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29 LAST⑤
リサはなかなか出口を見つけられず、未だユイたちと合流出来ずにいた
人も疎らなロビーやロッカールームをうろうろしながら、沸き上がるステージを遠くに聴く
先程の菱和の顔が浮かんでくる
あんな無愛想な奴でも、人前で演奏するときは変わるもんだと思ってた
なのに、あいつは少しも変わらなかった
演技でも良いから、楽しそうにしてろっての
どうせ、客の殆どはそれが演技だなんてわかりゃしないんだから
でも多分、あのバンドはあいつがいるべき場所じゃない
私にだってわかるくらい、他のパートとのレベルが違い過ぎる
そりゃあ、楽しくなんてないだろうね
だったらせめて、面白可笑しくしてる奴らのとこに行けば良い
ユイたちのバンドに入れば、あいつも演技をするまでもなくほんとに楽しく演奏出来る筈だ
何よりも、ユイたち自身がそれを望んでるのだから
折角それなりの腕があるのに、あんなつまんなそうに弾かれてりゃ楽器も可哀想だ
あいつの本性とかユイにちょっかい出されたこととか、もうどうでも良くなった
───私も少しだけ、あいつの本気のベースを聴いてみたい
そんなことを考えつつキョロキョロと周りを見ながら彷徨いていると、突然何者かに腕を捕まれ、人気のない場所に引き込まれた
「───!」
振り返ると、先程までステージで演奏していたBURSTのメンバーがいた
「お前、菱和の知り合いだろ?」
「‥‥は?何あんたたち?」
「ちょっと来いよ」
「やっ‥‥何すんの離してよっ!!」
古賀は抵抗するリサを無理矢理裏口の方へと連れていこうとした
***
裏口付近で、ユウスケとハジは煙草を喫っていた
「やっぱ混まないから良いね。のんびり喫えて」
「ほんとな。出待ちの女とか毎回マジうぜぇしな、うるせぇし。あぁ、美味ぇ」
ライヴハウスの入り口にも灰皿は置いてあるのだが、裏口は人気がなく閑散としており、落ち着いて煙草を喫うにはちょうどいい場所だった
出入りする人間のみ知ることの出来る、ある意味特別な場所でもあった
2人がだらだらしていると、一台の黒いバンがけたたましい急ブレーキ音を立てて裏口に横付けしてきた
ガラの悪い連中が何人か乗っている
内装も外装も、お世辞にもお洒落とは云えない改造や装飾が施されていた
「うわ、危ねー。何だあれ」
「はー、下品な車だねぇ」
バンを傍観する2人
突然開いた裏口
目をやると、3人の男に囲まれたリサが出てきた
「あ、リサちゃん?」
ハジはリサに呼び掛けた
その声に反応した男たちは、無理矢理リサをバンに押し込んだ
「早く乗れよ!!!」
「あっ───!」
「───リサちゃん!!?リサちゃん!!」
ハジとユウスケがバンを追い掛けようとした矢先、リサや男たちと入れ替わるようにガラの悪い男が4人ほど車内から出てきた
男たちは2人の前に立ちはだかり、その隙にバンは急発進して行ってしまった
ハジは目の前の男たちにガンを飛ばす
「おいおい、何なんだよお前ら。今のコ、俺らのツレなんだけど?」
「お前らこそ何だよ?俺ら“BLACKER”だぞ」
「“ぶらっかぁ”?‥‥知らねぇなぁ。俺らここ地元じゃねぇし」
「何その下品な名前。ナカヨシグループかなんかなの?」
「───舐めてんのかコラァ!」
男のうちの一人が、のらりくらりと話すユウスケに殴りかかった
かしゃん、と音を立てて、ユウスケがかけていた眼鏡が地面に落ちた
ユウスケの口元から、血が垂れる
「──────何すんの」
ユウスケは、殴ってきた男の顔をゆっくりと見た
限り無く無表情なのだが、それが逆に男の心臓をざわつかせた
ただ、静かに、怒りの籠った視線が、男に突き刺さる
その鋭い眼光に怯んでいる隙に、ユウスケは男の顔面を思い切り殴った
***
「菱和ー、居るー?」
控え室には、ベースを片付けている菱和が居た
上田に気付くと、菱和は顔を上げた
「‥‥来てたんだ」
「おう、バンドメンバー全員でな!いやー、やっぱ菱和のベース良いわぁ。良いモン見して貰ったよ。‥あれ、他のメンバーは?」
「知らねぇ。もう帰ったんじゃねぇかな」
「ふーん。これから時間ある?ユイたちと俺のバンドメンバーで飯食いに行くんだけど、菱和も行かねぇ?」
「‥良いのか?俺が行っても」
上田は菱和の言葉に噴き出した
「なぁに意味不明なこと云っちゃってんの!はっきし云って、お前が主役みたいなもんよ?まぁ、ご馳走は出来ねぇんだけど‥‥とにかく、打ち上げ兼ねて行くべよ?」
「‥‥そっか。わかった」
「ん!皆待ってるから早く行くべ!」
「──────いっちー!!!」
上田と菱和が控え室から出て出口に向かって歩いているところ、突然叫び声が聞こえた
名前を呼ばれた上田が振り返ると、ハジとユウスケが全速力で走ってきた
何やら唯ならぬ雰囲気を感じ取り、上田は2人を凝視した
「どうしたん?そんなに慌てて」
「ちょっとヤベぇことになった。リサちゃんが変な奴らに連れてかれた」
「‥‥‥‥はい?」
「絶対『お友達』って雰囲気じゃなかったから追い掛けようとしたんだけど、“ブラッカー”とかいう変な奴らに絡まれて‥‥」
「マジでごめん。ちょっと無理だった」
肩で息をするハジとユウスケ
上田と菱和の表情が、次第に凍り付いていった
菱和の携帯が着信音を奏でる
苛ついて画面を見ると、着信の表示には古賀の名前
嫌な予感が頭を過り、菱和は直ぐ様通話ボタンを押した
『よう、菱和。さっきお前と喋ってた女、取り敢えず拉致ったから』
「‥‥どういうつもりだ」
『さっきの話も実は聞かせて貰ってたよ。お前、別なバンドに入る気?』
「もうてめぇらには関係ねぇだろ」
『そんなことねぇさ。まだお前は俺らのバンドの一員だろうが。‥‥“例の場所”に来い。話の続きはそこでしようぜ。お前の脱退の件は、この女と引き換えだ』
「‥ざけんな」
『良いか、一人で来いよ?誰か連れてきやがったら、この女ヤっちまうからな』
『きゃっ‥‥』
恐らくリサの声であろう悲鳴に、菱和の目付きが変わった
「てめぇ、マジでいい加減にしろよ。そいつに触んじゃねぇ」
『それはお前次第だよ。じゃあな、早く来いよ』
古賀は一方的に通話を切り、菱和の携帯から規則的に電子音が聴こえた
菱和は苛つき、携帯を握り締めた
上田はハジとユウスケの話に顔を顰めている
「誰なん?その変な奴らって」
「“ブラッカー”ってわかる?なんかチームの名前みたいなんだけど」
ユウスケが上田に尋ねたところ、菱和が口を開いた
「───俺のバンドのメンバーの差し金です」
「あ?どゆこと?」
「ギターの奴が“BLACKER”の連中とつるんでて。ギャング気取ってるクソみてぇな奴らで、喧嘩とか薬とか下らねぇことやってるチーム」
「まぁ、そんな感じだったよね。チンピラにもなれてないどチンピラどもだったけど」
ユウスケは、口元を触りながらBLACKERの面々の感想を述べる
「でも、何で近藤サンを拐う必要があるわけ?」
「‥‥さっきあいつと話してたの聞いてたみてぇで、俺と面識あるって思われたから」
「‥‥話が繋がらないんだけど。それだけの理由で拐ったりするか?」
「───‥‥‥‥古賀は俺がバンドから抜けるって云ったのが気に入らなかったんだ。もうずっと前から脱退の話はしてたけど、なかなか決着つかないでいて。今の電話あいつからで、俺が抜けるのとリサと交換条件出してきやがった」
菱和は云い出しにくそうにしていたが、上田たちに脱退の件を話した
途端、上田たちは声を荒げた
「は!!?バカじゃねぇの!!」
「しょーもな。とんでもないガキんちょだねぇ」
「おー、マジムカつく。俺、リサちゃんのファンなのに」
「‥‥すいません、俺の所為で」
菱和はユウスケの口元を見て、頭を下げた
「‥ああ、気にしないで!取り敢えず軽くぶん殴っといたから。菱和くんの所為じゃないよ!」
「そうそう。ユウスケが一人殴っただけで、他の奴ら散ったからさ」
「どうするん?菱和」
「‥‥連れ戻してくる」
「場所どこだよ?俺も行く」
「『一人で来い』って云われてる。あいつらリサに何するかわかんねぇ」
「てか、ゆっちゃんたちにも報せなきゃ」
ハジがユイの名を口にする
石川───
リサは、ユイの大切な幼馴染み
それは散々見せ付けられてきた
ユイを、リサを傷付けられるのは、今の菱和にとっては何よりも赦しがたいこと
菱和はぎり、と拳を握り締めた
「───お前、マジで一人で行く気してるだろ」
いつもはチャラい上田が見せる、真剣な眼差し
憤りを抑えきれない様子だった
「悪りぃけど、それは出来ねぇ。可愛い同級生拐われて、俺もじっとしてられねぇわ。場所どこだ?俺らも行く」
「そんなことさせるわけねぇだろ。お前にもメンバーさんたちにも、これ以上迷惑かけらんねぇよ」
「‥‥菱和くん。ゆっちゃんもリサちゃんも、大事な友達なんでしょ?俺らにとっても、それは同じだよ。友達のピンチに何もしないのは、俺らも無理だわ。それに、殴られたっつっても猫パンチだったから全然平気よ?」
「おお。ダイジョブだって、喧嘩とか久々だけど俺らそこそこやるよ?バンドやってるモン同士、ちっとは頼ってよ」
責任を感じている菱和に、ハジとユウスケがにこやかに話した
菱和は申し訳なさそうに顔を伏せたが、観念したように古賀の居場所を伝えた
「‥‥‥‥多分、『第2アカシアビル』」
「ん、わかりっ!取り敢えずユイたちに報せるわ!」
上田はいつものチャラい表情を見せ、ユイたちの元に走っていった
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