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34 LAST⑩※
◆◆◆喧嘩のシーンがあります 暴力的な描写が苦手な方はご注意下さい◆◆◆
***
「───リサ!!菱和ぁっ!!!」
角材を片手に、ユイがドアを蹴破って入ってきた
少し遅れて室内に入った拓真は、苦笑いをした
「‥‥絶賛お取り込み中、だよね。やっぱ?」
「何だてめぇらは!?」
予想だにしなかった二人の登場に、古賀たちはおろかリサも驚く
───石川‥‥‥‥佐伯‥‥?
菱和は自分の名を叫ぶ声に意識を取り戻し、微かに目を開けた
ぼんやりと、ユイと拓真の姿が見えた
ユイは、床に倒れて指にナイフを突き立てられている菱和を見て驚愕した
何故こんなことをされなければならないのか、ユイには全く理解出来なかった
例えそこにどんな理由があったとしても、悪意を持った力で相手を捩じ伏せる手段を採るべきではない
大事なものを護ろうと振るわれた菱和の暴力も決して誉められたものではないが、無抵抗の友達へと向けられた暴力はそれ以上に冷酷で無惨なものだった
リサを、菱和を、大切な友達を傷付けられたという目の前の事実に、どうしようもない怒りが込み上げてくる
古賀に向かって、角材を構えた
ナイフを握る古賀の手に、冷たく視線を落とす
「‥‥その手ぇ離せよ。“うちのベーシスト”に触んな」
「あ?」
「───触んなって云ってんだよっ!!!」
ユイは古賀目掛けて、構えていた角材を怒りに任せて投げ付けた
古賀は咄嗟に避け、菱和から離れる
角材は乾いた音を立てて壁にぶち当たり、バラバラに折れた
───おいおい、“剣道初段”はどこ行ったんだよ
拓真は冷静に心の中で突っ込み、古賀が怯んだ隙にリサに駆け寄った
「大丈夫か?」
「うん‥」
「くっそ、きつく縛りやがって‥‥あっちゃんも居るし、多分もう大丈夫だと思う」
拓真は拘束を解くと、着ていたシャツを脱いでリサの肩にかけた
リサは胸元を隠し、拓真の腕にしがみついた
ユイは菱和に駆け寄り、膝を付いて声を掛ける
「菱和、大丈夫?」
「‥‥‥‥お前‥どうして‥‥」
「どうしても何も、友達なんだから助けるのは当たり前でしょ!立てる?」
ユイはにこっと笑った
この緊迫した状況下において、とても不釣り合いな笑顔
───何だよこいつ、マジで空気読めないんだな
「へ‥」
何の緊張感も無いユイの笑顔につられ、菱和も笑みを零した
ユイが居る
その事実が、菱和を立ち上がらせる
「てめぇっ!!邪魔すんじゃねぇよ!!!」
古賀は持っていたナイフをユイに向けて振り翳した
ユイは古賀の声に反応し、菱和を庇おうと身構えた
菱和はその庇護を軽く退け、古賀がナイフを握る手を受け止めた
ナイフの刃は菱和の指の間を裂き、みるみる鮮血が流れ出る
「──────俺のダチに手ぇ出すなっつってんだろ」
菱和は膝を付いたまま、ナイフを握る古賀の手をじわじわと握り締めた
ドスの効いた声と鋭く睨み付ける菱和の眼光に、古賀はたじろいだ
ゆっくりと立ち上がった菱和は、掴んでいた古賀の手を引き寄せ、鳩尾に膝蹴りをした
嗚咽を出しぐらつく古賀の髪を鷲掴みにし、ほぼ感覚が無い左手を強く固く握り締め、力の限り腕を振り上げた
先程まで意識を手離しかけていた頭は冴え、力が漲る
自分でも見るも無惨なほどボロボロの身体の何処にそんな力が残っているのか、菱和自身不思議でならなかった
何の躊躇も厭わず駆け付けてくれた友達の存在が、その答えだった
菱和のパンチが顎に炸裂し、古賀の体は吹っ飛んだ
古賀は仰向けに倒れ込み、のた打ち回った
「──────ぃっ‥‥てぇっ‥」
菱和は古賀を殴った衝撃からくる激痛に耐え切れず膝から崩れ落ち、左腕を押さえた
手首の関節は外れているか、最悪は折れている可能性がある
心臓の鼓動と同じように、ズクズクと痛みが走る
咄嗟に左手が出てしまったことを、少しだけ後悔した
「‥‥菱和!その腕‥!!」
「‥ん、でぇじょぶ‥‥」
口角を上げ余裕を覗かせる菱和だが、その顔は苦痛に歪んでいる
唇が、僅かに震えていた
ユイは眉を顰め、傷付いた菱和の左腕にそっと手を添えた
血だらけの腕で護ってくれた菱和を、労った
「‥‥大したこと、ねぇから」
菱和はユイの頭をぽん、と軽く叩いて、ほんの少し笑った
顔も身体も傷だらけ
ボロボロになりながらも、自分と自分の大事な幼馴染みを護ってくれた菱和
ユイは胸がいっぱいになり、顔をくしゃくしゃにした
「‥‥何なんだよ」
古賀が起き上がり、呟く
その場にいた全員が、その声に反応した
「───何なんだよ!ダチがそんなに大事か!!てめぇはそんなに楽しく楽器弾いてナカヨシゴッコしてぇのかよ!!?」
古賀の怒声が響く
「‥‥そうだよ。文句あっか」
菱和は冷たく古賀を見つめ、憮然と返事をした
皮肉を込めた自分の言葉にさらりと返事をする菱和を睨み付けた古賀は、目を見開き、奥歯をぎり、と鳴らした
「───何が悪いんだよ」
ユイが、低く呟いた
「‥あ?」
「仲良くして、楽しく楽器弾いて何が悪いんだよ!!お前だって楽器弾いてんだったら演奏する楽しさくらいわかるだろ!!?」
ユイは古賀に怒鳴り散らした
部屋に入るや否や、真っ先に目に飛び込んできた光景───菱和の指を切断しようとしていた古賀の姿が、頭に焼き付いていた
同じ楽器を弾く者として、古賀のことが心の底から許せなかった
「ゴチャゴチャうるせぇんだよ!俺はな、てめぇみてぇに純粋に音楽楽しんでますってのがいちばんムカつくんだよっ!!!」
「───古賀、もう止めようぜ」
「そうだよ。菱和はもうボロボロなんだし、十分だろ」
駒井と高野は、古賀を窘め始めた
しかし、古賀は頑として二人の意見を聞き入れようとしなかった
「るせぇっ!てめぇら何黙って見てんだよ!?早くこいつらやっちまえよ!!」
「‥悪いけど、俺らはもう降りる。正直ここまでやる必要なんて無かったじゃん」
「何だ、てめぇら裏切んのか!?」
「そういうことじゃねぇって。もう意味がねぇって云ってんだよ。お前だって、引っ込みつかなくなってるだけだろ。もう良いだろ、マジで」
「待てよっ‥‥てめぇら───」
「はいはーい、そこまでー」
駒井と高野が部屋から出ようとしたところ、煙草を咥えたアタルがぱんぱんと手を叩きながら部屋に入ってきた
アタルの登場、その容姿に更にビビった2人は、思わず後ずさりをする
「あっちゃん、遅いよ」
「俺はもうお前らみてぇに若くねぇんだよ、少しは労れ。さぁて、と‥‥てめぇら。“うちのメンバー”に、随分派手なことしてくれちゃってんじゃないの」
ガキ二人に続いて、赤い髪のガラの悪い男の登場
やはりアタルの見た目のインパクトは強烈だったらしく、古賀たちは唖然としていた
そんなことはお構いなしに、アタルは咥えていた煙草を吐き捨て、古賀たちに近付いた
怒りの篭った笑みを零し古賀たちを舐めるように睨み付けると、ポケットから携帯を取り出し、顔の横で振って見せた
「お前らの頭とナシ付けた。増援も来ねぇからな。こんだけ好き勝手やらかしちまって、タダじゃあ済まねぇかもよ?」
「はっ‥‥!?」
古賀たちは青ざめた顔をしている
事情をいまいち把握出来ず、ユイはアタルに尋ねた
「あっちゃん、どゆこと?」
「なんかよぉ、“BLACKER”のリーダーが、“WINDSWEPT”のギターの奴とマブダチなんだとよ」
「‥“WINDSWEPT”のギター‥?‥‥‥‥それって、高橋くん!?」
「そ。何回か会ったことあるよな?SCAPEGOATとも面識あって、ハジからターシに頼んで“BLACKER”のリーダーに話通してもらってよ。『若い奴がうちのメンバーにちょっかいかけてる』っつったら、詫び入れられたよ」
アタルは新しい煙草に火を点けながら話した
「へえぇ、すげぇ人脈‥‥」
「バンドやってて良かったね!」
「まぁ、結果的に助けられたわな‥‥。っつぅかよぉ、お前らが勝手に呼んだ奴等は全滅で、代わりの兵隊まで寄越す始末で、“BLACKER”の面子丸潰れじゃん。頭の奴、めちゃめちゃブチ切れてんぞ?俺も同じくらい頭にゃ来てっけどよぉ‥‥‥‥」
アタルは鋭い眼光で古賀たちを威圧した
「───タイマンも張れねぇカス共が。これ以上何かしようってんなら、原型留めなくなるくらいグシャグシャにすんぞ」
至極冷静でいた筈のアタルだが、とっくに頭に血が上っていた
大勢で一人を襲う卑怯なやり口がどうしても許せず、ほんの僅かに残る理性で古賀たちを殴りたい衝動を抑えていた
アタルの放つオーラに悪寒が走った古賀たちは、青ざめた顔のまま身体を引き摺るように慌てて部屋を出ていった
古賀たちが去り、騒然としていた室内は途端に静まり返る
どうにかゴタゴタが解決したと実感し、ユイも拓真もリサも、ただただ安堵した
「あーあ、キレーなカオが台無しじゃねぇの。なぁ、男前?」
アタルは煙草を咥えたまま菱和の前にしゃがみ込み、菱和の顎を軽く掴んでニヤリと笑った
「‥ただ、かなりヤれるみてぇだな。外にいた奴らやったのお前なんだろ?一人で10人近くぶっ飛ばすとはな。やるねぇ」
「‥‥いえ」
菱和はアタルから視線を逸らす
アタルは立ち上がって煙草の煙を吹かした
「ほんと気に入ったよ、お前。喧嘩も出来て、ベースも申し分無い。おまけに男前。サイコーじゃねぇかよ?」
ニヤニヤと話すアタルに対し、菱和は俯いていた
「‥‥‥‥すいませんでした。迷惑かけて」
「気にすんなって!これから一緒にバンドやるんだからよ。な、“ひっしー”?」
「何だよあっちゃん、“ひっしー”って」
「あだ名だよ、あだ名。こいつだけ苗字じゃあ堅苦しいだろ?」
たった今付けられたあだ名で呼ばれ、菱和は漸く顔を上げた
不測の事態とはいえ、これだけ迷惑を掛けてどの面下げて一緒にバンドが出来るというのか
そう思っていたのに───
親しみを込めて“うちのベーシスト”と呼ばれ、あだ名を付けられ、菱和は胸の辺りがじんわりとした
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