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27 LAST③
控え室で出番を待っている“BURST”の面々
古賀、駒井、高野のスリーピースで、ルックスの良さから主に女子高生から人気のあるバンドだった
ギターを持つ古賀は椅子に腰掛け、のらりくらりと菱和に話し掛けた
「なぁ、考え直す気ねぇか?菱和」
「無ぇな」
菱和は煙草を吹かしながら即答した
「前から話してたろ。これが終わったら、このバンド抜けるって」
「んー、納得いかねぇんだよなぁ。理由は?」
「何度も云ってんだろ。“つまんねぇから”」
「つまんねぇって‥‥理由としては弱い気がすんだけどなー?」
「十分明確な理由だと思うけど。お前らと一緒にやってても何も得るものがねぇんだよ」
「何が不満なんだよ?ライヴは数やってるし、女だって横流ししてんだろ?」
───モテたいだとか女とか‥‥‥‥結局こいつらは、そんなことしか考えてねぇ。そんなもん、
「───クソも興味ねぇ」
菱和は、吐き捨てるように云い、煙草を灰皿に押し付けた
古賀の目付きが、少し変わった
「───お前、ちょっと前からなんか雰囲気変わったよな。抜けたがってんのとなんか関係あんのか?」
「さぁ。とにかく、『今日で最後』って話は前からしてただろ。元々サポートとして入ってるってだけだったし、首の挿げ替えは幾らでも利くんじゃねぇの。俺なんかにこだわる必要ねぇと思うんだけど」
「‥‥そう簡単に足抜け出来ると思ってんのか‥?」
「‥‥‥‥出来ねぇってんなら、別な方法を考えるだけだ」
菱和は腕組をし、古賀に憮然とした顔を向ける
古賀が冷たく菱和を睨む
どんな理由があるのかはわからないが、古賀は菱和が脱退することに納得していないよう
互いに一歩も引こうとはせず、睨み合いが続く
「まぁまぁ、終わってからまた話し合えば良いんじゃねぇの?もうそろ時間だぜ」
駒井が古賀と菱和を窘めた
高野も、ゆっくりと立ち上がる
「──────菱和」
古賀が不適な笑みを浮かべて、菱和を呼ぶ
「また後で、ゆっくり話そうぜ」
菱和はすぐに古賀から目を逸らし、ベースを持った
***
ユイとリサは拓真たちと合流した
上田とハジも近くにおり、ユウスケとケイも列を割って入ってきた
「さっきのバンド、結構良かったよ!」
「あっそ‥‥」
はしゃぐカナを他所に、リサは既につまらなさそうな顔をしている
「ユイユイ、お口大丈夫?」
「うん、平気!」
「お前、こんなとこでゲロすんなよ」
「‥しないよ!」
ステージは暗転し、BURSTの面々が各々楽器の準備を始めた
スタンド席から見て左側に、菱和らしき長身の男の姿が見えた
やはり、バンド内でも一際背が高いようだ
ドラム担当である駒井が、カウントを始めた
一曲目のリフと共に、BURSTのメンバーはスポットライトに照らされた
飛び込んでくる、菱和の姿
silvitで聴いた、菱和のベースの音
あのとき、ユイの口の中は仄かに甘い味がした
ただ、何かに向かって攻撃し、威嚇するような印象も確かに感じた
───一体、何に対しての威嚇なんだろう?何だか、檻に入れられて暴れる野獣のような‥‥
狂ったように暴れる音の真意を、探る
───欲しい
それを知ってしまったあの瞬間から、欲しくて堪んねぇんだ
無い物強請りなのはわかっている
望むべきじゃないのかもしれない
それでも、最後の最後まで足掻きたい
欲しい
此処から出してくれ
呑まれても構わねぇから
欲しい
あの快感に、狂ってしまいたい───
そんな声が、聴こえた気がした
この音を、自分達に扱い切れるだろうか
否、扱えなければ自分達も呑まれるだけだ
そうならない為に、食らい付くだけだ───
ユイは菱和の姿に釘付けになり、気付けば鳥肌が立っていた
***
一曲目が終わり、最前列で観ている女子の集団から黄色い声援が飛ぶ
アタルは耳障りだと思いつつ、BURSTの演奏について感想を述べた
「‥‥何だよ、上手いのあいつだけなんじゃん。ベースだけめちゃめちゃ浮いてんぞ」
「ほんとだね‥‥なんか拍子抜け」
拓真も、アタルの意見に同意する
それを聞いていたユウスケやケイが、BURSTについて話し出した
「俺ら何度か対バンしてるけど、正直BURSTはルックスで売ってるバンドだから『上手い』とは言い難いね」
「菱和くんだっけ?彼のベースだけ明らかに突出しちゃってんだよね。俺らも、何で彼がこのバンドに居るのかずっと不思議だったんだ」
ハジも、自分が知る限りの情報を話す
「なんか、BURSTって結構ファンのコ食ってるって専らの噂なんだよ。菱和って奴も女から人気みたいだし、そういう意味では他の面子は手離したくねぇんじゃねぇの。‥‥よくわかんねぇけど」
「ふーん‥‥」
ユイと拓真にとって、その話を聞く限りではBURSTの第一印象は決して良いものではなかった
アタルは軽く頭を掻く
「‥‥ま、菱和のベースの腕と男前ってとこは認めるわ。あれだけのもんが入ったら、演れる曲広がるな。ライヴもすぐ出来そうだし」
「じゃあ、菱和の加入はOKってこと!?」
「良いんじゃねぇの?まだ一曲しか聴いてねぇけど、あいつほんとは相当弾ける奴なんじゃねぇのか?」
「うん、その筈だよ。俺らと演ったとき、もっと凄かったもん」
「だったら、“客寄せパンダ”にしとくにゃ勿体なさすぎだ。あいつがどう思ってっか知らねぇけど、俺は全然構わねぇぞ。あとはお前らが残り観て決めな。カナ、そろそろ行くか?」
「あ、はい!お願いします!」
「え、もう帰るの?」
リサは目を丸くしてカナを見た
「うん、うち門限厳しいからさ。もっと観てたかったけど‥‥アタルさんが送ってってくれるって云うから、お言葉に甘えてお先に」
「ああ、そっか‥‥」
「カナ、一応気を付けてね!あっちゃん運転荒い時あるから!」
「うっせーぞチビ助。俺は女乗せるときは超安全運転なの。行こうぜ」
意地悪そうな顔をしてカナに話し掛けるユイを小突いて、アタルは観客を掻き分けてカナを出口へと促した
「はい!じゃ、またね!」
「ばいばーい」
「っつーかさ、カナちゃん?あのコも可愛いねぇ。いっちーのガッコ、結構レベル高くね?」
SCAPEGOATのメンバーは、アタルとカナを見送りつつ上田に話し掛けた
「まぁね。長原と近藤サンは可愛いよね、やっぱ」
「うーん‥‥そうなのか?」
拓真の頭の上には、はてなが浮かんでいる
「たくちゃん‥‥あの2人見て、何とも思わないの?」
「えー‥‥なんか一緒に居すぎて“そういう目”では見れないっていうか‥‥」
「ああ、なるほどねー」
ハジやユウスケは、拓真の考えに納得して頷いた
***
ユイは、リサに耳打ちした
「リサ、どぉ?菱和のベース」
「‥‥よくわかんないけど、上手いんじゃない」
「でしょ?“あれ”が、俺らのバンドに入るんだよ!考えただけでわくわくしちゃう!」
「‥‥‥‥」
ユイは、目をキラキラさせて菱和を見ている
リサには、ステージでベースを弾く菱和がとてもつまらなさそうに演奏しているように見えた
今までユイや拓真が楽器を弾くところを何度も見てきたリサは、2人が楽しくなさそうに見えたことは一度もなかった
菱和のベースの腕は確かなものかもしれない
だが、楽器を弾く人間がそこに“楽しみ”を見出だせないことは、とてつもなく空しいことのように思えた
ユイの傍に居れば、バンド抜きにしても楽しくないことはない
あいつが求めてるものは、案外“そういうもの”なのかも知れない───
あれこれ考えているうちに、2曲目が始まった
菱和はいつもの無表情で、ベースを奏でている
───つまんなそうなのが顔に出てんだよ、バカ
菱和に、喝を入れてやりたい衝動に駆られた
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