NEW ENTRY
[PR]
30 LAST⑥
「菱和くん、行こ」
ユウスケは、菱和を出口へと促した
菱和は俯いたまま、立ち竦んでいる
何でだ、何でこんなことに
俺が脱退することとリサが危険な目に遭うことと一体何の関係があるんだ
やっぱり、もっと早く抜けとくべきだった
まさか古賀がこんなことをするなんて、予想もしてなかった
いや、それ以前の話なのかも
そもそもあいつらのバンドに入りたいなんて、高望みなんてするべきじゃなかった
こんなことになるくらいだったら、つまらない生活を送っていた方がマシだったかもしれない
俺と関わったばっかりに、リサはおろか、石川にも佐伯にも上田にも、上田のバンドメンバーにも迷惑かけちまってる
全てにおいて、想像力が欠け過ぎてた
俺なんかに話しかけてきたりしないで
俺なんかをバンドに誘ったりしないで
何もしないで、ただのクラスメイトで居れば───
───俺なんか、欲しがるなよ
欲を持ちユイの誘いを受け入れてしまったこと、果てはユイやリサが自分と関わりを持つことになってしまったことまでもを憂い、菱和は自分自身に激しく苛ついていた
ぎり、と拳を握り締める音が聴こえ、ユウスケは菱和の顔を覗き込んだ
「‥‥菱和くん?」
「──────すいません」
「え!!?ちょっと‥‥っ」
菱和は持っていたベースをユウスケに押し付け、走っていった
「おい!!菱和くん!?」
「ハジ!追い掛けろ!!」
「ああ!」
ユウスケに急かされ、ハジは菱和を追い掛けた
***
ライヴハウスの入り口では、ユイと拓真、ケイが、上田やハジを待っていた
あれこれと下らない話をしていると、カナを自宅に送り届けたアタルが戻って来た
「あっちゃん。お疲れー」
「おー‥‥あれ、樹とハジとユウスケは?」
「上田は菱和呼びに行った。ハジさんたちは煙草喫いに行ったよ」
「あっそぉ。俺もちょっと一服するかな。っつぅか腹減ったわー、今何時?」
「もう少しで10時だよ」
「───ユイ!!!」
上田がライヴハウスから飛び出てきた
ユイたちは壊れる勢いで開いたドアに驚く
「上田ぁ!びっくりしたぁ。まだ菱和居た?」
上田は肩で息をしながら、ゆっくりとユイたちに歩み寄った
「‥‥ユイ、拓真、落ち着いて聞いて。菱和のバンドの奴らが、近藤サンを拉致った」
「───‥‥‥‥は?」
上田の話す内容にいまいち要領を得ない2人
アタルとケイも、怪訝な表情を浮かべる
再びドアが開き、汗だくになったハジと、ベースを抱えたユウスケが出てきた
ハジは膝に手を付いて、息を切らしながら上田に云った
「ごめ、いっちー‥‥菱和くん、一人で行っちゃった‥‥」
「はぁ!!?」
「追い掛けたんだけど‥‥途中でタクシー捕まえちゃって‥‥流石に、車は追えなかった‥‥」
申し訳なさそうに、途切れ途切れに話すハジ
上田は顔を顰める
「‥‥あいつ‥‥‥‥」
「それだけ責任感じてんだよ。彼全然悪くないんだけどね」
ユウスケは菱和に半ば無理矢理託されたベースを背中に背負った
「なんかよ、全然事情がわかんねぇ。最初から説明してくんねぇ?」
アタルは煙草に火をつけた
ハジとユウスケは、一部始終を話し出した
「俺ら、裏口で煙草喫ってたのね。そしたら、菱和くんのバンドメンバーとリサちゃんが一緒に出てきて、無理矢理車に乗せられてったんだ」
「確か、“ブラック”‥‥?忘れたけど、何とかってチームの奴らが出てきて、そいつらに足止め食らっちまった。菱和くんのバンドの奴がその何とかってチームとナカヨシらしくて」
「うーん‥‥なんかよくわかんないけど、何でそんなことになったの?」
「‥‥‥‥菱和のバンドの奴らは、菱和がバンド脱退するのが許せなくて、近藤サン拉致ったみたい」
「──────え?」
ユイは、上田の言葉に、誰よりも驚いていた
『今すぐには無理だ』
『少し、時間くれるか』
『お前らとバンド出来たら、楽しいんだろうなぁ』
『絶対抜ける、約束する』
『俺をバンドに入れてくれたら、それで良いよ』
菱和の言葉が、ユイの頭の中を駆け巡った
菱和が直面している問題をユイは知る由もなかったのだが、今夜のライヴで脱退すると云っていた菱和の言葉にすっかり浮かれてしまっていたことを猛省した
そして、自分の大切な幼馴染みに危害を加えようとしている何処の誰かもわからない人間のことを、強く憎んだ
アタルは溜め息混じりに煙草の煙を吹かした
「で、菱和はそいつらんとこ行った、ってか」
「そう。『一人で行くな』って云ったのに。菱和のアホ」
上田は眉間に皺を寄せ、唇を尖らせた
「───菱和は、どこに行ったの?」
「『第2アカシアビル』、って云ってたな」
「‥‥ん?そこって、確かもう廃ビルになってたんじゃなかったっけな」
ケイが思い出したように云う
ユウスケは先程“BLACKER”の一人に殴られた痕を指でなぞりながら、侮蔑の表情を見せる
「なるほど。大方ギャング崩れ共の溜まり場、ってとこね」
「よし、行くか!」
「ちょい待ち」
全員の気持ちが『第2アカシアビル』へと向かう矢先、アタルがそれを制止した
「おめぇらに迷惑かけるつもりはねぇ。俺ら3人だけで行く」
アタルの言葉に、SCAPEGOATのメンバーは顔色を変えた
「あっちゃん!俺ら迷惑とかそんな風に思ってないから!」
「乗り掛かった船だし、俺らも行くよ」
「バーカ!これはもう“うちのバンド”の話なんだよ。おめぇらの気持ちは嬉しいけどよ、俺らで何とかするから」
アタルは煙草を投げ捨て、ニヤっと笑いながら云った
「いや、でもさ‥‥」
「もし喧嘩でもして万が一サツが入り込んだりしてみろ。特にハジとユウスケ。おめぇらはもう学生じゃねぇんだから、無理にガキのお遊びに付き合う必要はねぇ。俺らは最悪、停学くらいで済むからよ」
拓真は神妙な顔をしているが、ユイはアタルの言葉に頷きニコニコした
揉め事に関わる人間が増えれば、余計なところにまで飛び火が向かう可能性が生じ、新たな揉め事を生む危険性もある
目の前の事態を冷静に捉えているアタルの言葉に、SCAPEGOATの面々は自分たちも加わりたい感情を何とか抑え込んだ
「───‥‥‥‥わかった。じゃあせめて、今俺らに何か出来ることないかな?」
「そんなら、その何とかってチームのこと調べてくんねぇかな?なんかわかったら、連絡入れといてくれ」
「おっしゃ。手当たり次第、当たってみるわ!」
近くのパーキングに停めた車へと向かうアタルに続いて、ユイと拓真もその後ろをついて行った
***
「ユウスケ、口大丈夫?」
「うん、全然平気。ほんと猫パンチだったからね」
「勢いだけでぜーんぜん大したことなかったぞ、“ブラッキー”‥‥だっけ?」
「“BLACKER”じゃないの?」
「どっちでも良いや、あんなクソ共」
「それにしても‥‥‥‥真面目で良いコだね、菱和くんって」
「ああ。あんな成りだからちょっと悪系の人なのかなって思ってたけど‥‥あの長身で頭下げて謝ってきたから、ちょっとびっくりした」
「──────俺さ、一年のとき菱和と同じクラスだったんだ」
「あら、そうだったんだ?」
「‥‥いつだったか、L CUBEでライヴやったときあんじゃん?」
「ああ、やったな」
「そんときたまたまベース持ってる菱和見掛けてさ、声掛けたんだけど全然学校来てなかったから俺のこと知らんかったみたいなの。で、それを拓真に教えたら、ちょうど尊さんが抜けるってときだったから、ユイがHazeに誘ったんだ」
「へぇー‥‥‥‥。タケちゃんのベースも良かったけど、菱和くんのベースもなかなかイケてるよね」
「俺もそう思う。Hazeに合いそうだよね」
「‥‥で、それから俺もちょいちょい関わるようになったんだけど‥‥なんか、無愛想だけどイイ奴、なんだよね菱和って。‥今思えば、一年のときから仲良くなってたかったなー‥‥」
「‥‥‥‥‥‥イイ奴、か‥‥」
「人は見掛けに寄らないね、ほんとに」
「ああ、実際話してみないとどんな奴かなんてわかんねぇもんな」
「‥‥俺らみたいに?」
「そうそう!」
「見掛け通りの奴、約1名ー」
「は?誰のこと?」
「そんな奴一人しか居ねぇじゃん」
「‥‥‥‥何で俺の顔見てんだよ?」
「───ははっ!!」
「ふひゃははは!おっかしー!」
「笑うな!バーカ!」
「───‥‥菱和くん、ちゃんとHazeに加入出来ると良いね」
「そうだな。対バンやるって約束したしな!」
「取り敢えず、ファミレスでも行ってるか。“BLACKER”のこと調べようぜ」
- トラックバックURLはこちら
