に笑い掛ける
「‥‥楽しみだね!」
「ん」
菱和は怠そうに生返事をした
今までもそういったことは何度もあったが、“菱和はこういうキャラ”だと思っていたので、ユイは否定的に受け取りはしなかった
無愛想で無口な菱和の横に、空気が読めなくて騒がしいユイが並んでいる
一見相容れないように見える2人だが、お互いを補うように上手くバランスが取れていると、拓真も上田も思っていた
「なんか、コーラ飲みてぇな。拓真、コンビニ行くべ」
「一人で行けば良いじゃん」
「ついてきてよぉ、たくちゃあん‥‥俺ウサギさんだから、淋しいと死んじゃうの‥‥」
「じゃあいっそ召されろ。あと、気持ち悪い」
「んなこと云ってー。俺のこと世界一好きでしょ!ほら、チューしたげっから!」
「うげっ!やめろぉ!!」
上田は拓真に絡み出し、あれよあれよという間に屋上から出て行った
静かに、穏やかに流れていく時間
少しずつ秋の匂いが籠る風が、残暑を掻き消す
会話が無くとも、ユイは菱和が隣に居るだけで満足し、菱和もまた、口煩く話し掛けてくるユイを受け入れていた
「あ、もうそろ予鈴鳴る。教室戻ろ!」
「‥‥‥‥今日は、サボるわ」
「‥‥へ!?」
「なんか、かったりぃ」
「えー‥‥‥‥」
菱和は空を仰いで、軽く溜め息を吐いた
ユイは思い立ち、ぱん、と手を叩く
「‥‥よし!じゃあ俺も!」
「‥‥‥‥良いのかよ」
「うん!たまには良いでしょ。次の授業政経だし、俺もかったるい!」
「‥‥そ」
予鈴が鳴り、静かな屋上が益々静かになったように感じる
「なんか、ドキドキする‥‥」
「サボったこと無いのか」
「無いわけじゃないけど、久し振り過ぎて。皆授業してんのに、っていうか本来俺もその筈なのに。なんか変な感じ」
「‥‥案外悪くねぇだろ」
「‥うん!アズと一緒だしね!」
そう云って、ユイは菱和に笑い掛けた
ふと、菱和の動きが止まる
行き交う喧騒を置いてけぼりにしたまま、鼓動が聴こえる
心臓がザワザワとし出し、息苦しさを感じる
いつも以上に早い鼓動が、いつも決まって騒ぎ出す
そう、こいつが俺に笑い掛けたときに限って───
何なんだろう、これは
何でこいつは、俺にこんな顔が出来るんだろう
見る度に、変な気分になる
この気持ちは、一体何なんだろう
こいつの笑顔は──────
それがどういうものであるかわからない
今までに抱いたことの無い、不可思議な、複雑な、そして単純な感情
“触れてみたい”
衝動を抑え切れず、菱和は手を伸ばした
菱和の大きな手が、ユイの頬を包む
ユイは若干肩を竦めたが、自分を見つめる漆黒の目に捕らわれる
怪訝な顔をし、首を傾げた
「───‥‥‥‥アズ‥‥?」
───ああ、そっか
「んむっ!?」
頬を抓られ、変な声が出た
「‥‥‥‥、変な顔」
「なっ、何だよ!?そっちが抓ってきたんだろ!」
ユイは慌てて菱和の手を払い除ける
初めて触れたユイの肌
“触れたい”なんて、思ったこともなかった
何でそんなことをしたくなったのか、全くわからなかった
でも、確かに感じたかった
こいつの存在と、この感情が何なのかを
笑顔のみならず、ユイが見せる表情や仕草
ユイを形作っている全てのもの
その全てが、いつしか自分の中で特別なものになっていることに気付く
頬を抓ることで誤魔化すことしか出来なかったが、菱和は自らの心中にあった一つの感情をゆっくりと自覚した
“好き”なんだな、俺。こいつのこと───
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